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第156回:CES特別編 55型有機EL対決

日本にも攻めてくる韓国勢55型有機EL TVの実力は?



■ 55インチの有機ELを出してきた韓国勢

 今回のInternational CESで、ソニーが驚きの55インチの「無機材ELディスプレイ」(Crystal LED Display:CLD)を出してきたことで、「日本の意地」を感じ取ることはできたが、CLDは技術展示であり、韓国勢の出してきた55インチサイズの有機ELテレビは、極めて量産品に近い民生向けのものであるため、一般来場者の人気は有機ELテレビの方に集中していた。

サムスンはブース入口に有機ELテレビを配置。黒山の人だかりで通行不能状態になる時間帯も LGエレクトロニクスブースも入口付近に有機ELテレビを配置。両社は同胞ながらも「互いのライバル視」の度合いは毎年、凄さを増す一方だ

 サムスンの有機ELテレビは、2012年第二四半期での発売が予告されている。量産間近であることをアピールするかの如く、ブース内には全部で十数台の有機ELテレビ製品が展示、あるいは実演デモに利用されていた。当面、発売するモデルの画面サイズは55インチのみに限定されるようだ。

 サムスンのライバル、LGエレクトロニクスも55インチの有機ELテレビを出してきた。9日のプレスカンファレンス時点では、発売は未定だとしていたのだが「サムスンが出すなら」ということで、急遽、2012年の秋冬時期での発売が決定したらしい。こちらも55インチの1モデル展開となる。強い競合の存在により、発売スケジュールを前倒しにしたようだ。

 また、韓国勢は、今回の大画面有機ELテレビの量産化成功によって、だいぶ勢い付いてきているようで、サムスンは一度撤退した日本のテレビ市場に対して有機ELを持って再参入を計画していることを明らかにしている。

 一方、LGは、日本へのテレビ市場にINFINIAブランドで2010年に参入したわけだが、2012年のハイエンドテレビ製品の目玉はこの有機ELテレビになることは間違いない。

 両社の有機ELテレビの画質だが、デモ映像ということもあって、発色をやや派手方向に振っているものの、自発光画素の強みもあって、黒の締まり自体は良い。ただ、サムスンもLGもデモ映像のクオリティは低く、アナログケーブルか低ビットレートのMPEG-2のような映像を表示していたのが残念だ。

 もう少し、良い映像を出さないと、それがそのデバイスの実力だと思われてしまうのでもったいない。

サムスンの55インチ有機ELテレビは薄さ5mmと発表されている LGエレクトロニクスの55インチ有機ELテレビの厚さは4mm


■ 白色有機ELだけを利用するLGの有機ELテレビはコスト的に有利

LGの有機ELテレビの拡大接写写真。RGBWの配列。中央の青に近い白は白色発光と若干の青で表現されている点に注目。白色発光は比較的積極利用されているようだ

 さて、両社の有機ELテレビだが、その実現手法が微妙に異なっているのが興味深い。

 LGの方は、コストと量産性を重視したものになっている。具体的には、有機ELディスプレイ上の1920×1080×3(RGB)=約600万個、全てのサブピクセルは白色有機ELで構成される。これらR,G,Bのカラーフィルタを組み合わせ、フルカラー表現を行なう。

 ここは現実的な生産性を見た、大胆な省略事項だ。

 有機ELでは、有機半導体を陰極、陽極の2つの電極で挟み込んだ構造をしており、陰極は銀やアルミなどのミラー電極を用い、陽極には透明電極を用い、発光した光は透明電極側(ITO:Indium Tin Oxide)から出力される。

 現在有機ELにおける有機材料は低分子材料と高分子材料に大別され、それぞれにおいて成膜工程に特徴がある。

 低分子材料は成膜をマスクを用いて真空蒸着で行なうため、マスクの熱膨張などに起因した高精度の画素形成の難しさがつきまとい大型化パネルの製造は難しいとされてきた。高分子材料は、有機材料をインクジェットによる塗布で成膜させるため画面サイズによらず高精度に画素形成が行なえるが、RGBの各有機材料同士の相性問題や、回路等の積層工程で有機材料に損傷を与えてしまいやすいといった別の障害もある。

 LGの有機ELパネルは恐らく高分子材料だと思われるが、現時点では非公開とされている。ただし、生成する有機EL画素を白色限定したことで、R,G,Bの各色で発光できる有機材料を高精度に塗布し分ける工程を省略できること、そして成膜した有機材料膜に対してさらに電極を成膜する際にダメージ管理のハードルを下げられることなど、コストメリットは大きい。

 ソニーなどは、このRGB各色の有機材料の成膜工程にLIPS(Laser Induced Pattern wise Sublimation)と呼ばれるこのレーザー転写技術を新開発したが、30インチ程度(公開されたのは27インチが最大)のパネルの製造に成功するに留まった。

 どの程度のコストメリットがあるのか? 取材を進めたところ、白色有機ELパネルは、その製造の大部分に液晶パネルの製造ラインが流用できるのだという。このため、有機ELパネルは予想されるよりは低価格に出てくる可能性が高い。

 上で述べたように、画素配列は、RGB+W(赤緑青+白)となることが分かっている。つまり自発光画素としては白色有機ELの白色光を用い、これに赤緑青の各色のカラーフィルタを通してフルカラーを得る。

 面白いのはRGB3原色に加え、白色有機ELの"生"白色光も利用する点だ。これは「コントラスト感を得るため」と説明されているが、白色有機EL特有の発色のホワイトバランスをとるためではないか、という見方もある。画質に関しては、最終的なチューニングが終わってみないとどう転ぶか分からない不安もあり、場合によっては"色"に関しては、成熟した「白色LEDバックライト×液晶パネル」とそれほど変わらない場合もあるかもしれない。

LGのデモは発色よりは黒の沈み込みを強調したものになっていた 艶やかな純色の発色などのアピールは特に行なわれず。まだ、発色に関してはチューニング途中段階だという情報もある


■ サムスンの有機ELは縦並びにRGBサブピクセルを配置

 サムスンの有機ELテレビの方は、教科書通りの、R,G,Bの3原色で発光する有機材料で各サブピクセルを構成している。このため、「我々はカラーフィルターを使用していない」とアピールしており、LGの「白色有機EL×カラーフィルター」方式に対抗している。サムスンは自分達の有機ELテレビに対して「SUPER OLED TV」と命名しているが、これはLGの物に対して「SUPER」という意味が込められているようだ。

SUPER OLEDの“SUPER”はLGを意識したものだろうか 一方でLGは有機ELを「THE ULTIMATE DISPLAY」(究極のディスプレイ)としてアピール
サムスンの有機ELの拡大接写写真。サブピクセルは上から緑赤青の縦並びになっているのが特徴

 サムスンの過去の有機ELテレビの試作機は、ホワイトバランスが黄色方向に寄っていて、発色にクセがあったが、今回の発売予定の展示モデルはそうしたマイナス特性はだいぶ低減されていた。

 なお、サムスンの有機ELの画素配列はやや特徴的だ。画素は縦ストライブではなく、横ストライプで配置され、1画素は上から下に向かってGRBの並びになっていた。製造工程上の理由なのか、画質上の都合なのかはわからない。

 サムスンのものは、LGの白色有機ELベースのものよりも製造コストがかなり高く付き、その製造工程の複雑さから歩留まりにも不安が残る。そのため、かなり高額なものになりそうだが、「SUPER」と言っている手前、赤字覚悟でLGの製品に価格を合わせてくることはありうる。

純色の鮮烈度はサムスンの方が上か ホワイトバランスの偏りは、前よりは低減された感のあるサムスンの有機EL


■ サムスン、LGともに、有機ELテレビは3D立体視に対応

 サムスンとLGエレクトロニクスの有機ELテレビは、共に3D立体視に対応する。

 サムスンは、アクティブシャッター方式の3Dメガネを採用したフレームパッキング(フレームシーケンシャル)方式を採用し、LGエレクトロニクスは、偏光方式の3Dメガネを採用したFPR方式を採用する。

 これは各社の有機ELテレビの性能特性によるものや技術的な理由によるものではなく、それぞれの3D立体視に対する考え方の違いと3D戦略の違いに起因するものだ。なお、3D立体視の実現方式の各社の戦略についての詳細は本連載の第147回を参照して欲しい。

LGは55インチの有機ELテレビが3D対応であることをアピール

 LGのブースでは、偏光方式の3Dメガネを持ち帰りOKという状態で配布しており、「LGの3Dテレビを買えばそのままそのメガネがうちでも使えます」というメッセージの展示スタイルとなっていた。このため、実際に来場者の多くが3Dメガネを手に取ってからブースに入るため、多くの来場者が有機ELテレビでの立体視を体験することが出来た。

 LGの有機ELテレビでは、パネル上の奇数ライン画素群と偶数ライン画素群で偏向方向が異なるように作られた偏光フィルムを有機ELパネルに貼り合わせることで、偏光(FPR)方式の立体視を実現している。

 サムスンの方は高価なアクティブシャッター方式の3Dメガネなので、特設展示セクションでないと有機ELの3D立体視は楽しめず。

 ただ、サムスンは有機ELの高速応答性能と3Dメガネの機能を応用して、1画面で2つのコンテンツが全画面表示で楽しめる「DualView」を展示しており、来場者の興味を誘っていた。


1画面で2つのコンテンツを全画面で楽しめるDualView。2つのサウンドを聞き分けられる機能までを実装したのはこれが初めて

 これは有機ELテレビで、映像Aと映像Bの二種類の映像を交互に高速表示させて、各ユーザーはどちらか好きな映像だけを全画面で見られるというシステムだ。例えば、映像Aを見たいユーザーは、3Dメガネの両眼のシャッターの開閉動作を映像Aが表示されているときにだけ開く動作モードに切り換えることになる。3D立体視が3Dメガネの左右を交互に開閉するのに対し、DualViewでは、ユーザーごとに、3Dメガネのシャッターを両眼で開閉するのだ。

 すでに、これと同種の機能はソニーが2011年11月2日に発売したプレイステーションブランドの3Dディスプレイ「CECH-ZED1J」の「SimulView」で実現済みであり、もっと遡れば、Texas InstrumentsがDLPプロジェクタ/DLPリアプロテレビにて同名の「DualView」機能として2007年頃から実用化している

 とはいえ、有機ELの高速応答性能と結びつけたマーケティング戦略としては面白い。

 また、ただの二番煎じにならないよう、サムスンの有機ELテレビ用DualViewでは3Dメガネにヘッドフォンが内蔵させ、映像Aを視聴しているユーザーには映像Aのサウンドが、映像Bを視聴しているユーザーには映像Bのサウンドだけが耳元で鳴るようになる工夫を盛り込んでいた。

DualView特設ブースでは、映画コンテンツと音楽ライブを有機ELテレビで同時に表示しており、来場者は貸し出された3Dメガネのスイッチを切り換えて、どちらか好きなコンテンツの映像と音声を楽しめる体験が行なえていた

 日本の家電メーカーはテレビへの新しい価値として「3D」、そして次に「4K2K」という新しい価値を持ってこようとしているが、韓国勢は「有機EL」を持ち出しつつあることが、今回のCESから見て取れる。

 是非ともソニーには秘密兵器「無機材ELディスプレイ」(CLD)でこれらに対抗して欲しいが、こちらは量産化、民生化には、もう少し時間が掛かりそうだ。

(2012年 1月 13日)

[Reported by トライゼット西川善司]

西川善司
大画面映像機器評論家兼テクニカルジャーナリスト。大画面マニアで映画マニア。本誌ではInternational CES他をレポート。僚誌「GAME Watch」でもPCゲーム、3Dグラフィックス、海外イベントを中心にレポートしている。映画DVDのタイトル所持数は1,000を超え、現在はBDのコレクションが増加中。ブログはこちらこちら。近著には映像機器の仕組みや原理を解説した「図解 次世代ディスプレイがわかる」(技術評論社:ISBN:978-4774136769)がある。