第127回:International CES特別編

~韓国勢の最新映像パネル技術動向~



 International CESにおいて韓国勢ブースの物量の多さは圧倒されるほどで、映像系で言えば、今回の3Dブームに乗った3Dテレビ関連の展示数は日本メーカーのそれを圧倒的に凌駕していた。

 日本市場においては、あまり目立たない韓国勢メーカーだが、北米市場では最も大きな勢力であるため、大画面☆マニアとしては、その技術動向は的確に捉えておく必要があるだろう。

 というわけで、International CES編の第4弾となる今回は、韓国勢の映像系展示に関してレポートする。

ラスベガスコンベンションセンター。韓国勢の横断幕が目立つ開催となった


■ エッジライトLEDでもエリア駆動など、液晶テレビ最新動向

 サムスンブースは26インチから55インチまでの多様なサイズの液晶テレビをアーチ状に配列させた豪華なモニュメントをブース入り口に構え、その圧倒的な物量をアピール。モニュメントに用いられた総ディスプレイ数は132個にものぼる。

サムスンブース。大変美しい入り口のモニュメントは132個の液晶テレビで作られていた

 サムスンが2010年に注力するのは、モニュメントの力の入れようからも分かるように液晶。特に「3D」に注力するようだ。

 同社は、液晶テレビの主力ラインナップをほぼ全てLEDバックライトに置き換えているのが今年の特徴。コンベンションセンターの最も目立つ外壁に「SAMSUNG LED TV」のロゴを描いており、「LEDバックライトにあらざれば液晶テレビにあらず」と言わんばかりの出展となっていた。

LEDバックライト液晶テレビを「LED TV」という愛称でブランディングするサムスン

 ブース内のスタッフの中には、「これはLCD TVではなく全く新しいLED TVだ」と声を張り上げる者もいたりして、一般来場者達に「時代はLED TV」というのを刷り込ませようとしているようであった。もちろん、技術的にみるとLED TVという愛称は正当な表現とは言い難いが、「LEDバックライト液晶テレビ」と呼ぶよりは言いやすいし覚えやすい。もしかすると、この愛称は今後、浸透してしまうかも知れない。

 さて、以前は「LEDバックライト」というと、RGBの三原色LEDを直下型にレイアウトした広色域高画質をメインに訴求していたサムスンだったが、いまやRGB-LEDは「どこ吹く風」という風情で、薄型スタイルがメインに訴求されていた。


LED TVの最上位9000シリーズは厚さ約8mm

 最上位の9000シリーズは薄さ約8mmで、世界最薄のLEDバックライト液晶テレビという。ハイエンドである9000シリーズには、業界初の液晶ディスプレイ付きタッチスクリーンリモコンが付属するのもトピックだ。液晶画面にメニューが出るだけでなく、映像や音楽の再生に対応したポータブルプレイヤーとして利用できるリモコンなのだ。

 下位モデルの8000/7000シリーズは、9000シリーズほど薄くはないが、9000シリーズと同様のエッジLEDバックライト方式を採用するため、一般的な液晶テレビよりは薄い。

下位の7000シリーズもそれなりに薄い。3D対応タッチスクリーン付き液晶画面搭載のリモコン。テレビ映像をWiFi伝送することも可能。トイレで見るのに最適?

 そして、サムスンはこのLED TV製品群の主力ラインナップの大部分を3D対応としている。具体的には前述の9000/8000/7000シリーズが3D対応。方式はフレームシーケンシャルで、アクティブ液晶シャッターメガネをかけて観る。もう1つの特徴は、2D映像を3Dにリアルタイム変換する機能を備えていることで、変換のアルゴリズムの基本原理については本連載の第124回のCELL TV編を参照して欲しい。いずれも2010年春から夏にかけての発売を予定しており、価格は未定だ。日本への導入予定はない。

Blu-ray 3Dソフトだけでなく、ゲームも3Dに従来の2Dコンテンツを3Dとして楽しめる機能も搭載

 サムスンのライバルであるLG電子も、薄型のLEDバックライト液晶テレビを前面に押し出したブース展開を行って行なっていた。 

LG電子ブースの入り口もたくさんの薄型液晶テレビで彩られていた
 LG電子はサムスンとは違い、直下型LEDバックライトにこだわっているのが特徴で、この構造の中で最大限の薄型化を実現している。このデザインのテレビには「INFINIA」というブランド名を与えており、サムスンの「LED TV」ブランドに真っ向から対向する。

 最上位のLE9500とLE8500シリーズは白色LEDの直下型LEDバックライト構造でありながら厚さは23.3mmを実現。直下型LEDバックライトはベゼル部にLEDを仕込むエッジライト型と違ってベゼルを細くできるメリットがあり、LG電子は薄さよりもこの点を訴求。LE9500/8500のベゼル幅は、公称8.5mm。なお、直下型LEDバックライトならではのエリア駆動にも対応しており、55V型モデルでは240ブロックのエリア駆動を実現している。


直下型LEDバックライトにこだわるLG電子。写真のLE9500は厚さ23.3mm。ベゼル幅8.5mm

 3Dへの対応は、INFINIA最上位モデルのLE9500のみの対応となっている。サムスンとは違い「3D対応はハイエンドのみ」というスタンスのようだ。また、3Dのデモは72インチの試作液晶によるテクノロジーデモがあるのみで、ブース内でLE9500の実機を用いた3Dデモはなし。後述するプラズマテレビにおいても、3Dには「対応未定」のスタンスを取っており、サムスンと比べると3Dにはやや消極的な姿勢という印象がある。

 最上位のLE9500には、「魔法の杖」(Magic Wand)リモコンというバー形状のwiiリモコンチックなポインティングデバイス・リモコンが付属する。最上位モデルには、一風変わったリモコンを付けるのが韓国勢のトレンドのようだ。

広報資料にも自らの「wiiリモコンライクな操作系」という記述があるほどよく似ているMagic Wandリモコン。動かすとテレビにマウスカーソルが出現する。LE9500に標準付属LG電子の立体視デモは量産機のLE9500ベースではなく、72インチの試作機によるテクノロジーデモにとどまっていた

 3Dだけでなく、サムスン、LG電子はそれぞれのブースにて、自社の液晶テレビ高画質化技術をデモンストレーションしていたので、それらも紹介しておこう。

 サムスンが2010年モデルに実装してきたのは、映像をヒストグラム解析して、その映像部位ごとに適切なノイズ除去とディテールエンハンスを行なうという処理。ノイズ除去はぼかしに相当し、ディテールエンハンスはシャープネス強調になり、互いに相反する処理となるが、これを映像内容に応じて適応型に処理するというAI的画質向上ロジックだ。これは東芝のREGZAやシャープのAQUOSなどでも実装された最近の流行の処理だったりする。

適応型のノイズ除去とディテールエンハンス処理。日本メーカーで流行の技術がサムスン製のテレビにも

 液晶における残像低減技術である倍速駆動技術はいまや120Hzの2倍速が当たり前となり、上位機種は4倍速駆動を搭載するようになっている。補間フレームを2枚挿入するところまでは同じで、ここにバックライトスキャンを組み合わせて「480Hz相当」と謳うのはLG電子。この「480Hz相当」アピールは日本の東芝などのメーカーも謳い始めている。「4倍速とバックライトスキャンの併用」……どこのメーカーも大体このあたりで落ち着くのではないかと思われる。

サムスンの「Natural Motion」は4倍速に
LG電子はバックライトスキャンを組み合わせて480Hz相当を謳う

 LG電子はLEDバックライトの技術バリエーションに対してテクノロジーブランドを付けてきたのが面白い。アピールされるのは「Full LED Slim」、「LED Plus」、「LED」の3つだ。

LG電子のLEDバックライト技術ブランドシリーズ消費電力比較。どれが低いというよりは全体的にLEDバックライトは低消費電力であるというデモ

 「Full LED Slim」は、前述のLE9500/8500シリーズで採用している直下型白色LEDバックライトを採用しながら薄型を実現する技術。

 「LED Plus」と「LED」は、ベゼルに白色LEDを仕込んだエッジライト(導光型)のバックライトシステムを指すが、LED Plusの方は、なんとエリア駆動を実現するユニークなもの。これは上下のベゼル下にレイアウトした白色LEDから導光版を縦に液晶パネル直下に通すが、その際の導光版を縦に10~16分割(画面サイズによって違うという)して、縦分割のエリア駆動を行なうものだという。

 業界では四隅に配置したエッジLEDライトから導光版をマトリックス状に縦横に通し、より細かなエリア駆動を行なうアイディアも考案されているが、コスト的に高くなるので、この縦分割エリア駆動を採用したのだと推察される。

 サムスンもエッジライトLEDでエリア駆動に対応したモデルを発表しており、LGと同様のことを行なっていると思われるが、詳しい解説は行なわれていない。

サムスンもエッジLEDバックライトによるエリア駆動をアピール

 前述のようにRGB-LED方式は、いまや韓国勢の製品には採用されない方向となり、いつのまにか白色LEDを採用しながらも広色域をアピールするようになってきた。それだけ白色LEDの光特性の改善やカラーフィルタの白色LEDへの最適化技術などが進んだのだろう。

サムスンは白色LED採用機での色特性の良さをアピールする

 関係者への取材によると「欧米では、LEDバックライトの採用による色特性向上にはあまり関心がない」とのことで、今後は一層、LEDバックライト採用による薄型競争が激化すると予測される。

 直下型LEDバックライトを最上位に据えるLG電子は、この薄型競争において不利と思われるが、逆に「直下型LEDバックライトでもここまで薄型が実現できる」と言わんばかりに「Full LED Ultra Slim」という次世代版直下型LEDバックライトシステム採用機も公開した。

 LG電子関係者によれば、これには「LV9300」という型番を与えており、直下型LEDバックライトにして薄さはなんとエッジLEDバックライト採用のサムスン9000シリーズ(薄さ約8mm)を下回る“6.9mm”を達成しているのだとか。

 LV9300は55V型を4,000ドルにて、2010年春の発売を予定。もちろん直下型LEDバックライトなのでエリア駆動にも対応している。駆動ブロック分割数はLE9500/8500と同じ240個。

直下型LEDバックライトにして薄さ6.9mmのLG電子LV9300

 この他、LG電子は次世代液晶技術としては84V型の3,840×2,160ドットの4倍フルHD解像度の液晶ディスプレイを展示していた。

84V型の3,840×2,160ドットの4倍フルHD解像度の液晶ディスプレイ。LG電子はこの解像度をUHD(Ultra HD)と命名。果たして浸透するか?



■ 最新プラズマテレビ動向

 LED TVを全面的に推すサムスンではあるが、北米にはまだまだ多くのプラズマファンが存在するとあって、PDPの開発は引き続き行なわれている。若干、製品ラインナップが微妙に縮小した感は否めないが、2010年の製品ラインナップの8000シリーズ、7000シリーズの上位2ラインは3Dにも対応するという。

プラズマTVラインを継続するサムスンサムスンのプラズマテレビ8000シリーズ

 LG電子も同様で、2010年はPK950シリーズとPK750シリーズを投入するが、両モデルとも3Dへの対応は「未定」だという。ただ、ブース内では試作モデルでの3Dデモを行なっており、「技術的には可能」とアピールしてはいる。ただ、前述のようにLG電子は、液晶もプラズマも、2010年内の3Dへの対応はサムスンよりはやや消極的な印象だ。

LG電子のプラズマテレビ2010年モデルのPK950シリーズ他一見するとPK950を使用してのデモに見えるが実は違うのだとか
今年のLG電子のプラズマテレビはTHX認証を取得。ハイエンドユーザー層への食い込みも狙う

 今年のサムスンとLG電子のプラズマについての技術図解は、パナソニックやパイオニアのそれとよく似ている。

 プラズマの画素セルと表示面側のガラスをダイレクトに貼り合わせた構造や、ブラックレイヤーに対する工夫はパイオニアのDCR構造やパナソニックのNeoPDPと同じだ。画質性能を突き詰めると同じような構造になってしまうのだろうか。

サムスンの2010年モデルPDP

LG電子の2010年モデルPDP
サムスンの2010年PDPは低不伝導性材質の採用、新高効率蛍光体、新画素セル構造により発光効率が劇的に向上し、消費電力の低減へと結びついたという

 まだ液晶ほどではないが、両社とも軽量化とスリム化に取り組んでおり、この点については日本勢を脅かすほどの独自の進化を見せている。特にLG電子のベゼル幅の低減はすさまじく、2010年モデルは25mmを達成している。また、複数パネルを組み合わせるマルチビジョン構成の際には、ベゼル幅をわずか4mmに出来るというのだから凄い。

サムスンのPDPにおける軽量化、スリム化の取り組みLG電子のPDPにおける軽量化、スリム化の取り組み
マルチビジョン構成に限ってはプラズマにてベゼル幅をわずか4mmにできるという


■ 有機ELテレビ

 液晶テレビが行き着くところまで来てしまった関係で、有機ELテレビへの注目度は薄まってしまった感がある。

 ソニーも2007年末に発売した「XEL-1」以来、有機ELテレビの製品投入は止まってしまい、すでにレポートしたように、今年のCESにおいても3D技術デモを示したのみで、次世代製品につながるようなアナウンスや展示はなかった。

 韓国勢も、ここに勢いよく飛び込んでいくのは躊躇しているようで、申し合わせたように、サムスンもプロトタイプで3Dデモを行なったに過ぎなかった。

 サムスンブースで展示されていたのは31V型のフルHDタイプと、14V型(解像度非公開)の2種類。共にフレームシーケンシャル方式の3Dデモを来場者に体験させていた。

31V型フルHD有機ELディスプレイによる3Dデモこちらは14V型有機ELディスプレイによる3Dデモ

 LG電子はすでに韓国で発売済みの15V型、1,366×768ドット有機ELテレビを展示。LG電子は3Dのデモはなし。実機を並べるだけの地味な展示ではあったが、こちらは北米モデルの2010年内投入のアピールの目的があったようだ。

LG電子の有機ELテレビのスペック画面サイズは15インチ。解像度は1,366×768
薄さは3mm。防水加工されていることもアピールされていた韓国では約25万円程度で発売中。北米では2010年第三四半期に発売予定。価格は未定

 液晶テレビで薄さ7mmなどが出てきてしまうと、確かに有機ELの3mm程度の薄さにはそれほどの魅力はない。画質も今の液晶で十分と考える一般ユーザーが多い現状では、なかなか有機ELの利点が見えにくいが、1つだけ、プラズマにも液晶にもない利点を挙げるとすれば、それはアナログ階調表現が可能な自発光画素で、しかも応答速度が圧倒的に速いという点。これは3Dに向いている特長だ。

 有機ELの再注目、そして返り咲くタイミングは、今年から始まる“3Dテレビ”が根付いてからになるのかもしれない。

(2010年 1月 12日)

[Reported by トライゼット西川善司]

西川善司
大画面映像機器評論家兼テクニカルジャーナリスト。大画面マニアで映画マニア。本誌ではInternational CES他をレポート。僚誌「GAME Watch」でもPCゲーム、3Dグラフィックス、海外イベントを中心にレポートしている。映画DVDのタイトル所持数は1,000を超え、現在はBDのコレクションが増加中。ブログはこちらこちら。近著には映像機器の仕組みや原理を解説した「図解 次世代ディスプレイがわかる」(技術評論社:ISBN:978-4774136769)がある。