レビュー

Nothingの初ヘッドフォン「Headphone(1)」をチェックする

Headphone(1)」を発表する、Nothingのカール・ペイCEO

7月1日(イギリス時間)、スマートフォンで知られるNothingは、同社オーディオ製品としてはフラッグシップであり、初のオーバーヘッド型ヘッドフォンである「Headphone(1)」を発表した。

Headphone(1)・ブラック
Headphone(1)・ホワイト

価格は299ドルで、7月4日より予約を開始し、発売日は7月15日となる。

現状日本での発売に関するアナウンスはないが、「夏には情報を公開する」とのコメントは得られている。

このヘッドフォンの実機をじっくりと使うことができたので、一足お先にインプレッションをお伝えしたい。

操作性を伴ったデザインが魅力

Headphone(1)の特徴は、なによりこのデザインだろう。Nothingはデザインを軸にした体験の違いで製品をアピールしている。スマートフォンである「Phone」シリーズもそうだが、ひと目見て「Nothingだ」とわかるデザイン作りが上手い。

Headphone(1)も非常に印象的なデザインだ。

カセットテープを思わせる2つの丸が描かれ、CNC加工で削り出したボディの上に透明なプラスチックケースが重なっている。非常に精緻な作りである。

色はホワイトとブラックの2色。今回テストしているのはブラックの方だ。どちらも凝ったデザインモチーフの割にはかなりシックな印象を受ける。

パッケージ
付属するのはUSB Type-Cと3.5mmオーディオケーブル
ブラックの方をつけてみた

操作は基本的にボタンで行なう。といっても、特徴的な「丸」はあくまでデザイン。右のハウジングにある3つのボタンで操作する。

3つのボタンとはいうが、メインで使う2つは「ローラー」と「パドル」と呼ばれている。もう1つは音声アシスタントを呼び出すための「ボタン」で、右側のハウジングの、ローラーやパドルとは逆の方にある。

上がローラーで下がパドル

右側に後ろ向きでつけられているが、ローラーは丸いボタン形状だが前後に回るようになっていて、パドルは前後に動くようになっている。

ローラーを押すと再生・停止なのだが、回すと音量が変わる。パドルの方は前後で曲送りだ。双方の形状が異なっており、操作の感触が異なるので、パッと触っても間違えることはない。

さらに、ローラーの長押しは「ノイズキャンセル」と「外音取り込み」の切り替えにもなっている。

ノイズキャンセルにすると機械的な「ブン」という音が鳴り、周囲が一気に静かになる。外音取り込みにすると、女性のため息が聞こえ、周囲の音が聞こえるようになる。ノイズキャンセルと外音取り込みのレベル・自然さは、AirPods Maxにかなり近い印象だ。すなわち「結構いい」。

Bluetoothのペアリングボタンは右の内側に独立してついており、間違って押すこともない。

Bluetoothボタンは内側に

個人的に気に入ったのは、電源ボタンが「独立したスライドスイッチ」であることだ。昨今はボタン長押しのパターンが多いが、あれはどうも、電源が切れたかわかりにくい。この仕組みも、間違いがなく、操作しやすいことにこだわった結果だろう。

右側の底面に、USB Type-C端子と3.5mmオーディオ端子が。左側にある電源はあえてのスライドスイッチ

さらに、スマホ上のアプリと連動してセッティングなどを変えられる。ここも機能的にはさほど珍しいものではないが、デザイン全体が凝っているのはNothingらしい。

スマホ上の「Nothing X]アプリで設定

ヘッドバンドはスムーズに動き、快適。イヤーパッド部をフラットに倒せるようになっている。だから収納ケースもかなり薄い。

収納ケースはかなり薄い

ハイレゾからUSBでのロスレスまで、機能充実

もう一つの特徴が機能だ。

いわゆるノイズキャンセル機能付きハイエンドヘッドフォン、という位置付けだが、それ以外にも機能はてんこ盛りだ。

まずハイレゾ。コーデックとしてはLDACとAAC、SBCをサポートし、96kHz/24bitでのワイヤレスハイレゾ再生もできる。

3.5mmヘッドフォンケーブルでの接続に加え、USB Type-Cでのロスレス接続にも対応する。

さらにモーションセンサー内蔵で、頭部のトラッキングも可能。これにより、360度のフィールドを備えたイマーシブ・オーディオにも対応する。このイマーシブ・オーディオは、Headphone(1)自体で処理する独自の擬似的なものであるようで、フォーマットなどを選ばない。

通話音声については、AIベースのノイズキャンセリング機能を備え、周囲の騒音を気にせずに話せる。

Bluetooth接続は2つのデバイスとの同時接続に対応し、スマホ+PCといった環境で使いやすくなっている。当然ながら、接続設定を容易にするGoogle Fast PairやMicrosoft Swift Pairにも対応している。

Google Fast Pairで簡単設定

スマホアプリとの連動でSpotifyなどの再生コントロールができるのはもちろん、ChatGPTの呼び出しにも対応。

再生可能時間は、AAC+ノイズキャンセル有効の場合で35時間以上。ノイズキャンセルをオフにすると80時間以上になる。LDACの場合には、ノイズキャンセル有効の場合で30時間以上、ノイズキャンセルオフの場合で54時間とされている。

急速充電により、5分間の充電で2.4時間(ノイズキャンセルあり)の再生が可能になる。

機能・スペックだけを見れば、最強クラスの製品と言っていいだろう。

KEFとチューニング、AACよりLDAC・ロスレスで明確な価値向上

肝心のオーディオ性能はどうだろうか。

音のチューニングなどは、イギリスのオーディオメーカーであるKEFとのコラボレーションで開発しているという。

オーディオチューニングはKEFとのコラボレーション

使用しているのは40mm径のダイナミックドライバーで、対応周波数帯域は20Hz~40kHz。ダイヤフラムはポリウレタン製となっている。

iPhoneからApple Musicを使い、AACで接続してみた場合、正直AirPods Maxと比較すると、クリアーさでは劣る印象を受ける。一枚ベールを被ったような感触だ。正直、音が小さい時に細かいハイハットのキレが悪い。他方で、音量を十分に確保すると好ましくなってくる。

他方で、USB Type-Cケーブルでつないでロスレスにすると、その辺の印象は一気に変わる。伝送が異なるから当然ではあるのだが。なんとなく、ワイヤレスでの諸々のオーディオ処理に少しクセを感じる。

同様に、AndroidからLDACを使うと音質が良くなってくる。AACよりもLDACの方が得意なヘッドフォン、ということもありそうだし、帯域的にもLDACの方が……ということなのだろう。

全体的な印象はそこまで悪くない。アプリからイコライザーで変更したりもできるが、それより「ちょっと大きめの音で、解像感重視ではなくリラックスする感覚で聴くとちょうどいい」という印象を受ける。解像感重視にするならUSB Type-C接続がおすすめだ。

これで299ドルというのは、なかなかお買い得だ。昨今はヘッドフォンも高価格化する傾向にあるが、「デザインや機能で差別化しつつ価格は抑える」というNothingのポリシーが、ヘッドフォンにおいても生きている印象は強い。

イヤホンもデザイン+コスパが光る製品群だったが、ヘッドフォンはさらに「求められる機能をとにかく詰め込んだ」上で、十分な音質を備えた製品になっている、という感じだろうか。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、AERA、週刊東洋経済、週刊現代、GetNavi、モノマガジンなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。 近著に、「生成AIの核心」 (NHK出版新書)、「メタバース×ビジネス革命」( SBクリエイティブ)、「デジタルトランスフォーメーションで何が起きるのか」(講談社)などがある。
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