藤本健のDigital Audio Laboratory

第662回:USB 3.0対応で20入出力のTASCAM「US-20x20」。iPadで本格レコーディングも

第662回:USB 3.0対応で20入出力のTASCAM「US-20x20」。iPadで本格レコーディングも

 ティアックのTASCAMブランドのオーディオインターフェイスとして発売された「Celesonic US-20x20」。以前にも紹介したUS-2x2、US-4x4、US-16x08の上位版で、USシリーズの最高峰として登場した20IN/20OUTのUSB 3.0対応モデルだ。見た目はUS-16x08とそっくりではあるものの、USB 3.0対応ということからも分かる通り、下位モデルとは設計も大きく異なっている。USB 3.0対応のオーディオインターフェイスは、ZOOMのUAC-2、UAC-8が目立った存在だったが、このUS-20x20とはどんな特徴をもった製品なのかをチェックしていこう。

Celesonic US-20x20

USB 3.0はWindows 10で動作。高音質HDDAマイクプリアンプ搭載

192kHz/24bitに対応

 Celesonic US-20x20は、最高192kHz/24bitに対応したオーディオインターフェイス。サンプリングレート192kHzへの対応自体は、いまや一般的なものとなってきているので特筆するほどではないが、US-2x2、US-4x4、US-16x08が96kHzまでの対応だったことを考えるとワンランク上であることをハッキリさせている。また「Celesonic」という名前は、スピードを意味するCelerityと、音を意味するSonicからの造語で、今後出していくUSB 3.0対応オーディオインターフェイスにつけていくシリーズ名とのことである。

 基本的にはPCと接続してオーディオインターフェイスとして使う機材である一方、スタンドアロンの機材として使うマイクプリモード、ミキサーモードを備えているのも大きな特徴ともなっている。また、US-20x20本体内にはAnalog DevicesのDSPプロセッサであるBlackfinが搭載され、これによってPCのCPUパワーを使うことなく、各チャンネルにEQ/コンプ、さらにリバーブエフェクトを装備した強力なミキシングコンソールも実現している。

 気になるのはUSB 3.0対応のデバイスであるという点だが、実は必ずしもUSB 3.0でないと動かないというわけではないようだ。そもそもUSB 3.0で動作するのはWindows 10とMac OS X 10.11.2だ。それ以外のWindows 7やWindows 8.xなどではUSB 2.0での動作となっている。もちろんWindows 10やMac OS X 10.11.2においてもUSB 3.0でないと動かないわけではなくUSB 2.0でも利用できる仕様となっているのだが、これは何を意味するのだろうか? 一つずつ順番に見ていこう。

 まず一種独特なこのデザインはMOOGのMiniMoog VoygerやWaldorfのMicroWAVE XT、AlesisのAndromeda A6やionといったシンセサイザのデザインを手掛けたドイツのAxel Hartmann氏によるもの。前面がせりあがる形状となっており、机においても使いやすい格好となっている。ただし、側面のフレームを取り外してラックマウント用のものに差し替えることも可能になっているので、用途に応じて使い分けることができる。

USB 3.0端子を備える
Axel Hartmann氏によるデザイン

 フロントに並ぶのは8つのコンボジャックとそれぞれのゲイン調整用ノブ。ここにはTASCAM自慢のUltra-HDDAマイクプリアンプが搭載されている。これはTASCAMの業務用レコーダーHS-P82などでも採用されているのと同じマイクプリアンプとのことで、高度な知識がなくても簡単に高品位な音が録れるのが特徴。EIN(入力換算雑音)が-125dBuを実現したディスクリート構成の回路となっている。右側にはボリューム付きのヘッドフォン端子が2つ用意されているが、いずれもLINE OUT 1/2を分岐する形で聴く同じ信号となっている。

ボリューム付きのヘッドフォン端子を2つ用意

 一方、リアパネルを見ると、右側にアナログのフォンジャックがズラリと並んでいる。このうち上にある2つがTRSの入力、下の10個がTRSの出力。ここはスイッチの切り替えによって民生用の-10dBV、業務用の+4dBuを選択できるようになっている。また一番左にはS/PDIFまたはAES/EBUのコアキシャル入出力、そして、USB端子を挟んで右側にはADATオプティカルの入出力がある。ADATの場合、44.1/48kHzなら8ch、96kHzなら4ch、192kHzなら2chとサンプリングレートによって伝送可能なチャンネル数が変わってくるが、44.1/48kHzであれば、入出力合わせて20IN/20OUTとなる計算だ。

 なお、そのほかにMIDIの入出力およびワードクロックの入出力が用意されており、さまざまな機器との接続が可能になっている。

背面のTRS入出力端子
スイッチで、民生用の-10dBVと、業務用の+4dBuを切り替えられる

USB 3.0とUSB 2.0では何が違う?

 さて、前述の通りUS-20x20にはオーディオインターフェイス、マイクプリアンプ、ミキサーの3つのモードが用意されているのだが、この切り替えはいたって単純。フロントの電源スイッチ横のボタンを押すだけで即座に切り替わる仕組みになっており、PC上のセッティングパネル画面を見ると、ルーティングが変わるのが見て取れる。このようにPCと接続されている場合は、画面に反映され、そのルーティング設定を変更することもできるようになっているが、マイクプリアンプモードおよびミキサーモードの場合は、そもそもPCと接続しておく必要はなく、スタンドアロンで動作させられるのが大きなポイントだ。まずはオーディオインターフェイスモードから試してみよう。

3つのモードは、電源スイッチ横のボタンで切り替わる
設定画面で、ルーティングが変わったことが分かる

 かなり複雑そうに見えるが、デフォルトの設定では、各チャンネルに入ってきた信号がそのままPCのDAWなどに入るので、DAWからは普通に20chの入力を持ったデバイスとして見える。また、DAWを出た信号は、そのまま各端子から出力される形になっている。ただし、入力において、US-20x20のミキサーを通る形になっているのがミソ。デフォルト設定であれば、ストレートに信号が流れるが、このミキサーをいじることによって、かなり自由度の高い設定ができる。各チャンネルにはパラメトリックEQ、コンプを独立して入れられるようになっているからだ。

DAWからは、20chの入力を持ったデバイスとして認識
ミキサーで自由度の高い設定が可能

 さらに、必要に応じてセンドエフェクトとしてリバーブも利用できるようになっている。ちなみに、このリバーブはHALL、ROOM、LIVE、STUDIO、PLATEの5種類がプリセットとして用意されており、パラメータも変更することが可能となっている。

センドエフェクトとしてリバーブも利用できる

 もちろん、PC側の入力として変更できるのはマスターチャンネルだけでなく、さまざまなチャンネルを自由にルーティングすることもできるのが面白いところでもある。なお、このルーティングの画面からも分かる通り、EQやコンプがかかった状態でPCへと信号が送られるために、この場合は掛け録りという形になる。

 では、ここで、いつものようにRMAA PROを使って入出力の周波数特性などを測ってみるとどうなるだろうか? これが以下の結果だ。サウンド的に、いわゆるHi-Fiオーディオ系のものとは違い、音楽制作用・モニタリング系のTASCAMの音という感じであったが、それなりに高性能な結果になっているのが見て取れる。

44kHz
48kHz
96kHz
192kHz

 さて、ここまでUSB 3.0のケーブルで接続していたが、実はこれをUSB 2.0に切り替えても機能面ではまったく変わらないし、RMAA PROでの結果もほとんど変わらない。TASCAMに確認をしても、「基本的に機能・性能は変わらないけれど、伝送速度が上がる分、より安定して稼働するようになる」との回答があった。ZOOMのUAC-2やUAC-8もUSB 2.0、USB 3.0の両方で使えるが、レイテンシーで差が出るというメリットがあったが、US-20x20ではここでも差は出ない設計なのだとか……。とはいえ、何か違うのではとテストしようと思ったが、残念ながらTASCAMのドライバの仕様上、レイテンシーテストに利用するアプリケーションとの相性が悪く、ほかのUSシリーズ同様に測定することができなかった。

iPadとの組み合わせで本格モバイルレコーディングにも

 ほかのモードについても見てみよう。ミキサーモードは、先ほどのオーディオインターフェイスモードにあったミキサーをそのままスタンドアロンでも動作するようにしたもの。つまり、ミキサーのチャンネルストリップを通過した音がそのままPCに行くのではなく、マスターチャンネルに行ったものが、US-20x20のメインアウトであるLINE OUT 1/2へ出力され、AUXバスへ送ったものがLINE OUT 3/4、5/6……へ出力されるという形になっている。もちろん、そのルーティングを自在に変更することもできる。

 そしてもう一つのマイクプリアンプモードというのは文字通りUS-20x20をUltra-HDDAマイクプリアンプ単体として使うためのモード。このモードにするとミキサーは使えなくなり、マイクの入力が、マイクプリアンプを通って、そのままLINE OUTやS/PDIF、ADATへと流れていくのだ。その使い方として分かりやすいのはUS-20x20を2台使う方法。1台はオーディオインターフェイスやミキサーモードとして使い、もう1台をマイクプリアンプモードとしておき、2台をADATのオプティカルケーブルで接続してしまうのだ。こうすることで、トータル16chのマイク入力を持つデバイスに仕立て上げることが可能になる。

ミキサーモードの画面
マイクプリアンプモード時は、ミキサーは使えない

 ミキサーモードもマイクプリアンプモードでも、設定はPCで行なうようになっており、PCからUSBを切り離すとその設定を覚えている。US-20x20だけを持ち運んでも、そのままの状態で使うことができるというわけだ。

 なお、単体で持ち歩く場合、もう一つ便利に使えそうなのがiPadやiPhoneとの組み合わせだ。US-20x20はWindowsでもMacでもドライバを入れて使う仕様ではあるもののUSBクラスコンプライアントなデバイスとして設計されているようで、iPadやiPhoneとLightning-USBカメラアダプタ経由で接続すると20IN/2OUTのオーディオインターフェイスとして認識され、マルチ入出力に対応したアプリを使えば、US-20x20の性能を存分に活かした可搬性の高い本格的なレコーディングシステムを構築できる。

iPad miniを接続してレコーディング

 残念ながら現在のところ、US-20x20のセッティングができるようなアプリはないようだが、あらかじめPCでセッティングした上でiPadやiPhoneに接続すれば、その設定は生きているので、エフェクトを使ってのレコーディングも可能となる。もっともUS-20x20の場合、ACアダプタを使っての駆動が必須なので、屋外で使うといったことはできそうにないが、自分のスタジオ環境を持って出かけられるという点で、面白い使い方ができるかもしれない。

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Celesonic
US-20x20

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。EPUBマガジン「MAGon」で、「藤本健のDigital Audio Laboratory's Journal」を配信中。Twitterは@kenfujimoto