第476回:エントリーDAWソフトの定番「MUSIC CREATOR 6」

~機能/UIはSONAR X1系に進化。声優によるビデオ解説も ~


MUSIC CREATOR 6の作業画面

 毎年秋にバージョンアップを発表し、11月から12月頃の製品発売を続けているCakewalkのSONAR。今年も10月15日に「SONAR PREMIUM DAY 2011」というイベントが秋葉原で行なわれることが発表されたが、それに先立ちSONARのエントリー版として人気のあるMUSIC CREATORの新バージョン、「MUSIC CREATOR 6」が発表された。

 今回のバージョンアップによってUIは「SONAR X1」シリーズ直系のものに進化したが、上位バージョンやバンドルソフトのSONAR X1 LEとどう違うのかなどをチェックしてみた。


■MUSIC CREATOR 6とSONAR X1シリーズの違い

 昨年大幅にユーザーインターフェイスを変更し、名称もSONAR X1と改めたSONARだが、ラインナップは「SONAR X1 PRODUCER」(79,800円前後)、「SONAR X1 STUDIO」(39,800円前後)、「SONAR X1 ESSENTIAL」(19,800円前後)と3種類になった。

 その一方、ローランドのオーディオインターフェイス、OCTA-CAPTUREやQUAD-CAPTURE、またUSB-MIDIキーボードのA-PROシリーズなどにはSONAR X1 LEというソフトがバンドルされている。これはSONAR X1の体験版的なニュアンスでバンドルされているものの、DAWとしての必要十分な機能を装備するとともに、保存ができないとか、一定の日数で使えなくなるといった致命的な制限がないため、一部のユーザーにはリーズナブルなDTMセットとして受け入れられている。

3種類のパッケージ

 今回登場したMUSIC CREATOR 6にはSONARやSONAR X1という名称は入っていないものの、機能やユーザーインターフェイス的には明らかにSONAR X1シリーズの1つと考えてよさそうだ。では、なぜこれだけ名前が違うのかというと、これはマーケティング戦略上の問題であって、流通経路に若干の違いがあるようなのだ。ほかのSONAR X1シリーズが主に楽器店経由で流通しているのに対して、こちらは大手量販店での流通が中心。その意味でもMUSIC CREATOR 6は初心者向けのパッケージといえる。

 製品ラインナップとしては、「MUSIC CREATOR 6」(6,980円前後)、「MUSIC CREATOR 6 DUO PACK」(12,800円前後)、「MUSIC CREATOR 6 TRI PACK(19,800円前後)」の3つがある。MUSIC CREATOR 6がソフト単体であるのに対し、DUO PACKはローランドのオーディオインターフェイス、DUO-CAPTUREとのバンドル品、TRI PACKはTRI-CAPTUREとのバンドル品となっている。

起動後のクイックスタート画面

 今回TRI PACKという組み合わせで、MUSIC CREATOR 6をインストールして使ってみた。実際、起動してみると最初のオープニング画面では、クイックスタートというダイアログが表示され、ちょっと初心者向けな雰囲気があるが、いざプロジェクトを開いてレコーディングや編集作業の画面に入ると、これはもう完全にSONAR X1の世界。

 オーディオは 24bit/48kHzのフォーマットで最大32トラック、MIDIは128トラックまで使用可能。もちろんASIO対応のオーディオインターフェイスを利用して低レイテンシーでのレコーディング再生ができる。SONAR X1シリーズで好評でウィンドウの下部に複数の編集ウィンドウを表示して、タブ操作で切り替えるMultiDock機能なども踏襲されている。これ1本あればDAWとして一通りのことはできそうだ。

環境設定画面。ASIOドライバにも対応する作業画面タブ操作で切り替えるMultiDock機能も

■エントリーユースに必要十分な機能。プラグインの追加購入も

 でも、気になるのは他のラインナップとの機能差。価格的に見て上位のESSENTIALとは3倍近い開きがある一方、ハードウェアを買わないと入手できないという面はあるものの、実質無料のLEがあるので、MUSIC CREATOR 6がどんな位置づけになっているのかはチェックしておきたいところだ。

 そこで、スペックを調べながら主な機能の比較表を作ってみた。


PRODUCERSTUDIOESSENTIALMusic Creator 6LE
一般
64ビット版OS対応アプリケーション○ (Win7, Vista)○ (Win7, Vista)○ (32ビット版アプリとして機能)○ (32ビット版アプリとして機能)○ (32ビット版アプリとして機能)
デジタルオーディオの対応フォーマット最大 32ビット/ 192kHz最大 32ビット/ 192kHz最大 32ビット/ 192kHz最大 24ビット/ 48kHz最大 32ビット/ 96kHz
最大オーディオ・トラック数制限無し制限無し最大 64最大 32最大 33
最大プラグインエフェクト/プラグインシンセ数制限無し制限無し最大 64/32最大 64/32最大 24/8
内部ミキシング・エンジン64ビット64ビット32ビット32ビット32ビット
ステップ・シーケンサー××
ビデオ インポート/エクスポート機能
マトリックス・ビュー
FX Chain×
AudioSnap×××
V-Vocal×××
サラウンド処理×××
プラグインエフェクト
基本エフェクト
Boost11××
Sonitus:fx○ (Reverb, EQ のみ)○ (EQ のみ)○ (EQ のみ)
Channel Tools×××
T シリーズ : TS-64, TL-64×××
Pro Channel (EQ、Comp、Saturation)××××
Channel Strip : VX-64, PX-64, VC-64××××
Mastering Effect : LP-64 EQ, LP-64 Multiband Comp××××
Perfect Space Convolution Reverb××××
Guitar Amp SimulatorNative Instruments GuitarRig 4 LEIK multimedia Amplitube X-GEARIK multimedia Amplitube X-GEARIK multimedia Amplitube 3 CS×
プラグインシンセ
Studio Instruments (Drum Bass, E.Piano, Strings)
(Drumのみ)

(Drumのみ)
Cakewalk Sound Center, TTS-1×
DropZone××
D-ProProLELE××
Roland Groove Synth×××
RGC Suite: Pentagon I, PSYNII, RXP REX Player×××
Rapture LE×××
sfz Sound Font Player×××
z3ta+ (Synth & FX)×××
Session Drummer 3××××
Beatscape××××
TruePianos××××

 この表を見ても分かるとおり、やはりMUSIC CREATOR 6の位置づけ的にはESSENTIALとLEの間に入るようだ。多くの人が気になるソフトシンセは、ここからも分かるとおり「Cakewalk Sound Center」、「TTS-1」、「Studio Instruments Drum Kit」となっている。Cakewalk Sound Centerはピアノ、ギター、ベースといった定番サウンドからきらびやかなシンセサウンド、重厚なストリングスなど使えそうな音色が150種類詰め合わせたものとなっていて、扱いやすい。

 また、お馴染みTTS-1はGM2準拠のマルチ音源なので、さまざまな用途で活用できる。そしてStudio Instruments Drum Kitは使い勝手のいいドラム音源。キックやスネアなど各音源ごとにチューニングができたり、音量、パンをコントロールできるというのも嬉しいところ。まさに自分の好みのドラムセットに仕立て上げることができるのだ。

Cakewalk Sound CenterTTS-1Studio Instruments Drum Kit

 この3つのソフトシンセに加え、Virtual Sound Canvas DXi(VSC)もバンドルされている。GM2音源であるTTS-1があるので、GS音源のVSCの必要性はそれほど高くないが、昔の標準機ともいえるSC-55mkIIなどの音を再現したいという目的があれば利用するのもよさそうだ。ただし、システム的にやや古い仕様となっているため、64bitOSだとインストールすることができない。筆者もインストール中にエラーが出て、おかしいと思ったら、そのような仕様になっていたのだ。

 一方、プラグインエフェクトのほうはディレイ、コーラス、リバーブなど基本的なエフェクト9本が揃っているほか、トラック作成用、マスタリング用途でも強力に使えるパラメトリックEQ、Sonitus:fx EQを搭載している。

VSCは64bitOSにはインストール不可プラグインエフェクト画面(ディレイ、コーラス、リバーブ)Sonitus:fx EQ

 さらにギタリスト用に目玉ソフトがバンドルされている。それがAmpliTube 3 CSだ。イタリアIK Multimediaの人気のギターアンプシミュレータソフト、AmpliTubeの機能限定版だが、これ1本あればかなりの音作りができるというもの。ご存じない方に簡単に紹介すると、これはMarshalやFenderなどのギターアンプをモデリングするもので、ギターを接続すると、いかにもという音を作り出してくれる。キャビネットが別になっていて、モデルを選択できるほか、ここからどんなマイクでどの位置から音を拾うかといったシミュレーションまでしてくれるのだ。

 一方、ストンプエフェクト機能も装備されているから、ディレイやオーバードライブ、コンプやワウ……といったエフェクトを並べての音作りまでAmpliTube 3 CSひとつでできてしまう。ただ、製品版と違い、モデリングできるアンプの種類などが少なくなっている。実際にはさまざまなアンプが収録されているのだが、それをアクティブにするためにはカスタムショップにアクセスして必要な機能を購入するという仕様になっているのだ。

AmpliTube 3 CSキャビネット毎にアンプのモデルを選択可能ストンプエフェクト機能も装備

■マニュアルやビデオチュートリアルなどガイドも充実

 このようにSonitus:fx EQやAmpliTube 3 CSが収録されているという点やトラック数がオーディオ、MIDIともに最大64まで扱えるという点は大きいが、そのほかのスペックで比較するとSONAR X1 LEとそう大きく変わらない。ところが、こちらはやはりパッケージソフトとしての製品だけに、スペックとは異なる点でさまざまな違いがある。

 まずは立派なマニュアルが3冊ついていること。SONAR X1 LEには小さなインストールマニュアルがバンドルされているだけなので、特に初心者にとっては使うのが難しいところだが、こちらはインストール・ガイドに362ページのユーザーズ・ガイド、さらに曲作りガイドとマニュアルが充実しているので安心だ。

 また、嬉しいのはこのマニュアルに加えてビデオチュートリアルが用意されていること。各シチュエーションごとにビデオでの優しい解説があるため、マニュアルを読むのは苦手という方でも安心だ。ちなみに、このビデオでナビゲーターを務めているのは声優の相沢舞さんだ。

マニュアルが3冊付属するヘルプ画面声優の相沢舞さんによるビデオチュートリアルも付属する(掲載写真はWebサイト上の紹介動画のもの)

 もうひとつ、SONAR X1 LEにない大きな得点がオーディオやMIDIによるループ素材が1,000キット/3,000種類も入っていること。さまざまな音楽ジャンルのループフレーズがドラムやギター、ベースといった楽器別にカテゴライズされているので、これらをトラックへマウスでドラッグ&ドロップで持ってくるだけで、曲の大枠を構成できてしまう。これにボーカルなどをかぶせていくだけでも、オリジナル曲を完成させられるというのは大きなポイントだろう。

 これだけの要素が揃って7,000円程度で入手できるのだから、これからDAWを使ってDTMをしたいという人にとっては、手ごろで嬉しいソフトといえそうだ。


(2011年 9月 12日)

= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
 著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto

[Text by藤本健]