第448回:クリエイティブのAndroid端末でDTMアプリを試す

~メディアプレーヤー「ZEN Touch 2」はDTM的に使えるか? ~


ZEN Touch 2

 年末にクリエイティブメディアからAndroid OS 2.1搭載のポータブルメディアプレイヤー「ZEN Touch 2」が発売された。

 同社のAndroid OS搭載デバイスとしては12月中旬に発売された「ZiiO 7」に続くものだが、これでどんなことができるのか、DTM的な使い方はできるのかなど試してみた。



■ 期待度の高いAndroid端末がようやく登場

 Android OSは以前からずっと気になっていたものの、今まで全然使ったことがなかった。というのも国内で販売されているものは基本的に、携帯電話のキャリアが発売しているもので、ちょっとアプリを使いたいという目的でも、月々5,000円以上の料金がかかるというのが嫌だったからだ。先にiPhoneを買ってしまったため、もう1台通信費を払うのに抵抗があった。

 一方で、秋葉原にいくと、怪しいAndroidのタブレットデバイスが2万円前後で売っている。これまで何度か気になって、手に取ったり、触ったりしてみたのだが、iPadを見ているせいか、あまりにもチャチな機材に見えてしまい、買うという結論に至らなかった。

ZiiO 7Crystalizer、ExpandといったX-Fi高音質化機能を搭載

 そんな中、ZiiO 7、ZEN Touch 2の登場は、個人的に結構嬉しいことだった。ようやくまともなメーカーから、キャリアにひもづかないAndroidデバイスがでてきたからだ。

 すぐにクリエイティブメディアにお願いして、ZiiO 7およびZEN Touch 2をお借りして試してみたが、自分として初のAndroidデバイスということもあって、分からないことばかりながら、いろいろと楽しむことができた。

 ZiiO 7に関しては、すでにAV Watchで詳細レポートをしているので、ここではあまり触れないが、やはりSound Blaster X-Fiのコンセプトを引き継ぎ、Crystalizer、Expandという機能を搭載しているのが面白いところ。

 Crystalizerをオンにすると、MP3やWMA、AACなどの圧縮によって失った16kHz以上の帯域を擬似的に再現してくれる。また、Expandは立体感、音の拡がりを演出するというもので、それぞれパラメータでかけ具合を調整できるので、気に入った音に調整できるようになっている。

 Crystalizer、Expanderともに強くかけると、わざとらしいサウンドになるので、使うのであれば、控えめにかけるというのがポイントではあるが、このように音にこだわりを持って作られたAndroidデバイスというのは、いまのところほかにあまりないのではないだろうか?

 7インチのタブレットデバイスであるZiiO 7に対し、ZEN Touch 2は3.2インチのタッチディスプレイを搭載したいわゆるポータブルプレイヤーサイズ。ボディーサイズ的にはiPhoneなどとほぼ同サイズであるが、画面サイズ的にはやや小さめ。もちろん、マイク、カメラ、スピーカーも内蔵したコンパクトなデバイスとなっている。

 また、すでにAndroidを使っている方なら当然というべき点かもしれないが、USBケーブルでPCと接続することで、ZEN Touch 2の内蔵フラッシュメモリを、PCのUSBマスストレージデバイスとして認識することができる。つまりiTunesやWindows Media Playerのようなソフトを使わなくても、PCから直接ファイルを転送することができるのは扱いやすいところだ。


iPhone 3GS(左)と比較側面背面
電源ボタン部PCとUSB接続可能
USB接続時のメッセージ

 USB接続するとZEN Touch 2側で「マウントするか、しないか? 」といったメッセージが表示されるので、ここで「マウント」を選択すれば、USBマスストレージデバイスとなるような仕掛けになっている。PCからドライブの中身をのぞいてみると「Music」、「Video」といったフォルダがあるので、ここにオーディオファイル、ビデオファイルをドラッグ&ドロップでコピーするだけでZEN Touch 2のプレイヤーで再生できる仕組みだからわかりやすい。

 対応しているオーディオフォーマットはZiiO 7もZEN Touch 2も共通で、MP3、AAC、WMA9、FLAC、OGG、MIDI、WAV、Audible。またビデオフォーマットはH.264/MPEG-4、WMV9、AVIに対応している。もちろん、コピープロテクトのかかっているAACファイルなどは扱うことはできないものの、たいていのファイルが再生できるというのはZEN Touch 2の大きな強みといえるだろう。

 また、ここで、おや? と思ったのが再生可能なオーディオフォーマットの中に、MIDIがさりげなく入っていること。試しにMIDI Format 1のマルチトラックのMIDIデータをMusicフォルダにコピーして再生してみたところ、ほかのオーディオファイルと同様に再生することができた。GM音源となっているようだが、先日クリエイティブメディアに確認したところ、内部にSoundFontデバイスがハードウェアで入っているわけではないそうで、プレイヤー自体にGMのソフトシンセが組み込まれているということなのだろう。


PCから見たドライブの中身音楽再生画面MIDI Format 1のマルチトラックのMIDIデータも再生できた


■ Bluetooth接続を前面に打ち出し、切り替えも容易

microSD/SDHCスロットを装備

 ところで、iPhoneやiPadのユーザーの立場から見てもうひとつ便利に感じられたのが、microSD/SDHCスロットが用意されており、最大32GBまでのフラッシュメモリを追加できるということ。ZEN Touch 2には8GBのメモリを搭載したモデルと16GBのモデルがあるが、microSD/SDHCで容量を増やせるのであれば、安い8GBでも、いざ足りなくなっても安心だ。

 このmicroSD/SDHCのスロットも、やはり先ほどの「マウント」という選択をすることでPCから別ドライブとして見ることができる。また、PCで直接書き込んだmicroSD/SDHCをZEN Touch 2に入れてもそのまま読み書きできるので、自由度は高い。このmicroSD/SDHCも内蔵のフラッシュメモリと同様に、MusicやVideoというフォルダが自動的に生成されるので、それぞれのフォルダに目的のファイルをコピーしておけばいい。


Bluetooth接続時の画面表示

 このようにPCから転送したオーディオファイルを再生する際、本体内蔵の小さなスピーカーやヘッドフォンを接続して再生するのもいいのだが、ZiiO 7と同様Bluetoothのオーディオデバイスに対応しており、Bluetooth機器を使って再生することができる。起動したデスクトップ上には「Pure Android Audio」の表示があり、Bluetoothのアイコンをタップするとオンになり、ヘッドホンや内蔵スピーカーから、Bluetoothデバイスにオーディオの出力先が切り替わる。

 今回は、クリエイティブメディアの2.1chスピーカーであるZiiSound T6、デスクトップ用のステレオスピーカーであるZiiSound D5、そしてヘッドホンであるCreative WP-300のそれぞれをペアリングさせて使ってみた。音質的な好みは人それぞれなので、ここでは特に評価はしないが、パワフルなサウンドが楽しめることは確かだ。これら3つのBluetoothオーディオデバイスが、Bluetooth機器と比較して違うのは、オーディオコーデックにapt-Xを採用していること。多くのBluetoothオーディオデバイスが採用しているSBCと比較して高音質で、低レイテンシーであるというのが売りだ。ただZiiO 7の方はapt-Xに対応しているが、ZEN Touch 2はSBCのみの対応となっている。せっかくのクリエイティブメディア製品なので、apt-Xにも対応してもらいたかったが、これはちょっと残念なところだ。


ZiiSound T6ZiiSound D5WP-300

 


Bluetoothデバイスの表示画面

 もちろん同時に利用できるのは1つのデバイスだけなのだが、一度ペアリングを行なえばメニューの中に表示されるので、接続したデバイスを選ぶだけで出力先を切り替えることができる。もっとも、音楽再生中に切り替えると一旦音が止まるため、再度プレーヤーの再生ボタンをタップして再生を再開させる必要がある。

 Bluetoothによるオーディオ伝送では、どうしてもレイテンシーが生じてしまうため内蔵デバイスと比較するとレイテンシーがさらに大きくなってしまう。ただ、WP-300はほかの2つのスピーカーよりレイテンシーが小さい印象ではあったが、それでも直接ヘッドホンを接続したほうがよさそうだった。



■ さっそく試したDTMアプリ

 ZEN Touch 2はこのように、メディアプレイヤーとして利用することを前面に打ち出してはいるが、やはり興味があるのはAndroidデバイスとしてどう遊べるのか、という点にある。とくに個人的にはDTM系のアプリとしてどんなものがあり、どのくらい使えるのか、というのが最大の関心事だ。

 しかし、まず最初に大きな壁にぶつかった。それは、ZEN Touch 2がAndroid用のアプリの流通マーケットである「Android Market」に対応していないということ。Android Marketにアクセスするには、各端末がGoogleの認証を得たものである必要があるのだが、現時点ZEN Touch 2はその認証が得られていないため、アクセスしてもはじかれてしまう。

 まあ、AndroidはiTunes StoreのようにAppleが1社が販売を独占しているわけではないため、ほかにもさまざまなマーケットがあり、そこにアクセスすれば、各種アプリをダウンロードできる。実際、ZEN Touch 2のブラウザを使って、クリエイティブメディアのサービスサイトである「Creative ZiiO Space」にアクセスすると、「アプリをインストールする」というメニューがある。ここから「日本向けアプリケーション」という項目を選択するとベクターが運営している「AndroApp」およびNECビックローブが運営している「andronavi」にアクセスできるようになっている。ここには、有名どころのアプリがいろいろ登録されているようなので、ここからダウンロードしてインストールすればいい。


Android Marketには非対応Creative ZiiO Space

 ただ、DTM用のアプリを探してみると、皆無に等しい状況。iPhoneやiPadと比較するとAndroidのDTMアプリはまだ少ないという話は聞いていたが、ないということはないはず。唯一xPianoという鍵盤楽器を見つけたのだが、ダウンロードしようとすると、実データはAndroid Marketに存在しているようで、残念ながらはじかれてしまう。

 しかし、「Creative ZiiO Space」の説明によれば、直接これらのサイトからダウンロードしなくても、PC経由で拡張子.apkのインストール・ファイルを入手し、これをZEN Touch 2上で実行すればインストールできるとある。そこで、いろいろと検索してみるとapkファイルの配布先サイトは海外にいっぱいあることがわかった。その1つである「1MOBILE」というサイトを見つけることができた。ここにはたくさんとはいわないまでも、そこそこの数のアプリがそろっている。ダウンロードする際には、ターゲットのハードウェアの機種名を入力する必要があるのだが、Creativeの社名すら入っていないため、正しく選択することができなかった。試しに「Samsung」の「Galaxy」を選んで、いくつかをダウンロードしてみた。

 まず最初に見つけたのが、先ほどダウンロードできなかった「xPiano」。インストールして起動してみたところ、鍵盤が表示され、それをタップすると演奏できる。ピアノ音以外にも、オルゴール、シンセベース、オーケストラヒット、チェロ……と12種類の音色から選択可能となっている。


xPiano12種類の音色から選択できる

 また、演奏を録音して、ファイルに保存したり、それを再生することもでき、日本語での表示にも対応しているなど、安定して動いてくれる。ただ、ネックも見つかった。まずはZEN Touch 2がマルチポイントでのタッチに対応していないので、単音でしか演奏ができないこと。そして、鍵盤をタップしてから音が出るまでのタイムラグ、レイテンシーが明らかに感じられるレベルであることだ。実は想像していたよりも、レイテンシーは小さかったのだが、それでも200msec程度はあるという感じだろうか……。やはりこれだと、まともな楽器として演奏をするのは難しそうだった。

 最初、内蔵スピーカーで鳴らしていたのだが、先ほどのBluetoothのオーディオデバイスに接続してから、改めてxPianoで演奏させてみた。その結果、感じたのは、さらにレイテンシーが大きくなって演奏しずらくなる、ということ。apt-Xはレイテンシーが小さいという触れ込みではあるが、やはり内蔵デバイスと比較するとどうしてもレイテンシーが生じてしまうのだろう。ただ、WP-300はほかの2つのスピーカーよりレイテンシーが小さい印象ではあったが、それでも直接ヘッドホンを接続したほうがよさそうだった。


VirtualRecorder

 次に試してみたのは「VirtualRecorder」というアプリ。これはカセットテープレコーダー風なもので、録音・再生ができるほか、ピッチを-200%~+200%の範囲で変化させることもできるというもの。いわゆるピッチシフトではないので、再生速度も変わってしまい、マイナスにすると逆回転となる仕組みだ。内蔵マイクから音を拾い、Bluetoothのオーディオデバイスでの再生もできた。

 そのほかにも鍵盤音源の「AndroInstruments」、コードベースの簡易シーケンサ「Chordbot Lite」、シンセサイザとシーケンサを統合させた「Android Synthesizer」……といくつか試してみたが、とりあえず問題なく動作させることができた。ただ、本家Android Marketにあるアプリすべてにアプローチできていないためか、ここにあるアプリはどれも、iPhone、iPadの著名アプリと比較して、かなりレベルの低いものばかりで、まだまだという感じだった。また、リアルタイム演奏系のものは、どれもレイテンシーが大きく演奏には適さない印象だ。やはりAndroidのデバイスは仮想マシン上でJavaを使って動かすため、普通に開発するとリアルタイム性に欠けてしまうというのが実情なんだろう。ただ、やりようによっては、もっとレイテンシーを縮めることができるという話を聞いたこともあるので、今後に期待したいところだ。

 また機会があれば、AndroidのDTM事情について、もっと詳しく調べてみたいと思っている。


AndroInstrumentsChordbot LiteAndroid Synthesizer

(2011年 1月 17日)

= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
 著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto

[Text by藤本健]