第394回:RMEのUSBオーディオI/F「Fireface UC」を試す

~ 24bit/192kHz対応。Win/Mac用ファームをそれぞれ搭載 ~


「Fireface UC」

 一部のオーディオマニアの間で人気の高いオーディオインターフェイスメーカー、RMEからUSB対応の製品「Fireface UC」がリリースされた。

 PCとMacで使う回路が異なるという不思議な設計をした機材だが、実際どんな製品なのか試してみた。



■ USB接続のオーディオI/F

 下手に高級オーディオ機器でシステムを組むよりも、“PCを中心に据えて構築したほうが、より安く、よりよい音が出る”という考え方から最近は「PCオーディオ」というジャンルに脚光が集まっているようだ。

 実際、オーディオ雑誌などもPCオーディオの特集を組んだり、別冊を出版するなどプチブームが起きている。中にはオカルト的な話もあり、首をかしげる内容も少なくないものの、個人的にはPCオーディオの考え方には賛成。そのPCオーディオの世界でよく取り上げられているのが「Fireface 400」、「Fireface 800」など独RME社のオーディオインターフェイスだ。

 もっともPCオーディオの世界ではオーディオインターフェイスではなくDACと呼ぶケースが多いようだが、もちろんこれらは単なるDACではなくADCの側面も大きいので、ここではやはりオーディオインターフェイスと呼んでいくことにする。

形状やスペックは「Fireface 400」にそっくり

 さて、そのRMEからFireWireではなくUSB 2.0に対応した「Fireface UC」がリリースされた。国内ではシンタックス・ジャパンが扱っており、オープン価格。Webで検索してみると実売価格は15万円前後のようで、FireWire接続のFireface 400とほぼ同額のようだ。

 形状やスペックを見る限りFireface UCとFireface 400はそっくり。まさにFireface 400のUSB版であるといっていいのだが、当然のことながら設計はかなり異なっているようだ。

 ご存知のとおり、オーディオインターフェイスの世界では、現在でもFireWireが主流。最近はUSB対応のものも増えてきつつあるが、実績が大きいことや、スペック面の高さなどからFireWireのものを選んでいる人が多いのだろう。

 これはDTM/デジタルレコーディングの分野でもPCオーディオの分野でも同様であったが、ここ最近USB製品に注目が集まりつつあるのも事実だ。その背景にはMacがFireWire端子を標準装備しなくなってきたことがある。MacがUSBを主軸に据えたため、「いずれUSBのオーディオインターフェイスに乗り換える必要がある」という思いからだ。

 ただ、これまでUSBのオーディオインターフェイスはいまひとつ評価がよくなかっため、乗り換えに躊躇していた人も多いだろう。そこにRMEがプロユーザーの使用にも十分耐えるというFireface UCを出してきたのだ。


■ 24bit/192kHz対応。Win/Macそれぞれに適したファームを実装

 Fireface UCはFireface 400と同様、18in/18outの同時入出力を可能にしたオーディオインターフェイスで、最高で24bit/192kHzに対応した機材だ。アナログ入出力×8、ADAT入出力(光デジタルとの切り替え可)×1、同軸デジタル入出力×1という構成の18in/18outであり、そのほかにワードクロック入出力×1、MIDI入出力×2も備えている。

 8つあるアナログ入力のうちの4つがフロントにあり、うち2つは+48Vのファンタム電源も装備するとともに、マイクプリを搭載したコンボジャック、残り2つはギターなどの入力にも対応したINST/LINE兼用端子となっている。

 なお、ADATを採用している関係で、44.1kHz/48kHz時は18in/18outで機能するが、96kHz動作時はS/MUX仕様となり14in/14outに、192kHz時はADATが対応していないので10in/10outに制限される。だが、これだけの同時入出力が可能な機材はほとんど存在しない。

 これを実現させたのはRMEが転送回路に汎用チップを用いず、オーディオ専用のシステムを自ら設計したからとのこと。しかも、Mac用、PC用に最適化した回路を別々に作ったため、MacでもPCでも最適なパフォーマンスを発揮できるというのだ。

 いまやMacもPCもインテルプラットフォームとなり、チップセットまで同じものを使っているのだから、わざわざ回路を変える必要があるのか、かなり不思議に感じたため、なぜ2種類の回路が必要になったのか、そこにどんな技術があるのかなど、シンタックス・ジャパンを通じてRMEのエンジニアに質問を投げかけてみた。その結果返ってきたのが以下のような回答だ。


 Fireface UCの開発には1年以上を費やしました。他社からは、すでにさまざまななUSB 2.0デバイスが発売されていますが、480MbpsというUSB 2.0の高帯域幅を十分に生かせた製品は出ていません。USBには「アイソクロナス伝送」、「高帯域幅モードにおけるアイソクロナス伝送」、「アイソクロナス伝送+割り込み伝送」、「割り込み伝送」、「高帯域幅モードにおける割り込み伝送 」、「バルク(ディスクデバイスと同様の一般的なデータ伝送)」と大きく6通りの伝送方法がありますが、そのいずれかを使えばオーディオ用に高いパフォーマンスが発揮できるというわけではないのです。そこで、われわれはこれらのデバイスとは、まったく異なる方法で、より良い製品を開発するためにに一から取り組みを始めました。

 まずわれわれは汎用のチップに依存せず、独自にプログラミング可能なLSIであるFPGA(Field Programmable Gate Array)を搭載し、ここにUSB機能を実装させたのです。これにより、USBの各種伝送方法について詳細に検証することができました。しかしながら、その検証結果は、失望するものばかりでした。たとえば高帯域幅モードにおける割り込み伝送への対応などOS側の不十分な対応が原因で、理論的に最善と思われる手段が、現実的にはうまくいかなかったのです。普通に考えれば、192kHzの低レイテンシー・マルチチャンネル伝送には高帯域幅モードにおける割り込み伝送が最適ですが、WindowsもMacもこれに対応していないのです。このUSBモードはおそらく実装されていないのでしょう。

 このような問題から、われわれは何度も設計のやり直しを強いられました。録音にアイソクロナス伝送を導入し、プレイバックに割り込み伝送を採用するといったミックスの設計も試みました。しかし、回路が安定しているにも関わらず、高いCPU負荷が発生するなど、さまざまな問題が発生してしまうのです。

 最終的に、2つの可能性が残りました。結論としてWindowsシステムにおいては、割り込み伝送方法が最適だとわかりました。これはASIOの低レイテンシーの割り込み要求が別々に伝送される場合に限ってのことではありますが、多くの場合こうした利用法になります。もっとも、この方法を採用しているメーカーは当社だけではありませんが、テストした結果どこよりも効率的、効果的にこれを実現しています。また、WindowsにおけるWDMの制限も克服しました。Windowsにおいて256サンプル(XP、Vistaの場合は512)を超えるバッファーサイズは制限され、それを超える場合歪みが発生しますが、Fireface UCは最大2,048サンプル(シングルスピード)による安全な動作を現実的に可能にしています。

 一方、Macにおいては通常のアイソクロナス伝送が採用されています。Mac OSはUSBオーディオに理想的に設計されています。WindowsコンピュータではCPU負荷が高い状態で低レイテンシー動作は現実的に不可能ですが、Macでは可能です。しかしここでもRMEはUSB伝送のさらなる最適化を行ない、全体的なパス・スルー・レイテンシーで数サンプル短くしています。内部のUSBレイテンシーは12サンプルのみ(われわれの知る限り他社製品では最低16サンプル)で、セーフティーオフセットは24サンプル(Fireface 400/800では64サンプル)です。

 このようにWindowsとMacにおいて異なる伝送モードが採用されているため、Fireface UCはPC用とMac用で異なるファームウェアを採用しています。ファームウェアアップデートの失敗やテスト用のスペアなども含めると一台につき4つのファームウェアを搭載できるようになっているのが大きな特徴です。

 WindowsとMacの両OSヘの最適化、パフォーマンスを向上させる技術開発は、FPGA上でUSBを実装させることで初めて可能になったのです。これによって他社メーカーがアクセスすることができない、ユニットの動作、パラメーターを完全に管理することができます。将来的に新たなOSが登場し、他の伝送方法の方がより良い動作をする状況になったとしても、ユーザーはファームウェアアップデート行うだけで対応させることができるのです。

 繰り返しになりますが、Fireface UCにおいてはUSB LLC、つまりUSBコントローラーチップは搭載されていません。物理的なインターフェイスのみを採用して、インターフェイスの電圧やインピーダンスなどのパラメーターを調節し、480Mbpssのシリアルデータストリーム入力をコンバートしてパラレルでFPGAに送ります。安いチップとの互換性の問題などは一切生じません。もし互換性のない独自のUSB規格の解釈を行なうUSBコントローラーが現れたとしても、RMEのプログラム可能なメインチップ内ですべてのUSBプロトコルが処理されるため、ファームウェアアップデートによって対応させることができるのです。


 かなりな長文で、理解するのがなかなか困難な面もあるが、要するにWindowsとMacではUSBでのデータ伝送方法に違いがあるので、それぞれに最適化するために2種類のファームウェアが実装されているというわけだ。

 ここでいうファームウェアは単純にFireface UC側のプログラムというわけではなく、FPGAの中身を書き換えるもの。FPGAとはプログラマブルLSIなので、プログラムを書き換えることでハードウェアとしての回路が切り替わるようになっている。

 結果としてWindowsでは「割り込み伝送」、Macでは「アイソクロナス(isochronous)伝送」が行なわれるとのことだ。ちなみにアイソクロナス伝送とはデータ転送の帯域幅を確実に確保して転送する方式を意味している。


■ 18in/18outの同時入出力が可能

電源はACアダプタによる供給

 さて、実際モノを借りてみたが、確かに見た目はFireface 400とソックリ。フロント、リアともにまったく同じ形状で、違いはFireWire端子かUSB端子か、というだけ。ただ、USBの場合FireWireより供給電力が小さいため、バス電源供給で動作させることができず、ACアダプタが必須となる。

 電源をONにした直後に、フロントパネルにあるロータリーエンコーダをすばやく2回押すと、PCまたはAPという表示になりPCモードとMacモードを切り替えることが可能になっている。


フロントパネルにあるロータリーエンコーダでPCモードとMacモードに切り替え可能

 まずはPCモードでWindowsマシンと接続してみたところ、確かに18in/18outのオーディオインターフェイスとして機能するようだ。またMacモードでWindowsに接続すると異なるデバイスと認識されるようで、動作させることはできなかった。

 設定画面においてバッファサイズを設定してみたところ、44.1kHz動作時は最低で48Sampleに、96kHz動作時は96Sample、192kHz動作時は192Sampleにまで設定することができる。それぞれの状態でとくに音の途切れなどは生じず、キレイな音で再生、録音することができた。

MacモードでWindowsに接続すると異なるデバイスと認識される設定画面においてバッファサイズを設定

 ちなみに、Cubaseでテストしてみたところ、画面上のレイテンシーは44.1kHz動作時の入力が2.336msec、出力が2.517msecとなった。同様に96kHz動作時は1.656msec、1.990msecということで、確かに低レイテンシーではあるが、飛びぬけて低い結果というわけではないようだ。

Cubaseでテスト。レイテンシーは44.1kHz動作時の入力が2.336msec、出力が2.517msec96kHz動作時は1.656msec、1.990msec

 一方、同じCubaseでのテストをMacで行なってみたところ、結果は少し変わった。確かにRMEがいうとおり、Windowsでの場合よりもバッファサイズを小さくすることができ、44.1kHzでも96kHzでも32Sampleにまで設定することが可能だ。またCubase上の表記では44.1kHz動作時の入力は2.834msec、出力は2.857msec、96kHz動作時の入力は1.052msec、出力は1.062secとなった。

CubaseでのテストをMacで実施。44.1kHzでも96kHzでも32Sampleにまで設定可能レイテンシーは44.1kHz動作時の入力が2.834msec、出力が2.857msec96kHz動作時では入力が1.052msec、出力が1.062sec

 こうしたレイテンシーはともかく、Fireface UCはFireface 400と同様にルーティングの自由度が極めて高いのも特徴。18ずつある入出力をどのようにルーティングさせるかのマトリックス画面があり、ここで自在に設定させることができるようになっている。またそれと対をなすミキサーも用意されており、上から順に「外部からの入力」、「PCからの出力」、「外部への出力」という構成で調整できるようになっている。

入出力のルーティングを行なえるマトリックス画面ミキサー画面も搭載
ブロックダイアグラム

 ブロックダイアグラムでみても、どのようにでも設定できるようになっているのがわかるだろう。なお、このミキサー画面で使うことで、ヘッドフォン出力へは何をミックスするかといった設定もメイン出力とは別に設定できるので、なかなか便利に使える。

 さらにすごいのは、ここで行なった設定はPCとの接続時だけでなく、スタンドアロンでの動作時にも有効ということ。つまり、これ単独でDACやADCとして、またS/PIDFとADATの変換といった利用が可能なのだ。

 なお、ヘッドフォンでモニターしていてちょっと気になったのは、ヘッドフォンのレベル調整専用のボリュームがないこと。基本的には、このミキサー画面を使わないとできず、ロータリーエンコーダで調整できないわけではないが、調整するためには数アクションが必要で、やや扱いにくいという印象を持った。

 実際、ヘッドフォンでモニターしてみたり、メイン出力をモニタースピーカーへ接続してみたところ、非常にクリアで解像度の高い音が聴こえる。個人的にはとても好きな音だが、一般的な表現でいうと、とても硬い音。「原音に忠実」という点で優れているのは間違いなく、レコーディング用の機材としてはとてもいいと思う。しかし、「いわゆるオーディオの音とはちょっと違うのでは?」というのが正直な感想でもある。

 とはいえ、いま流行りのPCオーディオは、とにかく味付けしない正確な音を出し、そこから自分なりの音を作っていくという趣向のようなので、その意味では理にかなっているのだろう。

 Fireface 400と並べて音を聴いたわけではないので、正確なことはいえないが、以前Fireface 400でモニターした際の印象ととても近いので、音の傾向は両機種ともによく似たものではないかと思う。


■ RMAA Proを用いた音質チェック

業務用の+4dBuへの切り替えも可能

 ここでいつものようにRMAA Proを用いてループバックの実験を行なってみた。Fireface UCのアナログ入出力は、民生用の-10dBVのほかに業務用の+4dBuへの切り替えも可能。リアの端子はすべてバランス型となっているので、+4dBuでバランス接続で実験を行なった。

 24bit/44.1kHzおよび24bit/48kHzでの結果はご覧のとおり、非常に優秀。一方、96kHz、192kHzではなぜかASIOドライバだとRMAA Proがハングアップしてしまい、測定することができなかった。とはいえ、せっかくなのでMMEドライバを用いて実験を行なってみた。

 その結果はご覧の通りで、周波数特性などはあまりいい結果にならなかった。これはFireface UCのハードウェアの原因より、MMEドライバで経由させるWindowsのカーネルミキサーによる問題のほうが大きいのではないかとも思うが、とにかくデータ上はこのような結果となった。

44.1kHz/ASIOドライバ48kHz/ASIOドライバ96kHz/MMEドライバ192kHz/MMEドライバ

 以上、RMEのFireface UCについて見てきたがいかが、 これであればWindowsでもMacでも安心してUSBで利用することができ、Fireface 400と同等の機能、性能が得られる。ただし、Fireface UCを安定して問題なく利用するためにはPC側のチップセットの問題などもあり、Core 2 Duo以上のマシンが必要になるとのこと。それよりスペックの低いマシンの場合はFireface 400を使ったほうが無難とのことなので、こうした点も機材選びの参考にするといいだろう。

 なお、Fireface UC、Fireface 400には内部に搭載されたDSPを用いた信号の解析プログラム、DIGI Checkというユニークな機能が搭載されている。やや専門的、マニアックなものではあるが、DIGI Checkを目的にFirefaceシリーズを購入しても十分割に合うというものなので、また改めて紹介する予定だ。


(2009年 11月 16日)

= 藤本健 =リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。また、アサヒコムでオーディオステーションの連載。All Aboutでは、DTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。

[Text by藤本健]