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第521回:ヤマハ、ローランド、コルグのDTM新製品をチェック

〜VOCALOID対応Cubaseアドオンなど、注目製品が登場 〜


 なぜこのタイミング?と不思議ではあったが、先週ヤマハ、ローランド、コルグの国内大手楽器メーカー3社が揃って新製品発表会を行なった。月曜の午後にヤマハ、水曜の午後にローランド、木曜の午後にコルグと、まるでお互い話し合っていたのではとも思えるほど絶妙な日程の発表会だったわけだが、各社ともなかなかユニークな製品が登場してきた。3社とも、そんな話し合いをしているわけがないと否定していたが、狙いはすでに年末商戦のようだ。

 ちょうど2012年は楽器フェアがない年なので、各社ともここが仕込み時と捉えたようなのだ。全部を紹介すると、膨大になってしまうので、ここでは気になったDTM系、デジタル系の製品を中心にピックアップしていこう。


■ ヤマハは「VOCALOID Editor for Cubase」を発表

VOCALOID Editor for Cubase

 3社合わせると膨大な製品数とはいえ、最初のヤマハが発表した製品は1つのみ。発表会の案内には「VOCALOIDがヤマハの音楽制作ソフトと緊密な関係になって新登場」とあり、Steinbergの社名も併記されていたため、いろいろな噂を呼んでいた。ネット上では、「以前から産業技術総合研究所と共同開発しているVOCALOID調教ツールの“ぼかりす”が発売になるのでは」という声や、「VOCALOID機能を搭載したCubaseの新バージョンCubase 7が発表されるのではないか」、「VOCALOID機能搭載のCubase7なら、ついにVOCALOIDがMac対応する!」などなど、勝手な話が飛び交っていたが、結果は近いながらも外れていた。

アドオンソフトとしてCubaseにVOCALOID Editor機能を統合可能

 今回発表されたのは「VOCALOID Editor for Cubase」というWindows専用のソフト。これはCubaseシリーズの最上位バージョンCubase 6.5のみに対応するアドオンソフトで、Cubaseにシームレスな形でVOCALOID Editor機能を統合するというアプリケーションなのだ。オープン価格だが、市場予想価格は9,800円と現行のVOCALOID3 Editorと同程度であり、すでにVOCALOID3 Editorを持っている人には6,980円で優待販売される。

 ではCubaseにVOCALOID Editorが統合されると何が嬉しいのか? さまざまなメリットがあるのだが、最大のポイントは2つのソフト間を行き来しなくてよくなること。従来はVOCALOIDで作った歌声をWAVで書き出し、それをDAWにインポートして使うのが基本で、テンポや音程、構成など、ちょっとでも修正する点があれば、再度やり直さなくてはならないという面倒さがあった。しかし、CubaseとVOCALOIDが統合することになり、そうした手間がなくなった。またVOCALOID Editorはピアノロール画面のキーエディターやスコアエディター、リストエディターとシームレスな関係にあるので、自分にとって使いやすいエディタで入力したり編集できるのも嬉しいところだ。

 このようなことができたのはCubaseの開発元であるSteinbergがヤマハの子会社であり、Cubaseのシステムそのものに手を入れることができたから。他のDAWだと、こうはなかなかいかないだろう。残念なのはMac対応しなかったこと。この点についてはヤマハとしても検討はしているようだが、まだWindowsオリエンテッドな機能がいくつかあるので、実現できていないとのことだった。

 このVOCALOID Editor for Cubaseの登場によって、ほかのDAWから乗り換えるユーザーがどれだけでてくるかが気になるところだが、発売自体はもう少し先になりそうだ。発表会の資料では今冬とのことなのだが、来年になる可能性も濃厚で、遅いと2月くらいになるかもしれない。


■ ローランドはMIDI音源モジュール「INTEGRA-7」など。「SONAR X2」も

 ローランドはソフト、ハードともにさまざまな製品を発表してきた。その中で一番の目玉製品となったのがINTEGRA-7という実売価格17万円のMIDI音源モジュール。このソフト音源時代に、なぜ今?と思う人も少なくないだろうが、かなり気合の入った音源であり、ソフト音源では実現できない機能が数多く搭載されている。

INTEGRA-7 背面

 最大のポイントはローランドの最先端音源、SuperNATURALを16パート同時に利用できること。SuperNATURALはBehavior Modeling Technologyという不思議な技術を実現する音源。たとえばアコースティックギターの音色を選んでキーボードを弾くと、アコースティックギターならではの奏法を実現しながら鳴ってくれるし、尺八を選んで弾くと、ベロシティやモジュレーションホイールに反応しながら、尺八でしかありえないようなサウンドで鳴ってくれる。従来のPCM音源を使い、いくら細かくエディットしながら打ち込んでもここまでのことはできないというユニークな演奏ができる。また現在のローランドのフラグシップ音源、JUPITER-80に搭載されているアナログシンセを再現するSuperNATURALシンセサイザや、V-Drum譲りで自然なドラム音色を表現できるSuperNATURALドラム・キットを搭載しているのも大きなところだ。

 さらにINTEGRA-7にはSuperNATURALだけでなく、PCMによる膨大なローランドのサウンドライブラリが搭載されているのもポイントだ。同社のXV-5080とエクスパンション・ボードSRXシリーズ全12タイトルの音色すべてを搭載。またGM2音源も搭載され、SuperNATURAL音色と合わせると6,000以上の音色になるという。

 またユニークなのがRSS(Roland Sound Space Processor)で培ったバーチャルサラウンド技術が搭載されていること。これは2chのスピーカーで奥行きや左右の広がりを実現する技術だが、16種類出せる音それぞれの定位を自在に設定することができるのだ。そのほかにもINTEGRA-7をiPadアプリでコントロールできたり、PCからVSTインストゥルメントとしてINTEGRA-7を利用できる機能など、思いつく機能すべてを盛り込んだともいえる強力な音源だ。価格的に見て、誰もが気軽に買えるという音源ではないが、プロだけでなくハイエンドのDTMユーザー層を巻き込んで広がっていきそうに思える音源だ。

RSS(Roland Sound Space Processor)で培ったバーチャルサラウンド技術搭載 INTEGRA-7をiPadアプリでコントロール PCからINTEGRA-7をVSTインストゥルメントとして利用可能

 アメリカでの本国サイトではすでに先月からアナウンスをしていたが、CakewalkのDAW、SONARの新バージョン、SONAR X2も披露された。こちらは11月下旬発売と入手できるのはしばらく先になりそうだが、現行製品と同じPRODUCER(実売価格79,800円)、STUDIO(39,800円)、ESSENTIAL(19,800円)で登場する。最大の売りはPRODUCERにローランドの製品R-MIXをプラグイン化した「R-MIX SONAR」が収録されていること。そう、2chミックスのサウンドからボーカルやギターなど特定の音を狙って抜き出すことができるR-MIXがエフェクトの形で使えるようになっているのだ。さらに往年の名機である3タイプのアナログ・ミキシング・コンソールをエミュレートした「Console Emulator」がチャンネルストリップに追加されている。

SONAR X2には「R-MIX SONAR」を収録 「Console Emulator」をチャンネルストリップに追加している

 DTM用途のオーディオインターフェイスも登場した。12月上旬発売予定のDUO-CAPTURE EX(オープンプライス、実売18,000円前後)というのがそれ。名称はDUO-CAPTUREの名が付いているが、見た目からも分かるとおり、現行のDUO-CAPTUREとは別物。QUAD-CAPUTREのミニ版といった感じで、VS PREAMPというマイクプリを2つ搭載し、ファンタム電源にも対応。またMIDIインターフェイス機能も付いている。ただしスペック的にはUSB 1.1接続で、最高で24bit/48kHzとなっている。大きな特徴は、これがローランドのオーディオインターフェイスとして初めてiPadに正式対応したことだろう。もっとも直接接続できるというわけではなく、Camera Connection Kitを使っての接続。要するにクラスコンプライアント仕様になったというわけだ。iPadからのUSB電源供給は容量的に難しいので別電源が必要となるのだが、オプションのACアダプタで対応できるだけでなく、単3電池×3でも駆動するので、持ち歩きにも便利そうだ。

DUO-CAPTURE EX 背面 単3電池3本でも駆動可能
A-88

 同様にiPad対応としてリリースされた製品がほかにも3つある。ひとつは12月上旬発売のA-88(オープンプライス、実売85,000円)というUSB-MIDIキーボード。今回の発表会ではINTEGRA-7のデモを行なったミュージシャンの篠田元一氏が弾いていたのもこのキーボードで、88鍵のハンマー・アクション鍵盤を採用したもの。この手のMIDI鍵盤としてはかなり高価ではあるが、RD-300NXなどで採用されているアイボリー・フィールG鍵盤を採用したことで、かなりのコストがかかっているようだ。

 A-88に対してもっと手ごろな価格で登場したのが49鍵盤のA-49(オープンプライス、実売16,000円)。こちらはもっとキータッチが軽い鍵盤ではあるが、A-88と同様にライブパフォーマンスなどで便利なD-BEAMコントローラを搭載するとともに、SuperNATURALモードというのを備え、INTEGRA-7との組み合わせで威力を発揮できるようになっている。なお、iPadと接続する場合、別途電源供給することが推奨されてはいるが、iPadからの電源供給でも動作することが確認できた。もうひとつ、USB-MIDIインターフェイスのUM−ONEがUM-ONE mk2(オープンプライス、実売4,000円)になって登場。こちらは見た目もほとんど変わっていないようだが、クラスコンプライアント対応となっている。

ミュージシャンの篠田元一氏がINTEGRA-7のデモの際に使用していた A-49

■ コルグはアンプモデリング機能内蔵ヘッドフォンなど

 では最後にコルグ製品について見ていこう。コルグは今回、輸入商品であるVOXを前面に出し、ギター関連が中心という印象であった。スピーカー内蔵のカラフルなギター/ベースのVOX APACHEシリーズやコンパクトなストンプ型のギター/ベースアンプのモデリング機材のVOX StompLabシリーズ。またVOXのアンプそのものとしてもAC30やAC15のカスタムカラーモデルなどが発表された。

VOX APACHEシリーズ VOX StompLabシリーズ

 こうしたアンプモデリング機材の中で、個人的に気になったのは新発想のヘッドフォン、VOX amPhonesシリーズ(11,550円)だ。これはVOXのコンパクトなアンプモデリング機能(アナログ回路によるモデリング)搭載のヘッドフォンアンプをヘッドフォンそのものに内蔵してしまったという製品。つまり、ヘッドフォンジャックをギターやベースに直接接続してプレイできるというユニークなヘッドフォンなのだ。そのヘッドフォン部はオーディオテクニカ製のクローズド・エア・ダイナミック・ヘッドフォンを採用。単4電池×2で駆動し、iPodなどのオーディオ機器に接続すれば普通にヘッドフォンとしても使える仕様となっている。種類はVOXのAC30を再現するもの、TwinReverbを再現するもの、ブリティッシュ・クランチサウンドを実現するLeadタイプ、ベースタイプの計4種類がある。

VOX amPhonesシリーズ 単4電池2本で駆動可能

 ギターアンプモデリングとしては、非常に興味深い製品も登場していた。Kemper Ampsというドイツメーカーが出したKEMPER PROFILING AMPLIFIERというのがそれ。いかにもドイツという感じのゴツイデザインの機材で、定価252,000円と価格的にもかなりの金額なのだが、これは実在するアンプの音をプロファイリングするという、すごい製品なのだ。つまり、FenderでもMarshallでも、場合によっては自作アンプでも、その音をキャプチャすると、自動的に分析し、そのアンプの音をモデリングできるようになるというのだ。これは単にアンプヘッドの特性を取り込むだけでなく、キャビネットの特性やマイクの距離や角度といったマイキングも含めて再現できるということなので、現存するアンプモデリングではバリエーション的に物足りないという人にとっては、面白いツールになるかもしれない。

KEMPER PROFILING AMPLIFIER
様々なアンプの音を3ステップでキャプチャしていくことができる

 と、ここまで紹介してきたのはいずれもKID(KORG Import Division)の製品ばかりだが、もちろんコルグ自身の開発による製品もいろいろ登場している。シンセとしてはKRONOSからピアノ、エレピ、ドラムといった音源を引っ張ってきたワークステーション、KROMEが挙げられる。88鍵(178,500円)、73鍵(147,000円)、61鍵(126,000円)の3種類があるが、ここには4GBのサンプリングデータを搭載し、最近の大容量ソフトシンセに負けない音質とハード音源ならではの弾きやすさを実現しているという。

KROME 88鍵 KROME 73鍵 KROME 61鍵

 また人気の小型シンセサイザ/ボコーダーのmicroKORGの新バージョン、microKORG XL+(61,950円)も登場した。これは従来のmicroKORGにSGのピアノやM1、VOXオルガンなどビンテージサウンドを追加したというもの。コルグのアナログ・モデリング技術、MMTの搭載によって実現しているものだ。

 そのほか、このmicroKORG誕生10周年記念ということで、microKORG XL+のほか、オリジナルのmicroKORG、さらにmicroKEY-25、microKEY-37のカラーバリエーションモデルも登場するなどDTM系もいろいろな展開が図られていた。

microKORG XL+

 以上、ヤマハ、ローランド、コルグの3社の新製品発表会から、気になった製品をピックアップしてみた。今後、実際に製品が入手できたら、紹介してみたいと思っている。


(2012年 9月 10日)

= 藤本健 =  リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
 著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。EPUBマガジン「MAGon」で、「藤本健のDigital Audio Laboratory's Journal」を配信中。Twitterは@kenfujimoto

[Text by 藤本健]