小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第1180回

この機能でこの価格!? 全部入りサウンドバー、ソニー「HT-B600」
2025年7月2日 08:00
サウンドバーがオーディオの中心に
前回に引き続き、再びサウンドバーである。実はサウンドバーは、世界的に見てもかなり大きな市場となっている。Business Research Insightsの調査によれば、世界のホームシアターの市場規模は昨年の段階で77億7700万ドル(約1兆1,218億円)で、2033年までに138億2,000万ドル(約2兆円)まで成長すると予想されている。
元々は貧弱なテレビスピーカーを補強するものとして登場したサウンドバーだが、昨今はDolby Atmosなど立体音響対応の動画コンテンツが増加するとともに、音楽ソースでも空間オーディオソースが増え、こうした「2chステレオ以上」が再生できるスピーカーとして、サウンドバーが改めて注目されている。
ソニーも数多くのサウンドバー製品をリリースしているが、どちらかとえばハイエンドモデルに集中しており、手頃な価格でソニーサウンドを体験する機会がなかった。だが今年5月31日に発売された新サウンドバー「HT-B600」(BRAVIA Theatre Bar 6)はサブウーファまで付属して、ソニーストア価格60,500円と、入手しやすい価格に抑えた。
もちろんソニーらしく数多くの高音質化技術を採用し、ハイエンドに迫る音質を実現するとして、大注目の一品だ。さっそくどんな音なのか、試してみたい。
質感も十分満足できる作り
「HT-B600」は、バースピーカーの「SA-B600」とサブウーファーの「SA-WB600」のセット商品である。システムとしては3.1.2chとなる。
バースピーカー部は全長950mm、高さ64mm、奥行き110mmと、サウンドバーとしては中型機相当である。40インチテレビと合わせても左右が少しはみ出る程度なので、43~50インチテレビと合わせると丁度いいサイズ感だ。
内蔵ドライバーとしては、左右とセンターにフルレンジスピーカーを搭載、さらに上向きに左右2つのフルレンジドライバーを搭載。合計5ドライバーは、「X-Balanced Speaker Unit」を採用している。
X-Balanced Speaker Unitは、2020年のBluetoothスピーカー「SRS-XB23/33/43」で登場した方式で、振動版を円形ではなく、楕円形とした。これにより、狭いスペースで振動面積を稼ぐ事ができる。
サブウーファーは、ユニットサイズは160mmと小型だが、エンクロージャサイズは幅210mm、高さ388mm、奥行き388mmとたっぷりした容積をとっている。バスレフ型で、ポートは前向き。なお接続はサウンドバーとワイヤレス接続なので、本体背面には電源端子しかない。
搭載アンプはS-Masterで、バースピーカー部の5つはすべて50W、サブウーファーは100Wで、合計350Wとなっている。
入力はHDMIと光デジタル端子が1系統ずつ。背面にUSB-Aポートもあるが、こちらはアップデート用だ。Bluetoothにも対応しており、コーデックはSBCとAACのみ。
サラウンドコーデックとしては、Dolby AtmosおよびDTS:Xをサポートするが、360RAには非対応。このあたりは、テレビ関連商品の事業部が企画した製品だからだろう。またブルーレイディスクで採用されたロスレス圧縮による高音質サラウンドフォーマット、DTS-HD Master AudioおよびDolby True HDにも対応している。
バーチャルサラウンド技術としては、「Vertical Surround Engine」を大画面テレビに合わせて最適化。さらに前後左右のサラウンドを表現する「S-Force PROフロントサラウンド」を、高さ方向にも拡張し、より立体的な表現を可能にしている。
そのほかサウンドフィールドとして、「ドルビー・スピーカー・バーチャライザー」、「DTS Neural:X」も選択できる。
リモコンも付属している。入力切り替え、サウンドフィールドのON/OFFほか、全体ボリューム、サブウーファー音量がコントロールできる。またサウンドモードとして、ナイトモード、ボイスモードが選択できる。この2つのモードは、リモコンボタンを押すたびにON/OFFになるという仕様だ。
前面右下にあるLEDにより、リモコンに反応しているのはわかるが、今何のモードになっているのかはわからない。現在のモードがわからなくなった場合は、スマホアプリ「BRAVIA Connect」で確認できる。
サウンドフィールドでガラリと音が変わる
まずはセットアップからである。スマホアプリ「BRAVIA Connect」では、設置してすぐにウィザード形式でセットアップがスタートする。
Bluetoothでスマホと接続する必要があるが、コントロール用に接続するのは、「LE_BRAVIA Theatre Bar 6」という名前のデバイスである。LEはLow Energyの略で、低消費電力での接続形式を意味する。昨今のBluetooth製品は、制御用にLEで接続し、音声伝送は別途また別のデバイスとして接続するという二重構造になっている。
HDMIの接続は自動的に確認される。続いてサウンドバーとサブウーファーがペアリングされる。またサウンドバーとの距離、サウンドバーと天井との距離を選択すると、セットアップ完了だ。
では早速音を聴いていこう。まずは映像作品からだ。今回はテレビのeARC(HDMI)端子と接続し、テレビのHDMI2端子にFire TV Stick 4Kを接続した。そして、Amazon Prime Videoにて「ムーンフォール」を再生した。
本作はDolby Atmosで配信される映像作品であるが、サウンドフィールドがOFFの状態では、上向きのスピーカーから音が出ない。Dolby Atmos対応とはいえ、なんらかのサウンドフィールドは選択する必要がある。
33分ぐらいのところの洪水のシーンを聴いてみた。まずは「Vertical Surround Engine」で聴いてみる。
サブウーファーのおかげで、低音の迫力は申し分ない。むしろ標準状態では出過ぎるぐらいで、筆者宅の視聴環境では-3ぐらいに下げてちょうどいい感じだ。またセリフも明瞭で、中高音域の解像感が高いので、サウンド全体に立体感がある。まさに画面の高さから音が出ている感が強い。
サウンドフィールドを「ドルビー・スピーカー・バーチャライザー」に切り替えてみる。このモードでもサウンドフィールドは立体になるが、中高音域が奥に引っ込み、やや低音過多に感じる。非常に映画館っぽい音で、これはこれで楽しいが、どちらかというと大きな空間で大音量で聴くようなタイプの音である。ニアフィールドで聴く場合は、「Vertical Surround Engine」のほうが明瞭感が高いので、小音量でも十分な迫力が感じられる。
続いて音楽再生を試してみよう。本機は2ch音源でも立体的に聴かせてくれるのがウリとなっている。今回はAmazon Musicから6月にリリースされたばかりのDEZOLVE「10th Anniversary Concert」を聴いた。しかしDEZOLVEも新進気鋭の若手ジャズ・フュージョングループと思っていたら、いつのまにかもう10年だと知って驚いた。
まずはサウンドフィールドなしでそのまま2chソースを聴いてみる。音質的には非常に良好で、明瞭度が高い中高音域は、元々のスピーカー特性だろう。サブウーファーが十分鳴るので低域に不足感はないが、サウンドバーでの音域とサブウーファーの音域の間が少し空いているようにも思える。
まあそのあたりがブーミーに聞こえる部分なので、スッキリはしているが、ドンシャリ傾向に聞こえるところである。本機にはEQ機能が無いので、自分好みの音が作れるわけではない。このあたりが、純粋なオーディオ製品ではないところの弱点だろう。
ではサウンドフィールドをONにして、「Vertical Surround Engine」から聴いていく。音の傾向ががらりと変わり、こちらの方が中低音域が出てくる。2ch再生よりも、低域の方に引っぱられた感じだ。音の立体感は十分だが、音の定位位置はオリジナル音源とはちょっと違って聞こえる。横の広がりだけでなく縦にも拡がるので、そのあたりは仕方がないところである。
「ドルビー・スピーカー・バーチャライザー」は、映像ソースでも感じたことだが、やはり低音が多めでどっしりした感じのサウンドである。音圧がかなり下がるので、ボリュームで調整してやる必要がある。音の広がりは、手前に来るというよりも、奥行き方向に拡がる印象を受ける。立体感には自然さがあり、音の繋がりが良い。
「DTS Neural:X」に切り替えると、これまた音の印象がガラリと変わる。音が前面に出てきて、中低音域が引っ込み、中高音域がガッと前に出てくる。明瞭度が高く、いわゆる「小解りのする音」である。音の広がりは大人しく、むしろ2ch再生の方が幅が広く聞こえるほどである。横幅というより、縦幅が拡がったような印象がある。
サウンドフィールド有り無しでも全然違うが、サウンドフィールドの3タイプでも全然違うタイプの音なので、「微妙な違いでよくわからない」という事にはならないだろう。個人的には、音楽再生の場合はサウンドフィールドなしでも、横方向の広がりが強く解像感が高いので、音楽再生スピーカーとしてとしては普通に2chで聴いても十分満足できると感じた。
総論
約6万円という価格でサブウーファーも付き、さらに上向きスピーカーも備えて立体音響が楽しめる本機は、様々なソースに対して楽しめるサウンドバーに仕上がっている。
3タイプのバーチャルサラウンド方式は、設定の奥の方にあるので頻繁に切り替えることを想定していないようだが、三者三様の音の違いが楽しめるので、ぜひ切り替えて色々なソースで試して欲しいところである。また音の素性もよく、2ch再生でも十分に楽しませてくれるのは、音楽再生派にも嬉しい仕上がりとなっている。
欲を言えば微調整できるEQ機能も欲しかったところだが、そこは価格帯からしても、あんまりめんどくさくない商品にまとめたという事だろう。サブウーファーとの接続もワイヤレスなので、設置の自由度も高い。サブウーファーは指向性がほとんどないので、どこに置いても効果はあまり違わない。
ネットワーク機能もなく、入力はテレビかBluetoothしかないので、機能的にはシンプルである。しかし効果は非常に派手なので「サウンドバーは始めて使う」という方にも導入の満足度は高いだろう。