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第499回:“楽器としての新iPad”の使い勝手をテスト

〜DTM機器との接続性や、GarageBand機能強化も 〜


 3月16日、アップルから第3世代となる新しいiPad(以下、新iPad)が発売された。今やDTM界の台風の目ともいえる存在になっているiPadだけに、筆者も早速購入した。当日に店頭で入手できないと困るので、3月8日の発表当日にWeb上のApple Storeで32GBのWi-Fiモデルを予約。刻印サービスが無料ということだったので、名前を彫ってもらったものが、中国の広東省深センから送られてきた。

第3世代のiPad パッケージ 本体背面の刻印サービスをしてもらった

 結果的には、国内にも在庫がいっぱいあったようで、当日、量販店にでも行ったほうが早く入手できたようだ。とりあえず無事入手することができたので、ここではDTMでの利用という観点から、新iPadについてレポートしてみよう。



■ DTMアプリの動作に大きな変化は無し?

 すでに新iPadについては、AV Watchをはじめ、さまざまな報道機関、そしてブログなどでレポートしているので、概要についてはご存知の方も多いだろう。最大の特徴はRetina(網膜)ディスプレイと呼ばれる高解像度な液晶ディスプレイが搭載されたことで、同じ9.7インチながら従来の1,024×768ドットから2,048×1,536ドットとなり、非常に精細になった。

 確かに電源を入れた瞬間に、文字がキレイになったことは実感できる。iPad 2と縦横サイズは同寸だが、厚みが8.8mmから9.4mmと0.6mmほど増え、重さが601gから652gと51gほど増えているが、見た目や持った感じでは、ほとんど違いは実感できない。横に並べてみると、確かに微妙な段差はあるが、まあ、気にするほどではないというところだろう。


iPad 2(ブラック)との比較 初代(右)、iPad 2(左)との比較

 筆者にとってiPadは楽器。これまで購入してきたアプリもシンセサイザやレコーダー、エフェクト、DAWといったものばかり。結構な数のアプリを購入してきたが、まずはこれらを新iPadにインストールする必要がある。iCloudをあまり使いこなしているわけではないが、最近面倒なので母艦PCとの接続をしていないので、これを整備するのは面倒で時間がかかるかな……と思っていたが、そんな必要もなかった。App Storeの「購入済み」をチェックすれば、すべてのアプリを確認することができ、ここから不要なものを除いて選択すれば、Wi-Fi経由でインストールできる。結局PCと一切接続することなく、キレイな環境でのセットアップができてしまった。

 さっそく、各種アプリを起動してみたが、当然のことながら、どのアプリもなんら問題なく使うことができた。細かくすべてのアプリの詳細までチェックしているわけではないが、いろいろと動かしてみても特に問題は見当たらない状況だ。逆に言うと、iPad 2と比較して同じアプリを使う限り、何も違いは感じられない。

設定で同じレベルにしても明るさは違うようだ

 強いて言えば、中に使われている文字のフォントがキレイかなという程度だが、DTM系のアプリでは、それを強く感じるほどでもない。横に並べてみると、画面が少し暗く感じる。輝度設定をほぼ同じにしても、色温度が違うのだろうか? 暗いように思う。この辺は好みが分かれるのだとは思うものの、iPad 2のほうが白がより真っ白に感じる。個人的にはiPad 2の明るさ、色温度のほうが好きだ。

 では、アプリの処理速度において向上はあるのだろうか? アップルの発表によるとプロセッサはiPad 2のA5からA5Xというものに変わったとのことだが、各社の報道を見る限り、CPUはiPad 2と同じデュアルコアで、動作周波数も1GHz。グラフィックスはiPad 2のデュアルコアからクワッドコアに進化しているようだ。一方、メモリは512MBから988MBへとほぼ倍増。この辺が処理速度にどのくらい影響があるのか気になるところだ。

 以前、iPad 2がリリースされたときの記事で、iPad1との処理速度比較をするために、いくつかのアプリの起動時間や処理速度を調べたことがあったので、新iPadでも試してみた。まあ、もともと手でストップウォッチで測定していたし、アプリのバージョンやOSも変わっているので、当時の数字と直接比較しても意味はなさそうなので、iPad 2と新iPadを並べて同時に起動したり、処理を行なってみた。が、結論としてはほぼ一緒であった。



■ iPad用DTMデバイスの接続をチェック

 では、ハードウェアのほうはどうだろうか? 従来は非公式な方法ではあったが、iPad Camera Connection Kit経由でUSBオーディオデバイスやUSB-MIDIデバイスを接続し、利用していた。しかし最近ではDock接続のオーディオデバイス、MIDIデバイスが数多く登場してきており、より手軽に、そして確実に利用できるようになってきている。そこで、ここでは手元にある各種iPad用のDTM周辺機器がちゃんと使えるかどうかチェックしてみた。

 まずは、MIDIインターフェイスであるLine 6のMIDI MobilizerII、ヤマハのiMX-1、そしてIK MultimediaのiRigMIDIのいずれも問題なく使うことができた。ART TeknikaのMidi ToolBoxで確認しても、各デバイスがしっかりと確認することができた。また、3月下旬に発売予定のLine 6のMIDIキーボード、Mobile Keys 25を入手したので、これも接続してみたが、こちらも新iPadからの電源供給だけで動作してくれた。

Line 6のMIDI MobilizerII ヤマハのiMX-1 IK MultimediaのiRigMIDI
ART TeknikaのMidi ToolBoxのセットアップ画面 Line 6のMobile Keys 25
Line 6のMobile In

 一方、オーディオデバイスとしてまず試してみたのは、やはりLine 6のMobile In。これは入力だけのデバイスであるが、ギターを接続し、同社アプリであるMobile PODを使ってみたところ、従来と同じように動作する。さらにPOCKET LABWORKSのiRiffPortも問題なく動作する。そして、最近話題のTASCAMのマイクデバイスであるiM2を接続してみあっところ、こいつも問題なく音を拾ってくれて、なかなか便利だ。ここまで紹介してきたデバイスと比較すると、かなり大きい機材だが、ALESISのオーディオ&MIDIインターフェイス、iO DOCKも動作確認ができた。ただ新iPadはiPad 2より厚いためなのか、Dockのコネクタに刺さってはいるものの、うまく接続できないケースも多く、やや不安定な感じはあった。

POCKET LABWORKSのiRiffPort TASCAMのiM2 ALESISのiO DOCK
発売前のTASCAM「iU2」

 もうひとつ、発売前に入手することができたTASCAMのオーディオ&MIDIインターフェイス、iU2もテストしてみた。機能的にはiO DOCKとかなり近いが、こちらは遥かにコンパクトで、さらに電源もiPadから供給できるというもの。接続してみたところ、やはり問題なく使うことができた。このiU2については、また改めて詳しく紹介してみる予定だ。

 このように、新iPadでは従来からのiPad用DTMデバイスはどれもiPad 2と同じように使うことができる。逆の見方をすれば、現時点においてDTMをする上で、新iPadでもiPad 2でも大差ないということになる。しかし、1点だけ大きな違いがあった。それはバッテリーの減り具合が新iPadのほうが、かなり早いということ。正確に比較したわけではないが、感覚的には倍とはいわないまでも50%以上減りが早いように思えた。

 スペック上はWi-Fiモデルであればバッテリー持続時間はいずれも最長10時間となっている。しかしグラフィックに電力がかかる分、容量においては新iPadのほうが約67%増の大きなバッテリーを搭載しているはずなのに、実際にはもっと大きな電力を使っているようなのだ。今後iOSのバージョンアップによって、バッテリーの持ち時間が改善する可能性はあるが、現時点では新iPadのウィークポイントだと思う。



■ 新バージョンで使い道が広がったGarageBand

 ここでちょっと視点を新iPad本体から離れ、新iPadの発表と同時にリリースされたアップル純正のアプリ、GarageBandの新バージョン、GarageBand 1.2についても簡単にチェックしてみよう。今回の1.1から1.2でのバージョンアップでは、結構いろいろな機能が搭載された。まず、わかりやすいところではSmart Stringsが追加されたこと。

 これまでも、楽器がまったく弾けない人でも、指一本でそれっぽく演奏ができるSmart Guitar、Smart Keyboard、Smart Bass、Smart Drumsというものがあったが、今回加わったSmart Stringsはオーケストラの弦楽器を、いかにもオーケストラっぽい感じで簡単に弾けてしまうという機能だ。

GarageBand 1.2 Smart Strings

 第1バイオリン、第2バイオリン、ビオラ、チェロ、コントラバスの5つの弦楽器が用意されており、1つだけを使っても複数組み合わせてもOKとなっている。使い方、考え方は従来のSmart Guitarなどとまったく同じで、アルペジオも用意されており、これがなかなか便利に使える。またChordsではなくNotesを指定すると弦が表示される。この場合、弦を指でタップすると、弓を引いている形での演奏となる。標準ではフレットレスで音程が連続的に変化するが、さすがにそれだと弾きづらいので、メジャーやマイナーブルースなどスケールを選択し、安定した音程で演奏することもできる。

「Notes」で弦が表示 スケールの選択

 一方、従来GarageBandのウィークポイントとなっていた点がいろいろと改善された。まずは、MIDIデータの編集ができるようになったこと。従来、演奏したデータがそのまま記録され、修正することができなかったが、GarageBand 1.2ではピアノロール画面でのエディット、そしてゼロからの打ち込みも可能になった。ドラム音源の場合は、左側が鍵盤ではなく、ドラムパートが見える形での画面になっている。

MIDIデータの編集も可能になった ドラム音源では、左側にドラムパートを表示

 そしてもうひとつ大きいのがバウンス(ピンポン)機能だ。今回のGarageBand 1.2でもトラック数は8つまでという制限があるのだが、バウンスすることでその制限を大きく越えることができるようになったのだ。バウンスをGarageBand 1.2では「結合」と呼んでいるのだが、まとめてしまいたいトラックを選択した上で、結合させると、元のトラックが消え1つのオーディオトラックにまとまってしまう。

 すでに8つのトラックがある状態でも、すべてを選択すれば1つだけのトラックに変換されてしまうのだ。もちろん、バウンスしてしまうと、基本的に元に戻すことはできないから(アンドゥは可能)、その後に元のトラックの個別エディットはできないが、これによってかなり可能性が広がったと思う。

「結合」を選ぶと一つのトラックにまとまる

 そして、もうひとつユニークな機能が追加された。それがジャムセッションという機能だ。最大で4台までのiPad、iPhone、iPod touchでセッションが行なえるというものなのだが、アップルのAppStore上の説明を読んでもよくわからないので実際に試してみたら、なかなかすごい機能だった。

 まずセッションを行なうためには複数台を連携=同期させる必要があるのだが、その同期にはWi-FiもしくはBluetoothを用いる。微妙なレイテンシーなどのことを考えると、基本的にはBluetoothを使うのが良さそう。そして、この同期にはマスターとスレーブが存在する。GarageBand用語的にはバンドリーダーとバンドメンバーとなっており、当然リーダーは1名で、そこにメンバーが接続するという関係だ。

 リーダーがセッションを作成し、そこにメンバーが接続する。この状態でリーダーが再生すると、それに同期してメンバーのプロジェクトも再生される。ストップや巻き戻し、早送りの制御も可能。メンバー側でリーダーの音が聴こえたり、その反対があるのかな……と思ったら、そうしたことはなかった。なので、KORGのBluetoothでの同期機能、WISTのようなものだろうと思ったら、それは入り口にすぎなかった。

ジャムセッション機能 リーダーの画面 メンバーの画面

 その違いは録音を実行すると分かってくる。リーダーが録音をスタートさせると、メンバー側も録音が開始され、それぞれオーディオトラックでもMIDIトラックでも録音していくことができる。この時点では、同期はとれているものの、それぞれが個別に演奏し、それぞれのマシンに録音してているだけだ。ところが、録音終了し、ストップさせると、各メンバーが演奏し、録音した情報がリーダーに転送されるようになっているのだ。MIDIデータであればすぐだが、オーディオデータとなると、やはり10秒とか20秒といった時間が必要にはなる。これによって、リーダーの元に全トラックが集まり、ここで編集することができるようになっている。

 同期している間は、転送されたトラックは無効のグレー表示となっていて、バンドメンバー側で音が鳴るようになっている。しかし同期を解除するとリーダーのマシンですべてが鳴らせるようになる、というものだ。なお、デフォルトではバンドリーダーの制御がオンで、録音の自動収集がオンとなっているのだが、これをオフにすれば、データの転送などはせず、リアルタイムでの演奏のみを楽しむといったことも可能になる。まあ、GarageBandでセッションというシーンがどれだけあるかは分からないが、子供といっしょに家族でお手軽セッションといったニーズにはぴったりかもしれない。

オーディオデータの転送には少し時間がかかる 転送されたトラックはグレー表示に

 以上、新iPadとGarageBand 1.2について見てきた。今後、新iPadだからこそいい、というDTMアプリが出てくる可能性はあるが、現時点においてDTM用途だけで考えれば新iPadもiPad 2もほとんど変わらないと思う。画面の明るさやバッテリーの持ち時間を考えれば、iPad 2のほうがいいくらいだ。iPad 2の価格も引き下げられたので、このタイミングでiPad 2を買うというのも賢い選択かもしれない。


(2012年 3月 19日)

= 藤本健 =  リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
 著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。EPUBマガジン「MAGon」で、「藤本健のDigital Audio Laboratory's Journal」を配信中。Twitterは@kenfujimoto

[Text by 藤本健]