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WOWOWがハイレゾMQA音声+映像の配信実現へ。Inter BEEで世界初デモ

WOWOWは、世界初というMQA音声を用いた3Dオーディオと映像の配信デモを、11月13日~15日に行なわれる「Inter BEE 2019」で実施すると発表。これに先駆けて、都内のWOWOW放送センターで報道関係者らに技術の概要を説明するとともに、試聴デモを行なった。

WOWOW放送センター

ハイレゾ音源をHPL/MQAエンコード、MPEG-4 ALSで高音質&低ビットレート配信

今回のデモに使われた音源は、WOWOWが音楽コンサートなどを192kHz/24bitで複数のマイクを用いて収録/編集した音源を使用。これをアコースティックフィールドのエンコード技術HPL(Head Phone Listening)によって、ヘッドフォン向けに3Dサウンド化する。その後、48kHz/24bitのMQAにエンコード。さらに、NTTスマートコネクトがMPEG-4 ALSにエンコードして、4K映像とともにストリーミング配信する。ハイレゾのストリーミングを、音声だけでなく映像と合わせて配信して、データ量も抑えられる点を特徴としている。

デモに参加した4社の役割

MQAエンコードされた音源は48kHz/24bitだが、可逆圧縮のMPEG-4 ALSでエンコードすると、ビットレートを約1/2程度に削減。今回のデモ音源では、音声部分は最終的に1.5~2.5Mbpsまで圧縮しているという。

MQAのデコードができるDACを介してパソコンなどで再生することで「元のハイレゾ音源に拡張して再生可能」としているが、MQA非対応の機器でも、HPL技術で立体感のある音声を楽しめるのも特徴。

収録から配信までの仕組み

今回の配信デモは放送ではなくネット配信を想定したもので、ライブ配信ではなくVODの形だが、次の段階としてはライブ配信を検討中。将来的な放送の高品質化も見据えており、WOWOWが2020年12月より参入する新4K衛星放送に向けても、「何らかの形で(高品質な音声の)サービスを実現したい。技術検証はすぐできる下地を作っている」(WOWOW 技術ICT局 シニア・エキスパート 入交英雄氏)という。

WOWOW 技術ICT局 シニア・エキスパート 入交英雄氏

HPL技術は、13.1chや9.1chなど様々なチャンネルに対応し、ミックスバランスや音質などのロスを抑えつつバイノーラル化。一般的なヘッドフォン/イヤフォンで3Dサウンドを表現できることを特徴としている。アコースティックフィールドの久保二朗氏はHPLについて「基礎技術はバイノーラルと共通だが、他の方式とはコンセプトが違う。エンジニアがミックスした“スタジオの音”をリスナーに届けるのではなく、スタジオのようなニュートラルな空間を再現することで、スタジオで作られた“音楽作品”をヘッドフォンの中で表現する」とした。

アコースティックフィールドの久保二朗氏

WOWOWの入交氏は、様々な3Dオーディオ技術がある中で、「家庭用は最大13.1ch(Dolby Atmosの場合は7.1.4ch)が収まりがいい。制作は13.1chを基本に、余裕があれば22.2chも進める。アウトプットは時代の流れに合わせてチョイスする」と説明。HPLについては「音質の良さに驚いた。2chのため、既存の放送にも使える」とした。

また、MQAやMPEG-4 ALS採用については「映像は4K8Kと良くなっていくのに、AACは音質的に納得できない。MQAとALSの組み合わせにより、現行の48kHzサンプリングシステムでハイレゾ送出が可能。コストなどを考慮し、配信での実現を検討中」としている。なお、MPEG-4 ALSは新4K8K衛星放送でも規格としてはサポートしているものの、実際に運用する場合は局側の設備を変更する必要があるため、まずは配信を優先。「ライブ配信は今年度中にやれるようにする」とした。

MQAチェアマンのボブ・スチュワート氏はビデオメッセージの中で、MQAの「高音質」と、「“折り紙”技術による少ないファイル容量」、MQAデコーダーが無くても再生できる「互換性」などのポイントを説明。高音質な音源を、映像と組み合わせて提供できる点をアピールした。スチュワート氏はInter BEEのデモの際に来日予定だという。

MQAチェアマンのボブ・スチュワート氏

NTTスマートコネクトは、動画配信サービスのSmartSTREAMにおいて、新たにハイレゾ音源と映像を組み合わせたオンデマンド/ライブ配信機能を実現。10月2日よりハイレゾ配信をオプションメニューとして提供開始した。これにより、96kHz/24bitまでのハイレゾをロスレスで配信でき、映像との組み合わせで臨場感の高いコンテンツを配信可能としている。

2chのヘッドフォンでも立体感ある音を体験

WOWOWの試写室で、設置されたスピーカーから再生した13.1ch音源と、MQA/MPEG-4 ALSエンコードした音声の比較試聴も実施した。

WOWOW試写室で体験

今回聴いたのは、入交氏らが、バチカンのサン・ピエトロ大聖堂やローマのサン・パオロ大聖堂で収録したもの。最初に聴いた13.1chスピーカー再生では、広い空間に響く聖歌やオーケストラ演奏の音を、多くのスピーカーを使うことで立体感豊かに再現できているのが分かる。

試写室は各立体音響フォーマットに対応した形でスピーカーを配置

続いてHPLでバイノーラル化してMQA/ALSエンコードした音源をヘッドフォンで聴いてみると、ヘッドフォンではあるが「頭の中で鳴っている(頭内定位)」のではなく、スピーカーに近い印象で、高さ方向の広がり感もしっかり再現できていた。座る位置によって聴こえ方が変わるスピーカーとは異なり、ヘッドフォンではどんな姿勢でも音の定位を明確に感じる。どちらもいい音だが、手軽に楽しめるヘッドフォンでリアルな立体音響が楽しめるのは、映像配信の新たな魅力の一つになる可能性がありそうだ。

今回体験したサン・ピエトロやサン・パオロの音源は、Inter BEE会場の国際展示場 104会議室で試聴できる。

ヘッドフォンで3D音響を聴いた
オーディオ&ビジュアル評論家 山之内正氏が登壇して解説。ヘッドフォンでの試聴で「余韻も含めた現場の音が体験できる」と高く評価した