藤本健のDigital Audio Laboratory

第643回:驚きの低遅延USB 3.0オーディオ。ズーム「UAC-2」と「UAC-8」の実力

第643回:驚きの低遅延USB 3.0オーディオ。ズーム「UAC-2」と「UAC-8」の実力

 オーディオインターフェイスに参入したのは昨年と、数多くあるメーカーの中では後発での登場となったズーム。ThunderboltオーディオインターフェイスのTAC-2、TAC-2R、TAC-8、さらにはUSB 3.0オーディオインターフェイスのUAC-2、UAC-8と、他のメーカーがまだあまり手を出していない製品を開発し、勢いを増している。そのズームの新製品であるUSB 3.0オーディオインターフェイス「UAC-2」および「UAC-8」を使ってみたところ、かなり驚きの性能を発揮してくれた。レイテンシー、そして音質性能などいろいろとチェックすべき点があるので見ていこう。

UAC-2(上)とUAC-8(下)

入出力と両機種の違いをチェック

 UAC-2とUAC-8という2つのオーディオインターフェイスに共通するUACという名前はUSB AUDIO CONVERTERの略であり、TAC-2およびTAC-8のTHUNDERBOLT AUDIO CONVERTERに対比させたネーミングとなっている。またUAC-2、UAC-8の数字はマイクプリアンプの数を意味しており、UAC-2には2つ、UAC-8には8つのマイクプリアンプが搭載されている。それぞれのフロントパネルを見ると、2つ、8つのコンボジャックが並んでおり、ここにマイクプリアンプが用意されているわけだ。

UAC-2
UAC-8
UAC-2のコンボジャックは2系統
UAC-8は8系統のコンボジャックが並ぶ

 では入出力でみるとどうなっているのだろうか。UAC-2のほうはシンプルな2IN/2OUTとなっており、リアにTRSフォンの2ch出力があるほか、それと同じ信号が出るヘッドフォン出力がフロント右側に搭載されている。サンプリングレートは最高で192kHzにまで対応している。

UAC-2は2IN/2OUTで、リアにTRSフォンの2ch出力を装備

 一方のUAC-8のほうは18IN/20OUTという大規模なオーディオインターフェイスとなっている。といってもアナログにおいては8IN/10OUTで最高192kHzという仕様で、そのほかにS/PDIFそしてADATの入出力を装備しているため18IN/20OUTとなっている。ADATはサンプリングレートによって入出力数が変わってくる。

UAC-8はS/PDIFとADATの入出力を備え、最高18IN/20OUTに対応

【UAC-8の入出力数と対応サンプリングレート】

サンプリングレートアナログ
IN/OUT
S/PDIF
IN/OUT
ADAT
IN/OUT
トータル
IN/OUT
44.1または48kHz8/102/28/818/20
88.2または96kHz8/102/24/414/16
176.4または192kHz8/102/22/212/14

 またフロントパネルの右側には2つのヘッドフォン出力が用意されている。この2つはそれぞれ別系統となっているのだが、上のPHONE1のほうは、メイン出力と同じ信号が、下のPHONE2はアナログ出力であるLINE 1/2、3/4、5/6、7/8のいずれかを選択して設定できるようになっているのだ。

 またこうしたオーディオの入出力のほか、UAC-2、UAC-8共通でMIDIの入出力も備えているほか、UAC-8においてはWORDクロックの入出力も備えているというのが、基本的な入出力の仕様となっている。

 本体でコントロールできるのは、メイン出力のレベル調整とヘッドフォン出力のレベル調整、また各マイクプリアンプのゲイン調整とHi-ZスイッチのON/OFFおよび+48VのファンタムスイッチのON/OFFといったところ。とはいえ、UAC-2もUAC-8も設定できるのは、それだけに留まらない。UAC-2にはUAC-2 MixEfx、UAC-8にはUAC-8 MixEfxというユーティリティソフトが付属しており、これを利用することで、さらに細かな設定ができるようになっている。

UAC-2用の「UAC-2 MixEfx」
UAC-8用の「UAC-8 MixEfx」

 実際に起動させてみると分かる通り、本体の入力ゲインのノブや各スイッチはMixEfxの画面上のノブやボタン類と連動しているが、ほかにもさまざまな機能が用意されている。まずはUAC-2 MixEfxのほうから見ていこう。

 それぞれの入力には本体にはスイッチが用意されていないLO CUT、位相反転のためのPHASEスイッチがある。また、メイン出力へは通常コンピュータ側からの再生音が出ていくが、INPUT 1、2をそのままダイレクトモニタリングできるようにするためのMIXERが用意されており、ここでPANやレベル調整もできるようになっている。さらにEFFECTという項目が用意されているのも大きなポイントだ。これはUAC-2内蔵のDSPを使ったエフェクトであり、ROOM、HALL、PLATEの各リバーブが2種類ずつ、そしてエコーも2種類搭載されており、センド・リターンの形で使えるようになっている。

ループバックも可能

 また、LOOPBACKボタンをONにすることで、ループバックができるようになっているのもポイント。つまりPCの再生音を入力信号とミックスさせた形で、再度取り込むことができるため、カラオケに歌を入れて録音したり、ネット放送などが簡単にできるというわけだ。

 一方のUAC-8のほうも、基本的な考え方は一緒だが、さらに大規模なものとなっている。アナログ入力に対してはLO CUTやPHASEスイッチが搭載されているのはもちろんのことながら、エフェクトのセンド量の設定やダイレクトモニタリングのためのバランス調整なども細かくできるようになっている。また、この出力バランス調整はMAIN OUTのほかにLINE OUT 1/2、LINE OUT 3/4……とタブをクリックすると、それぞれ独立した形で細かく設定できるようになっている。

 さらに、ここで左上のスイッチ、DIGITALをクリックするとS/PDIF、ADATも反映した、さらに大きな画面に広がる。ここで、各レベル調整、バランス調整を細かく設定できるようになっているのだ。そしてもうひとつ、中央のCOMPUTERという項目の横にあるDAWボタンを押すと、PC側からの出力も横に展開される。前述のとおり、UAC-8の場合、最大で20OUTとなっているのだが、それぞれが単純に各出力端子へルーティングされているのではなく、このMixEfxを介して設定されており、必要に応じて割り振りを変えたり、複数の音をミックスさせた状態で出力することも可能になっている。

左上の「DIGITAL」をクリックすると、S/PDIFとADATも加えた広い画面になる
「DAW」ボタンを押すと、PC側からの出力も横に表示

 どちらも、リアパネルにはCLASS COMPLIANT MODEというスイッチがあり、通常はOFFにして使うことで、最大の性能を発揮できるようになっている。これをONにすることで、iPadやiPhoneとLightning-USBカメラアダプタ経由で接続して利用できるクラスコンプライアントモード(CCモード)になる。

iPhone/iPadと接続できるCLASS COMPLIANT MODE時

USB 3.0と2.0でレイテンシーは違う?

 さて、ここからが今回の本題。UAC-2もUAC-8もPCとの接続端子が普通のオーディオインターフェイスと異なり、USB 3.0端子となっている。そして、各機材にはUSB 3.0のケーブルが用意されているので、これで接続することで、USB 3.0のオーディオインターフェイスとして機能するのだ。そのことがUAC-2、UAC-8の最大の特徴でもあるのだが、実は、USB 2.0のオーディオインターフェイスとしても機能するようになっている。というのも、普通に考えれば2IN/2OUTのUAC-2をUSB 3.0で接続するメリットはない。USB 2.0の転送レートは480Mbpsであるため、192kHz/24bitの2chであれば、必要となる転送レートは192×24×2=9,216kbps=9.216Mbpsというわけで、転送速度としては有り余っているのだ。USB 3.0の場合、5Gbpsという超スピードだが、帯域という意味では、過剰スペックといって間違いないだろう。UAC-8を14chにしたとしても64.512Mbpsだから、USB 2.0で十分すぎるほどの余裕がある。

 だからこそ、UAC-2もUAC-8もUSB 2.0で動作するわけだが、それだったら、これらをUSB 3.0にするメリットはあるのだろうか? ズームによると、「帯域的にはUSB 2.0で問題ないが、レイテンシーの面でUSB 3.0にアドバンテージがあり、このクラスで最小のレイテンシーを実現できる」というのだ。とはいえ、普通に考えると、帯域が広がることで、レイテンシーが小さくなる、ということは考えにくく、にわかには信じられない。そこで、まずはUAC-2をUSB 3.0を使い、いつものようにレイテンシー測定ツールのCENTRANCE ASIO Latency Test Utilityを使って実験してみたのが、以下の結果だ。

【UAC-2/USB 3.0接続】

128 samples/44.1kHz
24 samples/44.1kHz
24 samples/48kHz
32 samples/96kHz
32 samples/192kHz

 ちょっとこの数字を見て驚いたが、96kHzで2.22msec、さらに192kHzにおいては1.23msecという超スピードをたたき出しているのだ。いずれもバッファサイズは32Sampleであり、この設定でDAWを起動させても、音切れを起こすことなく使うことができた。これまでDigital Audio Laboratoryで実験している限り、最速を出していたのはRMEのFireface UCXだった。これを96kHzで使ったときに3.17msec、192kHzで2.99msecだったから、それをはるかに上回る結果となった。筆者の知る限りにおいて、世界最小のレイテンシーを実現しているといっていいだろう。では、これをUSB 2.0で接続したときに違いは出るのだろうか? 同じ条件でテストした結果が以下のものだ。

【UAC-2/USB 2.0接続】

128 samples/44.1kHz
24 samples/44.1kHz
24 samples/48kHz
32 samples/96kHz
64 samples/192kHz

 このUSB 2.0接続でもRMEのFireface UCXを上回る結果ではあるが、USB 3.0での接続と比較するとわずかながら劣っている。なぜ、こういう結果になったのか、やや納得のいかないところではあるが、確かにUSB 3.0で接続するといいのは間違いないようだ。

UAC-2のレイテンシ測定値
BuffersizeUSB 3.0USB 2.0
128 samples/44.1kHz8.39ms8.39ms
24 samples/44.1kHz3.67ms3.67ms
24 samples/48kHz3.35ms3.35ms
32 samples/96kHz2.22ms2.47ms
32 samples/192kHz1.23ms1.82ms

 では、続いてUAC-8でもUSB 3.0接続でレイテンシーを測定してみた。その結果、UAC-2とは微妙に異なる結果となった。96kHzでは1.94msecとUAC-2を上回る結果に、一方で192kHzでは1.41msecとUAC-2をやや下回る結果となったのだ。同様にUSB 2.0接続でも試してみたが、やはりUSB 3.0よりは下回るが、RMEのFireface UCXを超える結果になった。

【UAC-8/USB 3.0接続】

128 samples/44.1kHz
24 samples/44.1kHz
24 samples/48kHz
32 samples/96kHz
32 samples/192kHz

【UAC-8/USB 2.0接続】

128 samples/44.1kHz
24 samples/44.1kHz
24 samples/48kHz
32 samples/96kHz
64 samples/192kHz
UAC-8のレイテンシ測定値
BuffersizeUSB 3.0USB 2.0
128 samples/44.1kHz8.16ms8.16ms
24 samples/44.1kHz3.45ms3.45ms
24 samples/48kHz3.19ms3.15ms
32 samples/96kHz1.94ms2.18ms
32 samples/192kHz1.41ms1.99ms

 いずれにしても、オーディオインターフェイスのレイテンシーという面では、ズームのUAC-8、UAC-2がこれまで試した中で最も高い性能を示したことは確か。なぜ、これだけのことができたのか、近いうちに開発者インタビューを予定しているが、レイテンシー重視であれば現時点ではズーム製品を選べば間違いなさそうだ。

UAC-8にはアップサンプリング機能も

 今度は音質のほうもチェックしてみよう。普通にオーディオを再生させてヘッドフォン、スピーカーで聴いた感じでは、非常にS/Nのいいオーディオインターフェイスという印象。ユニークなのは、UAC-8には「UPSAMPLING」という機能が用意されており、これをONにすることで、PCからの再生音をアップサンプリングできるようになっている。

 当然のことながら、アップサンプリングしたからといって、劇的に音が変わるわけではないが、44.1kHz/16bitのサウンドを再生する際、UPSAMPLINGがONかOFFかで微妙に違うような感じはあった。というわけで、ここからはいつものツール、RAMM PROを使い、入力と出力を結線し、ループ状態で測定してみる。UAC-2の場合は、とくに注意すべき点もないが、UAC-8の場合、入力はINPUT 1とINPUT 2、出力はメイン出力の1と2を結線している。またUPSAMPLINGがONにできるのは44.1kHzと48kHzの場合のみであったので、この2つのサンプリングレートのときのみ、UPSAMPLINGのONとOFFそれぞれで測定した結果が以下のものだ。

【UAC-2】

44kHz
48kHz
96kHz
192kHz

【UAC-8】

44kHz
48kHz
96kHz
192kHz

【UAC-8/アップサンプリング時】

44kHz(アップサンプリング)
48kHz(アップサンプリング)

 これらを見ると、UAC-2もUAC-8も近い結果で、ノイズレベルは非常に低いけれど、周波数特性が今一つという成績となっている。その周波数特性のグラフを見てみると500Hzあたりが持ち上がっているのが、その要因だろう。これが出力によるものなのか、入力によるものなのかの判別は付かないが、レコーディングにおいて中域を少し膨らませるというズームの音作りによる可能性もありそうだ。実際聴いていて気になる点はまったくないし、高域まで非常にキレイに出ているので、心配はいらないと思う。

 またUAC-8におけるUPSAMPLINGのONとOFFについてだが、トータル性能としてはほとんど変わっていないようだ。ただ、これについても周波数特性のグラフを見てみると、UPSAMPLINGをONにすると、10kHz以上の波形がやや波打っているのが分かる。これを見る限りでは、OFFで使ったほうが素直な音になりそうだが、この辺はユーザーの好みの問題というところなのだろう。

 以上、ズームのUAC-2とUAC-8を見てきたがいかがだっただろうか? USB 3.0を使うことでレイテンシーに大きな威力を発揮するこれらの機材。価格的にも手ごろであるため、今後オーディオインターフェイスの定番として普及していく可能性も高そうだ。

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藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。EPUBマガジン「MAGon」で、「藤本健のDigital Audio Laboratory's Journal」を配信中。Twitterは@kenfujimoto