藤本健のDigital Audio Laboratory
第551回:新XYマイクのヤマハ「POCKETRAK PR7」をチェック
第551回:新XYマイクのヤマハ「POCKETRAK PR7」をチェック
実売15,000円の24bit/96kHz PCMレコーダ
(2013/5/20 12:02)
ヤマハは、リニアPCMレコーダのPOCKETRAKを3年ぶりにリニューアル。新製品の「POCKETRAK PR7」が5月より発売された。新開発のクロス型XYステレオマイクを搭載したことで、自然な奥行きと定位感のあるステレオサウンドを実現しているという。実売価格は15,000円程度と手ごろで、もちろん24bit/96kHzにまで対応しているというこのレコーダ。実際どんな音なのかチェックした。
XYマイク搭載。UIは従来機から変更も
今回の新機種POCKETRAK PR7は、前モデルであるPOCKETRAK W24、POCKETRAK C24と同様に黒とシルバーの配色となっていて、写真で見るとシリーズとしてのデザインが踏襲されているように見える。しかし、実際に実物を触ってみると、形も操作性もまったく異なる、完全な新設計機器となっているようだ。
まずはPOCKETRAK PR7の概要から見ていこう。PR7の最大の特徴といえるのは新開発のクロス型XYステレオマイク。左右のマイク集音部を同軸上に配置したことで、音源との距離差によって生じる位相ズレを解消するよう設計されているとのことだ。もちろん、この内蔵マイクに限らず、外部入力も可能となっており、右サイドにあるMIC/LINE IN端子から録音することも可能だ。
このサイド部分を見てもわかるとおり、厚みがかなりあり、前モデルのW24と比較しても1.5倍程度に。マイク部が大きくなっているだけに、厚みを出しているんだろう。ただ、持ってみるとすごく軽い。オールプラスチック製というところもあるのだろうが、電池込みで82gなので、胸ポケットなどに入れて持ち歩いても気にならないほどだ。この軽さの秘密はバッテリ。単4のアルカリ電池またはニッケル水素電池1本で駆動する。これ1本だけでスタミナは持つの? と心配になってしまうが、PCMで16bit/44.1kHzのフォーマットであれば約29時間半、MP3の64kbpsなら約44時間も持つというのだから、なかなかなものだ。実際、今回のテストにあたってはeneloopを入れて24bit/96kHzで数時間録音するとともに、LEDのバックライトもオンのままだったが、バッテリー残量はまったく変化せず、まったく心配なく使用することができた。
このバッテリーボックスを開けたところに、microSD/SDHCのスロットも用意されている。POCKETRAK PR7には本体内蔵メモリとして2GBのフラッシュメモリが搭載されているが、このmicroSD/SDHCスロットによって録音可能な容量を追加できるようになっている。
PCとPOCKETRAK PR7をUSBで接続すると、USBマスストレージとして認識されるようになっており、内蔵メモリおよびmicroSD/SDHCがそれぞれ別のドライブとして現れる。この際、とくに電源を入れる必要はなく、USBからの電源供給で動作するようになっているようだ。
リアパネルを見ると、ここには小さなスピーカーも内蔵されている。録音した音はこのスピーカーですぐに確認することができるのだ。小さいスピーカーなので、それほど大きな音を出せるわけでもないが、想像していたよりもキレイに音を再生できた。またそのリアパネルには三脚穴も用意されているから三脚に固定して録音するということも可能だ。
さて、本体の電源を入れ、液晶パネルが表示されると従来モデルとはずいぶんUIが変わったことに気づく。省電力化という観点からか、コストダウンという点からなのか、最近ではちょっと珍しい11セグの文字表示になっているのだ。上段4桁、下段6桁という文字でメッセージが表示されるのだが、最近11セグでの文字表示を行なう機器はあまりないので、どうやって読めばいいのか分からない人も多いかもしれない。ちなみにここにある写真に表示されているのは「TUNER」、「RESET」、「FORMAT」という文字を表している。
この設定は階層化されていないからシンプルだが、MENUボタン、REC SETボタンそれぞれを押して別の設定を行なう形だ。またMENUボタンの長押しで出てくる設定項目、さらにシステム設定に関しては、一度電源を切った上で、REC SETボタンを押しながら電源を入れる必要があるなど、マニュアルを読まないと分からない面も多い。まあ、これは一度覚えてしまえば特に気になるものではないが、購入してすぐに使おうとしたときは、ちょっと戸惑いそうではある。
立体感のある録音。高域までしっかり記録
では、いつものように、これを持って外で鳥の鳴き声を録ることからスタート。予めレコーディングモードをPCMの24bit/96kHzに設定。これが最高のフォーマットであり、ほかにも量子化ビット数は16bit/24bit、サンプリングレートは44.1kHz、48kHz、88.2kHz、96kHzのそれぞれから選択できるようになっている。またMP3でのレコーディングも可能で、こちらは32、64、128、192、320kbpsの5種類が選択可能となっている。
またハイパスフィルター(ローカット)はオフ、ダイナミックコントロール(リミッター)はオフの設定にしている。ちなみにダイナミックコントロールにはリミッター・オンのほかに、ALC HI、ALC LOという設定がある。これはオートレベルコントロール高、オートレベルコントロール低の意味だが、音楽用途でないボイスレコーダ的な使い方では便利に利用できそうだ。
録音レベルの調整はREC LEVELボタンを押した上で、十字カーソルキーの上下キーで行なう。00/60~60/60と60段階で行なう形になっており、録音待機状態にするとマイクから入ってくる音はそのままヘッドフォンでモニターすることが可能。かなり高感度なマイクで小さな音までしっかりと捉えることができる。室内においては、いい感じだったが、外に出てみると、予想以上に風切り音を拾ってしまう。とくに強風というわけではなかったが、このままの状態で外で録音するのはちょっと困難という感じであったため、他社製品ではあるが、RolandのR26用のウィンドスクリーンをかぶせて使ってみた。その結果がここに載せたものだ。
近所の児童公園の木でスズメが数羽さえずっているのを録音したものだが、非常に立体的なサウンドになっているのがよくわかるだろう。ちょうど先頭のあたりでスズメが飛び立って動くのだが、その羽ばたきをリアルに捉えている。また、レコーダからスズメまでの距離感もハッキリとわかるのも、クロス型XYマイクの威力なのだろう。
音声サンプル(24bit/96kHz) | |
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野鳥の声 | pr7_bird2496.wav(8.02MB) |
※編集部注:編集部では掲載したファイルの再生の保証はいたしかねます。 また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい |
続いて、POCKETRAK PR7を部屋に持ち帰り、これまたいつものようにモニタースピーカーで再生させるCDの音を24bit/96kHzで録音してみた。目で見て、ほぼ中央の位置に三脚を使って設置しての録音ではあったが、左右の音の違いをハッキリ捉えるマイク性能を持っているだけに、微妙な角度の違いが音にも表れるようだ。聴いてみると、やはりやや右の音量のほうが大きくなっているようだ。このくらい繊細な構造であるだけに、音作りという面ではいろいろと楽しめそうな機材だ。
では、これを波形で見てみるとどうだろうか? これまで見てきた他の機種と比較すると、16kHz以上での起伏がなく、単調なグラフになっている。たとえば以前テストしたPOCKETRAK W24のものと比較すると、違いがあることがハッキリとわかるだろう。では、音を聴き比べてみるとどうか? もちろん、感想は人によりけりだと思うが、新機種であるPOCKETRAK PR7のほうが、広がりがあると同時に、高域の音がクッキリしていて、いわゆる「解像度の高い音」というように感じられる。これまで、この連載でテストしてきた他のメーカーのレコーダでの音と比較しても、かなりいい音質のように思えるが、どうだろうか?
音声サンプル(16bit/44.1kHz) | |
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CDからの録音 | pr7_music1644.wav(6.90MB) |
※編集部注:編集部では掲載したファイルの再生の保証はいたしかねます。 また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますので ご了承下さい |
楽器演奏向けの機能も
さらに、POCKETRAK PR7には、楽器メーカーであるヤマハの機材だけに、音楽系機材としての機能も搭載されている。まずはチューナ機能。これは周波数を設定した上で、その基準音に近い音をマイクから入力することで、チューニングができるようになっている。またメトロノーム機能も搭載されている。これをオンにすると、録音時にモニターヘッドフォンからメトロノーム音が鳴るのでこれに合わせて演奏ができるわけだ。もちろん録音結果にはメトロノームの音は入らないし、プリカウントもしてくれるので、テンポに合わせたレコーディングができる。
そしてもう一つ、POCKETRAK PR7の機能の非常に大きな特徴としてあげられるのが、オーバーダブ機能。既に録音した音に、新しい音を重ね合わせていく多重録音が可能なのだ。といってもマルチトラックのMTRではないので、2chのまま重ねていくのだが、元の音が破壊されるわけではない。まず、元となるファイルを選択した上でOVER DUBボタンを押して録音を開始すると、新たなファイルが生成され、ここに重ね合わせた結果が記録されるのだ。あくまでもオーバーダブなので、レコーディング後にミックス状態を調整するといったことはできないが、簡易的な多重録音なら簡単にできるので、いろいろ便利に使えそうだ。
以上、ヤマハのリニアPCMレコーダの新機種、POCKETRAK PR7について見てきたが、いかがだっただろうか? 操作面において慣れないと使いにくい面もあるが、新開発のマイクによる音質は抜群。またWindows、Macそれぞれで利用できる波形編集ソフト、WaveLab 7 LEのダウンロードライセンスも同梱されているのもポイントだ。価格も手ごろなので、すでにリニアPCMレコーダを持っている人でも、追加購入して、音の違いを比較しながら使い分けてみるというのも面白そうだ。
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POCKETRAK PR7 |