藤本健のDigital Audio Laboratory

第535回:iPad用モード装備の「DUO-CAPTURE EX」を試す

第535回:iPad用モード装備の「DUO-CAPTURE EX」を試す

ローランドの電池駆動対応コンパクトUSBオーディオ

DUO-CAPTURE EX

 AuriaやCubasisなど各種DAWの登場によって、より本格的なDTM機材として使われるようになってきたiPad。しかし本気で使うとなると、やはりオーディオインターフェイスは必須。ところがiPadで利用できるオーディオインターフェイスの選択肢が少ないのが実情である。

 そんな中、昨年末にローランドが実売18,000円前後と手ごろな価格で発売したのがDUO-CAPTURE EXだ。これはCamera Connection KitもしくはLightning to USB Camera Adapterなどの利用が必須とはなるがオーディオもMIDIも使えるという点で非常に便利に利用できそうだ。実際、音質がどうなのかチェックした。

従来のDUO-CAPTUREとは大きく違った製品に

 DUO-CAPTURE EXについては、すでに昨年9月の記事でも概要を紹介していたが、発表から発売まで3カ月程度を要していた。筆者自身は量産前の試作機を借りてブログにもレビュー記事を書いていたが、その試作機は最終的な音質調整がされていないとのことだったので、音質チェックについては見合わせていた。試作機でも十分いい音である実感はあったが、ようやくその製品版を入手することができたので、いつも行なっているオーディオインターフェイスの音質テストなどを交えながら、改めてDUO-CAPTURE EXがどんな製品なのかを紹介してみよう。

 ローランドでは8IN/8OUTの最上位機であるOCTA-CAPTUREを筆頭に4IN/4OUTのQUAD-CAPTURE、今回登場した2IN/2OUTのDUO-CAPTURE EX、さらにはTRI-CAPTURE、DUO-CAPTUREと似たような名称のオーディオインターフェイスが複数ある。名前から想像すると、従来からあったDUO-CAPTUREの後継モデルのようにも思えるが、だいぶ違うコンセプトの製品で、デザイン、大きさ的にも異なるし、従来からあるDUO-CAPTUREも現行モデルとして今後も併売されるようだ。確かに2IN/2OUTという意味ではDUO-CAPTUREと共通なのだが、これとは別製品ということ。それより見た目にも機能的にも近いのは上位モデルのQUAD-CAPTUREだろう。並べてみても、QUAD-CAPTUREのミニ版という感じなのがお分かりいただけるのではないだろうか。

入出力は2系統
従来モデルのDUO-CAPTURE(右)も併売される
上がDUO-CAPTURE EX、下が4入出力のQUAD-CAPTURE

 そのDUO-CAPTURE EX、サイズ的には154×119×47mm(幅×奥行き×高さ)で、重量は460gと非常にコンパクトながらも、ガッシリとしたアルミボディーで非常に頑丈。スペック的には前述のとおり2IN/2OUTとなっているが、使えるのは24bit/44.1kHzおよび24bi/48kHzであり、96kHzや192kHzには対応していない。

 フロントパネルを見ると、ここには2つのコンボジャックの入力端子がある。ここへはライン入力はもちろん、XLRでのマイクとの接続もでき、リアのPHANTOM +48Vのスイッチをオンにすることでファンタム電源供給も可能となる。また、コンボジャック左側の端子はリアのINSTスイッチをデフォルトのLo-ZからHi-Zに切り替えることでハイインピーダンス入力となり、ギターとの直結が可能になるという仕様。これによって、入力においてはほぼオールマイティーとなっているのだ。また、マイク入力に対しては、ローランド自慢のマイクプリアンプであるVS PRE-AMPを2機搭載。これによって広いヘッドルームと、クリアなサウンドを実現している。

 一方、出力はフロントにあるヘッドフォンと、リアにあるTRSフォンのメイン出力の2カ所から出すことが可能。仕様上、この2つの出力内容は共通だが、必要に応じて使い分けることができるだろう。さらに、リアには1系統のMIDIの入出力があるので外部MIDI音源やMIDIキーボードと接続して使うことができる。

前面に2つのコンボジャック入力
PHANTOM +48VのスイッチをONにすることでファンタム電源供給も可能
背面にTRSフォンのメイン出力を備える

「COMPUTER」と「TAB」のモードを個別に用意

 さて、そんなDUO-CAPTURE EXだが、この機材の最大の特徴ともいうべき点は、リアにある「COMPUTER/TAB」スイッチにある。そう、これを切り替えることによってオーディオインターフェイスとしての動作が大きく変わるようになっているのだ。これは3段階のスイッチになっており、「COMPUTER 44.1kHz」、「COMPUTER 48kHz」、「TAB」という切り替えが可能で、動作モードを切り替えるためのもの。「COMPUTER 44.1kHz」はWindowsやMacと接続して利用するモードであり、24bit/44.1kHzのオーディオインターフェイスとして動作する形となる。この場合はドライバをインストールして使う形になる。「COMPUTER 48kHz」も同様にPCと使うモードで、こちらは48kHzだ。ドライバをインストールして使うため、ASIOドライバの使用も可能。DAWソフトのSONAR X1 LEもバンドルされているため、これ1台購入すればDTMスターターキットとして一通りそろってしまうわけだ。

「COMPUTER」モードでの利用時はドライバをインストールする
ASIOドライバも利用可能
SONAR X1 LEもバンドルされている

 それに対し、「TAB」とは主にiPadと接続して使うためのモード。iPadやiPhoneなどAppleの認証マークを取得した機材ではないからか「TAB」という表現になっているが、このモードにしておけばiPadとの接続が可能になるのだ。

 試してみたところ、第3世代iPadとiPad Camera Connection Kitを介して接続し、認識させることができた。一方、LightningコネクタであるiPad miniともLightning to USB Camera Adapterを介して接続することができた。このようにiPadと接続できるオーディオインターフェイスはこれまでもいろいろあったが、1点大きな問題があった。それはオーディオインターフェイスへの電源供給の問題だ。iPadからUSB経由で供給可能な電力は非常に微弱であり、大半のオーディオインターフェイスはこれでは動作しないのだ。そのため、電源供給機能付きのUSBハブなどを噛ます必要があり、こことの相性でうまく動作しなかったり、かさばって使いにくかったりしたのだ。

iPad Camera Connection Kitを介して第3世代iPadと接続
Lightning to USB Camera Adapterを使って、iPad miniとも接続できた
単3電池3本でも動作する

 それに対し、DUO-CAPTURE EXでは電池駆動という形でその問題を解決している。本体底面に電池ボックスがあり、単3電池3本で動作するため、iPadからすぐに利用できるのだ。電池で動作するから持ち歩きも簡単で、電源のない場所でもiPad + DUO-CAPTURE EXという組み合わせですぐに利用できるのは嬉しいところ。ニッケル水素充電池の場合、ファンタム電源オフなら約6時間、オンの場合で約3時間の動作が可能とのこと。なお、オプション扱いではあるがACアダプタも利用できるので、自宅やスタジオなど電源のある場所で利用する場合にはACアダプタでの利用したほうが、じっくり安心して使えそうだ。

 ちなみに、このようにiPadで認識されるのは、DUO-CAPTURE EXのTABモードがUSBクラスコンプライアント仕様になっているからだ。ご存知のとおり、USBクラスコンプライアントなオーディオデバイスにはUSB 1.1準拠のUSB Audio 1.0とUSB 2.0準拠のUSB Audio 2.0の2種類があるが、DUO-CAPTURE EXの場合はUSB Audio 1.0のため16bit/44.1kHzという仕様になっている。別の見方をすれば、確かにこのTABモードにすることでiPadとの接続が可能になるわけだが、USBクラスコンプライアントであれば、WindowsやMacでも利用できるはず。実際に試してみたところ、ドライバなしで認識され、接続することができた。

 もっとも、TABモードでのPCとの接続では、DUO-CAPTURE EXの性能が16bit/44.1kHzに固定されてしまうし、WindowsではASIOドライバも使えないので大きなメリットはないが、いざドライバのない環境でもすぐに接続して使えるというのはひとつの安心材料にはなりそうだ。なお、このPCとの接続の場合であってもTABモードの場合はUSBからの電源供給では動作しないため電池またはACアダプタの使用が必須となる。

 では、気になるDUO-CAPTURE EXの入出力の音質性能はどうなのだろうか?いつものようにRMAA PROを使い入出力をループさせてのテストを行なってみた。このテストは入力と出力あわせてのトータル性能を評価するもので、出力音だけを見るものとは違い入力性能も合わせてチェックするためなかなか厳しい評価ともいえるわけだが、「COMPUTRE 44.1kHz」、「COMPUTRE 48kHz」でテストした結果が以下の通りだ。

16bit/44.1kHz
24bit/44kHz
24bit/48kHz

 これを見てもトータル性能でExcellentという評価であり、48kHzまでとはいえ、なかなか優れた音質になっていることがわかるだろう。これらCOMPTUREモードでのテストはASIOドライバを使っている。一方、TABモードでのテストも行なった。こちらはASIOドライバが利用できないのでMMEドライバを使った。こちらは、やはり16bitに落ちてしまうためもありCOMPUTRERモードと比較すると性能は落ちてしまうが、それでもそれなりの性能は出ているようだ。

 もちろん、TABモードであっても、ライン、マイク、ギターなど何とでも接続できるので、iPadを使っての外でのレコーディングでは大きな威力を発揮してくれそうだ。なお、レイテンシーのテストも試みてみたのだが、Windowsのドライバとの相性の問題なのだろうか、うまく計測することはできなかった。ドライバの設定を見る限り、24bit/48kHzにおいてASIOバッファサイズを112sampleまで縮めることができるので、PC上でもかなり快適なDTM環境を実現できそうだ。

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。EPUBマガジン「MAGon」で、「藤本健のDigital Audio Laboratory's Journal」を配信中。Twitterは@kenfujimoto