西川善司の大画面☆マニア

第220回 唯一無二の有機EL高画質。LG「55E6P」の4K/HDR表現と動画性能の衝撃

唯一無二の有機EL高画質。LG「55E6P」の4K/HDR表現と動画性能の衝撃

 10年ほど前から「次世代テレビ方式」としてもてはやされてきた「有機EL」(OLED)。日本のテレビメーカーも各社が開発に挑戦したが、大画面サイズの製品化は実現できなかった。ソニーとパナソニックが日本有機EL開発連合的な共同開発を行なうもうまくいかず、2014年に開発から手を引いた。ほぼ同タイミングでサムスンも大画面有機ELテレビの開発から撤退し、有機ELはスマホ/タブレット向けの中小型サイズの開発に集中する方針を示した。

LG OLED TV「55E6P」

 そんな中、LG Electronics(以下、LG)は、2013年から55型の大型有機ELテレビを発売。2015年には65型、77型の3サイズ展開へと拡大し、現在に至る。日本でも2015年に満を持して2015年春に発売され、2016年春には新モデルが投入された。

 本連載では初めて取り上げるLGの有機ELテレビとなる。今回評価したのは、最上位EP6シリーズの55型「55E6P」。実勢価格は65万円前後だ。E6Pシリーズは、65型「65E6P」(実売価格100万円)もラインナップされる。

 なお、6月24日には4K+HDRなどの基本性能をE6Pシリーズから継承しつつ、3D立体視機能の省略、サウンド機能を簡略化、デザインをシンプルにしたB6Pシリーズ「55B6P」(実売価格45万円)と「65B6P」(同75万円)も発売されている。

設置性チェック~厚さわずか6mm。しかしボディ剛性は高い。

 有機ELテレビには「バックライト」という概念がないこともあり、55E6Pはかなりの薄型・狭額縁デザインとなっている。ただ、画面としての強度・剛性を出す関係からか、ある程度の額縁は存在する。実測してみると、上と左右の額縁幅は透明ガラス部を含んで約14mm。黒い部分だけ約9mmなので、額縁の存在感はほとんど無い。下部は額縁部とスピーカー部を含んで約70mm。

圧倒的な狭額縁デザイン。額縁の存在感がないため映像が浮かび上がっているかのように見える
ガラスの組み付けはデザイン面だけでなく強度向上にも貢献しているようだ

 ディスプレイ部の厚みはわずかに約6mmで、下部のチューナや接続端子などを含んだ機能モジュールの部分が約57mm。とにかく薄いわけだが、強度の高いガラスと一体化してあるため、設置時に曲がってしまうようなことはない。

ディスプレイ部の厚みはわずかに約6mm
前後に張り出す板部分がスタンド。ディスプレイ部底面から組み付ける

 重量はディスプレイ部だけで17.1kg。スタンド込みで18.5kgで、今回、筆者1人で2階に上げてスタンドとドッキングさせて設置できた。スタンド部とディスプレイ部のネジ留めは底面から行なう方式のため、取付の際にはディスプレイ部を寝かせる必要がある。筆者宅での設置ケースでは、厚手のクッションを床に敷き詰めて行なった。

 スタンドは、リジッド固定で、チルト・スイーベル機構はなし。スタンド部がディスプレイ下部にはめ込まれて一体化する構造で、ディスプレイ下部全体が設置面に接地する。この連載では、よくディスプレイ下部と本体接地面との距離をよく計測しているが、本機の場合はこの値が0mmということになる。昨今のテレビは低重心デザインが主流だが、本機の場合はその究極型といえる。

接地面からディスプレイ部の下部までの距離はゼロ。事実上ディスプレイ部が接地する置き方になる

 画面表面には外光反射フィルムが適用されているとのこと。たしかに室内情景の映り込みは皆無ではないものの、それなりに低減はされているようだ。

映り込みはなくはないが低減はされている

 スピーカーユニットは左右前面に前方出力でレイアウトされている。構成は片チャンネルあたりウーファ+フルレンジの2Way方式。合計4スピーカー構成で、総出力40W(10W×4)。

 やや低音のパワー感が足りず、中音域が強めな周波数特性を感じるが、テレビ内蔵スピーカーとしてはまずまずの音質。個人的には「イコライザー」機能の100Hzと300Hzのバンドをやや強めたい印象だ。

 音の鳴りに違和感を覚えたのは定位感。左右のワイド感はあるのだが、音の定位がスピーカーのある下側に来ているのだ。55型という画面の大きさにも起因しているのだろうが、映像と音像の一体感がもう少し欲しいと感じた。この価格帯のテレビを購入するユーザーは、自前のオーディオシステムでサウンドを再生することが多いと予想されるので、あまり問題にはならないのかも知れないが。

 消費電力は330W。年間消費電力量は191kWh/年。大体、同画面サイズの直下型バックライトシステムを採用した4K液晶テレビと同程度といったところ。

接続性チェック~3つのUSB端子は全て録画対応

 入力端子は、画面正面向かって左側側面と裏面にレイアウトされている。側面側の接続端子は主にデジタル系で、4系統のHDMI入力端子と3系統のUSB端子で構成されている。

側面側の接続端子はデジタル系

 HDMI1~4の全てのHDMI入力は4K/60Hz入力、CEC、Deep Colorに対応。ARCはHDMI“2”のみが対応する。

4K時にも10bit、12bitのDeep Color対応

 HDMI階調レベルの設定はなし(事実上、オート設定のみ)。今回の評価ではPS3の「RGBフルレンジ(HDMI)」設定を「リミテッド」にしたところ階調が正しく表示されないことを確認した。逆に、PC(NVIDIA GeForce GTX 1080)では「リミテッド」にしないと正しい階調が得られず。ゲーム機やPCではHDMI階調レベルはテストパターンなどを表示し、正しい表示かを確認したい。このあたりの調整項目の対応は、次期モデルでやって欲しいところ。

オーバースキャンのキャンセル(ジャストスキャン)の設定は用意されていた

 PCとの接続時には、3,840×2,160ピクセル/60Hzだけでなく、2,560×1,440ピクセル/60Hzでの正しい表示も確認できた。

 取扱説明書によれば、4K/60Hzは、RGB各8bit形式の他、YCbCr=444,420,422に対応する。また、420および422は色深度10bit、12bitのDeepColorに対応するとのこと。実際にNVIDIA GeForce GTX 1080で実験してみたところ、ちゃんとRGB各8bitでの4K出力を60Hzまで行なえた。なお、古めのHDMIケーブルでは4K/30Hzまでしか映せないので、うまく4K出力できない場合は、HDMIケーブルを疑うとよいかもしれない。

 3つのUSB端子は全てHDDの接続が可能で、録画に対応。3台同時接続も可能だ。ただし、USB 3.0に対応するのはUSB1のみ。また、本機は2系統のテレビチューナを搭載しているが、1基は視聴用、もう一基は録画用という割り当てのため、2番組同時録画には対応しない。

 背面側の接続端子はアナログ入力系がまとめられているが、1系統扱いとなっている。付属する4極ミニジャック変換ケーブルを用いて、コンポジットビデオ入力、コンポーネントビデオ入力が排他利用となる。

背面側の接続端子はアナログビデオ系

 背面側にはEthernet、光デジタル音声出力、ヘッドフォン接続用ミニジャックを装備。ヘッドフォン端子は側面側に付けて欲しかった。

 無線LAN機能はIEEE 802.11a/b/g/n/acに対応。2.4GHz帯、5GHz帯の両方に対応する。Bluetoothにも対応しているが、標準リモコン接続用に利用されているのと、専用キーボード対応のみで、ワイヤレスヘッドセット等の接続には対応しない。

B-CASカードは背面側に下向きに挿すデザイン

操作性チェック~まるでWiiリモコン? フリーポインティング操作

 電源オンから地デジ放送が移るまでの所要時間は約3.5秒。地デジ放送のチャンネル切換は約2.0秒。HDMI→HDMIの入力切換は約2.5秒。まずまずの早さといったところ。

 リモコンは丸みを帯びた細型のバーシェイプで握りやすい。先端が細く手前が太めで、持った時の感じも悪くない。

デザインだけでなく機能的にもとてもユニークなリモコン

 一般的なテレビのリモコンは、表面パネルにボタン形状の穴が型抜きされていて、その穴から実体ボタンが顔を出すような構造となっている。本機の場合はこうした「型抜き」構造ではなく、一枚の樹脂パネルに各ボタンの仕切りが凹凸で区分けされており、その各セグメントがボタンの役割を果たすようになっている。この方式のメリットは、飲み物などをこぼしてもリモコンの中に浸透する心配がないこと。

 一方、弱点として懸念されるのは、ボタンを押した時の操作感が淡泊になってしまうことだが、その点は大丈夫。本機のリモコンでは、各ボタンの裏側に、かなり強いクリック感のあるスイッチが配置されており、ボタンを押したときの「ポチリ」というフィードバックは普通のリモコンと変わらない。

音量上げ下げ、チャンネル上下、電源オンオフ、入力切換ボタンは強いエンボス加工がなされており、慣れれば手触りだけでこれらのボタンに届くなど、なかなかよくできた設計

 リモコンは本体と無線接続(Bluetooth)されており、画面に向けて操作しなくてもレスポンスする。それだけでなく、もう一つ面白い機能が詰め込まれている。それはLGが「マジックリモコン」として訴求するユニークなフリーポインティング機能だ。

 簡単に言えば、画面メニューのアイテム選択を、十字キーではなくリモコンを向ける方向で指定できる機能だ。イメージ的には、ゲームコントローラのWiiリモコン、あるいはレーザーポインタのような操作系をテレビリモコンで実現している。

 使ってみると、「たくさんのアイテムが並ぶ設定メニュー」の操作などは、順送りにカーソルを上げ下げする従来の十字キー操作系よりもスピーディに行なえる。

機能項目の説明がかわいいイラスト入りで行なわれる。ただの賑やかしではなくそれっぽい漫画になっているのが立派(笑)
メニュー表示やその構成はもう少し洗練度が欲しかった。機能項目名「映像オプション」が「映像オプシ…」に。メニューシステムに翻訳テキストを流し込んだような感じだ

 リモコン側に内蔵された慣性計測装置(IMU)で自律的にモーションを検出しているので、画面に相対していなくてもフリーポインティング操作が行なえる。ただ、こうした「斬新な操作系」を「使いにくい」と判断しがちな人もいるはずだ。そうした人のためにちゃんと十字キー操作も提供されている。例えば「設定」ボタンを押すと、フリーポインティング操作用のカーソルが出現するが、これを無視し、十字キーを操作すれば、そのまま普通のリモコンのように十字キーが機能する。

 実際に使ってみて、フリーポインティング操作が最も効果的に生きてくるのは、表示映像の任意の箇所を拡大できる機能。それこそ本当のレーザーポインタのように画面内の任意の箇所を自在に拡大することができるのだ。それも、かなりハイレスポンスでもたつきがない。テレビ表示映像だけでなく、番組表、メニュー表示に対しても効くし、さらにはHDMI入力映像でも拡大できるので、プレゼンテーション用途にも便利に使えそうだ。

映像種別問わずに表示映像の任意の箇所をフリー操作で拡大可能。拡大率や表示形状の変更にも対応。一時停止も可能

 さて、操作レスポンスがキビキビしていて、そのスピード感はほとんどスマホレベル。使い勝手のいい部分が多くて好感触なのだが、一方で気になった点もあった。

 1つは、HDMI入力の映像を表示している時に、数字ボタンを押してもテレビ放送に切り替わらない点。

 一度、[地上D][BS][CS]ボタンで放送種別を押してからでないと切り替わらない。一部の製品を除けば、日本メーカーの製品は数字ボタンでテレビ放送に直接切り換えられるため、少々違和感を覚えた。

 2つ目は番組表が4Kテレビとは思えないほど表示一覧性が低いこと。

 日本は地デジ放送局が多く、さらにその各テレビ番組は昨今、番組名が異常に長いものが多い。本機の番組表は5チャンネル表示、7チャンネル表示、9チャンネル表示が選べるが、5チャンネル表示では全チャンネル一覧性が低いし、かといって9チャンネル表示にすると長い番組名がほとんど表示されない。例えば「所さんのニッポンの出番!2時間SP★京都の魔界スポットで最強御利益!」は、これ自体が番組名だったのだが、本機の番組表の9チャンネル表示モードでは「所さんのニ」しか表示されない。この問題の原因は、番組表の表示解像度にあり、SD解像度相当の表示領域しかない。前述の便利な拡大機能もあるので、次期モデルでは4K解像度を活かした情報量の多い表示に改善してほしい。

日本のテレビ番組名は長いので電子番組表の表示情報量は要改善か

 3つ目の不満は、音声入力機能がほとんど使い物にならないという点。本機はインターネットに接続し、リモコンに話しかけることで音声入力が可能になるが、この認識精度が低い。日本メーカー製品が「●●を検索」という感じの自然言語入力に対応しているのに対して本機は単語認識のみ。しかも、認識率50%程度。ここも改善が望まれるポイントである。

 恒例の表示遅延の計測結果も示しておこう。今回も公称遅延値約3ms、60Hz(60fps)時0.2フレーム遅延の東芝REGZA「26ZP2」との比較計測を行なった。結果は「映像モード=ゲーム」設定で約17ms、60fps時、約1フレーム相当の遅延が計測された。

画質チェック。見事なHDR表現。有機ELこそ“動き”の見やすさと3D

 55E6Pの映像パネルは、4K/3,840×2,160ピクセル解像度の有機ELディスプレイパネルだ。冒頭で日本勢、韓国勢でもサムスンが開発を断念した方式は、RGB(赤緑青)の各サブピクセルをそれぞれRGB発光体として形成させるものだった。RGBサブピクセル方式は、サブピクセルサイズの極小領域にこのRGBに自発光させる有機材料を塗布し分けて成膜化する工程の難度が高く、高い歩留まりが実現できなかった。つまり、効率的な量産手法を確立できなかったといわれている。

 一方、本機で採用されているLG方式は、大胆に仕様を割り切る代わりに、歩留まりに配慮したものになる。RGBサブピクセルを形成させるのではなく、白色サブピクセルを形成させて、RGBの3原色発光は液晶パネルで長年培われてきたサブピクセルサイズのRGBカラーフィルターを適用することで実現させる。RGB画素の塗り分け工程が不要で全パネル白色有機材を塗布して成膜化すればいいので前出のRGB方式よりも製造難度は格段に下がるわけである。

 カラー表現はRGBカラーフィルターを使うと言う点では液晶パネルと同じなので、LG方式の有機ELパネルは、いわばバックライトの透過光の透過率を制御し、白黒濃淡表現しかできなかった液晶画素の代わりに、白黒濃淡表現が可能な自発光有機EL画素に置き換えたパネル……と言うことが出来るかもしれない。

55E6Pのピクセルを300倍で撮影。1ピクセルは左から「緑赤白青」という配列。上下間のギャップは意外に広い

 発色には「有機ELだから」という嫌なクセは感じられない。

 LG方式有機ELパネルの各ピクセルは、RGBカラーフィルターを適用した3原色サブピクセルに加えて、輝度を稼ぐために白色サブピクセルも動員してフルカラー表現を行なう。この白色サブピクセルの影響が発色に悪影響を与えないか心配する向きもあるようだが、赤緑青の純色の発色に不自然さは皆無であった。純色の黒へのグラデーション(階調)表現も不自然さはなく漆黒付近までアナログ感たっぷりの色味を残している。2色混合のカラーグラデーションも見慣れた液晶テレビの表示から違和感は感じない。白色サブピクセルを応用したフルカラー表現は相当、洗練されて来ている実感がある。

やや暗めの白表現のピクセルの様子。意外なことに白色ピクセルだけを発光させるのではなく、赤青と白を活用しているのが興味深い

 絶対的な純色の鋭さ、ダイナミックレンジはどうか。こちらも良好だ。赤の深みもいいし、青や緑には雑味がない。

 さて、有機ELの「自発光ピクセルならではの旨味」が最も活きる明暗差の激しい映像表現については、文句なし。本連載前回に取り上げたパナソニック「VIERA DX950」に対して「明部と暗部が同居した表現はもちろん、明部と暗部が隣接していても、暗部が暗部であり続けられる表示性能に驚かされた」という評価をしたが、55E6Pにおいても同様だ。

こうした暗い映像も暗部は果てしなく暗い
明暗差の激しい画素が隣接していても互いの表現を邪魔しない描写力は自発光ならでは。現実世界ではよくある室内のものが屋外の情景を映り込ませてできるハイライト表現がとにかくリアルに見える

 HDR対応のUltra HD Blu-ray(UHD BD)として、今回も「宮古島 癒しのビーチ」を視聴したが、チャプター1の夕暮れの風景で遠方のまばらな街の光がすごい。街の光自体はほんの数ピクセル程度の僅かな面積で皓々と輝いているのだが、この光の周辺の「紺色に溶け込んだような夕闇の雲」達はその街の光表現の影響を一切受けずに「一貫性のある紺色の雲のグラデーション」を維持していた。通常ブルーレイ版では夕闇雲も街の光も平面に張り付いた表現にしか見えないのに対し、UHD BDでは2D映像なのに明かな遠近感を持って視覚できるのだ。

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 この他、UHD BD「エクソダス:神と王」も視聴。定番の冒頭の父王から2本の剣がラムセスとモーゼに託されるシーンでは、金ぴかの衣装のハイライトがまばゆく煌めいていた。主要登場人物達の眼球に出ているハイライト表現も鋭く、「生きた目」の感じが演技に躍動感を与えている。

 UHD BDの「HITMAN」(米国盤)も視聴。坊主頭の殺し屋の男が主人公の本作は、様々な照明条件下で、主要登場人物達の顔がドアップになる場面が多い。人肌の表現をみるにはおあつらえ向きのタイトルなのだが、白色+赤緑青構成のサブピクセルによる肌色にクセがないか心配だったのだが、問題なし。肌色近辺の色ディテール表現はきめ細やかで陰影にもアナログ感ある味わいで自然に見える。本作は、黒基調のスーツや銃火器の陰影の見え方が見どころの1つだが、漆黒に落ち込まず、暗いながらもちゃんとスーツのしわの立体感、銃火器の鈍い黒光りが的確に描き出せていた。

肌色表現のピクセルの様子。赤緑に加えて白を暗く光らせているのが分かる

 さて、「有機ELは自発光」という点がもてはやされるが、自発光画素は暗く光らせることの難度が高いとされる。黒は自発光ゆえにシンプルに消灯すれば実現されるが、暗い色の表現は時間方向にノイジーな表現になったりしがちで、実際、有機ELテレビの試作機には一部そういったものがあった。

 では、本機はどうかというと、問題なし。今回の評価で見た「エクソダス:神と王」のチャプター7は、モーゼの出自が明かされる蝋燭照明の非常に暗いシーンだが、蝋燭の光があたるハイライト部分から当たっていない"陰"の部分までの陰影表現は非常にアナログ的で安定している。映画を再生した状態だとフィルムグレインの影響でチラチラして見えるが停止して見ればその暗色のダイナミックレンジの深さに驚かされるはずだ。

 これまではUHD BD/BDの画質についてだが、55E6Pはテレビ製品。デジタル放送の画質にも言及しておこう。

 地デジ放送を見てみると、日本メーカー製の最近のテレビ製品と比べると画質的にはもうひとがんばりが欲しい感じ。時間方向のランダムノイズを強めに低減しているチューニングのためか色ディテール表現がやや甘め。一方で、超解像処理はいわゆるリアルタイム・シャープネス・コントロールに近い働きで、輪郭付近にモスキートノイズが出たり、あるいはリンギングノイズが出ている。この辺りは要改善という印象を持つ。

 一方、UHD BD/BDのような高品質映像に関しては、上記のような問題はなし。表示品質はきわめて高い。

 そして、応答速度が液晶画素の1,000倍も高速と言われる有機EL画素。動画性能についても気になるはずだ。

 今回の評価では「エクソダス:神と王」「HITMAN」とアクション映画を視聴しているが、たしかに激しい動きについては切れがよくて、シンプルに「見やすい」。液晶テレビでもバックライトスキャニング、オーバードライブといった様々な動画表示性能の改善技術が適用されてきたが、やはり、本質的に高速な有機EL画素は、動く映像が美しく見える。映画などを見た場合に、もし、ブレが見えた場合は、恐らく撮影の段階で映像としてモーションブラーが撮影されてしまっていることに起因すると思われる。

 また、今回、格闘ゲームの「ストリートファイターV」(フルHD/60fps)をプレイしてみたが、ジャンプ軌道からの敵の攻撃などが驚くほどくっきり見えていた。

 なお、補間フレーム機能「TruMotion」の補間品質は今ひとつであった。今回、ブルーレイ「THE WALK」を視聴したところ、チャプター15の綱渡りしている主人公を警察ヘリが警告しながら旋回するシーンでワイヤーとビルが重なる境界やヘリから見下ろしたビルの情景に盛大な振動エラーが出現していた。「弱」「強」のいずれの設定においても表示映像には変化無し。また、ガクガクとした表示から突然スムーズになったり、あるいはまたガクガクに戻ったり……と動作は不安定で、ここは「オフ」設定が基本か。

 本機は3D立体視にも対応。3Dの対応方式はLG製なので当然、偏光方式という事になる。3Dメガネは2つ、標準で付属する。

3Dメガネが付属する

 3D映像は例によって「怪盗グルーの月泥棒」のジェットコースターシーンで評価。

 偏光方式らしく3D映像はかなり明るく見やすい。左右の目用の映像が両方薄く見えてしまうクロストーク現象はほぼ皆無で立派だ。ただし、画面の上辺とか辺の範囲内にいることが前提。横方向にずれてもクロストークは起きないのだが、画面の上辺や下辺からずれるとクロストークは起きてしまう。もし、クロストークが気になる場合は、設置台に置いた本機の画面と着座位置の関係を見なおした方がいい。

 偏光方式は、「縦解像度が半分になる弱点を持つ」と言われるが、55E6Pは4Kテレビということもあり、その点は心配なし。左右の映像はそれぞれ3,840×1,080ピクセルで表示されるので解像度の半分感はない。

 有機ELらしいキレのある動きと発色の良さとの相乗効果もあって最近見た3D映像の中では最も上質なものと感じたほど。

プリセット画調モード(映像モード)
あざやか
標準
省エネ
ライブシアター
スポーツ
ゲーム
フォト
HDR効果
シネマ1
シネマ2

おわりに。テレビとして細かな不満も、唯一無二の画質に価値

 今回の評価は「有機EL」という前提を意識せず、「普通の大画面テレビ」の視点で行なった。とはいえ、やはり映像パネルの物理設計、物理特性が違うので、画質はやはり液晶テレビとは異なる。だが、ネガティブになる部分はほとんど感じられなかった。結論を言えば、55E6Pはよくできた高画質なテレビだ。

 自発光画素のメリットである明暗差の激しい表現が隣接していても互いの描写に影響を及ぼしにくい表示性能は、ハイコントラスト表現、もっといえばHDR表現で、とてつもないポテンシャルを発揮できていた。

ユニフォミティ(輝度均一性)も良好。バックライトをパネルに当てる液晶とは異なり、自発光の有機ELでは画面の周辺と中央とで明るさの違いが出にくいのだ

 「白色有機EL×RGBカラーフィルター」そして「赤緑青+白のクワッドサブピクセル構造による色表現」……この2要素について、筆者は2012年時の試作機の記憶があったので、製品版の表示品質を不安視していたのだが、55E6Pの表示映像を見てその心配は杞憂に終わった。純色表現、微妙な色ディテール表現、繊細な暗色表現も優秀で、現在の液晶テレビのハイエンドモデルに優るとも劣らぬ色表現が実現できていた。

 それと動画性能。msオーダーの液晶画素の応答速度の1,000倍以上、μsオーダーの応答速度の有機EL画素はやはり動きのキレが違っていた。同じ自発光画素のプラズマテレビはサブフィールド駆動方式に起因した擬似輪郭がカメラパン表現などで起こっていたが、本機ではそうした現象は微塵もない。嘘偽りなく「動画に強い」と言い切れる。

 一方で、デジタル放送の表示品質がもう一つだったり、超解像、補間フレーム制御などの映像エンジンの完成度にもう少し頑張りが欲しかったり、電子番組表、メニューなどのUI、日本ローカライズ関連など、テレビ商品としての課題も感じた。

 とはいえ、高画質映像向けの大画面ディスプレイとしてみれば、性能に不満はなし。しばらくは、一般ユーザーが店頭購入できる唯一無二の存在として注目され続けるはずである。

 気になることがあるとすれば、この後、同じLG製の有機ELパネルを採用したテレビが各社から登場しそうなことだろうか。パナソニックは、2016年度内の有機ELテレビ投入を予告しているし、LGも他社へのパネル供給を積極化していく方針を明らかにしている。そうした製品の登場はもちろんだが、LGには有機EL本家として、さらなる画質向上と機能改善で真っ向から対抗して欲しい。

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トライゼット西川善司

大画面映像機器評論家兼テクニカルジャーナリスト。大画面マニアで映画マニア。3Dグラフィックスのアーキテクチャや3Dゲームのテクノロジーを常に追い続け、映像機器については技術視点から高画質の秘密を読み解く。3D立体視支持者。ブログはこちら