藤本健のDigital Audio Laboratory

第659回

DSD録音を可能にしたソフト開発の最先端。車でDSD再生も

 11月18日〜20日の3日間、パシフィコ横浜において「Embeded Technology 2015」が開催された。名前からもわかる通り、組み込みシステム技術に特化した技術者向けの展示会。ロボットやIoT、組み込みLinux、ARM……といったキーワードが飛び交う会場の中で、オーディオ関連の組み込みシステムを展示している会社が一つあった。それが以前にも記事で取り上げたことがあるインターフェイス株式会社だ。

Embeded Technology 2015でのインターフェイスのブース

 同社はUSBオーディオのファームウェアやドライバ開発といった分野で大きな実績を持つ会社だが、新たなシステムのプロトタイプを展示したり、実際に同社が技術提供した製品などが展示されていたのだ。そこで、今回は、同社の展示した新製品、新技術を中心に見ていくことにしよう。

会場のパシフィコ横浜

各社の低遅延USBオーディオやUSB DACに採用

 PCとUSB接続してオーディオを入出力するUSBオーディオインターフェイスやUSB DAC。これらを開発するには、USB周りを制御する組み込みシステムやドライバといったものが必要になる。とくにオーディオインターフェイスの場合、いかにレイテンシーを小さくするかというのが大きな課題であり、そこには高度な技術やノウハウが必要になってくる。

 一方、USB DACの場合、基本的には仕様に乗っ取ってハードウェアを作れば、PCからはUSBクラスコンプライアントなデバイスとして認識され、簡単に利用することが可能だが、192kHz/24bitとなるとUSB Audio Class 2という扱いになり、Windowsでは非対応であるため、独自のドライバが必要になる。さらにDSD対応となると、また別のテクノロジーが必要になるなど、オーディオ周りにおいては特殊な技術が必要なのだ。

インターフェイスの森拓也営業課長

 そのUSBオーディオの世界で、独自のノウハウを蓄積し、多くのメーカーに技術を提供してきたのがインターフェイスである。基本的には黒子としての存在であり、あまり表に出てくることはないが、同社の営業課長の森拓也氏によると「これまで国内13ブランド、25モデルへの技術提供を行なってきました」とのこと。その一部が今回のEmbeded Technology 2015の同社ブースで展示されていたのだ。

 以前の記事において、ズームのオーディオインターフェイスUAC-2、UAC-8がインターフェイスの技術を使っており、その結果として世界最小のレイテンシーを実現できていることを紹介していたが、それ以外の展示もあったので、まずは、それらを紹介していこう。

ズームのUAC-8

 1つ目はティアックのUSB DAC「UD-503」。これは11.2MHzのDSDにも対応した機材として高い評価のある製品だが、このDSD部分のソリューションとして「ITF-USB DSD」という技術が採用されているとともに、オーディオドライバである「ITF-Audio for Windows」、さらに「ITF-Audio Toolkit」というものが採用されている。ITF-Audio ToolkitはDSD再生用のプレーヤーのコア部分であり、ここにGUIをかぶせることによって、各社がバンドルする専用のプレーヤーソフトとなる仕掛けだ。

ティアックのUD-503(下)
オーディオドライバ「ITF-Audio for Windows」の概要
「ITF-Audio Toolkit」の概要

 2つ目はパイオニアが'14年に発売した「Stellanova」。この製品はWindowsやMac、またiPhone/iPadからWi-Fiでハイレゾオーディオを飛ばしたものを、ワイヤレスユニットで受信し、それをUSB経由で送った先のUSB DACアンプからスピーカーへと音を出すというちょっとユニークなシステム。

パイオニアの「Stellanova」。下がDAC/アンプユニットで、上がワイヤレスユニット

 そのStellanovaの中にもITF-USB DSD、ITF-Audio for Windows、ITF-Audio Toolkit(iOS)と前出のUD-503とほぼ同じ構成のものが入っている。唯一異なるのはITF-Audio ToolkitにiOS版が含まれていること。パイオニアでは「Pioneer Stellanova Player」というWindows用、Mac用のDSDにも対応したプレーヤーを出しているが、それに加えて、「Wireless Hi-Res Player 〜Stellanova〜」というiPhone/iPad用のアプリも無料配布している。これらのコアとなっているのがTF-Audio Toolkitというわけなのだ。

iOSアプリの「Wireless Hi-Res Player 〜Stellanova〜」

 そしてもう1つ異色な存在であり、展示物の中でも目立っていたのはミク・ミキサーなどと呼ばれてヒットしているヤマハの「AG03-MIKU」だ。このAG03-MIKUはご存じの方も多いと思うが、オーディオドライバにはSteinbergのものを採用している。つまりUR22mkIIやUR242などと共通のものを使っており、これはSteinberg製というかヤマハ製。一方で、AG03-MIKUには「AG DSP CONTROLLER」というMac/Windows用の設定ソフトがバンドルされているが、そのソフトのGUI部分をインターフェイスが担当しているとのこと。また、AG03-MIKUのマイコンファームウェア開発の一部も手掛けていて、このファームウェアによってUSBとの通信やツマミやLEDの制御を行なっているそうだ。

ヤマハ「AG03-MIKU」
設定ソフトの「AG DSP CONTROLLER」

コルグのDSD録音にも技術が採用

 今回の展示の目玉ともいえるのが、先日コルグから発売されたばかりの「DS-DAC-10R」。これは、コルグがすべて開発していたんだろうと思っていたが、実はインターフェイスがその一部を担っていたのだ。具体的には「ITF-USB DSD REC」というレコーディング機能と「ITF-Audio for Windows」のそれぞれを提供しているとのこと。でも、AudioGateだって、Clarityだって、コルグが開発してきたもので、その技術をDS-DAC-10Rに持ってきたのではなかったのか? 前出の森氏は「おっしゃるとおり、Clarityも0808もAudioGateもコルグ様による開発であり、当社は絡んでおりません。このDS-DAC-10Rにおいてのみ、技術提供をさせていただきました」という。詳細は分からないが、開発工程の省力化のために利用したということなのかもしれない。

コルグから発売された「DS-DAC-10R」
レコーディング機能の「ITF-USB DSD REC」を搭載

 では、そのITF-USB DSD RECとはどういうものなのか、具体的に見てみよう。これはDSD 5.6MHzの4ch録音/4ch再生に対応したソリューションで、システム構成に応じて2ch録音/2ch再生にすることもできるというもの。コルグのDS-DAC-10Rは、その2ch録音/2ch再生のシステムであるというわけだ。逆に言うと、まだ世の中には出ていないが、すでにDSDに対応した4IN/4OUTのUSBオーディオインターフェイスを実現するための技術は完成しており、いつ対応製品が出てきてもおかしくない段階というわけだ。実際、現在複数社で検討が進んでいたり、開発が進んでいるとのことなので、どんなものが登場してくるか楽しみなところ。さらにITF-USB DSD RECはPCMにも対応しており、最高で384kHzのサンプリングレートにまで対応可能している。

ITF-USB DSD RECは、DSD 5.6MHzの4ch録音/4ch再生に対応

 またITF-USB DSD RECはハードウェアだけでなく、再生・録音に対応したアプリケーションソフトというものも含まれているとのこと。もっとも、コルグのAudioGateの録音機能の開発には絡んでおらず、あれはあくまでもコルグ製のようだが、もし、これをインターフェイスが作っていたらどんなアプリケーションになるのかも気になるところ。これについては、DS-DAC-10Rを利用して、オリジナルのソフトを動かしてデモしていた。それが「ITF-DSD Recorder」というソフトウェア。機能的にはシンプルに録音して、再生するだけのもの。マーカーを入れたり、マーカー単位の長さで書き出す機能は用意されていたが、せいぜいその程度だ。そもそもDSDなのだから、あまり多くの機能は期待できないが、4chの録音でマルチトラックレコーディングができるようになってくると、いろいろ面白くなってきそうではある。これは今後のDAWの対応とともに期待したいところだ。

オリジナルのDSD録音/再生ソフトの「ITF-DSD Recorder」

カーナビ向けのDSD再生システムも

 もう一つ、今回のEmbeded Technology 2015の展示会場で、初めて発表になったのが、同じくインターフェイスによる車載用DSD再生システムだ。その名の通りカーオーディオの世界にDSDを提案するものなのだが、これは何を意味するものなのか? 別にカーオーディオとしてビルトインできるUSB DACを作ろうというわけではなく、カーナビなどの車載機にDSDの機能を搭載しようという考えのものだが、一般的に車載機はLinuxを用いたシステムになっているので、ここに特化したシステムを開発したということのようだ。

車載用DSD再生システム

 既に、LinuxでDSDを鳴らすためのシステム自体は存在しているようだが、車載ということで、Linux on SoCで動作させるシステムになっている。手法としては大きく2通りがあり、1つはLinuxを使ったDSD再生システムで、既存のPCM信号処理を活用して、DSD音源をPCM 176.4kHzに変換して再生するもの。

 インターフェイス独自のアルゴリズムにより、DSD 5.6MHzをPCM 176.4kHzに変換して利用する形になっている。もう一つは専用モジュールを使ったシステムで、USBメモリなどに保存されたDSD 5.6MHz音源を、変換を行なわずにDSDのまま再生するシステムだ。同社のミドルウェアと組み合わせることで、各種ファイルシステムに対応するという。

 まあ、そもそもカーオーディオの世界でDSDのニーズがあるのか、よくわからないが、今後DSD再生が可能なカーオーディオというもの登場してくるのかもしれない。

 以上、USBオーディオの世界をけん引するインターフェイスの技術展示を見て、これから先のトレンドというものが見えた気がする。今後DSD対応のオーディオインターフェイスが複数社から出てくると面白くなってきそうだ。そうなると、バンドルソフトでのレコーディングもいいが、やはり本命はDAW側の対応。この辺もセットで動き出してくれると、DSDの世界も大きく変わってくるだろう。

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto