藤本健のDigital Audio Laboratory
第647回:ハイレゾサラウンド音楽サーバー「aria」とは?
第647回:ハイレゾサラウンド音楽サーバー「aria」とは?
新フォーマット「FLAC7」も。TIDAL対応予定
(2015/8/24 12:31)
スペインのオーディオメーカー、DIGIBITが開発するハイレゾのサラウンドに対応するハイエンドミュージックサーバー「aria」が国内でも発売されることになった。それに先駆け、DIGIBIT創設者でCEOのJuan Perez氏が来日。国内代理店となるシンタックスジャパンにおいて単独インタビューをすることができた。
すでに海外では発売を開始しているariaだが、これは誰のための、どんな特徴を持ったシステムなのか、そもそもどうしてこんな機材を開発したのかなどをうかがった。また、今回のインタビューには、シンタックスジャパンの代表取締役・村井清二氏も同席したので、日本での狙いについても聞いた(以下敬称略)。
ariaはどうして生まれた?
ariaは2013年に発表され、現在海外で販売されているオールイン型のミュージックサーバー。デザインされたデスクトップPCのような筐体には最大4TBのHDD/SDDが搭載され、音楽プレーヤーとして、サーバーとして、ストリーマー(音楽ストリームの再生)として、リッパー(CDリッピング/保存)として機能するオーディオ・ハイエンドユーザー向けのシステムだ。PCMにおいては最高で32bit/384kHz、DSDでは5.6MHzまでの再生が可能。操作はiPadまたは、Andorioidタブレット(Android版は間もなくリリース予定)を用いて行なうことを前提としているため、本体には基本的に操作ボタンなども持たない。完全にPCレスで操作できることを特徴としており、PCが苦手な人でも誰でも簡単に使えるという。DLNAにも対応しているので、ネットワーク上にある各種オーディオ機器と連携させることも可能だ。
一方、2014年には、光学ドライブを除いたよりコンパクトなシステムであるaria miniもリリースされている。スペック的にはS/PDIF出力やAES/EBU出力などがない、という点はあるが、機能的にはリッパーとして使えないだけで、ほぼ同等。国内では、まずこのaria miniを年内に投入し、ariaはファームウェアなどがアップデートし、DSDの11.2MHzなどに対応する来年春に発売する予定だ。価格はまだハッキリしないがリニア電源をセットにし、2TBのHDDを搭載したaria miniが30万円程度、同じくリニア電源をセットにし、4TBのHDDを搭載したariaが70万円程度になる模様だ。高額な機材だが、詳しい話を聞いてみた。
――まずは、DIGIBITという会社について簡単に紹介をお願いします。
Perez:当社は2008年に設立した、スペイン・マドリッドにある会社です。私自身は、もともとIT・エレクトロニクス産業で働いており、モトローラのスペイン支社の設立を行ないゼネラル・マネジャーとして従事し、インテルグループのDialogicという会社ではCEOを務め、ASCADというCAD/CAMの業界団体やAPELというeラーニングの業界団体の会長などを務めてきました。が、それらの仕事をスッパリと辞め、2008年に完全にホビーの会社であるDIGIBITを設立しました。
それまでも音楽、とくにクラシックを聴くのが大好きで、趣味でレコードを聴いたり、オーディオ機器を揃えていました。が、手持ちのCDをリッピングして自分の音楽データサーバーを構築していく中、自動的に割り振られるタグ情報が、あまりにも酷いことに辟易としたのです。そこで、クラシック音楽に特化する形で、曲情報のタグ付けをするSonata Databaseというものを構築する会社として、DIGIBITを作ったのがスタートです。完全に自分の趣味が目的の会社ですね。コツコツとデータ入力をし、現在存在しているといわれるクラシックのCDアルバム75,000枚のうち、98%を網羅するデータベースとして仕上げることができました。
――最初から、ariaのようなオーディオ機器の開発が目的ではなかったんですね?
Perez:その通りです。ただ、このデータベースだけではなかなか商売にならないので、2013年初頭に大きくビジネス転換をし、最高のコンピュータ・オーディオ機器の開発へと舵を切ったのです。そして同年5月、aria music serverおよびOPPO BDP105をaria music server化するためのキットを発表し、世界中のユーザーから注目を集めました。それはコンピュータを使わずに簡単に操作ができるミュージックサーバーで、CDをセットすれば自動でリッピングするとともに、前述のSonata Databaseに照らし合わせることで、ほとんどのクラシックアルバムに、正確なタグ付けができる機能、そして非常に高品位な性能が受け入れられたからだと思います。もっとも私が欲しいものを作っただけの話なんですがね。
村井:ariaユーザーは世界的にも50代、60代の方が多いそうです。私自身もそうですが、膨大なCDライブラリを持っているものの、CDだと文字が小さくて読みにくく、目的の曲を探し出すのも大変です。でも、ariaを使えば自動でデータベース化してくれて、あとはiPadで操作できるのでいいんですよ。iPadなら文字の拡大も自由自在ですからね。先日は丸2日間以上かけて、私の持っているすべてのCDをariaでリッピングしましたが、快適ですね。ユーザーニーズから出来上がった製品だと本当に思います。
――このariaおよびaria miniは384kHz/32bitまでのPCMに対応し、5.6MHzのDSDもサポート。さらに来年にはDSD 11.2MHzにまで対応するとのことですが、海外でこうしたハイレゾ・オーディオのニーズはあるんですか?
Perez:いま音楽産業は、世界的にも衰退しているといわれますが、世界中の音楽のデジタルデータ、つまりCDのようなパッケージでなく、ダウンロードを中心とした音楽コンテンツの売り上げは2009年以降、右肩上がりで伸びています。当初はMP3などの圧縮音楽が中心でしたが、それが非圧縮にシフトしつつあり、今後はハイレゾへと進化していくと思います。ハイレゾのマーケットとしては、現在日本が進んでいることは事実ですが、今後その流れは世界的に広がっていくことは間違いないと確信しています。
村井:このデータはIFPIというデジタルミュージックの世界的な業界団体です。このデータを見る限り、年率15%程度で伸びているのは注目すべき点だと思います。先ほどのJuan Perezさんと話をしていたら「日本では、まだCDが頑張っているけれど、ヨーロッパではCDはもう死んでいる」と言っていましたからね。
――国内であれば、e-onkyou musicやOTOTOYといったところから購入すれば、聴けそうですね。そのダウンロードは、aria本体でできるのですか?
村井:ダウンロード自体はPCで行なって、USBメモリなどで転送する形になります。ちなみに楽曲によってはライナーノーツなどブックレットがPDFで提供されているケースがありますが、これもフォルダごと転送してしまえばよく、曲目を見るとクリップのアイコンが表示されるので、これをタップすればPDFが開けるようになっています。
――ariaにとっての競合って、どんな機材になるのでしょうか?
Perez:直接的な競合はないと思っています。ただ、実際のビジネスで一番のライバルとなるのはLINNの製品ですね。LINNの場合はスピーカーまで持っているので、トータルでシステムが組めるのが魅力だと思います。でも、ariaの場合、1台で数多くの機能を装備するとともに、アクティブスピーカーで手軽に高品位な音が出せるのと同時に、手軽にハイレゾ・サラウンド環境が構築できるのも大きなポイントです。
Dolby Atmosなど他のサラウンドとどう違う? 新フォーマット「FLAC7」も
――ところで、このariaおよびaria miniでサポートしているファイルフォーマットはどうなっているのですか?
Perez:ファイル形式としては、ほとんど何でも対応しています。WAV、FLAC、Apple Lossless(ALAC)、AIFF、AAC、OggVorbis、MP3、またDSD64、DSD128と揃っています。
――サラウンド対応であるという話を聞いていますが、これはどのようにしてサラウンド再生するのでしょうか? 見たところ本体には2chの出力しかないですよね?
Perez:まず、aria本体は2chの出力であるため、これだけでサラウンドを鳴らすことができませんが、マルチポートのオーディオインターフェイスをUSB端子に接続することで、サラウンド出力が可能になります。またWAVやFLACなどが対応していれば、出力チャンネル数には特に制限はないので、6chでも8chでもスループットの許す限り対応可能です。
村井:aria自体、中身はPCがベースとなっているので、各種オーディオインターフェイスを利用可能なのですが、製品としては基本的にはプラグ&プレイとしているので、国内出荷する際は、ある程度音質的に信頼できるオーディオインターフェイスに絞ってドライバをあらかじめインストールしておこうと考えています。当社で扱っているRMEのドライバは入れる予定です。Fireface UCやFireface UFX、Fireface UCX、Fireface 802などで利用可能になります。
――WAVやFLACなどでのサラウンドを鳴らせるということですか? 最近、話題になっているDolby AtmosやAuro-3Dといったデコーダは搭載しないのですか?
Perez:デコーダは搭載していません。WAVやFLACのマルチチャンネルのデータであれば、理論上は何チャンネルでも再生することはできますよ。
村井:確かにDolby Atmos、Auro-3Dといったブランド名は話題になることはありますが、実際にそれに対応したコンテンツは現在あまり存在していません(編集部注:Blu-rayの映画や一部クラシック音楽などは販売されている)。一方でe-onkyo musicなどで配信しているのはWAVの非圧縮のサラウンドやFLACによるサラウンドなどです。こうしたデータであれば何chのものでも問題なく再生することができます。もっとも、スループットの問題はあるのでUSBの転送速度などを考慮するとWAVであれば7.1chか、せいぜい9.1chくらいが安定して再生できるギリギリだと思います。そうした中、私たちは、いまFLAC7というハイト・サラウンドのフォーマットを提唱しています。
――Dolby AtomsやAura-3Dに対抗する新しいフォーマットということですか?
村井:いいえ、そんな大げさなものではありません。特別なデコーダを使うのではなく、普通にFLACで再生できる7chのシンプルなフォーマットなので、FLACが再生できれば、誰でもフリーで簡単に扱えるフォーマットです。これは、毎日放送のエンジニアである入交英雄さんたちと実験を繰り返す中、たどり着いたフォーマットなのです。コンテンツの現状は先ほどお話した通りですし、そもそも2chだって本当の意味のハイレゾサウンドというのは少ないのが実情です。実際、ハイレゾ作品のほとんどは、古いレコーディングソースをデジタル化したものだし、最近の作品の場合44.1kHzや48kHzをサンプリングレートコンバートしたものなどが少なくないのは、みなさんもご存じのとおりです。でも、本来であれば、96kHz/24bitや192kHz/32bitなどで新たにレコーディングされた作品がどんどん生まれてくるべきだと思っています。とはいえ現在のレコード会社は、そうした新しい動きには消極的なようで、新しい作品はあまり生まれてきていません。
一方で、私たちの会社はオーディオ機器を扱うというよりも、クリエイターのための機材を提供するのが主要の業務であり、クリエイターを応援していきたいという考え方を常に持っています。大手レコード会社がやらないなら、私たちの知人、友人、そしてそこから広がる仲間で同好会的にサラウンド作品作りを手掛けていきたい、さらにはそうした作品作りをムーブメントにしていきたいと考えているのです。そのアウトプットの場所として音楽配信レーベルRME Premium Recordingsを立ち上げました。
――確かに大手がやらないのなら、草の根的にサラウンド作品を作っていくというのには大きな価値がありそうですね。
村井:RME Premium Recodingsは私たちが手掛けているレーベルですが、8月19日、OTTAVA Recordsとのコラボレーションを発表したところです。OTTAVAはユニークユーザー約20万人を誇る日本で最大のコンテンポラリー・クラシック・ステーション。そのOTTAVA Recordsより発売するCD(44.1kHz/16bit)の作品は、原則としてすべてRME Premium Recordingsよりハイレゾ・コンテンツ(録音段階から96kHz/24bit以上)として提供していきます。コンテンツの内容や容量によっては「CDは抜粋、全曲ノーカット版はハイレゾ」といった柔軟な編成も展開し、5.1chサラウンドや、9chハイト・サラウンドによる収録音源も充実させ、5年後10年後の音楽聴取スタイルを見据えたレコーディングによって、21世紀のクラシック音源を作っていきたいと思っています。
――で、そのFLAC7は従来の5.1chや7.1chなどとは何がどう違うのですか?
村井:これは、高い位置にスピーカーを設置するハイト・サラウンドです。ハイト・サラウンドにはNHKの22.2chのシステムを含め、いくつかのスピーカー配置がありますが、比較的コンパクトなものとしては平面に5.1ch、さらに高い位置に4つのスピーカーを設置する9.1chが非常にいいことは確かです。ただ、普通の家庭に9.1chのスピーカーを設置するというのは、特に日本においてはあまり現実的ではありません。でも5.1chに加えて前方のみ、上部に2つのスピーカーを設置する7.1chだと、かなり設置しやすくなると思います。そして、こうすることで5.1chとは比較にならないほど、リアルな立体サウンドを実現できるようになるのです。
――ちょうど、先日、毎日放送の入交さんのところに取材に行ってきたので(詳細は近日中に記事化する予定)、聴いてみましたが、驚くほどのリアルさですね。
村井:そのFLAC7で録る作品を今後増やしていければと思っているわけです。9月25日には、その入交さんによる録音のFLAC7対応作品をRME Premium Recordingsからリリースする予定で、同日、OTTAVA Recordsからは同じCD作品が発売になります。そのFLAC7作品もariaで再生することができるわけです。
TIDALにも間もなく対応予定
――このariaにはストリーマー機能があるとのことでしたが、これはどう活用するものなのですか?
Perez:いま、さまざまなサイトでストリーミング配信を行なっているので、これらが再生できるようになっています。しかし、いま注目すべきはスウェーデンのサービスであるTIDALです(編集部注:日本では8月24日時点では利用できない)。TIDALは定額制の音楽配信サービスなのですが、ロスレス圧縮であるのが大きなポイントです。今存在する定額制の音楽配信サービスは、みんな非可逆圧縮サウンドなので、観賞用としては不満に感じられていた方も多いでしょう。でも、TIDALなら自分のCDからリッピングしたデータとまったく同じように膨大な楽曲を聴けるようになるのです。そのTIDALに間もなく対応させます。これはariaユーザーにとっては大きなメリットになるはずです。
――そのほか、DIGIBITとして今後新しい動きはありそうですか?
Perez:ちょうど2015~2016年リリース予定の新製品を発表したところなので、簡単に紹介させてください。まずwamp monoはパッシブスピーカーをアクティブスピーカー化するためのモジュールで、スピーカーの下に設置する台のような構造です。といっても、ここにはスピーカーと接続するケーブルと電源だけ。オーディオ信号はAirplayやBluetooth、DLNAをサポートしているので、ここから送る構造です。出力は100Wで、2つセットで3,500ドル程度を予定しています。
もう少し小さいブックシェルフタイプのスピーカー用のwamp stereoも予定しており、こちらは1台で2つのスピーカーを駆動する50W×2というもの。ネット経由のストリーミング、PC、Mac、NAS、iOSデバイス、Androidデバイスとの接続を可能にします。
aria microは光学ドライブもDACを持たないaria miniの下に位置づけられるミュージックサーバーです。コンパクトサイズなので、容量は2TBとなっていますが、価格は1,800ドル程度でオプションの内蔵DACは500ドル程度になる予定です。
そして一番下位のエントリーモデルがaria mcです。これはHDMIでのビデオ接続も可能になっているのが大きなポイントで、音だけでなく映像も扱えます。インターネットやPCなどからのストリーミング再生も可能です。こちらは1,199ドル程度を予定しています。
村井:これらの新製品を国内で扱うかどうかについては、現時点ではまだ未定です。まずはaria mini、ariaを発売し、その状況を見つつ、検討したいと思っています。
――ありがとうございました。