第519回:より使いやすくなったDAW「ACID Music Studio 9」

~初回版実売7,980円。24bit/96kHz、録音モニター対応 ~


 Sony Creative Softwareから2年ぶりにACIDの新シリーズ、ACID Music Studio 9がリリースされ、国内でも8月25日より代理店のフックアップを通じて発売が開始された。

パッケージメイン画面

 今回のバージョンアップを一言でいえば、DAWとしての機能を一通り備えたのと同時に、初回出荷分限定とのことだが実売7,980円という低価格を実現した。従来バージョンのACID Music Studioを使っていて物足りなく感じていたこと、不満に思っていたことが、すべて解消された感じだ。その発売されたばかりのACIDをさっそく使ってみたので、どんなDAWに進化したのか紹介してみよう。



■ 24bit/96kHz対応。上位バージョンの機能もカバー

 今さら解説するまでもないがACIDはループシーケンサの元祖であり、いまではWindows、Macを問わずどのDAWでも標準的に採用されているループシーケンス機能を最初に実現したソフトだ。そのACIDが登場したのは1998年。当時はまだSonic Foundryという会社であったが、その後Sonic FoundryのPCソフト部門が買収されてソニー傘下に入り、現在はSONYブランドの音楽ソフト制作ソフトとなっている。まあ、ループシーケンサとしての機能自体はどのDAWにも搭載されたものの、やはり元祖だけあって、非常に使い勝手がいいのがACIDの特徴。またDTM初心者にとって、また楽器がまったく弾けない人にとっても難しい操作なく、誰でも簡単に音楽が作れるというのが人気の理由だ。

 そのACIDは上位版のACID Proと普及版のACID Music Studioの2ラインナップで展開されてきたが、現在バージョン番号で見るとACID Pro 7とACID Music Studio 9とズレている。ACID Proは2008年にバージョン7をリリースさせて以来、進化が止まっており、ACID Music Studioだけが着々と進化してきているという状況なのだ。

 前バージョンのACID Music Studio 8のときまでは、やや世代的に見劣りする点はあるものの、明らか性能が上となる上位版ソフトACID Pro 7という存在があった。しかし、今回のACID Music Studio 9へのバージョンアップによって、その性能面でほぼACID Pro 7をカバーしてしまったのだ。まあACID Pro 7はまだ現行製品ということにはなっているものの、実質的にはACID Music Studio 9に統合されてしまった、と考えてもよさそうだ。

 では、具体的にどのような性能アップ、機能向上があったのだろうか? ひとつずつ見ていこう。

 まず最初にあげられるのは24bit/96kHzへの対応だ。従来ACID Proはこれに対応していたがACID Music Studioは16bit/44.1kHzまたは16bit/48kHz止まりとなっていた。そのため、本気で使うには物足りないという印象を持っていた人も少なくないはずだ。まあ、今のDAWにおいて24bit/96kHzは当たり前のものなので、特段すごい話でもないのだが、これでようやく、「ちゃんと使える」ソフトとなったというわけだ。

 使い方としては、プロジェクトのプロパティを開き、ここでサンプルレート、ビット深度をそれぞれ設定できるようになっている。面白いのは、たとえ24bit/96kHzのプロジェクトに設定しても、トラック上には普通に従来からの16bit/44.1kHzのループ素材を並べることができるという点。

 内部的にはサンプルレートコンバートを行なっているのだとは思うが、とくに遅くなることもないし、ループ素材をトラックに貼り付けた際、時間がかかるということはない。これまでどおり、普通に操作できる軽さは小気味いいところだ。もちろん、オーディオドライバはASIOが利用できるようになっており、この状態でオーディオレコーディングすれば、24bit/96kHzでのレコーディングが行なわれる。

プロジェクトのプロパティから、サンプルレート/ビット深度を設定ASIOが利用可能


■ レコーディングモニターに対応

レコーディングモニターが可能に

 2つ目は、ACIDでオーディオレコーディングを行なうことを考えた際の最大の進化ポイント。まあ、進化などと褒められる話ではなく、なぜ今までできなかったのか最も納得のいかなかったところだが、今回のバージョンでようやくレコーディングモニターができるようになった。

 確かにオーディオインターフェイスに備わっているダイレクトモニタリング機能などを使えば、モニターすることはできたのだが、ACID上のプラグイン・エフェクトを通してのモニタリングができなかったのだ。一般的なDAWにおいて、これはできて当たり前のもの。システム的に不可能だったわけではなく、ACID ProではできてACID Music Studioでは制限がかかっていたという、理不尽なものだったわけだが、今回その制限が解除されたというわけだ。これによって、普通に安心してレコーディングし、ミキシングできるようになったのである。

 3つ目としては、ほかのDAWと同様の編集機能が搭載されたことが挙げられる。ひとつはフォルダトラックへの対応。たとえばドラム系のトラックをすべてフォルダトラックの中に入れることで、トラックの構成が見やすくなる。またこのフォルダトラック全体をミュートしたり、ソロとして鳴らすこともできるようになっている。もうひとつが「セクション」というものに対応したことだ。ACIDでいうセクションとは、イントロ、Aメロ、サビ、エンディング……といった部分にセクションという形で名前をつけるとともに、自由に移動できるようにするもの。

 たとえばイントロの後のAメロをサビの後ろ側に移動させるといったことができるようになるのだ。これによって曲の流れの構成を自由に作ることができるようになる。ただ、使ってみたところ、名前の変更と色の変更、そして移動はできるけれど、コピーはできないようだった。コピー&ペーストができると、もう少し曲作成の効率が上がるようになると思うのだが……。さらに、トラック内におかれたループ素材や録音データなどの各イベントごとにミュートやロックという設定ができるようになったのも今回のバージョンアップで追加された機能だ。


フォルダトラックに対応ドラム系のトラックをすべてフォルダトラックの中に入れたところ「セクション」の部分にAメロ、サビ、エンディングなどの名前をつけて、自由に移動できる



「スイッチ」の項目からミュートを選ぶと、そのイベントがミュートされる

 イベントを選択して右クリックすると、ポップアップメニューに「スイッチ」という項目が現れる。ここでミュートを選ぶと、そのイベントがミュートされ、ロックにチェックを入れるとそのイベントの変更ができないようにロックがかかる、というもの。別段すごい機能ではないけれど、このような機能向上がほかにもいくつかある。

 そして4つ目として挙げられるのがミキシングコンソールの強化だ。これまでのACID Music Studioにも当然ミキシングコンソールはあったが、これがある程度強化され、使いやすくなったのだ。ACIDは、基本的にひとつのウィンドウですべて表示させるユーザーインターフェイスであり、ミキサーは画面右下にあるのが標準のものだ。しかし、これをウィンドウとして独立させると画面を大きく表示させられるので自由度が向上し、さまざまな機能を表示できるようになる。画面デザイン的には相変わらずの垢抜けない、やぼったいものだが、使い勝手は大きく進化した。


右下にミキサー画面があるミキサーをウィンドウとして独立させることも可能

 まず左上には表示可能なトラックが並んでいるので、ここで表示させたいトラックにチェックを入れれば反映される。またその下のボタンを利用すれば、オーディオトラック、MIDIトラック、ソフトシンセ……など系統ごとに表示させたり、非表示にさせる選択も可能だ。さらにその下にはI/O、VUメーター、メーター、フェーダーと4つのボタンがある。これを使うことで各トラックの表示項目を決められるようになっている。

 実際試してみたが、デザインはともかくとして、機能的には一通り揃っているので不満はない。それぞれのトラックにインサーションでエフェクトを追加することもできるし、バスを追加さればセンド・リターンでのエフェクトを利用することも可能。またI/Oでは、そのトラックにレコーディングするための入力ポートを選択したり、出力先としてマスタートラックを選択するのか、バスを選択するのか……といった設定も可能だ。

表示させたいトラックにチェックを入れると反映されるI/O、VUメーター、メーター、フェーダーのボタンで各トラックの表示項目を決定入力ポートや、出力先の選択も可能


■ 派手さはないが使い勝手のいいソフトに

 ところで、前バージョンと機能的に変化したわけではないが、ACID Music Studio 9では、標準のプラグインとしてエフェクトはDirectX、ソフトシンセはDLSが採用されている。ここのバリエーションは、従来同様にややさびしい感じ。標準で各オーディオトラックにACID FXというマルチエフェクトが設定されているほか、EQ、ダイナミクス、ディストーション、ディレイ、リバーブなど計13のDirectXエフェクトが用意されている。

標準でACID FXというマルチエフェクトが設定されている13種類のDirectXエフェクトも装備

 また、ソフトシンセはSony DLS soft SynthというGS音源だ。とはいえ、VST/VSTiプラグインにも対応しており、ACID Music Studio 9のパッケージにはギターアンプシミュレータのStudio Devil British Valve Custom、そしてピアノ音源のTruePianos Amber Liteが搭載されている。もちろん、それ以外にも市販のプラグイン、そしてフリーウェアやシェアウェアのプラグインをインストールして使うこともできるので、拡張性の面ではまったく問題ない。

 以上、ACIDの新バージョン、ACID Music Studio 9を見てきた。ほかのDAWなどと比較して派手な進化点があるわけではないが、使いやすさでは抜群のループシーケンサが、スペック的・機能的にほかのソフトと見劣りしなくなったのとともに、実売7,980円という低価格になったことは素直に歓迎したい。

ソフトシンセのSony DLS soft SynthギターアンプシミュレータのStudio Devil British Valve Customピアノ音源のTruePianos Amber Lite

 

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ACID Music Studio 9
初回限定版

(2012年 8月 27日)

= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
 著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。EPUBマガジン「MAGon」で、「藤本健のDigital Audio Laboratory's Journal」を配信中。Twitterは@kenfujimoto

[Text by藤本健]