西川善司の大画面☆マニア

256回

LGの変態的マルチ4Kディスプレイ、4画面でテレワークもゲームも効率アップ!?

困難な時代こそ大画面。マルチに使えて切替不要なディスプレイ求む

4画面を同時に表示できる4Kディスプレイ「LG 43UN700-B」

この前代未聞の外出自粛で、ワークフロムホームの最中にあっても、人類は大画面への渇望を緩めることはないだろう。いや、むしろこの混乱こそが、我々人類に大画面が必要であることを改めて再認識させてくれたように思う。

3月から5月の筆者といえば、全ての海外出張が中止。予定されていたイベントも全てがキャンセルとなり、仕事に大打撃を被ったが、そこはそれ。気分を入れ替え、大画面による映画三昧、ゲーム三昧の暮らしを送っていた。

ゲーム三昧の様子は筆者のYouTubeチャンネルを見て頂ければ分かるが、2年前に導入したサムスン製の32:9アスペクト、解像度3840×1080ピクセルの超横長湾曲ディスプレイ「C49HG90」を用いて32:9ゲーミングに明け暮れていた(2年前の散財記事はコチラ)。

筆者はこの未曾有の外出自粛時勢の間、陰謀渦巻くサンパウロの街に平和を取り戻し(「MAX PAYNE3」)、邪馬台国の謎(「トゥームレイダー」)、不老不死の秘密(「ライズ・オブ・ザ・トゥームレイダー」)、マヤ文明の呪い(「シャドウ・オブ・ザ・トゥームレイダー」)に挑んでいたので、ストレスゼロ。この春、筆者は「PCゲーミングは超横長湾曲画面でプレイすると数倍楽しさが増す」という新たな知見を得た。

ここ最近は、超横長ワイド画角のPCゲーミングに明け暮れていた。その模様の詳細は筆者のYouTubeシャンネルにて!

とはいえ、遊んでばかりいたわけではない。オンラインでの仕事やミーティングも増えた。いわゆるテレワークというヤツで、Zoom、Teams、WebExを使って複数のウィンドウをこねくり回しながら、Webカメラを睨んでいたのだ。

そんな境遇が続く中で感じたのは「ディスプレイ入力機の切り換えが面倒くさい」である。

筆者のディスプレイ環境には複数のPCやゲーム機などが接続されているので、仕事や遊び、やることに応じて各ディスプレイの入力系統を切り換える必要があり、これがなんとも面倒だと感じられるようになってきたのだ。

何がどう面倒なのか。

まず、PCディスプレイ機器は入力切換の操作系が面倒だ。たかだかHDMI 1からHDMI 2に切り換えるだけなのに、ディスプレイ下部に列んだ数個のボタンを操作してメニューをまさぐらなければならない。やっと入力切換が実行できたとしても、その操作の瞬間に表示系統が切り替わることはなく、数秒は待たされる。切換速度が遅い機種だと10秒近く待たされることだってある。

だったら、そもそも入力切換をしなくていいディスプレイはないものか、とリサーチした結果、見つけたのが今回取り上げるLGの「43UN700-B」なのだ。

43UN700-B

製品概要チェック~仰角調整は+10度まで。魅力的かつ多彩な多画面表示機能

画面サイズ43型の43UN700-Bは、PCディスプレイ製品としてはかなり大きい。ほとんどテレビ製品の梱包箱というイメージだが、ディスプレイ部の重さは13.8kg。一般的な体格の成人男性であれば取り出せるとは思う。

スタンドを含めないディスプレイ部の外形寸法は、967×71×571mm(幅×奥行き×高さ)。成人男性が普通に両手で持てる程度の大きさといったところ

スタンド部は約3.7kg。

ディスプレイ部とスタンド部との接合は、ユーザー自身で行なう。とはいえ、ディスプレイ部とスタンド部の接合部を4箇所ネジ留めするだけで簡単だ。ネジ穴は200mm×200mmで開けられているのでVESAの200mmマウントが使える。付属スタンドではなく、市販の壁掛け金具やディスプレイアーム器具を使って設置することもできる。

背面。スタンド部を合体させず、背面中央のカバーを付けなければここにVESAマウントを取り付け可能

ディスプレイとスタンドを合わせた重量は、17.5kg。決して軽いわけではないが、ディスプレイ部両端を持って、ちょっとした移動ならば行なえるだろう。

スタンドはスイーベル回転には対応しないが、下向き-5度、上向き+10度のチルト調整には対応。普段から40型オーバーのディスプレイを視距離50cm未満で使っている筆者からすると、このチルト機能はとてもありがたい。筆者がディスプレイとして使っている東芝レグザ「40M510X」はこの機能がないため、市販のゴムブロックをスタンド手前側に挟んで嵩上げしてやや上向きにしているほどだからだ。

筆者が普段から使っている多画面環境。正面中央はモニター的に使っている40型の東芝レグザ「40M510X」。視距離50cmだとやや上向き設置が丁度いいのだが、40M510Xはそれができないため、設置デスクと40M510Xのスタンドの間に、高さ3cmほどのゴムブロックを挟み込んでやや上向き角度に調整している
ユーザーの視線に対して直角な状態
仰角+10度のやや上向き状体。
仰角-5度のやや下向きの状態

上下方向の高さ調整機能はなし。ディスプレイ部の下辺は設置台から約10cmのところにくる。一般的な高さ調整機構付きのディスプレイ製品でいえば、一番下にあるようなイメージだ。やや低いが、画面が上方向に大きいので、これで妥当だと感じる。

スタンドの設置部の大きさは筆者実測で340×264mm程度。ディスプレイ部と比較するとコンパクト。ディスプレイ部が左右にはみ出ていいならば(もちろん推奨はしないが)、小さな台にもおけそう
ディスプレイ部の額縁は、筆者実測で左右辺と上辺が約12mm、下辺が約15mm。際だった狭額縁デザインではないが、額縁の存在感が目立つほどではない

本体下部左右にはステレオスピーカーを内蔵する。

出力は10W+10Wで一般的なテレビ製品並み。音質はディスプレイ製品であるということを考えるとかなり良好な部類だろう。低音もパワー感もあり立派。音像の定位が下にあるのが気になるが、YouTubeを見たり、ゲームをしたり、MP3を聴くような用途で十分使える。意外と大音量でも音質変移が少ないので、特にこだわりがなければPCスピーカーは不要かもしれない。

ディスプレイ部の左右下部にレイアウトされたステレオスピーカー。音質は想像よりもだいぶ良好

電源は3芯コネクタの太いタイプ。ACアダプタ経由ではない。定格の消費電力は95W。同サイズテレビ製品と比べると小さい。

特徴として推せるのが、接続端子の充実振りだ。HDMI×4基、DisplayPort×1基、USB-C端子×1基を実装し、総計6系統の入力系統に対応する。

しかも、これら任意の入力系統を最大4つまで「田」の字状に並べて表示できるのだ。もちろん2画面表示もでき、その場合は2画面を大小の親子画面的に表示するPicture in Picture(PIP)モードや、左右あるいは上下均等に表示するPicture by Picture(PBP)モードを選択できる。

4画面表示のイメージ
こちらが実際に4系統入力を「田」の字に配置してPBP表示させた状態。左上がPS4、左下がPC1、右上がBDプレイヤー、右下がPC2

特筆すべきなのは、PBPモードの動作だ。

なんと、接続したホストPCからは接続先の43UN700-Bが、上下表示モード時は32:9アスペクトの3840×1080ピクセル2画面として、一方、左右表示モード時は8:9アスペクトの1920×2160ピクセル2画面として見えるのだ。そう、圧縮表示ではなく、ネイティブ解像度でPBPが利用できるのである。これはPBPモードが変わると、ホストPC側に返すEDIDまでもがリアルタイム変身するということである。よくもまあこんな変態的機能を搭載したものだ。

それこそ2画面の32:9モード時は、冒頭で紹介したような超横長ゲーミングを楽しむことだってできる。筆者などはゲーム実況をよくやっているので、この43UN700-Bの画面下半分で32:9ゲームプレイを行ない、画面上半分を配信担当PCで配信ソフト操作や配信画面のチェックなどに使いたいと思ってしまった。アイディア次第でいろいろと便利に使えそうだ。

上半分の3,840×1,080ピクセル画面に「シャドウ・オブ・ザ・トゥームレイダー」を、下半分の3,840×1,080ピクセル画面に「FORZA HORIZON4」を表示させた状態
それぞれのPCから3,840×1,080ピクセルのディスプレイとして認識されているのが面白い

なお、普通にPBP/PIPを利用する際は、それまで使っていた画面モード(解像度/リフレッシュレート)はそのままでOK。なので、4画面PBPモード時は1画面辺りはフルHD(1,920×1,080ピクセル)相当になるが、ここに4K画面を入れることはできる。もちろん、PBPモードの実解像度以下の映像が入力された場合は圧縮表示にはなるが。

さて、接続端子は系統番号ごとに対応最大リフレッシュレートが異なる点に留意したい。4K/60Hzの入力ができるのはHDMI 3、4とDisplayPort、USB-Cの4つ。HDMI 1、2は4K/30Hzまでの対応となる。要するにHDMI 3、4はHDMI 2.0対応だが、HDMI 1、2はHDMI 1.4までの対応ということだ。

背面の接続端子パネル。入力系統は総計6と多め

DisplayPortは1.4なので、4K/60Hz入力に対応する。USB-Cも同様だ。なお、USB-Cを使って映像出力を利用するには、ホストPC側のUSB-C端子がDisplayPort Alternate Mode(DLP ALT)に対応していることが必須となる。Thunderbolt 3端子、GeForce RTXシリーズに搭載されているUSB-C端子などは対応OKだ。

優秀なことに、43UN700-BのUSB-Cは、60WのPower Delivery(PD)にも対応しているので、PD対応ノートPCであれば、本機と接続してノートPC側への給電、映像出力、USBデータ伝送の全てを1本のUSB-Cケーブルで行なえるということである。これはモダンすぎる機能デザインと思う。

本機に実装されたUSB-C端子はPD60Wに対応。ノートPC側への給電、映像出力、USBデータ伝送の全てを1本のUSB-Cケーブルで行なえるのは超便利

なお、43UN700-BのUSB-C端子はDisplayLink接続には対応していないので、ごく普通のUSB端子しか持たないPCとは接続出来ない。この点も留意したい。

この他、リモート制御用のRS232C端子(ただし利用するには別売りの変換アダプタが必要)、アナログオーディオ出力用3.5mmステレオミニジャックが配備されている。USB-A端子は、USB-C端子を使ってホストPCを接続した際にUSBハブ機能として使える。こちらは別にDP ALTに対応していない普通のUSB端子しか持たないPCと接続した場合にも使える。

本機には小型の専用リモコンが付属する。

43UN700-Bのリモコン。完璧とは言えないものの、機能設計はよくできている。これを無くしてしまったら、43UN700-Bの使いやすさが低下してしまうことは間違いない。ユーザーとなった人はご注意されたし(笑)

電源投入後、HDMI入力の映像が出てくるまでの所要時間は約4.5秒(筆者実測、以下同)。あまり早くはないが、まあ待てるレベルではある。

入力切換は[INPUT]ボタンを押して入力切換メニューを出して十字ボタンで切り替え先を選択させる形式。入力系統が多いので、できれば、6系統ダイレクトに切り換えられるようにして欲しかった。入力切換の所要時間は実測で約4.5秒。こちらも標準的な早さと行ったところ。

この他、前述した多画面(PBP/PIB)機能にまつわる機能が充実している。

[PBP/PIP]ボタンは、この機能の有効化、無効化を実践するためのもの。有効化時にはどの多画面モードを使うのかを選択できる。[FULL SCREEN]ボタンは、多画面表示中のどの画面を全画面表示にするかを選択するためのボタン。[AUDIO SELECT]は音声出力を多画面表示中のどの画面からのものを本機で再生するかを選択するためのもの。

[PBP/PIP]ボタンを押すと開くPBP/PIPのメニュー画面。多彩の表示モードから選べる
[AUDIO SELECT]ボタンは多画面状態時、どの入力系統からの音を本機スピーカーで鳴らすかの選択メニュー

1画面状態で使っていて、[PBP/PIP]ボタンを押すと「以前のPBP/PIP設定を適用しますか」というメッセージが出現し、面倒な画面配置や入力系統の設定を再び行なわずとも一気に以前のレイアウトの多画面モードに直行できる。面倒なこうした機能操作をメニューを潜ってやらずにダイレクトに操作できるのは便利と感じた。この辺りの操作系がちゃんとしていなければ、43UN700-Bのこの多画面機能は使い物にならなかったであろう。よくできている。

[FULL SCREEN]ボタンは多画面状態時から1画面モードに移行する際に、どの位置の画面をそうするかを選択させるメニューが開く

1画面から4画面モードへの切換所要時間は、1画面目が出てくるまでが約6.5秒、続いて2~3画面目が、約9.0秒と約11.0秒。最後の4画面目が約13秒に表示される。正直、あまり早いとはいえない。

なお、4画面モードからHDMI入力への1画面モードへの切換所要時間は約5.5秒。こちらも早くはないが、まあ待てるレベル。最近のテレビ製品で行なっているような、EDIDネゴシエーションやHDCP認証はバックグラウンドで実践するなどの工夫をして、もう少し早くなるとよいな、とは感じる。

調整項目等は一般的なラインナップ
ステータス表示画面は情報が少なすぎる。HDRモード、色深度などの情報は欲しい

43UN700-Bで使えるコンパニオンソフトについても軽く触れておこう。

「OnScreenController」は、PC上から本機の調整パラメータをいじったり、あるいは現在使っているPCアプリのウィンドウ配置を調整してくれるもの。使用するにあたってUSB接続は不要。制御にはHDMI接続の場合はHDMI-CECを活用し、DisplayPort接続の場合は双方向通信機能を活用するため、面倒臭さはない。

アプリ上から43UN700-Bの設定値を変更出来る「OnScreenController」

「DualController」は、2台のPCを43UN700-Bに接続している環境で、互いのキーボード/マウスでもう一方のPCを操作できる機能を提供するものだ。

「DualController」の利用にあたっては、2台のPCにこのソフトをインストールしつつ、両PCが同一ネットワークに接続されているという前提条件がある。筆者の環境では互いのPCを検出できるものの、接続が実現されないために、うまく動かすことができなかった。まあ、43UN700-Bの醍醐味である4画面モードには対応しておらず、制御下におけるのは2台のPCまでなので、無理に使わなくても良い気もする。付属リモコンだけで十分に使い勝手はいい。

43UN700-Bに2台のPCを繋ぎ、双方のPCに「DualController」をインストールしたところ、「DualController」がそれぞれのPCを認識するものの、制御下に置くことができなかった

いつものように、公称遅延値約3ms、60Hz(60fps)時で0.2フレーム遅延の東芝レグザ「26ZP2」とのシステム遅延計測も行なってみた。

計測対象の画調モードは、普通モード代表として「シネマ」、ゲームモード代表として「FPS」を選択。計測は、通常の1画面表示時に加え、本機の特徴機能である多画面モードから4画面モードを選択して行なった。

1画面表示モード/画調モード「シネマ」
4画面表示モード/画調モード「シネマ」
1画面表示モード/画調モード「FPS」
4画面表示モード/画調モード「FPS」

計測結果は、1画面表示モード時は画調モードによらず遅延はゼロ、4画面表示モード時は画調モードによらず17ms、60fps換算で1フレーム相当の遅延が認められた。1画面表示モードは画調モードによらずゲームプレイに適応できそうだ。多画面モード時もそれほど大きい遅延ではないので、一般的なゲームプレイには支障はないだろう。

画質チェック~HDR表示ポテンシャルは価格相応だが発色チューニングは良好

液晶パネルの解像度は3,840×2,160ピクセル。IPS型ということもあり、公称の視野角は上下左右178度と広め。表示面はテレビではないこともありノングレア仕様。光沢仕様が苦手という人にはありがたいかも知れない。

顕微鏡で撮影した43UN700-Bの表示面。IPS型液晶特有の画素形状。ノングレアパネルのため、表示画素からの光は拡散しやすく、画素形状はぼやけ気味である

IPS液晶は色変移は少ないがコントラスト性能がやや控えめとなる傾向がある。実際、ネイティブコントラストは公称値1000:1とやや物足りない。実際のインプレッションは後述する。

標準輝度は400nit。最大輝度は非公開。HDR対応となっているが、特にVESAのDisplay HDR認証は受けていない。バックライトシステムは直下型ではなくエッジ型。なのでDisplay HDR 400相当かそれに近い表示性能なのだと思う。高性能ならば認証を取るはずだからだ。実際のHDR映像表示の評価は後述する。

液晶画素の応答速度はGray to Grayで8ms。応答速度がそれほど速くない特性のIPS型液晶としては普通の値だ。もちろん、高速応答に対応したIPS液晶もあるが、それらはゲーミングディスプレイへの採用事例が多く価格も高いので、コストパフォーマンス重視の本機には標準的なIPS液晶が採用されているのだろう。最大リフレッシュレートも60Hzどまりである。

確かに本機はゲーミングディスプレイ製品ではないのだが、LGのゲーミングディスプレイ向けの機能がいくつか盛り込まれている。

まず「ブラックスタビライザー」は暗部を持ち上げて暗がりに潜む敵を見やすくするための画調機能だ。コントラストが低下するので映像視聴にはあまり使いたくはない機能である。「応答速度」はいわゆるオーバードライブ駆動モードのこと。一時的に過電流を与えて液晶応答速度を速めるもので、「オフ-Normal-Fast-Faster」の4段階調整ができ、オフは完全にオーバードライブ駆動無し、Normal設定からオーバードライブ駆動が導入される。インプレッションは後述する。

画調モード「ゲーミングモード」は「FPS」「RTS」の2種類。その調整意図は正直よく分からないし、詳しい説明はない
暗部を持ち上げることができる「ブラックスタビライザー」
オーバードライブ駆動の度合いを設定できる「応答速度」

これに加えて「RTS」モードと「FPS」モードというゲームジャンルに適した画質モードが用意されているが、今ひとつ使用方針が不明瞭だ。

FPSモードについては「暗部を持ち上げる」という主旨のことが取扱説明書に書かれているものの、これは「ブラックスタビライザー」の機能とダブるので使い分けの仕方はよく分からない。一方でRTSモードはあろうことか「RTSゲームに最適化したモードです」という一言だけで、説明になっていない。筆者ならば担当執筆者に原稿を突き返すレベルである(笑)。まあ、この2つのモードはほとんど機能数の水増しみたいな印象なので使わなくて良いだろう。

画質を細かく見ていこう。

ユニフォーミティ(輝度均一性)はまずまず。外周が若干暗い印象があるが、エッジ型バックライト機としては頑張っていると思う。

ユニフォミティは良好。外周はやや暗いが目立った輝度ムラはない。よく調整されている

色域はNTSC色空間カバー率72%とのこと。実際、色度計で計測してみると、青色LED光源に黄色、ないし赤緑の蛍光体を組み合わせたオーソドックスな白色LEDらしいスペクトラムが出てきた。

だが、平常使われる輝度域での色バランスはうまく調整できており、際だって変な色は出ていない。純色の赤や緑はもう少し純度というか、深みが欲しいが、NTSC色空間カバー率72%というスペックの範囲ではこれ以上のチューニングはないだろう。

一方で、本機は4K/HDR対応を謳っており、このスペックとバランスを取る意味でもBT.2020色空間には対応して欲しかった。本機はデザイン業務でも引き合いが強そうな機能が充実しているので、コンセプトはそのままに、最近採用事例が多いケイフッ化カリウム(K2SiF6)を主成分としたKSF赤色蛍光体の広色域白色LEDを使った上位モデルがあってもいい気がする。

【お詫びと訂正】記事初出時、「sRGB色空間カバー率72%」と記載しておりましたが、正しくは「NTSC色空間カバー率72%」です。お詫びして訂正します。(7月9日12時)

ピクチャーモード「あざやか」。名前の割りには彩度は控えめ。どちらかと言えば輝度優先の画調か
ピクチャーモード「HDR効果」。SDR映像にHDR風の味付けをする画調モード。広色域な演出で汎用性は高い
ピクチャーモード「ブルーライト低減モード」。青色をカットしているため色温度が下がり輝度も控えめ。汎用性は低い
ピクチャーモード「シネマ」。ナチュラル志向の画調。NTSC色空間の範囲でよく調整されている画調で汎用性が高い。迷ったらこのモードでいいだろう

コントラスト感は前述したように公称ネイティブ値が1000:1なので、VA液晶ほどの黒の締まりはない。若干の黒浮きはある。

高輝度の矩形図形を黒背景内の画面内に移動させる実験をしてみたが、黒の暗さに大きな影響はなし。つまり、エリア駆動的なことは行なっていないとみられる。まあ、明るい部屋であれば、この黒浮きはほとんど気にならないだろう。逆に4K/HDR対応映画などを視聴した場合のインプレッションは後述する。

エリア駆動には対応していないが、フレームバイフレームで輝度を調整する「DFC」(Digital Fine Contrast)は搭載されている。暗室で使う場合にはオンにしてもよいかもしれない

動画性能は標準的。動きの早い動体オブジェクトを目で追うと、IPS液晶特有のやや強めのホールドボケ味が出ている。応答速度が8msなのと、特に残像低減用の黒挿入なども行なわれていないので想定通りの見映えである。

本機にはゲーミングディスプレイ風のオーバードライブ駆動の設定に相当する「応答速度」設定がある事を先に述べたが、「オフ-Normal-Fast-Faster」の4段階調整を変えてもほとんど見映えに変わりがない。中間階調のグレー背景に対しての黒文字スクロール、黒背景に対する白文字スクロール、いずれのテストを行なっても大きな変化はなし。

オーバークロックは度が過ぎると過電流駆動の弊害で液晶配向にオーバーシュートが発生し、輝度差の激しい箇所が二重映りするリンギング現象が出やすいものだが、そうしたことは起きていない。

応答速度設定を「オフ」にした場合
応答速度設定を「Faster」にした場合。これら2つの映像は、横スクロール画面を毎秒960コマ、40倍スローで撮影したものだ。いちおう、ここまでスローにすると「Faster」の方が、「オフ」と比べれば残像は短めということは分かる。ただ、通常時間で見た場合、残像の印象はあまり変わらない。まあ、GtG応答速度8ms、最大リフレッシュレート60Hzの製品なので、ここに大きな期待は寄せるべきではない

いつものようにHDR映像の画質チェックとして、4K Ultra HD Blu-ray(UHD BD)「マリアンヌ」と「ラ・ラ・ランド」を視聴した。

「マリアンヌ」では街の広場の街灯、ネオンサイン、社交場のシャンデリアや各テーブルのランタンが、評価のポイントとなるのだが、高輝度感が味わえたのは屋外シーンでの社交クラブのネオンサインのみ。他はそれほど高輝度感を表現できていなかった。やはり、エッジ型バックライト、それも基準輝度400nitでは仕方がないところか。

また、暗室で見た場合にはどうしても黒浮きが目立つ。シネスコサイズの映画を本機で見ると上下に横長の黒帯が出るわけだが、ここの黒浮きが顕著な印象だ。筆者としては、本機を用いての暗室での映像視聴はオススメはしない。

とはいえ立派だと感じたのは、黒浮きはありながらも暗部の階調表現がしっかり設計されているところと、暗色表現がNTSC色空間カバー率72%の範囲で絶妙なバランスで調整されている点だ。

「マリアンヌ」のチャプター2後半は暗闇の中、ランタンのみで主役二人が語り合うが、以前、第255回で紹介したASUSのOLEDディスプレイ「PQ22UC」では、自発光有機EL機にもかかわらず、このシーンの二人の肌色が破綻していた。

しかし本機ではこうしたことがない。NTSC色空間カバー率72%ということを考えれば、厳密には正しい色が出ているわけではないのだろうが、低輝度部のカラーボリューム設計の巧みさによって不自然さがない。ここは「その作り込み、お見事」といったところである。

UHD BD「マリアンヌ」

続いて「ラ・ラ・ランド」。暗がりの街灯の輝き感はやや弱い。エッジ型バックライトで基準輝度400nitの出力の限界か。しかもIPS液晶特有の黒浮きも強い。主役の二人が坂を上がってベンチの方に歩むシーンでは夕闇が大写しになるが、この夕闇、実はけっこう明るい空模様でHDR感が凄いのだが、本機ではそれほどのコントラスト感がない。

しかし、これまた、色はいい。暗がりで踊る2人の肌の色、エマ・ストーンの黄色いドレス、赤いカバン、青エナメルのヒールなどの原色オブジェクトが暗がりの中でちゃんと色味を維持して描かれている。この黄色いドレス、やや山吹色っぽい色なのだが、周囲の照明の明暗によらず、その色を再現したような色あいが出ている。NTSC色空間カバー率72%ながらUHD BDのBT.2020色空間へのマッピングは上手に作り込まれていると思う。

UHD BD「ラ・ラ・ランド」

沖縄県の慶良間諸島などを4K/HDR収録したUHD BD「GELATIN SEA」のチャプター6の「Shadow」を今回もチェック。

海辺に浮かぶクルーザーを写した映像だが、水深の深いところから水深の浅いところまでのグラデーションが単調。また、浅瀬は本来は緑が載った青緑寄りの南国特有のシアン色になるはずが平坦な水色に留まっている。緑方向のパワーが少し弱いようだ。

全体的に明るいHDR映像となっている本作は、実は高輝度方向に高いダイナミックレンジがないと苦しくなる。本機は暗色の表現力は頑張っているが、逆に高輝度表現に弱さを感じる。長時間使用するための「モニター」的な「輝度控えめ」チューニングの影響が出ているのかも知れない。

UHD BD「GELATIN SEA」

HDR対応ゲームとして「Shadow of The Tombradier」(PC版)をプレイ。

HDR調整画面で、高輝度方向にダイナミックレンジが足りないことが露呈。このゲームでは「平常用の階調表現領域をどの輝度あたりに収束させるか」の設定を行なわせるキャリブレーションがあるのだが、その際、ユーザーは、高輝度域の白濃淡で描かれたサンプル画像のディテールが見えるか見えないかのところまで、スライダーを右に動かすことを促される。

輝度ダイナミックレンジが低いテレビ/ディスプレイほど、スライダーを右に上げていくことになるのだが、本機は、右端に到達してしまった。つまり、それだけ高輝度方向へのダイナミックレンジが足りないと言うことだ。実際にこのキャリブレーションを行なってプレイして見たが、やはり明るい輝度表現に面白みがなかった。

本機には超解像処理機能の「Super Resolution +」も搭載されている。

適用強度が「オフ-Low-Middle-High」の4段階が設定可能なので、あえてフルHD映像をいれて効果の見え方をチェックしてみた。見た感じ、典型的な周辺の画素の輝度を探査して輝度変移を強調化するタイプのアルゴリズムで、理想的に働いた場合は陰影が強調されて解像感がアップするが、ノイジーな映像だとノイズまでが顕在化される。

Super Resolution+ オフ
Super Resolution+ Low

MiddleやHigh設定だと、原映像ではスムーズだった輪郭表現にまでジャギーを顕在化させるので、使うとしたらLowまでか。個人的には常用はしなくていいと思う。

Super Resolution+ Middle
Super Resolution+ High

総括~多画面したいけど、設置スペースがない”という人にお勧め

43UN700-B。とにかくアイディアに溢れた面白い製品だった。

6系統入力という多入力対応に加え、うち1系統はDP ALT対応でPD60W対応のUSB-Cというモダンさ。その6系統入力の任意の4画面を同時に表示できる多画面表示機能、さらには32:9の超横長アスペクトモードを2つ持てるマニアックな表示モードを備えており、実用性だけでなく遊び心までを兼ね備えているとは、LGのディスプレイ製品企画力には脱帽する。それでいて、実勢価格は、定額給付金で買っておつりが3万円以上来る7万円未満。魅力的である。操作性だって悪くない。

惜しむらくは、HDR表示性能がそれほど高くないところだ。画面サイズも大きいので、Display HDR 600規格程度には対応して欲しかった。ここは次期モデルや上位モデルの登場時に改善を期待したい。

この製品はやはり“多画面環境を利用したいが、ディスプレイを複数設置するスペースがない”という人にお勧めしたい。43型4Kということは、21.5型フルHDの4面分ということであり、それがわずか340×264mm程度(スタンド部の底面積)の設置台の上に載ってしまうのだから、スペース利用効率というか、多画面設置効率というべきか、かなり省スペース/コンパクトに多画面環境を運用できることになる。

冒頭でも述べたように、おもにテレワークユーザーが便利に使えそうだが、卓越した低遅延性能や、32:9の超横長アスペクトにも対応しているあたりはPCゲーマーにも響きそうだ。

今後も、LGには、この43UN700-Bと同系の多入力対応/多画面表示対応のコンセプトの製品を増やして欲しいと思う。例えば55型、65型といったより大きなモデルは、ビジネスユーザーにウケそうに思える。

トライゼット西川善司

大画面映像機器評論家兼テクニカルジャーナリスト。大画面マニアで映画マニア。3Dグラフィックスのアーキテクチャや3Dゲームのテクノロジーを常に追い続け、映像機器については技術視点から高画質の秘密を読み解く。近著に「ゲーム制作者になるための3Dグラフィックス技術 改訂3版」(インプレス刊)がある。3D立体視支持者。
Twitter: zenjinishikawa
YouTube: https://www.youtube.com/zenjinishikawa