藤本健のDigital Audio Laboratory
第560回:VOCALOIDのMac対応と、初音ミク V3で変わること
第560回:VOCALOIDのMac対応と、初音ミク V3で変わること
ヤマハ&クリプトンが打ち出すボカロ新展開
(2013/7/29 15:03)
既報の通り、7月24日に東京・銀座で行なわれたヤマハの発表会においてMac対応のVOCALOIDが発表され、ついにMac上でもVOCALOIDが動作するようになる。
この発表会には、クリプトン・フューチャー・メディアの代表取締役、伊藤博之氏もゲストとして登場し、ここで初音ミクのVOCALOID 3版である「初音ミク V3」も発表された。ただ、内容や既存ソフトとの関係性がやや複雑でわかりにくい。これまでの状況を整理するとともに、今回の新製品群で何がどう変わるのかといった点と、会場でヤマハとクリプトンに尋ねた内容をまとめてお伝えする。
“ボカキュー NEO”登場で楽曲制作はどう変わる?
今回、ヤマハが発表した「VOCALOID Editor for Cubase NEO」と歌声ライブラリである「VOCALOID 3 Library NEOシリーズ」。NEOって何だ? と思ったが、簡単にいえばWindowsとMacのハイブリッド製品という意味であるようだ。もともと4月に行なわれたヤマハの発表会においてVOCALOID Editor for CubaseのMac版を参考出品しており、この秋に製品化するとアナウンスされていたので、今回の話はそう驚く内容ではなかった。ただ、その詳細や、ライブラリの扱いに関してハッキリしなかった点が明確になったのだ。
ただ、VOCALOID 3はいろいろと複雑なことがあるので、まずは現状を整理しておこう。ご存じの通り、VOCALOIDはVOCALOID 3になってエンジン部分と歌声ライブラリ部分が分離しての発売となった。もう少し正確にいえば、合成エンジン+エディタ機能(GUI)であるVOCALOID 3 Editorが、Megpoid V3や結月ゆかり、KAITO V3といった歌声ライブラリと別売になり、それぞれを購入しないと使うことができない。まあ、歌声ライブラリにはTiny VOCALOID 3 Editorという簡易版が搭載されているので、まったく使えないわけではないが、17小節しか入力できなかったり、和音が扱えないといった多くの制限があるため、事実上VOCALOID 3 Editorが必須だった。システム構成的に見れば合成エンジン、エディタ、歌声ライブラリが連携しながら動作するのというのがVOCALOIDのシステムなのだ。
その合成エンジン+エディタ機能を持つものが、当初はVOCALOID 3 Editorのみであったのだが、今年に入ってから状況が少し変化してきた。まず、ヤマハは1月にVOCALOID Editor for Cubase(通称・ボカキュー)を発売。これはCubase 7にVOCALOID Editor機能を統合してしまうというもので、これがあれば従来のVOCALOID 3 Editorは不要であったのだ。ただし、Windows版のみでの対応であったため、Macでは利用できなかった。
一方、2月にはクリプトン・フューチャー・メディアが、KAITO V3にバンドルする形で「Piapro Studio」というものをリリース。こちらはVSTi(VSTインストゥルメント)として動作するもので、やはりエンジン機能+エディタ機能を装備したものだ。VSTiであるため、Cubaseはもちろん、SONARやStudio One、FL STUDIO……と各種DAWで利用することが可能になったのだ。ただし、こちらもWindows専用であり、Macでは使うことができなかった。
では、それが今回の発表によってどう変わるのか? まずはヤマハ側の対応から見ていこう。
VOCALOIDの開発者である剣持秀紀氏が、登壇して最初に発したのは「大変長らくお持たせいたしました」という言葉。リリース当初からMac版をいずれ出すという旨のことをいっていたが、VOCALOID登場10年となる今年、ようやくそれが実現したのだ。
8月5日に発売される「VOCALOID Editor for Cubase NEO」はCubase7に組み込むアドオンソフトで、WindowsとMacのハイブリッド対応。Windowsで利用する場合は従来のVOCALOID Editor for Cubaseとまったく同じで、これにMac版がバンドルされた格好だ。現行のVOCALOID Editor for Cubaseの扱いがどうなるか、ヤマハ担当者に聞いてみたところ、ハッキリとは答えてくれなかったが、NEOの実売価格が現行製品とほぼ同じ9,800円ということから、おそらく今後はNEOに置き換えられていくものと予想される。
ハイブリッドとはいえ、ライセンスは1つ。従来製品と同様に2週間以上利用するためにはオンラインを使ってのアクティベーションが必要になるが、アクティベーションできるのは片方のみ。もしWindowsを使った後にMacでも使いたいという場合は、Windowsのアクティベーションを解除した後に、Macでアクティベーションするということで実現は可能なようだ。ただし、すでに現行のVOCALOID Editor for Cubaseを持っている人がMacのCubase7で使いたいという場合は、NEOを新たにもう1本買うしかないようだ。いまのところ優待販売なども用意されていない。
発表会のステージ上では、キャプテンミライ氏とヤマハ・インストラクターの青木繁男氏によるMac版のデモが行なわれた。すでにWindows版とまったく同様に動作しており、CubaseとVOCALOIDがシームレスに、有機的に統合されていることをアピールしていた。とくに、ループ再生しながらVOCALOIDの音程や各種パラメータを変更できる点などは、従来のVOCALOID 3 EditorとDAWの組み合わせでは決してできないワザである。
なお、VOCALOID Editor for CubaseのWindows版とMac版には機能的な違いが1点ある。それはWindows版で利用できるJobプラグインがMac版では使えないのだ。もっともこのJobプラグインは基本的にLua言語で書かれたスクリプトなので、プログラムそのものはWindowsのアーキテクチャに依存したものではない。そのため、今後のアップデートでMacにも対応させるとのことだ。ただし、VocaListenerのように外部プログラムを呼び出すタイプのプラグインに関しては、すぐの対応は難しそうだ。
次に、歌声ライブラリについては、どうなるのか? まず、今回の発表会において発売がアナウンスされたのは以下の5製品。
製品 | 品番 | 発売日 | 店頭予想価格 |
---|---|---|---|
VOCALOID 3 Library VY1V3 NEO | VY1V3NJP | 8月5日 | 9,800円前後 |
VOCALOID 3 Library Mew NEO | MEWNJP | 9月 | 12,800円前後 |
VOCALOID 3 Library ZOLA PROJECT NEO | ZOLANJP | 10月 | 12,800円前後 |
VOCALOID 3 Library 蒼姫ラピス NEO | LAPISNJP | 10月 | 12,800円前後 |
VOCALOID 3 Library VY2V3 NEO | VY2V3NJP | 11月 | 9,800円前後 |
これらの名前からも想像できるとおり、Windows版においては従来と変わらず、ここにMac版のインストーラも同梱され、WindowsかMacのいずれかで利用できる形になっている。ここで問題になるのは、従来から使っているユーザーへの対応だ。先ほどのVOCALOID Editor for Cubaseと同様に、Macで使うなら歌声ライブラリも新たにNEOを買わなくてはいけないとなると、かなりの出費となりクレームも多くなるかもしれない。しかし、そうした問題を回避するためのうまい方法が提示された。具体的には以下の3ステップを踏むことで、既存のユーザーも、手持ちの歌声ライブラリをMacで使えるようになる。
1.Windowsでアクティベーションを解除
2.Mac用インストーラを入手
3.Macでアクティベート
もう少し具体的にいうと、まずWindowsのDeactivation TOOLでライセンス・アクティベーションを解除して、シリアルコードを初期化する。続いてヤマハのWEBサイトにアクセスし、シリアルコードを入力し、Mac用のインストーラをダウンロードする。そして、Macでインストール後にネット経由でアクティベートすればOKなのだ。ただし、これができるのは、とりあえずはヤマハ製品についてであり、サードパーティー製品については、各社に問い合わせて欲しいとのこと。それに対しクリプトン・フューチャー・メディアは現行のKAITO V3については無償でMac対応させることを発表。またMegpoidなどを発売しているインターネットも、Megpoidシリーズ、がくっぽいどシリーズ、Lily、CULの各ソフトを無償でMacで使えるようにすることを発表している。その他のメーカーについても、これを追従するのではないかと思われるが、詳細は各社の発表を待つしかなさそうだ。
ちなみにVOCALOID 3では、コンバータを使うことでVOCALOID 2の歌声ライブラリを使うこともできる。では、これら製品もMacで利用することができるのだろうか? このことについての発表はなかったが、基本的には不可であると思われる。というのも単にライブラリのデータをユーザーがコンバートするのではなく、Mac版のVOCALOID 3歌声ライブラリを入手し、インストールした上で、アクティベーションするという工程を踏むので、各社がMac版を出してくれない限りは話にならない。と考えると、そもそもWindowsにもないVOCALOID 3ライブラリがMac用に出て、それを無償で提供するということは考えにくいというわけだ。
「初音ミク V3」は、秋~冬発売? 藤田咲さんの再レコーディングも
さて、ヤマハの一連の発表の後、ゲストということで、クリプトン・フューチャー・メディア代表取締役の伊藤博之氏、メディアファージ事業部リーダーの田名部茂氏が登場。ここで長い間多くのユーザーが待ち焦がれていた初音ミクのVOCALOID 3版「初音ミク V3」が発表されたのだ。すでに7月6日、フランス・パリで行なわれたJAPAN EXPO 2013の会場において、初音ミク V3の英語版、HATAUNE MIKU ENGLISHがリリースされることが案内されていたが、今回この英語版だけでなく日本語版もリリースすることが発表されたのだ。そして、今回はWindows版とともにMac版もセットとなったハイブリッド製品としてリリースされるのだ。
伊藤氏によると、日本語版も英語版もかなり長い期間をかけて開発されてきたようで、ようやく登場となるようだ。正式なリリース時期や価格、販売方法などの詳細は8月上旬に発表されるとのことだが、その後の伊藤氏の話ぶりから冬になる前にはリリースされるようだった。
気になるのは、VOCALOID 3版になって、初音ミクの声質が変化してしまわないのか、という点だ。これについて、初音ミクの企画・制作担当者であるクリプトン・フューチャー・メディアの佐々木渉氏が会場にいたので、話を聞いてみたところ「これまでの初音ミクの雰囲気を壊さないようにするため、VOCALOID 2の歌声ライブラリやこれのためにレコーディングした素材を使ってVOCALOID 3の歌声ライブラリも作っている」という。ただし、大きく進化したVOCALOID 3では、扱えるデータの幅が広がっている。VOCALOID 2まではDi-Phone(ダイフォン)といって2つの音素片のつながりまでしか扱えなかったのが、VOCALOID 3ではTri-Phone(トライフォン)という3つの音素片のつながりもデータベースに組み込むことができるようになり、より滑らかに歌うことができるようになったのだ。
ただ、6年前にレコーディングしたデータにはTri-Phoneが存在しないため、そのために足りない部分を、改めてキャラクターボイスを担当した藤田咲さんに歌ってもらい、レコーディングしているとのことだ。その比率を聞いてみたところ、容量的にはVOCALOID 2からのものと新規のものは半々程度ではないか、という。レコーディングした時期は6年以上離れてはいるものの、違和感なくキレイに作れたというので、楽しみなところだ。なお、VOCALOID 2版の初音ミクには、7つのライブラリが存在していた。具体的にはオリジナルの初音ミクと、初音ミクAppendの6種類だが、さすがに7種類すべてをVOCALOID 3化するには多大なパワーがかかるため、今回そのうちの数種類をピックアップして、1つのパッケージに収録するという。ただし、現在どれが採用されるのかは最終調整中とのことだった。
一方、英語版についても2年近く開発をしているが、当初に作った英語版ライブラリによる歌声を海外で聞いてもらった際、非常に評判が悪かったと、伊藤氏はいう。やはり日本語ぽい発音であり、英語に聞こえないというのが不評の要因であったため、英語の先生をつけて、発音をしっかりさせてレコーディングを行なったそうだ。社内に英語のネイティブ・スピーカーがいるので、その人に先生になってもらって、かなり特訓してレコーディングに挑んだようだ。その結果の歌声を前述のJapan Expoで発表したところ、非常に好評であり、ようやく製品化が見えてきたというわけだ。
クリプトンのボカロエディタ「PiaproStudio」も同梱
ところで、この初音ミク V3には歌声ライブラリのほかに大きく2つのソフトがバンドルされる。まずはDAWであるPreSonusのStudioOne Artist 2.5 piapro edition。これはMI7 Japanがダウンロード版を9,800円で販売しているStudioOne Artist 2.5に少し機能拡張した特別版。具体的には次に説明するPiaproStudioというVSTインストゥルメントを組み込むことが可能にしたもの。StudioOne Artistは基本的にプラグインの追加は不可とされているが、PiaproStudioだけが例外として組み込めるのだ。
もう一つのバンドルソフトが、そのPiaproStudio。これは冒頭でも触れたとおり、VOCALOIDのエンジン機能とエディタ機能を合わせ持つプラグイン。つまり、これがあれば、WindowsでもMacでもヤマハのVOCALOID 3 EditorやVOCALOID Editor for Cubaseがなくても、VOCALOIDを歌わせることが可能になるのだ。このようなエンジンがヤマハからではなく、サードパーティーからリリースされるのはクリプトン・フューチャー・メディアの製品が初。とはいえ同社が勝手に開発したというわけではない。ヤマハからはVOCALOID 3用のAPIが提供されているため、これを組み込む形でプラグインとして作り上げたのだ。
パッケージの中身としてはKAITO V3と同様の3点セットだが、初音ミクでは、最初からWindowsとMacのハイブリッドになっているのだ。ただし、ここで問題となるのがMacのPiaproStudioのプラグインフォーマットだ。実は当初リリースされるバージョンはVSTインストゥルメントのみの対応となっているため、利用できるDAWは付属のStudioOneをはじめ、Cubaseなどある程度限られてしまう。やはりMacのプラグインは、AppleのフォーマットであるAudioUnitsが標準であり、これに対応していないと、なかなか使いづらいというのが実情。
これについて伊藤氏は、アップデートで対応することを明言した。これが実現すれば、LogicやDigital Performerをはじめ、多くのDAWで利用可能になるわけだ。なお、クリプトン・フューチャー・メディアでは、初音ミクのほかにも鏡音リン・レン、巡音ルカ、MEIKOといったVOCALOID製品があったが、これらについてもすべてVOCALOID 3対応させていくとの発表もあった。
以上、VOCALOID 3のMac対応、初音ミクのVOCALOID 3版登場についての情報をまとめてみたが、お分かりいただけただろうか? いろいろと複雑ではあるものの、長年多くのユーザーから求められていたMac対応がようやく実現したわけだ。これを期に、多くのVOCALOID作品が登場してくれることを期待したい。
ソフトウェア音源のHALion 5も発表
この発表会においてSteinbergの新製品として、ソフトウェア音源のHALion 5およびHALion SONIC 2も発表された。もともとHALionは、高性能なサンプラー音源として登場したものだが、今回発表された最新のHALion 5においては、サンプラー音源を中心に各種シンセサイザ音源を融合させた統合的な音源へと進化している。
従来のバージョンからもサンプルエンジンに加えてアナログシンセシスのエンジンも搭載されていたが、このHALion5およびHALion SONIC2にはグラニュラーシンセシスおよびトーンホイールオルガンシミュレーターの2つのエンジンも追加されている。この2つの機能の違いは下表の通り。
なお、ともにオープン価格で、実売予想価格はHALion 5が39,800円前後、HALion SONIC 2が29,800円前後となっている。
HALion 5 | HALion Sonic 2 | |
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プラグインプラットフォーム | MAC: VST 3/AU | |
オーディオエフェクト数 | 59 | 56 |
プリセット数 (ファクトリーパッチなど) | 2,800以上 | 2,500以上 |
VSTエクスプレッション 対応 | ||
MIDIレコーディング時の メトロノーム機能 (スタンドアロン起動時) | ||
サウンドエンジン | アナログシンセシス、サンプルエンジン グラニュラーシンセシス トーンホイールオルガンシミュレーター | |
サウンドエンジンの 詳細編集 | ○ | × |
サンプルエディタ | ○ | × |
出力数 | 32ch + 6chサラウンド | 16ch |
マルチモニター | ○ | × |
Amazonで購入 | |
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VOCALOID EDITOR for Cubase NEO | VOCALOID 3 Library VY1V3 NEO |