西川善司の大画面☆マニア

第219回:

エリア駆動を極めた驚異のHDR画質。VIERA「TH-58DX950」

液晶なのに自発光に見えるHDR時代の新基準

 今回評価するのは、かなり革新的な技術を投入してきたパナソニックの4Kテレビ最上位シリーズ「VIERA DX950」だ。高輝度な直下型LEDにより1,000nitを超える高輝度を実現したほか、ローカルディミング(LEDの部分駆動)の採用により、ハイダイナミックレンジ映像(HDR)の対応を強化したフラッグシップモデルだ。

VIERA TH-58DX950

 また、日本国内で初めてUltra HD Allianceによる「Ultra HDプレミアム認証」を取得した4Kテレビとなる。パナソニックが2016年に投入する4K/HDRの最高画質モデルだ。なお、今回、評価環境の問題で、映像視聴はUltra HD Blu-rayのみの数時間で、地デジ画質などは評価できていないので、いつもの大画面☆マニアの視聴条件とは異なったスタイルでの評価となったことをあらかじめお伝えしておく。評価したのは58型「TH-58DX950」。7月14日現在の実売価格は483,800円(税込)。

設置性チェック~狭額縁デザインで画面サイズアップ。音の良さに驚く

 TH-58DX950を目の当たりにして瞬間的に気が付くのがその狭額縁デザインだ。額縁レスではないが、画面サイズに対して見ればほとんど存在感がないレベルに狭い。実測してみたところ、上辺約11mm、左右辺約12mm、下辺約20mmであった。映像を映し出すとほとんど映像の存在感しかなく、額縁を意識させない。額縁がそもそも狭いので額縁への周囲の室内情景の映り込みも最低限だ。

狭額縁デザインのため、映像だけが浮かび上がるような表示が楽しめる
額縁幅は上辺約11mm、左右辺約12mm、下辺約20mm

 一方、表示画面の映り込みはそれなりにはある。相対する位置に照明器具や窓が来ることはできるだけ避けたい。

明るい部屋で暗い映像を見るとこんな具合に、それなりに部屋の情景は映り込む。照明の位置や窓の位置に注意して設置したい

 本体サイズはスタンドを含めて、1,297×373×823mm(幅×奥行き×高さ)。この外形寸法は数年前の標準的なテレビの50~55型に相当するため、それらからの買い替えでは同じ設置領域でインチアップが図れることだろう。

 ディスプレイ部の厚みは64mmで、直下型バックライトシステム採用機にしては薄い。重量はディスプレイ部のみで約27.5kg、スタンド込みで約31.0kg。スタンドは、各社で最近流行の金属のバーを折り曲げたようなリジッド(固定保持)タイプ。なので、左右スイーベル、上下チルト機構はない。

スタンドは棒状の2点支持タイプ。背は低い

 これまた最近の流行だが、スタンドは低背デザインを採用。ディスプレイ部下辺と接地面までの高さは約66mmしかない。これは標準的なブルーレイパッケージが5枚ほど入る隙間だ。テレビ台をある程度高くするか、視聴位置を座面の低いソファにしないと設置時に見下ろし視線になってしまう点には注意したい。

 パッと見た感じ、スピーカーが何処にあるか分からない本機だが、実際には、下辺側に下向きに設置されたインビジブルデザインだ。

 しかし、音質は驚くほどいい。どうやらこれは新搭載となった大容量スピーカーボックスの効果のようだ。

 DX950のスピーカーユニットは、片チャンネルあたりミッドレンジ、ウーファ、クアッド パッシブラジエーターの構成を取っており、ミッドレンジとウーファはそれぞれ最大出力40Wの高出力アンプによってアクティブ駆動される設計。ミッドレンジとウーファの最大出力はそれぞれ10Wで、左右合わせて40Wという振り分けだ。

内蔵スピーカー

 クアッド・パッシブラジエーターは、アクティブ駆動されるウーファの振動板に共振させて駆動させるパッシブユニット。実際にはパッシブ振動板を2基、対向配置することで、びびりを吸収しつつ、同時に低音を増強させる設計となっている。

 出音は、こうしたインビジブルデザインのスピーカーとは思えないほどの高音質で、低音は、わざわざ強調設定をしなくても十分なパワー感があることに驚かされた。それこそ、バスドラムの革の乾いたアタック音の輪郭がしっかり聞こえることには感心させられた。

 ミッドレンジが担当する高音の伸びも良好。ハイハットやライドシンバルのサスティン音が消失寸前までちゃんと聞こえる。かたやボーカル音域も存在感良好の聴き応え。テレビのスピーカーとしてはかなり上質だといえる。

 定格消費電力は441Wと高め。一方、年間消費電力量は189kWh/年と同画面サイズの4Kテレビとそれほど変わらない。

接続性チェック~専用カバーでケーブル接続部をすっきり覆う

 正面向かって左側にレイアウトされている接続端子パネルは、専用カバー付き。端子の脱着頻度が多いユーザーには不要だが、多くのユーザーは一度配線してしまえば、しばらく抜き差しはしない。端子部を覆うだけでなく、接続ケーブルをカバー下側の開口部にまとめることもできるので、ケーブル配線も美しくまとめられる。

 なおカバーは、抜き差し頻度の高い用途向けのはずの側面端子も覆ってしまうため、使うにはそれなりの割り切りがいるかも知れない。

接続端子カバーで配線もすっきり。下側から引き出せる

 HDMI端子は4系統あり、背面、側面に2系統ずつ。いずれも、HDMI 2.0でCEC、4K、HDR、HDCP 2.2対応となっている。ただし、オーディオリターンチャンネル(ARC)はHDMI 1のみとなる。

 アナログビデオ入力は、D4とコンポジットが排他で1系統にまとめられており、音声入力はアナログステレオ(RCA)のみ。このほか、LAN端子や光デジタル音声出力、ヘッドフォン端子(アナログ音声出力兼用)がある。

 ここ数年、パナソニック4Kテレビ上位機の特徴となっていたDisplayPortは、DX950では省略されてしまった。PCユーザーには重宝する端子だけに残念だ。

 USB端子は3系統あり、うちUSB1、USB2がUSB 2.0仕様で汎用USB機器接続用として設置されている。USB3は、USB 3.0対応で録画HDD接続用だ。他社製の対応機器でも録画コンテンツが視聴できるSeeQVaultにも対応している。

 SDカードに記録されたコンテンツを再生するためのSDカードスロットも装備。静止画だけでなく動画の再生にも対応しており、MPEG-2、AVCHD、MPEG-4/H.264に加え、最新コーデックのHEVC/H.265にも対応する。

 無線インターフェースとしては、Bluetooth 3.0と無線LANのIEEE 802.11a/b/g/n/acに対応。無線LANは2.5GHzと5GHzの両対応仕様だ。

 今回、テストは行なえていないが、本機は3D立体視に対応する。最近の4Kテレビ製品は3D立体視が省略されている製品が多いので、ここは1つのポイントとなりそう。3Dメガネは純正の「TY-ER3D5MW」の他、フルHD 3Dグラス・イニシアチブ仕様の3D眼鏡に対応する。接続はBluetooth方式を利用する。

操作性チェック~音声入力機能が標準リモコンに統合される

 電源オン後、HDMI入力の映像が表示されるまでの所要時間はHDCPなし映像で約2.5秒、HDCPあり映像で約3.0秒でまずまずの速さ。HDMI入力切換速度は、HDCPなしコンテンツで約2.0秒、HDCPあり4Kコンテンツではだいぶ遅く、約9秒であった。

一見するとどこも変わっていないように見えるリモコン。実は音声入力機能が統合されている。十字キー下側の水色のボタンが音声発音ボタンだ

 リモコンはパナソニック伝統の左右非対称デザインのもの。ボタン配置も含め、ほとんど、昨年モデルからの変更がないように見受けられるが、実はさりげない改革が行なわれている。

 それは、昨年モデルまでは別体となっていた音声入力機能付き「タッチパッドリモコン」が廃止され、音声入力機能を標準リモコン側に統合したことだ。

 筆者も以前から「2つのリモコンがあってもどうせ標準リモコン側しか使わなくなる」、「音声入力機能は標準リモコン側に統合すべき」という意見を述べてきたが、結果的にその通りになった。

 VIERAは、最近モデルでは操作レスポンスが向上していることもあり、YouTubeなどのネット動画チャンネルへの切り換えも早いため、音声入力の使い勝手はスマホの感覚に似てきている。いつも手近に置いている標準リモコンが音声入力に対応したと言うことであれば、スマホ感覚で、テレビに対して「○○をYouTubeで検索」といった使い方もする気になるというものだ。紆余曲折あったが、これが音声入力対応リモコンの「あるべき姿」に落ち着いた、といったところだと思う。

 ちなみに、音声入力発音ボタンは十字キーの下側に配置され、マイクユニットはリモコン上端にあしらわれている。

 実際に、メニューをいじっていてさりげなく便利だと感じたのは、メニューアイテムを選択すると、簡易説明がポップアップ表示される機能。項目名だけではなんの設定か分からないメニューも、およその見当が付く説明をしてくれるのはありがたい。

「ゲームモード」の説明も、こんなかんじで、分かりやすい解説がポップアップ表示される

 最近のテレビを使っていると「機能名が派手派手しいカタカナ語で、どんな機能か想像できない」「カタログ/Webに記載されている機能名と実機に実装されているメニュー名とが一致していない」といったことも多いのだが、DX950のポップアップ補足説明は、機能のナビゲーションとしてかなり参考になる。他メーカーも追従して欲しい部分だ。

 DisplayPort端子は省かれてしまったが、HDR(ハイダイナミックレンジ)対応のディスプレイモニター的な機能も充実している。HDMI階調レベル設定が、「HDMI RGBレンジ」設定としてRGBモードで設定できるだけでなく、「HDMI YCbCrレンジ設定」として色差モードで個別に設定できる。

HDMI階調レベル設定は「HDMI RGBレンジ設定」「HDMI YCbCrレンジ設定」としてRGBと色差で個別に設定ができる。設定範囲は「オート」、「エンハンス」(0-255)、「スタンダード」(16-235)の3種。ゲーム機やPCとの接続ではエンハンスが妥当だが、最近は「オート」設定の自動認識も優秀である
「オーバースキャン」設定もちゃんとある

 HDR映像に関する設定も充実している。HDR対応をHDMI入力系統ごとに個別設定できるし、HDR映像専用のガンマ補正とも言えるEOTF(Electro-Optical. Transfer Function)の選択設定、色空間択(Colorimetry)選択設定も行なえる。

「HDMI HDR」設定。HDR表示を行うか否かの設定
「HDMI EOTF」設定。ST.2084がHDR10対応の設定だ
「HDMI Colorimetry」設定。Rec.2020が4K/HDR映像の標準的な色空間設定。Rec.601はSD映像の色空間、Rec.709はHD映像の色空間
「HDCP設定」では著作権保護機構のバージョン設定を明示指定できる。4KコンテンツはHDCP2.2に設定しなければ視聴できない

 そして、本機は4Kテレビではあるが、フルHD映像ソースの入力時における振る舞いも細かく設定できようになっている。

 「1080pピュアダイレクト」モードは、入力信号をYUV=444であると見なして映像パイプラインに通すモードで、ベースバンド映像を取り扱うのに適したモードだ。

 「1080pドットバイ4ドット」は、東芝REGZAなどにも搭載されている、フルHD映像の1ピクセルを4K映像パネルで2×2の4ピクセルで描画するとモード。超解像処理やアップスケール処理がキャンセルされる代わりに、映像エンジンの介入なし、情報量過不足無しのフルHD映像が表示されるため、ゲーム映像などとの相性がよい。

アスペクト比の設定はいまやこの4種類のみに
色空間の設定とは別に「色域選択」も可能

 本機にも映像エンジンの処理を簡略化してシステム遅延を低減させる「ゲームモード」が搭載されている。本連載では恒例となっている、公称遅延値約3ms、60Hz(60fps)時0.2フレーム遅延の東芝REGZA「26ZP2」との比較計測を行なったところ、「1080pドットバイ4ドット」オフ時で約17ms、60fps時、約1.0フレーム相当の遅延が計測された。

 昨年モデルよりも遅延時間が短縮されたことについては高く評価したいが、競合のソニーや東芝の最新モデルが1フレーム未満の領域で勝負していることを考えると、競合機にはまだ一歩及ばない。

左がTH-58DX950、右が26ZP2。TH-58DX950が26ZP2よりも17ms遅れていることが分かる

画質チェック~エリア駆動、ここに極まれり。もはや自発光にしか見えず

 液晶パネルは垂直配向のVA型液晶パネルを採用。VA型液晶パネルは黒のしまりと暗部階調性能に優れる特質があり、高画質テレビではあえてVA型液晶パネルを選択するケースも多い。昨今のVA型液晶パネルはサブピクセルをマルチドメイン化することによって視野角性能も改善を見ており、よほど斜めから見ない限りは、IPS型液晶パネルと比較してもそれほど劣るモノではない。

サブピクセルが綺麗に縦方向にBGRの順で並ぶ

 さて、本機の映像を見て驚かされるのが、発色の美しさ。特に原色の深み、広色域かつ広色深度な点だ。そして、もう一つはヘイロー(HALO)現象がほとんど感じられない卓越したバックライトのエリア駆動である。

画面全体の輝度均一性も良好

 順番に解説していくが、まず色だ。なにより、緑、青、赤の原色が美しい。

 プラズマ時代から「記憶色の再現」はパナソニックが得意とするところだが、それ以上に、それぞれの材質としての物体色がリアルに見えるのだ。

 特に赤がスゴイ。

 今回の評価ではUltra HD Blu-ray「宮古島」を視聴しているが、赤いハイビスカスがアップになるシーンが、DX950の赤の表示能力を語るのにはおあつらえ向きであった。例えば、緑色の葉々の間から顔を出す赤いハイビスカスの花は、2D映像なのにもかかわらず立体的に見える。原色の赤の鮮烈さが一番見た目としてのインパクトが大きいのだが、赤い花の花びらが太陽光を浴びる角度による反射光の見え具合、花びら上の葉脈の見え具合、隣接する他の花びらによって遮蔽されることでできる陰影…… などがバリエーション豊かな赤で描き分けられていることにも感心するのだ。逆に、この映像から「自然界の赤はこんなにバリエーションがあるのか」ということを実感してしまうくらいであった。

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 ここまでの色豊かな表現力は、後述するエリア駆動も少なからず影響しているとは思うが、本機で採用した新LED光源に組み込んだ「新赤色蛍光体」の直接的な効能であろう。

新赤色蛍光体により色表現力を向上

 白色LEDは、実際の光源は青色LEDであり、ここに黄色蛍光体、ないしは赤緑蛍光体を組み合わせて白色を作り出すが、本機の新LED光源では赤色の色域拡大を図っている。

 この新赤色蛍光体採用の効果は、直接的には原色の赤表現を見るのが分かりやすいのはいうまでもないが、赤色が重要な素地となる肌色にもよい効果を与えている。これについては後述する。

 さて、2つ目は、エリア駆動の秀逸さについて、だ。

 DX950では、バックライトシステムは無数の白色LED光源を液晶パネルの直下に配置した直下型LEDバックライトシステムを採用する。

エリア駆動対応の直下型LEDバックライトシステムを採用

 直下型バックライトシステムには、液晶パネル側で表示する映像の明暗に応じて、バックライトの明暗分布を制御することで暗い箇所はより暗く、明るい箇所はより明るく表現することができる。こうしたバックライト制御は「エリア駆動」とか「ローカル・ディミング制御」などと呼ばれている。エリア駆動数が多ければ多いほど、細かな輝度制御ができることになるが、その分コストも嵩む。制御エリア数については非公開だが、'14年発売の4K VIERA最上位機「AX900」の4倍とのことだ。

秀逸なLED駆動がDX950の特徴

 他社製やパナソニック従来機でも「直下型バックライトシステム×エリア駆動」を採用したモデルは存在したが、DX950は、明部と暗部が同居する映像において、極めて高いコントラスト感を実現しているところが革新的なのである。

 「明部と暗部が"同居"する」では説明が至らないかも知れない。「明部と暗部が"隣接"する」映像に対応できている……といった方が適切だろうか。

低輝度部分も忠実に色再現

 漆黒の夜空に浮かび上がるイルミネーション付きのタワーや橋の映像において、明るいイルミネーションの光の描写が、漆黒の夜空に伝搬し、イルミネーション部と夜空の境界がほのかに明るくなってしまうのが従来のエリア駆動の限界であった。これは後光(HALO)の英単語からヘイロー現象と呼ばれる。

 これを低減するには、局所的な明暗制御を遠慮気味に行なうことが短絡的な解決策となるのだが、それではせっかくのエリア駆動がもったいない。

 エリア駆動には「コントラストを際立たせようとすればヘイロー現象が気になる」「ヘイロー現象を抑えようとすれば際だったコントラスト表現ができない」というジレンマがつきまとっていたのである。

 パナソニックは、ユニークな方法でこのジレンマを打開している。

 従来のエリア駆動では、最も明るく光らせたいLED光源を発光させても、この光を拡散させて均一化させる必要もあったため、制御対象エリアだけでなく、その周辺領域までが光ってしまっていた。これがいわばヘイロー現象の直接的な原因だったのだ。

 これに対しDX950では、各LED光源の四方向を隔壁構造で覆ってしまう構造を採用した。こうすることで、隣接するLED光源ブロックに対して迷光を伝搬させないで済む。

 しかし、これでは発光するLEDが実装されている一箇所だけが最も明るくなってしまう。そこで、光源位置を最も小さい開口率として光源位置から離れるに従って開口率を上げることで輝度均一性を実現する拡散板(フラッターパネル)を組み合わせ、この問題に対処したのだ。

新構造の液晶パネルを採用
隔壁構造で“迷光”を抑制
手前のフラッターで、画面を均一に発光

 こうした工夫により、「明暗差の激しい表現が隣接していてもヘイロー現象なし」「しかも高いコントラスト性も両立」という夢のバックライト制御が実現されたのである。

 実際の表示映像は、ほとんど自発光映像パネルと言ってもいいほど。かなり意地悪なテストパターンを表示してもヘイロー現象は出てこないし、コントラスト感は高く保たれたままである。

 一番分かりやすいのは、16:9アスペクトの本機では上下に黒帯が出るシネマスコープ(2.35:1)の暗い映画を日本語字幕付きで見た時だ。映像最下辺に白い字幕が出るのだが、その下にある黒帯が、その直上の白い字幕の影響を受けず漆黒のままなのだ。従来の液晶テレビであればエリア駆動を用いてしても、この黒帯は若干明るみを帯びるのに、本機では漆黒のままなのである。これは凄い!

こうした明部と暗部が隣接したような情景も、正確に表示出来ていた。最暗部は部屋の暗さに極めて近い黒レベルとなる

 今回の評価では、DX950のHDR映像の表現能力を量るべく、手持ちのUltra Blu-rayも再生してみた。DX950は「ULTRA HD Premium」認証を取得しているピーク輝度は最低でも1,100nit以上ある。

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 「エクソダス:神と王」の冒頭、父王から2本の剣をラムセスとモーゼが託されるシーンでは、主要登場人物達が身に付けている金ぴかの衣装のきらめき、そしてHDR映像ではいまや定番の評価ポイントだと筆者が勝手に思っている瞳の中のハイライトが鮮烈で、高いリアリティを感じた。

 「I LOVE スヌーピー」(米国盤)は、CG映画らしい原色表現と色ディテール表現が分かりやすいコンテンツだ。DX950の表示は淡い中間色の描写力に優れており、前述してきたように鋭い原色表現も得意なので、2D表現主体の本作のCGに、立体的というか、奥行き方向の深みを感じさせてくれていた。また、カメラ撮影による実写映像ではノイジーになりやすい暗部の柔らかな表現において、本作はCGならではの色味豊かな描写が見どころなのだが、この点についても「ヘキサクロマドライブ」と「カラーリマスター」の効能もあってか、情報量の多い映像が楽しめた。

 「HITMAN」(米国盤)は、人肌表現と暗いシーンの情報量を判断するのに適したコンテンツだ。顔面アップの機会が多い本作だが、色ディテール表現で描かれる肌の肌理、肌の脂質層に出るHDR感たっぷりのハイライトがリアルに見えていた。

 暗いシーンでの情報量はさすがといったところ。黒が「漆黒に締まる」だけでなく、暗い色の表現が豊かなのである。実写特有のノイジーな見せかけだけの情報量ではなく、暗部でも色ディテール表現ができるほどの暗色解像力には「たいしたものだ」という賛辞を贈りたい。

 映画コンテンツでは画調モードを「シネマプロ」で見てきたが、環境映像の「宮古島」は、「南国の明るい映像が中心」ということで、やや明るめの「シネマ」モードで視聴している。

 ハイビスカスの花のシーンについては上で言及しているので、ここではそれ以外について言及する。

 この作品、いまだ数少ないリアル4K撮影映像で、なおかつ60fps映像で、単調な内容とは裏腹に見どころ自体は意外に多い。

 まず、4K解像力が分かりやすいのは砂浜の引き波のシーンだ。砂浜に押し寄せた波が崩壊して海水が引いていく際に、無数の砂粒達が巻き添えを食って海側に流れていくのだが、その流れる砂粒1つ1つが目で追えるほど解像感が高いのだ。DX950では、この砂粒の流れる様がちゃんと目で追える描写力がある。

 同様に、DX950では、さざ波と岩肌が同居する映像がパンする映像において、4Kの高解像表現がボケることなく目で追うことができた。

 砂浜から海に向けて大きな穴が貫通した岩壁を外から映したシーンは、穴の向こうに見える海と、穴の中の暗がりと、手前の明るい砂浜が同時に見える映像で、明暗が同居した「いかにも」といった風情のHDR映像である。この映像も、穴の向こうに見える海原と空は妙に明るく、そして穴の内壁空間は暗いのだが、岩肌の描写は妙に情報量が多い。そう、暗がり領域は、明るい海原と空からの影響を受けずに明暗がそれぞれのダイナミックレンジで的確に描き分けられて見えているのだ。これは、前述した「隔壁」と「フラッターパネル」の効果の賜物といったところだろう。

ダイナミック。輝度優先の画調
スタンダード。標準画調
リビング。輝度を上げたスタンダード画調に相当
シネマ。輝度高めの映画視聴用モード。高画質機能は積極利用
THX(暗)。暗室視聴用のTHXモード
THX(明)。明るめの部屋向けのTHXモード
シネマプロ。本機特選の映画視聴用モード。原信号重視志向画調

自発光に迫る液晶テレビ。4K HDR液晶の一つの基準に

 黒があまりにも黒く表現できるため、暗部方向のダイナミックレンジが広がる事で暗部階調力と暗色のダイナミックレンジが広がって見えること。そして明暗が同居・隣接してても明部に暗部が引っ張られないことの安心感。このあたりがDX950の高画質の特質になるかと思う。

 液晶パネルの映像が、自発光映像パネルの表示映像に見えたのは、今年の1月に開催されたCES2016においてソニーが発表した「Backlight Master Drive」が初めてだったが、今回のDX950は、このBacklight Master Driveにかなり近いHDR感、コントラスト感が得られていた。ソニーのBacklight Master Driveはまだ技術展示レベルであり、「自発光に迫る液晶駆動」を実際に市場で入手できるという点で、DX950はオンリーワンの存在といえる。

 テレビとしてはもちろん、「明部と暗部が隣接する」映像データをかなり正確に表示できるHi-Fiディスプレイ製品的な価値もあるように思う。

 直下型バックライトシステム採用機が出始めたのは大体10年くらい前からだが、今回のDX950は、長きにわたる直下型バックライトシステムの歴史における、1つのマイルストーンと言っていいかもしれない。今後、他社の競合機も、DX950のHDR性能がベンチマークとして開発されることだろう。

 次回は、HDR時代の高画質ももう一つのベンチマークと目される、LGの4K有機ELテレビ「55EP6」に迫る。

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トライゼット西川善司

大画面映像機器評論家兼テクニカルジャーナリスト。大画面マニアで映画マニア。3Dグラフィックスのアーキテクチャや3Dゲームのテクノロジーを常に追い続け、映像機器については技術視点から高画質の秘密を読み解く。3D立体視支持者。ブログはこちら