藤本健のDigital Audio Laboratory
537回:ソニーの24bit/96kHz対応小型PCMレコーダの実力は?
537回:ソニーの24bit/96kHz対応小型PCMレコーダの実力は?
3マイク内蔵「ICD-SX1000」。ハイレゾ音楽再生も
(2013/2/4 14:25)
既報のとおり、ソニーから24bit/96kHzのレコーディング、24bit/192kHzの再生を可能にした小型のリニアPCMレコーダ、「ICD-SX1000」が2月21日から発売される。
店頭予想価格は27,000円と、最近のリニアPCMレコーダとしては若干高めな設定になっているが、音楽や自然の音を録音した際の性能はどれほどのものなのだろうか? 発売より一足早く製品を借りることができたので、実際に試してみた。
3つのマイクを内蔵し、ズーム録音も可能
ソニーはこれまでリニアPCMレコーダとして、PCM-D1、PCM-D50、PCM-M10といった製品を出してきた。その一方で、会議録音や語学学習用などを主目的としたICレコーダのラインナップも広く揃えてきており、エントリー向けのBXシリーズ、おけいこや習い事用のAXシリーズ、また大画面液晶のUXシリーズ、カードタイプでスタイリッシュさをアピールしたTXシリーズ、そして高音質をうたうSXシリーズと数多くの製品を出してきている。このうちSXシリーズは、リニアPCMでのレコーディングにも対応させた高音質を売りにしており、これまでの製品では16bit/44.1kHzのWAVに対応していた。
今回発売するのは、そのSXシリーズ、2機種でICD-SX1000と下位モデルのICD-SX734の2つ。このうち、ICD-SX734のほうは、16bit/44.1kHzと従来路線を踏襲しているが、最上位となるICD-SX1000は最高で24bit/96kHzでのレコーディングを実現すると同時に、再生は24bit/192kHzに対応するなど、かなり高スペックな製品なのだ。
とはいえ、見た目や大きさは従来からの「ICレコーダ」といった雰囲気のデザインを踏襲しており、たとえばRolandのR-05やTASCAMのDR-05といった機材と比較すると、だいぶ小さく軽いモノとなっている。これで本当にしっかりした音でレコーディングが可能なのか、実際に音楽などを録音した場合、まともに使える音で録音できるのか、とっても気になるところだ。
まずは外見的な部分からチェックしていこう。リニアPCMレコーダにとって、もっとも重要なポイントのひとつであるマイクは本体上部に内蔵されている。正面から見ると、目のように並んでいて、上から見ると、全体がメッシュ状になっている。またリアから見ても、メッシュ状の穴が空いている形状となっているが、ここには3つのマイク素子が搭載されている。左右にあるステレオマイクが2つと中央にあるズームマイクの計3つを内蔵。これはメニュー設定で切り替えて使うもので、講演会やインタビューでは、特定の話し手の音声を録音する場合は「ズーム録音」で中央のマイクを選択して使う。一方、「ステレオ録音」では、左右のステレオマイクで会議や音楽を広がりのある音で録音できるようになっている。
ソニーによれば、それぞれの指向性も大きく異なるとのこと。当然のことながらズームマイクで録音する場合は、実質的にモノラルサウンドになる。それぞれのマイクで音質に差があるのかなども、後ほど試してみたいと思う。
左サイドにはミニジャックが2つあり、赤いほうがマイク、黒いほうがヘッドフォン用のもの。マイク端子は内蔵マイクと排他になっており、こちらに接続すると、内蔵マイクはオフになる。またプラグインパワーのマイクにも対応している。一方、ヘッドフォンのほうは録音した音の再生や、ICD-SX1000に転送したオーディオを再生できるのはもちろん、入ってくる音をモニタリングすることもできるようになっている。ヘッドフォン端子に接続していない場合は、フロントのコントロールボタン、左下にある内蔵スピーカーから音が出る仕様だ。
ヘッドフォンジャックの右には、microSDとメモリースティックマイクロ(M2)兼用のスロットがある。ICD-SX1000には標準で16GBのフラッシュメモリが内蔵されているが、それとは別に追加したり、交換したりということが簡単にできるようになっている。
またリアにはレバーがあるが、これを使うことで、USBのコネクタが飛び出してくる。これで、USBケーブルがなくても、ダイレクトにPCと接続できるようになっているのだ。また、ICD-SX1000には電池ボックスはなく、リチウムイオン電池が内蔵されているため、その充電もこのUSBコネクタを利用して行なうのだ。こうすることで軽量化も図っており、バッテリを含む重さは約82gとなっている。なお、気になるバッテリ駆動時間だが、16bit/44.1kHzのモードでは約19時間、24bit/96kHzでは約12時間の連続録音ができるとのこと。また再生においてはヘッドフォン使用であれば16bit/44.1kHzの場合、約22時間、24bit/96kHzなら約16時間、さらに24bit/192kHzなら約13時間の再生が可能とのこと。
広い空間を再現できる録音機能。遠くの鳥の鳴き声はズームで
このコンパクトなICD-SX1000を使ってみようと、さっそく外に出て鳥の鳴き声を録音してみることにした。まずは各種セッティング。まずメニューを表示させ、録音モードを設定。ここで、「LPCM 96kHz/24bit」を選択する。ほかに「LPCM 44.1kHz/16bit」があるほかMP3の320kbps、192kbps、128kbps、48kbpsのそれぞれが選択可能。さらにユニークなのは「デュアルレコーディング」というモードがあること。これを使うとリニアPCMとMP3の両方を同時に録音可能になるのだ。
続いて内蔵マイクの設定。これは「ステレオマイク」か「ズームマイク」を選択できるので、ここではとりあえず「ステレオマイク」を設定。さらに、「感度設定」というものがあり、これは「音声用」、「音楽用」、「マニュアル」のそれぞれを選択できる。たとえば音楽用でも、「少人数でのコーラスや小さい音、楽器から離れての録音に適しています」という「高感度」と「大きな音のバンド練習やカラオケなどの録音に適しています」という「低感度」があるが、基本的にはレベル設定を行なうもののようなので、ここでは「マニュアル」を選択し、自分で設定設定してみることにした。
そのほかローカットの設定があるが、これは「オフ」になっていることを確認の上、リミッターに関しても「オフ」にして録音してみることにする。
早朝、近所の児童公園に行ってみると、スズメ、ヒヨ、ハトが木々に止まっているのを確認。それぞれとの距離は3~4mの位置で録音してみたのが、下のサンプルだ。このときはやや風があったので、付属のウインドスクリーンをかぶせてのレコーディングであり、持ち帰った後、ノーマライズをかけて音量レベルを上げている。結構、広い空間でそれぞれのたくさんの小鳥たちが鳴いていることが確認できるだろう。また飛び立って移動していくのもハッキリと分かると思う。
ウインドスクリーンをしていても、どうしても風切り音の低い音を拾ってしまうのは仕方のないところ。ローカットをオンにしていれば、こうした部分はカットできたと思う。なお、右のほうで、ずっとカタカタと鳴っているのは、壁にサッカーボールをぶつけて練習していた人がいたので、この音を拾っているものだ。あまり条件のいい環境での録音とはいえないが、これを聴いただけでも、結構高性能なマイクの特性が見えてくる。
音声サンプル(24bit/96kHz) | |
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野鳥の声(ステレオマイク) | bird2496.wav(15.9MB) |
※編集部注:オリジナルの24bit/96kHzファイルにノーマライズをかけて音量レベルを上げています。 編集部では掲載したファイルの再生の保証はいたしかねます。 また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい |
なお、この録音操作でちょっと気になったのが、ボタンの使い方。赤いボタンを1回押すと、すぐに録音がスタートしてしまうのだ。あらかじめレベル調整をしたい場合は、すぐに録音スタートさせるのではなく、赤いボタンを長押しすることで、録音待機状態となり、ヘッドフォンでモニターして、レベルメーターなどで音量を確認できるようになっている。その後、再度押すと録音がスタートされる。まあ、この辺は慣れの問題だとは思うが、一般的なレコーダとやや違う操作体系で、ちょっと戸惑ったところだ。
続いてズームマイクにして、録音しようと思ったら、鳥たちがみんないなくなってしまったので、場所を移動。電柱の上のほうにスズメがいっぱいいるところがあったので、スズメに向けて録音してみた。遠くで土木工事をしている音が聴こえるのがやや気になるが、スズメの鳴き声や羽ばたく音などがキレイにキャッチできているのが分かるだろう。ただ、やはりモノラルであるため、先ほどのステレオで録ったような臨場感が欠けてしまうのは、仕方ないところだろう。
音声サンプル(24bit/96kHz) | |
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野鳥の声(ズームマイク) | zoom_bird.wav(11.7MB) |
※編集部注:編集部では掲載したファイルの再生の保証はいたしかねます。 また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますので ご了承下さい |
24bit/192kHzのハイレゾ音源再生も
部屋に戻り今度は、音楽のレコーディングだ。こちらは、いつものようにCDをモニタースピーカーで再生したものを24bit/96kHzで録り、その後、波形編集ソフトで、16bit/44.1kHzに変換するというもの。が、いざ試そうと思って気づいたのは、ICD-SX1000には三脚穴がないということだ。最近の音楽向けリニアPCMレコーダはほぼすべて三脚穴がついているので、これで固定して録音ということができるが、会議などを録音するICレコーダから発展してきたICD-SX1000にはそうした装備はなかったのだ。そのため、三脚に輪ゴムで固定する形で録音してみた。
ところが、音を聴いてみると、どうも音質があまり良くないし、ステレオ感もまったくなかった。あれ? と思ったら、マイクが外で録ったときのズームマイクのままだったのだ。やはりズームマイクは、音楽用途に向かないようだ。そこで改めて、マイクをステレオマイクに設定しなおした上でレコーディングを行なったのがこちらだ。どうだろうか? かなりキレイな音、正確な音で録音されているように感じられるし、ステレオ感という面でもしっかり出ている。
音声サンプル(16bit/44.1kHz) | |
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ズームマイクで録音 | zoom_music1644.wav(6.92MB) |
ステレオマイクで録音 | music1644.wav(6.89MB) |
※編集部注:編集部では掲載したファイルの再生の保証はいたしかねます。 また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますので ご了承下さい |
それぞれの結果を周波数分析した結果は下の通り。これを見ただけだと、それぞれに極端な違いはないのだが、聴いてみると明らかにステレオマイクで録音した結果の音質がいいことが分かる。試しに過去に扱った機材といろいろ比較してみると、ICD-SX1000の特徴も見えてくる。これ、高域においては、ほかのさまざまな機種と比較してもかなりキレイに捉えており、ベストといってもいいほど。一方で、低域は弱めであり、物足りなく感じる人もいるかもしれない。たとえば、PCM-M10と比較してみると、ICD-SX1000のほうが、クッキリとクリアなサウンドといえるが、低域はやや薄めといったところだ。
ちなみに、ソニーの説明によると、このICD-SX1000には「Dual ADコンバーター」なるものが搭載されているとのこと。2種類のADコンバータを連携させることで、「幅広いダイナミックレンジと高いSN比」を実現させているそうだ。
さて、最後に少し触れたいのが再生機能。24bit/96kHzまでレコーディング可能なのだから、ほかの機材と同様に24bit/96kHzでの再生ができるのは当然として、24bit/192kHzでの再生もできるのだ。といっても、通常リニアPCMレコーダの再生機能は、ある種、オマケ機能のようなもので、ここでの再生機能に期待する人はあまりいないはず。しかし、そこに24bit/192kHz再生機能を搭載する設計者の意図はどこにあるのだろうか? 実際にハイレゾ音源を転送して再生してみたところ、なるほど結構すごい音が飛び出してきてちょっと驚いた。単なるオマケというわけではないようだ。
本体のヘッドフォン出力だと、あまり大きな音は出せないが、確かにS/Nもとてもよく、解像度の非常に高いサウンドを表現できる能力を持っているようだ。また、再生においては低音もしっかりと出ており、かなり気持ちいい。筆者もオーディオ評論家ではないので、可能であれば、店頭などに自分のヘッドフォンを持ち込んでで音を確認してみることをお勧めしたい。
なお、このオーディオファイルの転送は、簡単。ICD-SX1000をUSB接続するとUSBマスストレージとして見えるので、所定のフォルダにコピーしたりするだけでOKだ。しかし、さらに使いやすくするために、Sound OrganaizerというユーティリティソフトがWindows用、Mac用に付属しており、これで転送のやり取りができる。また簡単なオーディオの編集機能、CDのライティング機能、さらには速度を変えて再生する機能なども搭載されている。また機器設定機能を利用することで、ICD-SX1000のメニュー設定もPC側で行なうことができるのだ。
以上、ソニーのリニアPCMレコーディング可能なICレコーダ、ICD-SX1000を見てきたが、いかがだっただろうか? この大きさでこれだけの機能、性能を搭載しているのは、かなりのものだと思う。バッテリが充電式だから、バッテリが切れたら作業がすべて終了(電池交換ができない)というのがちょっと気になるところ。またマイクがもう少し低域まで拾ってくれると、さらによかったとも思うが、このコンパクトさなので、常に持ち歩くレコーダ、また高音質に再生できるプレーヤーとしてもよさそうだ。
ICD-SX1000 (ブラック) | ICD-SX1000 (レッド) |
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