第437回:ケンウッドの3マイク搭載PCMレコーダ「MGR-E8」を試す

~レコーダにとどまらず、プレーヤーとして便利で高性能 ~


 

Media Keg MGR-E8
 リニアPCM録音できるポータブルプレーヤーとして、2年半前に記事で取り上げたKENWOODの「Media Keg MGR-A7」が大きく機能強化されて「Media Keg MGR-E8」として新たに登場した。

 従来機種でのレコーディングは16bit/44.1kHz、または16bit/48kHzまでの対応だったのが、今回24bit/96kHz対応するとともに、さまざまな機能強化が図られている。どんなレコーダに仕上がっているのかチェックした。


■ コンパクトでスタイリッシュなレコーダ

左からTASCAM DR-2d、Roland R-05、KENWOOD MGR-E8、YAMAHA POCKETRAK C24、iPhone 3GS

 ほかのリニアPCMレコーダなどと比較してコンパクトで、デザイン的にもスタイリッシュなKENWOODの「MGR-E8」。前モデルと同様に、ポータブルプレーヤーとしての性格を併せ持つ一方、リニアPCMレコーダとしての機能をより前面に打ち出し、実売価格が35,000円前後とちょっと高めになった。

 レッドとブラックの2種類があるが、手元に届いたレッドは、パッと見の印象が以前のMGR-A7ととても似た感じだったが、実際に触ってみると、機能的にはまったく設計をし直したのでは? と感じる製品に仕上がっていた。

 まず最初にチェックしたのは入出力周り。マイク部分はMGR-A7と同様の3マイク式となっている。これについては後ほど詳細に見ていくが、背面のスイッチで、3MIC、2MIC、MONOの3モード切替ができるようになっている。レコーディングにはこのマイクを使うほか、右サイドにLINE INおよびMIC INのミニジャックが用意されている。マイク入力は背面のスイッチでプラグインパワーのON/OFF設定もできるようになっている。

 

レッドモデルカラーはブラック(B)とレッド(R)前モデルMGR-A7(右)との比較。マイク部分が主張するデザインになった

 出力はヘッドフォンとLINE OUTが別々にミニジャックで備わっているのところに、オーディオメーカーのこだわりも感じる。ヘッドフォンアンプを利用する際にはLINE OUTを使うといいわけだ。さらに、小型のモノラルスピーカーも内蔵されている。ちょっと音を確認するときに利用するものだが、200mWの出力を持ち思ったよりも大きい音が出てくる。


マイク部分はMGR-A7と同様の3マイク式となっている
3MIC、2MIC、MONOの3モードが切替えられる
背面のスイッチでプラグインパワーのON/OFF設定もできるヘッドフォンとLINE OUTが別々にミニジャックで備わっている小型のモノラルスピーカーも内蔵

 

microSD/SDHCのスロットも搭載
 本体には2GBの内蔵メモリを備えているほかに、microSD/SDHCのスロットも搭載している。USBを使ってPCと接続することで、内蔵メモリおよびmicroSD/SDHCがマスストレージデバイスとして認識されるようになっている。

 バッテリ込みで87gとコンパクトなこともあり、内蔵のリチウムイオン電池が採用されている。充電はUSB経由で行ない、充電時間は約2時間半。スペック上での16bit/44.1kHzのWAVファイルの再生時間は31時間、録音時間は28時間となっている。24bit/96kHzでの録音なら約16時間、128kbpsのMP3での録音なら約32時間だ。


■ 最高24bit/96kHzで録音可能

1.4インチ120×120ドット液晶ディスプレイを搭載

 電源を入れると、1.4型120×120ドットの液晶ディスプレイが光る。MENUボタンを押すと録音設定、再生設定、共通設定と3つが表示される。録音設定を選んでみると、いっぱいのメニューが用意されているが、まずは録音フォーマットを選択した。すると24bit/96kHz~16bit/44.1kHzの6種類のWAV、320kbps~96kbpsの4種類のMP3から選択できるようになっているので、24bit/96kHzを選択してみた。

 また録音EQという項目があるが、これは前モデルのMGR-A7ではパネル上のボタンとしても用意されていた掛け録り用のもの。Music、Voice、Vocal、Noise cutと4つが選択できるが、ここではオフとしておいた。

 また、マイクゲイン、CENTERマイク感度という項目もある。マイクゲインは2段階となっているが、通常はHighで、大音量を録るときはLowにする。またCENTERマイク感度は、マイクゲインとは独立したもので、3MICモードで使うときにのみ機能し、CENTERマイクの感度を3段階で設定するようになっている。通常はデフォルト設定の「Normal」にしておけばよさそうだ。

 さらに前モデルにはなかったリミッターやローカットフィルターも搭載された。ローカットフィルターで何Hz以下をカットするのかの記述はなかったが、飛行機などのジェット音はキレイにカットされた。


メニューのトップ
録音フォーマットは24bit/96kHz~16bit/44.1kHzの6種類のWAV、320kbps~96kbpsの4種類のMP3
録音EQは、Music、Voice、Vocal、Noise cutと4種類マイクゲインは2段階CENTERマイクの感度を3段階で設定できる
アナログリミッター
ローカットフィルター

■ 2MICモードと3MICモードを比較

ウィンドウスクリーンも付属する

 早速、このMGR-E8にヘッドフォンをつけて、外に出てみた。微風はあったが、RECレディ状態で、モニターしてもあまりマイクが吹かれる感じはない。前モデルのMGR-A7では、ちょっと歩くだけでも、風切り音が強く入り、屋外では使いづらい印象をもったが、新機種ではその辺も大きく改良されているようだ。2MICモードでも3MICモードでも大丈夫だった。また、標準でウィンドウスクリーンも添付されるので、これを利用すれば多少風があっても大丈夫そうだ。

 また、録音レベルの調整が、ボタンではなく、液晶右サイドにあるつまみでクルクル回しながら0~50の範囲で調整するので、扱いやすい。ただ、ソニーのPCM-D50のような、いわゆるボリュームではなく、カタカタカタと1段ずつ回してくジョグダイヤルタイプであるため、録音中に調整するとどうしても回す音が入ってしまうのは、少し残念だった。

 

録音レベルの調整はジョグダイヤルタイプ
 これで調整しながら、まずは鳥の鳴き声を狙ってみた。2MICモードで録音してみたので、まずはこれを聴いてみてほしい。結構キレイな音で録れているのが確認できるだろう。スズメがあまり飛び回ってくれなかったので、あまりステレオ感は確認できないが、周囲の音などから、頭上で鳴いていることは感じられるのではないだろうか?

 次にマイクを3MICモードに設定してみた。少し感度が上がるため、録音レベルを少し下げたが、これも前モデルのMGR-A7のように極端に変わるというほどではなかった。またセンターマイクが強過ぎるとステレオ感がなくなってしまうが、感度がNormalであればバランスはよく、ステレオ感はほとんど失われない。

 とりあえず、この3MICで録音したものをぜひ聴いてみてほしい。聴くとわかるとおり、クルマが走る音が入ってしまっているのがわかるはずだ。実は録音した場所は道路から階段で5mほど上がった場所で、鳥にマイクを向けた方向の右斜め前から後方にクルマが走り抜けていったのだ。また最後に真後ろにいたクルマがエンジンをかけた音も入っているが、その立体感が結構ハッキリと出ていると思う。

録音サンプル:野外生録
[2MIC]bird_2mic.wav(13.4MB)
[3MIC]bird_3mic.wav(10.7MB)
編集部注:録音ファイルは、24bit/96kHzに設定して録音したWAVEファイルです。編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 まったく同じタイミングでの音を録り比べたわけではないで、比較しにくいかもしれないが、音質的には3MICのほうがいいように感じる。外見上、左右のマイクとセンターマイクでは大きさが違うが、実際センターマイクは特殊な構造になっているらしい。メーカーの説明によると左右マイクが0~20kHzをターゲットとした無指向性マイクであるのに対し、センターマイクは単一指向性の40kHz集音マイクを採用しているという。「40kHzの集音マイクって何?」と思って資料を見てみると、可聴帯域(0~20kHz))を集音するマイクと高帯域(20kHz~40kHz)を集音する2つのマイクを組み合わせたものなのだとか。2MICと3MICの特性グラフもあったので、参考までに載せておこう。

内蔵マイク周波数特性

 続いて、音楽の録音も試してみた。いつものようにTINGARAのJupiterをモニタースピーカーで再生したものを24bit/96kHzでレコーディングし、Sound Forgeを用いて簡単な処理をしてみた。これについても2MICと3MICそれぞれで試してみたので聴き比べてみてほしい。まず、言えるのは2MICでも3MICでも他社の24bit/96kHzのリニアPCMレコーダと比較しても遜色ない音であり、かなり高音質。MGR-A7とはまったく違う次元のサウンドに向上している。

録音サンプル:楽曲(Jupiter)
[2MIC]music_2mic_1644.wav(7.33MB)
[3MIC]music_3mic_1644.wav(7.33MB)
楽曲データ提供:TINGARA
編集部注:録音ファイルは24bit/96kHzで録音した音声を編集し16bit/44.1kHzフォーマットで保存したWAVEファイルです。編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 ここで2MICと3MICを比べると、やはり3MICのほうがいい。先ほどのマイク特性からいうと高域が伸びる感じかと思ったが、意外にも中域が持ち上がった感じで、音の輪郭がクッキリしたというか分解能が上がったような印象だ。周波数分析したグラフでも、やはり高域での変化はここからは読み取れず、中域が少し強くなっているのがわかる。もっともサンプリングレート48kHzのデータの周波数分析だから最高が24kHzであり、40kHz集音マイクの性能を見るものではないが……。

 また3MICでも、あまりステレオ感が失われたという感じもしないので、やはりMGR-E8でレコーディングするなら3MICモードがお勧めだ。

2MICの周波数分析
3MICの周波数分析


■ プレーヤー機能も充実。新たなユーザーが増ることに期待

 最後にプレーヤーとしての機能についても簡単に見ておこう。MGR-E8はMP3、WAV、WMAの3つのフォーマットに対応したプレーヤーであり、データは内蔵メモリやmicroSD/SDHCのMUSICフォルダ内に単純にファイルをコピーするだけでOK、フォルダごとコピーしても構わない。MGR-E8が起動する際、自動的にこれらのフォルダを検索して整理してくれる。これにより、アーティストごと、アルバムごと、ジャンルごとなどでの曲選択が可能になる。

曲の転送はMUSICフォルダにドラッグ&ドロップするだけアーティスト、アルバム、ジャンルなどでの曲選択が可能

 また、再生設定メニューを表示させると、結構いろいろな機能が用意されていることがわかる。たとえばサウンドモードを見ると、Pops、Rock、Jazzなど5つの再生用EQ設定が用意されているほか、カスタムを選べば自分で設定することもできる。また再生速度の設定では50~200%の範囲でのスピード調整ができたり、イントロ再生をオンにすれば、各曲頭の10秒ずつ再生していくことができるといった具合だ。

 ほかにも、新方式のClass-Wのヘッドフォンアンプを搭載し、カナル型イヤフォンが付属するなど、高音質なプレーヤーとしても魅力的なモデルになっている。

 さらに、MGR-E8にはジャストシステムのジュークボックスソフト、BeatJamの特別版「BeatJam 2010 for KENWOOD AUOMG101KWK」がバンドルされている。これを使って、CDからオーディオデータをリッピングしたり、音楽ダウンロードサイト、Music@Lifeでのデータ購入でき、MGR-E8へのデータ転送もより簡単にできる。

再生機能
カスタムサウンド
BeatJamの特別版「BeatJam 2010 for KENWOOD AUOMG101KWK」がバンドルされており、CDからリッピングしたり、音楽ダウンロードサイト、Music@Lifeでのデータ購入でき、MGR-E8へのデータ転送もより簡単にできるようになっている

 最近、各リニアPCMレコーダの価格が下がっているため、相対的に高めなレコーダとなってはいるが、単なるリニアPCMレコーダにとどまらず、ポータブルプレーヤーとしてみても便利で高性能なMGR-E8。ぜひ、これがキッカケになって、レコーディングを楽しむ新たなユーザーが増えてくれることに期待したい。



(2010年 10月 25日)

= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
 著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto

[Text by藤本健]