西川善司の大画面☆マニア
第222回 お手頃4K AQUOS「LC-45US40」の絶妙なHDR画質と価格感。シャープの戦略製品に迫る
お手頃4K AQUOS「LC-45US40」の絶妙なHDR画質と価格感。シャープの戦略製品に迫る
2016年10月28日 08:00
Netflixをはじめとした映像配信サービスが4Kに対応し、4K Ultra HD Blu-ray(UHD BD)も、大手量販店では専用コーナーができるようになった。“ユーザーが求めれば”4Kのコンテンツに触れられる機会が増えてきている。パソコンもミドルアッパークラス以上のモデルは4K出力に対応するようになったし、ゲーム機も11月には4K出力対応のPlayStation 4 Proが発売される。映像以外のコンテンツでも「4K本格化」の潮流が強まってきた。
そんな流れを受けて、各社の4Kテレビのラインナップも変わりつつある。これまでの4Kテレビば、画面サイズが50型以上が中心だったが、最近は40型台の製品も増えてきている。加えて、以前は上位シリーズのみが4Kテレビだったが、2016年秋現在は、価格を抑えてコストパフォーマンスに優れた、“手の届く”4Kテレビが増えている。4Kテレビも、普及期に突入したということだろう。
シャープのAQUOSシリーズも2016年は4Kテレビの製品ラインナップ拡充に力を入れている。普及シリーズの「U40」を例にあげれば、2016年10月現在で40型の「LC-40U40」は10万円を切る価格でも販売されている。
今回紹介するのは、シャープが「ハイグレードライン」と呼んでいるミドルアッパークラスのUS40シリーズの45型「LC-45US40」。AQUOS U40/US40シリーズは、共に4月に発表されたのだが、このLC-45US40だけは、今秋に新設定された戦略モデルなのだ。
シャープが「売れる!」と見込み、年末商戦の目玉モデルと投入したのが「LC-45US40」だ。実売価格は18万円前後。さっそくその実力を見ていこう。
設置性チェック~軽量で低消費電力。スタンドはスイーベル対応
シャープによれば、LC-45US40は地デジ完全移行特需ブームの2005年前後のテレビからの買い替えを想定して製品化したという。40型でも46型でもない45型というサイズに大きな意味が込められているのだとか。スタンド込みの外形寸法は101.1×32.3×58.3cm(幅×奥行き×高さ)だ。
2006年発売の37型「LC-37BD1W」(アンダースピーカー)が93.2×30.6×71.9cm(幅×奥行き×高さ)、「LC-37BD2W」(サイドスピーカー)が108.6×30.6×65.3cmで、設置サイズとしてはLC-45US40とほとんど変わらない。最新世代機のほうが、ディスプレイ部の狭額縁化やスピーカーユニットのコンパクト化、スタンドの低背化などが進んでいるためだ。
シャープも「10年前の32~37型が置けていた人はどうぞ45インチモデルへ置き換え下さい」というメッセージを本機に込めているようだ。
実際、額縁レスとはいわないまでも、上下左右、全ての額縁部が狭い。左右と上辺は約8mm。下辺はやや広いが最も狭いところで約13mm、SHARPロゴがある最も広いところでも約23mmしかない。額縁部最外周は銀色で額縁そのものはハーフマットの黒色なのだが、やや暗めの部屋で映像を表示すると、ディスプレイ部の輪郭はほとんど意識されず、映像そのものが浮かび上がって見える。
重量は45型のわりには軽く、スタンド込みで約20kg。ディスプレイ部の重さは約16kg。今回、筆者一人で2階に運び、スタンド部とディスプレイ部を接合して設置できた。
本機のスタンド部は、最近のテレビでは珍しい、スイーベル機構付き。左右±30°の首振りに対応するのだ。10年前のテレビは首振り機構付きのスタンドを採用するモデルが多かったのに対し、最近はリジッドに固定するスタンドを採用するモデルが多くなってきている。ここは旧来ユーザーに地味にアピールポイントとなるかも知れない。
接地面とディスプレイ部下辺との隙間は約35mmで、一般的なブルーレイパッケージ4本分程度の隙間。かなりの低背なスタンドとなっている。
ディスプレイ部の表示面は、いわゆるハーフグレア加工の「N-Blackパネル」。このN-Blackパネルとは、液晶パネルの表示面側に屈折率の異なる透明板を重ねた構造にすることで、内側からの光(すなわち表示映像)はほとんど拡散せず透過させ、外光の方を表示面側に反射させにくい光学設計にしているそうだ。実際、同じ部屋に設置してある東芝 REGZA「55ZG2」(グレア加工)と見比べてみたが、たしかにLC-45US40の方が圧倒的に部屋の情景の映り込みが少なかった。
シャープは、LC-45US40の音響デザインにも自信を見せている。スピーカーシステムは、重低音再生専用のサブウーファーを含む2.1chシステムで、その設計はオンキヨーが担当している。総出力は35W。内訳はフルレンジ10W+10W、サブウーファ15Wだ。
普段聞き慣れている音楽などを聞いてみたが、下向きのインビジブルデザインのスピーカーセットのわりに音は良く、音量を上げても低音と高音のバランスもよい。下向きの出音のわりには、定位感も画面中央にあるように聞こえるし、疑似サラウンドモードを使わずとも左右の定位感もワイドで心地よい。
サウンド処理にヤマハ製の「AudioEngine」の新型を採用したそうだが、この「Acoustic total-linear EQ」機能が、出力条件としては不利な下向きレイアウトスピーカーで、周波数特性と位相のズレを総合的に補正しているのだと思われる。とにかく薄型テレビの内蔵スピーカーとしては十分及第点を与えられると思う。
消費電力は162W、年間消費電力量は128kWh/年。LC-45US40はバックライトシステムにエッジ型LEDバックライトを採用しているため、同サイズの直下型LEDバックライト搭載機と比較すると、消費電力はだいぶ低い。
接続性チェック~HDMI1のみ4K/60Hz、HDR対応。Miracastは継続サポート
本体正面左側の側面と背面に接続端子をレイアウトしている。
HDMI入力端子は4系統があるが、うちHDMI1~3の3系統が側面、HDMI4だけは背面側に実装されている。
HDMI端子は全てがHDCP 2.2に対応し、4K入力にも対応するが、4K/60Hz(fps)でYUV=4:2:0,YUV=4:2:2,YUV=4:4:4,RGB=8:8:8で出力できるのはHDMI1のみ。つまり、ハイダイナミックレンジ(HDR)対応は、HDMI1のみだ。
それ以外のHDMI2~4は4K/60Hz出力時はYUV=4:2:0に限られる。それ以上のYUV=4:2:2,YUV=4:4:4,RGB=8:8:8にの映像を入力したい場合は4K/30Hzまでの対応となる。
なお、AVアンプやサウンドバーなどとの接続を想定したオーディオリターンチャンネル(ARC)についてはHDMI2のみが対応する。
ひとことで言えば、現行の最新4K映像をフルスペックで取り扱えるのはHDMI1のみだ。最新製品の多くは全HDMI端子がHDRを含めたフルスペックにしているので、この点は少々残念である。最近はゲーム機、PCなど4K出力対応機器が増えてきているだけに、将来性という意味でやや不満を感じる。
HDR信号を扱うときの注意点をひとつ。HDMI1にPCやPS4 Pro、あるいはUHD BDプレーヤーを接続しているのに「RGB=8:8:8やYUV=4:2:0以上で4K/60Hz出力できない」、「HDR出力できない」といった状況に遭遇するかも知れない。HDRを楽しむためには、「設定」-「機能切換」-「外部端子設定」-「対応信号モード切換」メニューで「フルモード(HDR)」を選ぶ必要がある。デフォルトでは「互換モード」に設定されてしまっていて、HDMI2~4とほぼ同等の機能に落ちてしまっているので、必ず設定をすべきだ。
シャープは、他社がとっくに省いたアナログRGB入力端子(D-Sub 15ピン)を、最新モデルにも搭載し続けており、C-45US40にもちゃんと実装している。なお、アナログRGB入力端子では、フルHD(1,920×1,080ピクセル)までの入力に対応する(4K入力は不可)。
アナログビデオ入力は、付属の変換ケーブルを側面側の「入力5」端子に接続することでコンポジットビデオ入力とアナログ音声入力(RCA)を利用できるようになる。ちなみに、この音声入力端子はHDMI1入力や前出のアナログRGBの音声入力として利用する事ができる。このアナログ音声兼任機能を活用するためには「設定」-「機能切換」-「外部端子設定」-「入力音声選択」メニューで「アナログ音声入力」を選択しなければならない。
音声出力端子は、背面側に光デジタル音声端子、側面側にヘッドフォン出力、ラインアウト(RCA)を備えている。Ethernetのほか、IEEE 802.11a/b/g/n/acに準拠した無線LAN機能も備える(2.4GHz/5GHz対応)。
USB入力端子は2系統。ともにUSB 3.0に対応する。ただし、USB1端子とUSB2端子とで明確に用途が分かれており、それぞれUSB1はUSBメモリやカメラ機器などの接続用、USB2は録画用HDDに割り当てられている。USB上のJPEG写真や、MP3、WAVなどの音楽、M2TS、MP4、3gpといった動画ファイルの再生にも対応しており、メディア再生対応力はかなり高い。
USB HDDは最大16基まで登録することができ、USBハブを介せば、複数のUSB HDDを接続することができるが、同時に録画や再生が行なえるのは1基のみ。
Bluetoothレシーバ機能も搭載。また、無線LAN機能を駆使して映像や音声を伝送させるMiracast(シャープはこの機能を「スマホスクリーン」と呼称している)にも対応しており、スマホの画面や音声をLC-45US40に出力できる。
操作性チェック~リモコンが新デザインに
リモコンは、シンプルなデザイン。以前のリモコンで採用されていた数字ボタンだけは白地・黒文字の大判文字にしていたデザインもよかったが、今回の新デザイン版もボディサイズは小さくなったが使い勝手は変わらないと思う。[2画面][字幕][音声切換][録画リスト]など使用頻度の低い機能から高い機能までをうまく小さいボディにレイアウトできている。CEC制御用の再生制御ボタンに[10秒戻し][30秒送り]があるのもいい感じだ。
電源ボタンを押して地デジ放送が画面に出るまでの所要時間は約10.5秒で最近の機種としてはかなり遅め。待機時消費電力は大きくなるが、起動時間を早くできる「クイック起動」を有効化すると約4.0秒にまで短縮できる。
地デジ放送のチャンネル切換は約2.0秒でまずまず。しかし入力切換(別系統のHDMIへ)で約6.0秒は少し遅め。入力切換は[入力切換]ボタンを押してから開かれる入力メニューから選択する方式。
アスペクトモードの切り替えは[ツール]ボタンから「画面サイズ」メニューを出してから選択する。切換所要時間はゼロ秒。
アスペクトモードは、最近の他社製品は縮小方向にあるが、LC-45US40は、従来AQUOSと同様豊富である。クラシックな映像コンテンツを多く所有している人には嬉しい配慮かも知れない。
モード名 | 概要 |
---|---|
ノーマル | 4:3映像をアスペクト比を維持して表示する |
シネマ | レターボックス記録された映像を拡大表示する |
フル(フル1/フル2) | 入力された映像をパネル全域に表示する。実質的にはオーバースキャンモードとして動作する |
スマートズーム | 4:3映像の外周を引き伸ばして表示する疑似16:9モード |
ワイド4:3、ワイド16:9 | 16:9映像中の4:3領域をパネル全域に表示する。 |
Dot by Dot/アンダースキャン | 入力信号の1ピクセルをパネルの1ピクセルに対応づけて表示する。実質的にはアンダースキャンモードに相当する |
メニューの操作感は全体的にもっさりとしている。[ホーム]ボタンを押してメニューが開かれてカーソル操作ができるまでの所要時間が約4.0秒で結構待たされる。
「設定」メニューを操作したい場合は[ホーム]から行かずに[ツール]ボタンを押して開かれる「ツール」メニューから「設定」を選んだ方が早い。メニューグラフィックはフルHDをスケーリング拡大しているだけのように見えるので描画負荷が原因ではないようだが、最近は他社の競合製品がスマホ並みにキビキビ操作できるようになっているので、このもっさり感はいただけない。
一方で[番組表]ボタンを押して開かれる電子番組表は4K解像度で描画されているようで、文字フォントが美しい。[赤]ボタンを押すと3段階に番組表表示を拡大できる機能もユニークだ。個人的な要望としてはせっかくの4Kの高解像度画面なので、各拡大率において1、2段階小さいサイズの文字フォントが選べる一覧性に優れたモードがあってもいいような気がする。
使っていて便利だったのは[?]ボタン。設定メニューの項目にカーソルを合わせた状態で[?]ボタンを押すと、その項目を解説する電子取扱説明書の該当ページにジャンプができるのだ。シャープ用語、AQUOS用語も少なくないので、「何の設定だこれ?」と思ったときにはとても便利であった。
AQUOSといえば、最初期からテレビにインターネット連携機能を搭載していたが、本機でもそのあたりについてはユニークな機能が搭載されている。今や一人一台ペースで携帯電話を持っているため、ちょっとした調べものや欲しい情報の取得は、テレビを使わずにゴリゴリにパーソナル・カスタマイズされたスマートフォンを使ってしまう。なのでテレビに搭載されているインターネット連携機能は、複数回のリモコン操作をさせる時点でほとんど使われない。一般ユーザーに使わせるには「リモコン操作をほとんど使わなくて済むこと」「スマートフォンを使うことがむしろ遠回りとなる調べ物であること」に拘る必要がある。
LC-45US40では[インフォメーション]ボタンを押すことでTSUTAYA TVやクランクイン!の人気コンテンツランキング情報、天気予報、おすすめ番組情報、未視聴録画番組情報を表示してくれる。初期設定は少々面倒だが、一度設定すれば[インフォメーション]ボタンを押すだけで、インターネット上や本体側の最新情報が見られるようになる。
もう一つは「スマートサーチ」機能だ。LC-45US40は、ネットコンテンツをキーワード検索する機能が搭載されているが、文字入力は画面キーボードからのリモコン入力で最初からやる気が削げる。音声入力にも対応していないので、ほとんどこの機能を活用しないのでは?…と思われそうだが、実は、テレビ番組、録画番組を見ているときに限っては、番組情報から抽出した想定キーワードが、検索キーワード候補として自動入力されて一覧展開されるので、ユーザーはそれを選ぶだけで検索が行なえるのだ。この機能は[虫眼鏡アイコン]ボタンで一発呼び出しできるのでリモコン操作も最低限だ。
AQUOSと言えば、2画面機能にも力を入れているが、LC-45US40のものもなかなか高機能だ。
2画面表示できる組み合わせは、HDMI入力同士が不可だが、それ以外はほぼ全てOK。HDMI入力とデジタル放送はもちろん、デジタル放送同士もOKだし、USB HDD録画コンテンツとデジタル放送もOK。Miracast画面はデジタル放送やHDMI入力と組み合わせることもできる。
また、2画面機能は2つの画面を横に並べる「サイド・バイ・サイド」表示のほか、親子画面の「ピクチャー・イン・ピクチャー」表示も選べるのはたいしたものだ。
録画機能についても簡単に触れておこう。LC-45US40は、3チューナを搭載しているのでUSB HDDには2番組の同時録画をしつつ、録画中の番組とは別の番組を視聴することができる。
表示遅延は、公称遅延値約3ms、60Hz(60fps)時0.2フレーム遅延の東芝REGZA「26ZP2」との比較計測行なった。最近問い合わせがあったので改めて言及しておくが、映像はPC側から2画面出力しているのではなく、HDMI分配器からの2画面出力で計測している。
結果は、「ゲーム」モードで60fps時、約3フレーム(50ms)、「標準」モードで60fps時、約9フレーム(150ms)の遅延が計測された。最近の製品は「ゲーム」モード時は、1フレーム未満の機種が多いので、この結果は少々残念だ。
画質チェック~エッジ型バックライトのHDR表示能力はいかほどか
液晶パネルは垂直配向型のVA型液晶パネルを採用する。VA型なので、視野角的にはIPSよりも狭めということになるが、画面に相対する正面付近から見る分には特に問題は感じない。むしろVA液晶特有の黒の締まり感の良さが際立つ。
いくつかの方向から見てみた感じでは、左右・横方向から見た時の色変移よりも上下、縦方向から見た時のほうが、色変移は大きいと感じる。着座位置と設置台に載せた本機の画面中央との位置関係はある程度、購入前にシミュレーションしておくべきかも知れない。
バックライトシステムはエッジ型LEDバックライトを採用する。エッジ型だと表示映像の明暗分布に連動して輝度分布を変化させるエリア駆動への対応ができない、もしくは動作が限定的となるわけだが、直下型バックライト機には及ばないまでも、黒浮きは最低限に抑えられている。
今回の評価では意地悪に、左右で全白全黒に分かれている画像や、上下で全白全黒に分かれている画像を表示してみたが、その最暗部の黒色の照度はどちらの画像でも変わらなかった。しかも、その黒から漏れてくる光は最低限だ。VA型液晶の特性なのかも知れないが、エッジ型バックライトでも黒表現はかなり良好だ。フレーム単位でバックライトの輝度調整を行なっていることもあり、「黒浮きが気になる」という局面はそれほどない。
また、ユニフォミティ(輝度均一性)もテスト画像で確認した限りは良好。もともとAQUOSの上位シリーズはユニフォミティに拘る傾向があるので、このあたりは従来通りの安定の品質という印象だ。
発色も良好で、赤緑青の純色はかなり鋭い。また、色ダイナミックレンジも相当広い印象で明色は色鮮やかに輝き、暗色はかなり暗くなってもちゃんと色味が感じられる。純色の明暗グラデーションを表示させると最暗部直前までちゃんと色味が残っているのは立派。エッジ型バックライト機では、最暗色が黒浮きに負けてグレーだか有彩色だかうやむやに見える事が多いのだが、本機ではちゃんと見える。
肌色も、過度な赤味でごまかしてもいないし、白色LEDバックライトでありがちな黄味の強いクセもない。実にナチュラルで透明感と血の気の表現のバランスがいい。
テレビ放送も確認したが、さすが日本メーカー製。地デジ放送のMPEG-2映像のクセをうまく“いなし“て、モスキートノイズやブロックノイズの存在を感じさせない高画質の表示が行なえていた。超解像処理は他社のような元映像から大胆に加工するようなタイプではなく、映像の解像度情報の周波数を「低・中・高」に区分して適度にシャープネスを強調しつつアップスケールするアルゴリズムとなっているようで、これ見よがしな微細ディテール強調はなく、フルHD映像はオリジナルの解像感を破綻させず、それでいてジャギー感は目立たないような、自然な見え方になっている。
そしておまちかね、HDR(ハイダイナミックレンジ)映像の表示品質はどうか。
LC-45US40は、2016年登場の最新モデルだけあってHDR映像表示に対応している。HDR表示といえば、直下型バックライトによるエリア駆動がなければそれほど効果がないのではないか、と思われるかもしれない。そのHDR表示能力がどの程度なのかは、気になるポイントだ。
「バットマン vs スーパーマン」のバットマンがトラップでスーパーマンを迎え撃つシーンでの大爆発表現などを、2K BD(SDR:標準ダイナミックレンジ)とUHD BD(HDR)とで同一場面映像を映してみたが、違いは明白だった。UHDブルーレイの方が爆炎が圧倒的に明るく、そして爆炎の中の色が豊かでしかも爆炎の白黄橙赤のグラデーションも鮮明に描きわけができていた。2K BDの方は爆炎の輝度が低いだけでなく、爆炎の中の色の描きわけができておらず、白や黄に飽和してしまっていた。HDRの効果は十分に感じられた。
明暗がそれほどはっきりしていない映像はどうか。「エクソダス」冒頭の剣の譲渡シーンなどは直下型バックライトモデルだと眼球に乗るハイライトが相当鋭く輝いて見えるのが、LC-45US40はそれほどでもない。
暗い映像はどうか。「宮古島」冒頭の夕闇の海辺のシーンは、遠くの灯台や街明かりがUHD BDの方は鋭く明るい。それでいて夕闇は暗く、そしてかすかに残る赤らんだ空のの赤味にも深みがある。2K BDの方は暗闇が全体的に明るいのは階調設計の違いだとは思うが、空や海がグレーに沈んでいて明暗差に乏しく赤らんだ空も薄い橙一色が広がるだけで薄っぺらい。日が沈みかけた海も2K BDの方はグレーに落ち込んでいるが、UHD BDの方は濃い青の濃淡が感じられて水深の深さも伝わってくる。
ある程度の得意・不得意はあるようだが、おおむねLC-45US40のHDR表示はよくできていると思う。
補間フレーム挿入を活用した倍速駆動にも対応する。AQUOSの近年モデルは補間フレームの生成品質に優れているが、念のために本機でも評価を行なった。例によってテストに用いたのは「ダークナイト」冒頭とチャプター9のビル群の空撮シーンだ。LC-45US40では補間フレーム挿入の強度を「アドバンス(強)-アドバンス(標準)-スタンダード-しない」の4段階が選べるが、最も補間フレームの支配率が高い「アドバンス(強)」でも補間エラーは確認できず。つまり良好な補間精度だった。
テレビ放送などを見ていると、遮蔽物からオブジェクトが出現したり、画面外から横スクロールしてくるテロップに時々、補間フレームエラーが起きる瞬間が目に付くが、最近のテレビ製品の中では完成度は高いと思う。
3D立体視は非対応。なお、AQUOS US40シリーズでも、より大型の「LC-60US40」、「LC-55US40」では、3D対応となっている。
HDRを十分に楽しめる手頃な4Kテレビ
今回の評価は、テーブル上に設置して視距離が1メートル未満の、比較的近めの設置環境で行なった。
45型という画面サイズは比較的視距離が近い環境では十分に大画面だし、視距離が近い分、4Kの高精細表現が冴える。また、視距離70cm程度であれば、PCディスプレイ的に使っても大きすぎず遠すぎずで普通に使えるのも発見であった。
LC-45US40は、日本の家庭事情にジャストサイズのリビングテレビであると同時に、パーソナルに使うにも適した4Kテレビだと思う。
気になっていた「エッジ型バックライトによるHDR表示能力」は、評価前はそれほど期待していなかったのだが、実際に見てみると、本文でも述べたように、いい意味で予想を裏切られた印象だ。
もしかすると、エッジ型バックライトなのになぜHDR表現がここまでよくできているのか不思議に思う人もいるかも知れないでの、少しだけ補足解説をしておこう。
以前の液晶パネルは画素駆動のRGBの各階調レベルが10bit以上のパネルも存在したが、現在の液晶パネルの多くは、8bitとなっているという。そこで、現在の液晶パネルでは、8bit以上の階調表現には、時間積分的な手法を用いることが多いのだとか(液晶パネルの入力仕様では10bit入力仕様でもパネル側の画素は8bit駆動のパターンが多い。この場合、パネル側で時間的、空間的な誤差拡散を行なう)。そう、例えば倍速駆動パネルなどでは2フレームにまたがるような階調表現を行なうのだ。といっても、実際には2フレーム目の階調駆動は補償動作(ディザみたいなもの)になるようだが。とにかく、エッジ型バックライトにおける階調ダイナミックレンジを拡張する表示にはこうしたテクニックを使うことが多いらしい。
エッジ型バックライトでは、1フレーム内で局所的に明暗を制御することはできないが、フレーム単位での輝度の調整は行なえる。つまり、エッジ型バックライトでも、「フレーム単位のバックライト輝度制御」と「液晶画素側の時間積分的階調ダイナミックレンジ拡張テクニック」を併用すると、「素の8bit階調制御で表示する映像」よりは各段にダイナミックレンジの高い表示が行なえるのだ。もちろん、漆黒画素(0nit)と最大輝度画素(10,000nit)が同居するHDRフレームを想定スペック通りに表示するのは無理だが、表示するフレームの平均輝度を求めて、この値を基準にしてエッジ型バックライトの輝度を決めつつ、液晶画素側の階調表現も決めるようにする「二段階階調決定システム」とすれば、そのセットで表現できる最大ダイナミックレンジを得ることは出来る。
HDR映像技術が台頭する前でも、映像エンジン側でSDR映像を独自解釈し、疑似的にHDR拡張し、前述のようなバックライト輝度制御と時間積分的階調ダイナミックレンジ拡張テクニックを組み合わせた「疑似HDR表示」は存在していた。これらは、あくまで疑似的なHDR表示であった。
一方、UHD BDに採用されたHDR映像は、人間の視覚特性に対応させたPQ(Perceptual Quantization)関数を用い、10bit深度で階調割り振りを行なった“リアル“HDR映像だ。もちろん、現実世界のコントラスト感を完璧に表現できるわけではなくとも、映像エンジンが勝手に独自解釈して作り出したものではなく、映像データ自体がHDR情報を含んでいる。この差は大きい。
まとめると「8bit階調液晶パネルにフレーム単位のバックライト輝度制御でも、それなりにハイダイナミックレンジ表示は行なえる」「従来は独自解釈して疑似HDR表示を行っていたが、今や本物のHDR映像があるので、従来よりは格段に優れたHDR表示ができるのは当然」ということである。
AQUOSでも、US40シリーズより上位のX型番シリーズは全て直下型バックライトを採用しており、それらと比較すれば優劣は存在する。しかし、エッジ型バックライトのUS40シリーズでもHDR表示対応は十分に意味があると、今回の評価で感じた。
音響性能も良好だし、地デジ放送も美しい。録画機能もスマホ連携やネット機能も搭載。惜しむらくはゲームモードの遅延が大きいということだが、それ以外に大きな弱点は見当たらない。これで価格は18万円前後。LC-45US40の4Kテレビ製品としての完成度は高いといえる。
LC-45US40 |
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