西川善司の大画面☆マニア

第169回

この充実度でエントリー機? ソニー「VPL-HW50ES」

実売30万円以下で超解像3Dも

VPL-HW50ES

 ソニーの反射型液晶パネル「SXRD」(Sony Crystal Reflective Display)採用のプロジェクタは200万円超の製品QUALIA-004から始まった。後に登場したVPL-VW50はSXRDプロジェクタを一気に身近な存在とし、HW10はSXRDプロジェクタの価格破壊を巻き起こした。

 今やSXRDプロジェクタは、エントリー/バリュークラスからミドルレンジ、ハイエンドにいたるまでのフルラインナップ展開に至っている。実勢価格は30万円前後で、価格以上の性能といわれるVPL-HW50ESを今回は取り上げる。

設置性チェック~上下レンズシフト幅拡大。設置自由度が向上

 VPL-HW50ESは、'11年モデル「VPL-HW30ES」の後継機種で、基本デザインは、この製品ラインの元祖であるVPL-HW10(2008年)からほとんど変わっていない。外形寸法もHW30ESから変更無く、407.4×463.9×179.2mm(幅×奥行き×高さ)となっている。

投射レンズは前面中央に配される。左右のスリットは排気口。下は吸気口だ
背面のスリットは全てが吸気口だ
正面向かって左側面。接続端子パネルや簡易操作パネルが配される

 前部脚部と後部脚部の距離は約23cm。前後突き出るのを覚悟できれば、台置きの場合は天板の幅が30~40cm程度もあれば設置はできる。ただし、背面には吸気口があるのでここを塞がないように注意したい。脚部は前面2つが高さ調整対応のネジ式だが、底面はゴム製の固定型となる。

裏面の様子。脚部内側に見えるネジ穴が天吊り金具取り付け用

 重さは約9.6kg。成人男性であれば持ち上げることや移動は造作なく出来るはずだが、天井に上げるとなるとそれほど簡単ではない。

 ボディデザインに変更がないので天吊り金具は歴代のものがそのまま利用可能だ。具体的には「PSS-H10」(80,850円)と、データプロジェクタ用としてラインナップされている「PSS-610」(52,500円)が利用できる。

 投射レンズは微妙に仕様が変更され、HW30で「f18.7-29.7mm/F2.54-3.00」だったものが、VPL-HW50ESでは「f18.7-29.7mm/F2.52-3.02」となっている。ズーム倍率は1.6倍で変わりなし。100インチ(16:9)の最短投射距離も約3m(3,072mm)と変わらない。

投射レンズの各調整機構は手動式。フォーカス調整はリモコン対応化して欲しい

 天吊り金具も先代までと共有で投射距離ズーム倍率も先代までと同じなのでVPL-HW10/20/30のユーザーは本体をそのまますげ替えるだけでVPL-HW50ESへ移行が可能という事だ。

 焦点距離やF値に大きな変革はないが、レンズシフト量は結構変わっている。VPL-HW30ESでは上下最大±65%、左右最大±25%のシフト量だったものが、HW50ESでは、上下最大±71%、左右最大±25%となった。若干、上下方向のシフト量が向上しており、100インチ(16:9)時では、横シフトなし時はスクリーン中央から約88cmも上下に移動できる。ちなみに、縦シフトなし時の左右シフト量の約55cmは先代と同じだ。

 上方向シフト量の向上は、台置き時により上方向への打ち上げ投射を可能し、天吊り設置時は映像をより下まで降ろしての投射ができるようになる。そして下方向シフト量の向上は、本棚の天板上などに設置するオンシェルフ設置において、映像を下に降ろして絶妙な位置に映像を合わせるのに便利となるはずだ。

 フォーカス操作、ズーム操作、シフト操作等のレンズ調整は全て手動式だ。今回の評価は、リビングの100インチ(16:9)スクリーンに投射という設置方法だが、設置自由度が高いため、セットアップは楽に行なえた。しかし、唯一、苦労したのはフォーカス合わせだ。

フォーカス合わせ用のテスト画像は[PATTERN]ボタンで瞬時に呼び出せるのだが、これを見て設置位置からフォース合わせをするのは辛い…。

 レンズシフトやズームの調整は、プロジェクタの脇に立って投射レンズ近辺の調整リングを回して3m先の画面を見ながら行なう。これは問題無いのだが、フォーカス合わせは難しい。3m先の映像画素を見ながらフォーカスを調整するのではなく、やはり自分がスクリーン際に張り付いてリモコンで行ないたくなる。コスト削減のために電動ズーム/レンズシフト/フォーカス調整が実装できないのは分かるのだが、電動フォーカス調整だけは優先して搭載して欲しい。

 輝度スペックが向上したHW50ESだが、光源ランプはHW30ESと同じ出力200Wの「LMP-H202」(31,500円)。光源ランプが変わらないので定格消費電力も変更はなく300Wのまま。

 稼働中の騒音レベルは公称値約21dB。先代から1dB分さらに静粛性が進んでいる。実際、今回のテストでも、本体から1mほど離れた位置での視聴評価を行なったが、動作音が耳障りになることはなかった。

接続性チェック~HDMI階調レベルの設定対応。3Dトランスミッタを本体内蔵

接続端子パネル。端子ラインナップは先代からの変更はない

 HDMI端子は2系統。両端子共にHDMI CEC、3D、x.v.color、Deep Colorに対応する。

【訂正】記事初出時に、「x.v.color、 Deep Color非対応」と記載していましたが、正しくはx.v.color、Deep Color対応でした('13年1月17日追記)

 HDMI入力における、HDMI階調レベルの明示設定がついにVPL-HW系モデルにも搭載された。設定項目名は「HDMIダイナミックレンジ」で、オート/リミテッド/フルが選べる。ちなみに、PlayStation3との接続に際しては「オート」設定でも正しい階調レベルを自動選択してくれていた。明示設定が効力を発揮するのはPCとのデジタルRGB接続のときになるだろう。

「HDMIダイナミックレンジ」としてHDMI階調レベルの設定ができるようになった

 PC入力としては、アナログRGB接続対応のミニD-Sub15ピン端子も用意されている。ここは、別売りの変換ケーブル等を用いることで追加のコンポーネントビデオ入力端子としても利用できる。汎用端子として活用されるためこのD-Sub15ピン端子には「INPUT A」系統名称が付けられている。

 アナログビデオ入力はコンポーネントビデオ入力(RCA)端子のみ。Sビデオやコンポジットビデオ入力はない。これ以外には、リモート制御用のRS-232C端子、IR IN端子、そして3D立体視同期用の3D SYNC端子(LAN端子と同形状)などを備えている。トリガー端子は備えていない。

 HW50ESでは、3D同期用のIR信号を本体発信できるようになったのだが、確実な信号伝達を期したいユーザーのために、引き続き3Dシンクロトランスミッター「TMR-PJ2」(実売7,000~8,000円)が接続できるようになっている、ちなみに、TMR-PJ2は2012年7月に先代のTMR-PJ1からモデルチェンジしている。

 今回の評価では、視聴位置をスクリーンから2m~3mとしたが、実際に3D視聴した範囲では、同期信号の感度は良好であった。首を正面から左右に振った状態でも正しく同期が取れており別体型3Dシンクロトランスミッターの導入は、よほどのことがない限りは必要ないと思われる。

 3Dシンクロトランスミッターを内蔵したVPL-HW50ESだが、商品セットに3Dメガネは付属しない。別途必要人数分の3Dメガネ「TDG-PJ1」(実売1万円前後)を購入する必要がある。

操作性チェック~パネルアライメント機能がゾーン調整に対応

リモコンはVPL-HW30ESからほぼ変更なし。青色にライトアップされるギミックも共通

 リモコンもHW30ESとほぼ同じ。違っているのは画調モードを選択する上部の3×3のボタン群の割り当てが変更されたのと、黒レベル調整の[BLACK LEVEL]ボタンが姿を消し、代わりに、新機能のリアリティークリエーション操作用の[REALITY CREATION]ボタンに置き換わった程度だ。

 ちなみに、プリセット画調モードは一新され、上級機のVPL-VW1000ESと同一となっている。ここも、エントリーSXRD機でありながら、上位を食いそうなスペックの1つである。

 電源オンからHDMI映像が表示されるまでの所要時間は20秒。映り始めは暗いが、それでも真っ暗な状態でまたされるよりはいい。入力切換は[INPUT]ボタンを押してからの順送り操作か、あるいは表示される入力切換メニューから上下ボタンで希望入力を選択する操作系となっている。切換所要時間はHDMI1→HDMI2で約3.5秒。

 アスペクトモードは[ASPECT]ボタンを押すことで順送り式に切り換えられる。用意されているアスペクトモードは以下の通り。

アスペクト比モード
ワイドズームアスペクト比4:3映像の疑似16:9化
ズーム4:3映像にレターボックス記録された16:9映像を切り出して
パネル全域に表示
ノーマル入力映像のアスペクト比を維持して表示
ストレッチ4:3にスクイーズされた映像をパネルサイズ一杯にして表示。DVD向け
Vストレッチシネスコ2.35:1の映像をパネルサイズ一杯にして表示。
アナモーフィックレンズ使用時向け

 調整可能な画調パラメータはVPL-HW10VPL-VW90ESから大きな変更はない。

 デジタル画像処理でピクセル幅未満のピクセル移動を実現する「パネルアライメント」機能は、HW30ESよりも進化した。HW30ESでは、画面全体をRGBの各プレーンごとに個別に動かすまでの調整だったが、HW50ESでは、なんと画面を144分割した各領域において個別に動かす調整ができるようになった(「ゾーン調整」機能)。これも上位機から降りてきた機能で、上を喰いそうなスペックの1つである。

 ただ、今回の評価機は、色収差がほとんど気にならないレベルだったため、パネルアライメントの機能を有効化せずとも十分なピクセル表示が得られていた。

 いちおう、調整を追い込む意味合いでR(赤)を「横(H)-3、縦(V)+1」、B(青)を「横(H)±0、縦(V)-3」と調整してみたが、スクリーンから2mも離れるとパネルアライメント=オン/オフの違いはほとんど分からなかった。それだけ素性の表示性能がいいということだ。実際にオーナーになった人はじっくりと144箇所の調整の追い込みを楽しんでみるといいだろう。

VPL-HW50ESにも色収差による色ズレを修正できる「パネルシフトアライメント」を搭載。VPL-HW50ESでは144(=16×9)点において個別の調整が出来る「ゾーン調整」に対応した
ゾーン調整ではなく、画面全体をシフトする従来の調整方式にも対応。

画質チェック~1,700ルーメンの高輝度がもたらすハイダイナミックレンジ高画質

 映像パネルはソニーの反射型液晶パネル「SXRD」を採用する。パネル世代はHW30ESと同じで製造プロセス0.2μmによるもので、応答速度も2.0msだ。240Hz、4倍速駆動に対応する。

 多くの基本設計をVPL-HW30ESから継承しているが、HW50ESでは光学系に改良の手をいれたという。その甲斐あってだろうか、フォーカス感はかなり良好で、画面中央でフォーカスを合わせるとほぼ画面全域できっちりと合ってくれる。

パネルアライメントオン時。R(赤)を「横(H)-3、縦(V)+1」、B(青)を「横(H)±0、縦(V)-3」と調整
パネルアライメントオフ時

 色収差による色ズレもかなり小さく、この価格帯のフルHD機としてはトップクラスの解像感だ。これも改良された光学系の恩恵だろうか。

 公称輝度は1,700ルーメン。ソニーのエントリークラスのSXRDホームシアター機としては最大輝度モデルになる(最上位機のVPL-VW1000ESは2,000ルーメン)。

 もともと、黒の沈み込みとハイコントラスト感がウリのSXRDパネルだったので、過度な高輝度光源と組み合わせるとそれらがスポイルされるため、元来、ソニーも高輝度モデルは出してこなかった経緯がある。VPL-HW50ESは、ソニーが自らに課してきた縛りを打ち破って出してきた「高輝度×SXRD」モデルなわけで、その画質には大きな興味が湧くというものだ。

 まず、映像を出してみて感じるのが、当たり前ながら、とても明るいと言うこと。蛍光灯照明下でもデータプロジェクタ並みの明るさの映像を出してくれる。

 照明下の部屋では、その部屋の明るさが黒レベルになってしまうので、黒は出せていないことになるわけだが、HW50ESの映像の高輝度部分はその部屋の明るさに負けていないため、知覚上、見る者は「部屋の明るさ=黒」としてちゃんと映像を見ることができるのである。これはなかなかの驚きの体験だ。

 一般的なデータプロジェクタの映像は、映像中の黒にも光源の輝度が上乗せされてしまうので全体的に白っぽい映像になってコントラスト感に乏しいのだが、HW50ESではそれがないのだ。

 もちろん、最上の画質で見るならば暗室で見るべきだが、部屋が明るくても「相対的には高画質」というのは、これまで何機種も登場してきたSXRD機の歴史の中でHW50ESのオンリーワンな高性能だと思う。

 逆に暗室にしたときは暗いシーンが続く映像では、若干、黒浮きが気になる。

 しかし、その際は、ランプコントロール(ランプ輝度設定)を「高」から「低」に変更すればいい。「ランプコントロール=低」設定時の具体的な輝度値は公開されていないが、HW30ESと同等の1,300ルーメンあたりまでは輝度が落とせているようで、暗室での視聴時には丁度良い明るさになる。かなり黒浮きも低減されるので、暗室でしか使用しないという場合には「ランプコントロール=低」での常用もありだと思う。1,700ルーメンは3D立体視の時だけ活用すればいい。

ランプコントロール=高
ランプコントロール=低

 ただ、「ランプコントロール」設定は「画質設定」-「シネマブラックプロ」-「ランプコントロール」とメニューを潜っていかなくては変更が出来ないため、操作は少々煩わしい。高輝度モデルにはリモコンに「ランプコントロール」の設定切り替えボタンが必要だと訴えたい。

 公称コントラスト値は10万:1。JVCとは違い、ソニーは動的絞り機構を活用してのコントラスト値を公称値としている。

 実際の映像を見てみると、確かにコントラスト感はあるが、前述したように暗室では、1,700ルーメンの輝度パワーにより黒浮きが若干あるので、むしろ高輝度側でコントラスト値を稼いでいる印象だ。なんというか、透過型液晶パネル搭載機のようなコントラスト感と言えば伝わるだろうか。ただ、これも前述したように「ランプコントロール=低」とすると、SXRDらしい黒の沈んだ画作りになる。この時はもしかすると、HW30ES相当の7万:1くらいになっているのかもしれない。

 ただ、この特性を前向きに考えることもできるだろう。そう、明るい映像は「ランプコントロール=高」としてハイダイナミックレンジな特性で楽しみ、暗い映像は「ランプコントロール=低」として黒重視で楽しめばいいのだ。

 発色も非常に良い。2007年のVPL-VW60あたりからソニーのVPLシリーズは水銀系ランプでも発色が良くなったが、HW50ESもかなりいい。もはや、発色に関しては最上位の4K機VW1000ESにも引けを取っていない。赤、緑、青の純色は雑味がなく、色深度も深いため、暗部階調においても色味がしっかりしている。水銀系ランプにありがちな黄色に寄った緑や朱色感の強い赤の姿はなく、それこそキセノンランプに近いような発色特性となっている。

 人肌も非常に自然に見える。特にいいのが「リファレンス」画調モードで、透明感と血の気から醸し出される暖かみも感じられる。水銀系ランプの黄味の乗った肌色ではなく、艶やかでリアルな陰影を見せてくれている。

フィルム1
フィルム2
リファレンス
TV
フォト
ゲーム
ブライトシネマ
ブライトTV

 HW50ESでは、色空間の「カラースペース」を切り替えできるようになっているが、色空間名は「カラースペース=BT.709/1/2/3」と変更されている。

 HD色域であるsRGB相当を表す「BT.709」以外の設定名はチューニングの意図が掴めず分かりにくい。取扱説明書によればカラースペース=1はテレビ番組、スポーツ、コンサート視聴向けとあり、実際に見た感じでは青に深みが増したような色あいになる。同様にカラースペース=2は明るい部屋での視聴向きとあり、全体的に黄味が強くなる傾向になる。カラースペース=3は説明書には映画視聴向けとあるが、広色域モードに近い色あいのようだ。ホワイトバランスは崩れないので好みに合わせて使い分ければ良いとは思うが、筆者ならば「BT.709」か「カラースペース=3」の二択で常用するだろう。

カラースペース=BT.709
カラースペース=1
カラースペース=2
カラースペース=3

 動的絞り機構の「アドバンスアイリス3」は、映像の平均輝度応じて光量を絞る機構で、HW30ESから変化はないが、既にその時点で完成の域に達していたので不満はない。シーンの移り変わりが大胆に変わったときにも不自然なく調光してくれるため、連続的に映像を見ている限りはその存在すら気がつかない。もちろんシーンを固定して切り換えればちゃんと黒浮きの低減を実感できるので機能がサボっているわけではないのだ。

アドバンストアイリス=切
アドバンストアイリス=オートリミテッド
アドバンストアイリス=オートフル

 ホールドボケの低減技術として補間フレーム挿入を組み合わせた倍速駆動技術「モーションエンハンサー」もHW30ES世代と同じものが搭載されている。SXRD自体は240Hz駆動対応だが、モーションエンハンサー自体は120Hz駆動であることには留意しておきたい。

 ところで、ソニーのこの辺りの技術は名前が色々あってややこしいのだが整理すると、「フィルムプロジェクション」は光源制御を組み合わせた黒挿入技術で、「モーションエンハンサー」と「フィルムプロジェクション」の両方をまとめて「モーションフロー」というらしい。他社もそうだが、機能名がごちゃごちゃしていて「名は体を表さない」状態になっていて分かりにくい。

 余談はさておき、実際に、モーションエンハンサーの効果を本連載では常用しているテスト素材「ダークナイト」(ブルーレイ)の冒頭のビル群のフライバイシーンで視聴してみたが「切・弱・強」の3段階設定のうち、「弱」設定が非常に優秀な効果を見せてくれる。過度なヌメヌメした不自然なスムージングは起こらず、ホールドボケ低減に留めたバランスの良いチューニングなのだ。予測エラーによるピクセル振動も、オリジナルフレーム支配率がそれなりに高いせいなのか、ほとんど分からない。筆者は元来、この系統の技術はあまり好まないのだが、数少ない「常用OK」の太鼓判を押しておきたい。「強」設定も、まれにピクセル振動が見られるが、以前のモデルと比べればだいぶ優秀だ。好みに応じて「強」設定を使うのもありかもしれない。

 さて、映像エンジン周りで最も進化があったのは、最新BRAVIAやVPL-VW1000ESに搭載されていた「データベース型超解像処理LSI(リアリティークリエーション)」がHW50ESにも搭載されたことだ。

 リアリティークリエーションは、映像を構成する画素の輝度(色)分布を空間的な信号として認識・処理して波形補正を適用する一般的な超解像アプローチとは異なり、映像中のディテール分布をシステムが所持しているデータベースにパターンマッチングさせて高解像パターンに置き換えていくような斬新な超解像処理の仕組みを採用している。このため輪郭部が過度に先鋭化されるリンギングノイズが出にくいという特徴を持つ。その甲斐あってか、480pや480iのDVD映像にも効果的に効いてくれる。ネット動画のような低ビットレート映像とも相性がよかった。

480p入力時のリアリティークリエーション=切
480p入力時のリアリティークリエーション=入。効果の違いが写真でも分かる
フルHD映像の拡大
ここにリアリティークリエーションを適用するとこのようになる

 ブルーレイ映像のような1080pネイティブ映像にも効かせることができ、その際は、「リアリティークリエーション」-「ノイズ処理」の部分の設定が重要になると感じた。

リアリティークリエーション設定メニュー。ここの「ノイズ処理」はリアリティークリエーションにまつわる設定になる

 この「ノイズ処理」とは映像に対する直接的なノイズ低減というよりは、リアリティークリエーションによって超解像化された映像に対するノイズ低減の意味合いになる。

 超解像化処理を行なうと、映像中のノイズまでをもディテールと誤認して超解像化されてノイズが目立ちやすくなってしまう。これを低減するのがこのパラメータなのだ。

 ここをうまく調整すると、映像中のピントが合っているところだけが先鋭化され、ピンぼけ部分はそのピンぼけ表現が維持されて見えるようになる。基本的には各プリセット画調モードのデフォルトのままで良いとは思うが、鮮鋭度の調整パラメータである「精細度」とベストバランスのところを見つけるのが調整マニアとしては楽しみになりそうな気がする。

リアリティークリエーション=切
リアリティークリエーション=入。「ノイズ処理」を強めに掛けてやるとピンぼけ部分の味わいはそのままにしてディテールだけを先鋭化できる

 3D映像の画質は例によって「怪盗グルーの月泥棒」のチャプター13のジェットコースターシーンで評価してみたが、左右の目の映像が混ざって見えるクロストーク現象は「3Dメガネの明るさ」設定が最大だとわずかに見える。VW1000ESの評価の時はクロストーク現象がほとんど見えなかったので、ここは若干の差異があると指摘しておきたい。ただし、「3Dメガネの明るさ」を最大値から一段下げた「3」とするとだいぶ良くなる。その分映像は暗くなるが、1,700ルーメンの輝度パワーがあるので、映像が暗いという実感はあまりない。クロストーク現象が気になったら「3」設定、気にならない映像だったら「Max(4)」設定として使い分けるといいだろう。この3D映像関連の機能メニューはリモコンで[3D]ボタンを押すことで一発で呼び出せるのでやりやすい。

 3D画質の発色も良好だ。「メガネの明るさ」設定は「3」とした方が色味は良くなると感じる。「4」だと明るさ重視のためか若干黄味が強めに感じる。

 なお、3D立体視時のリモコン感度も改善されているようだ。今回の試聴テストでは本機のリモコン、エアコンのリモコンともに3D映像視聴中もまずまずの反応を返してくれていた。

 以下にプリセット画調モードのインプレッションを示す。

【フィルム1】

フィルム1

 輝度の明るめなシネマモード。色温度は6500K。アドバンスアイリスはフルオートを選択しており、1,700ルーメンの輝度の伸びを活用した画調で万能性が高い。モーションエンハンサーは無効化されているのでフィルムジャダーの味わいが楽しめる

【フィルム2】

フィルム2

 暗部階調を優先した画調。色温度は5500Kまで落とされているのでクラシックなフィルムの味わいが再現される。アドバンスアイリスもオートリミテッドを選択指定して輝度も押さえられている。暗室向き。モーションエンハンサーは無効化されているのでフィルムジャダーの味わいが楽しめる

【リファレンス】

リファレンス

 sRGBベースのリファレンスモニターライクな画質。万能性は高い

【TV】

TV

カラースペース1を選択し、モーションエンハンサーが有効化されたモード。目立った特徴を感じない

【フォト】

フォト

輝度を絞った階調再現性重視モードで色温度も5500Kと低く赤みを帯びている

【ゲーム】

ゲーム

コントラスト重視で明部は若干飛ばし気味。明るさを最優先にした画調で、他機種で見られる「ダイナミック」画調モードのようなイメージ

【ブライトシネマ】

ブライトシネマ

 色温度を7500Kにした白が純白に見えるモード。明るい部屋での活用を想定してか「ゲーム」のように明部を飛ばしている。第2の「ダイナミック」画調モード

【ブライトTV】

ブライトTV

 水銀ランプ特有の黄味を帯びた色合いになるが、その分とても明るい。「ゲーム」「ブライトシネマ」では飛ばし気味としていた明部階調はそれなりにリニアに調整されており、明るいモードながらも階調性に配慮している。とはいえ、第3の「ダイナミック」画調モードという感じではある

 恒例の表示遅延の測定は、今回も3ms(60Hz時0.2フレーム)という表示遅延性能を誇る東芝REGZA 26ZP2をリファレンスに用いた。測定はプリセット画調モード「ゲーム」において行い、2D時と3D(サイドバイサイド)時で測定した。

 2D時の表示遅延時間は24ms(60H時約1.4フレーム)、3D立体視時の表示遅延時間は20ms(60Hz時約1.2フレーム)となっていた(いずれも測定結果は26ZP2との相対遅延)。

 先代VPL-HW30ESはもちろん、上位機のVPL-VW1000ESよりも(ゲームモードにおいては)表示遅延時間は短縮している。1フレーム遅延程度であればリアルタイム系のゲームプレイにも十分対応できるポテンシャルだ。

2D時の表示遅延時間は24ms(60H時約1.4フレーム)
3D立体視時の表示遅延時間は20ms(60Hz時約1.2フレーム)

おわりに

 VPL-HW50ESは、エントリー/バリュークラスのSXRD機でありながら、非常に高いポテンシャルが与えられているため、いわば「SXRDのラインナップ破壊」とも言うべきモデルである。

 1,700ルーメンは、いかにもエントリー/バリュークラスらしい高輝度スペックだが、光源ランプを低輝度モードで活用すれば、従来のSXRD機と同じように活用できるので負い目はない。1,700ルーメンの高輝度は明るい部屋での活用や、3D立体視を楽しみたいときに有用だし、暗室で2D映像をじっくり鑑賞したいときには低輝度モードで楽しめばいい。「高輝度は低輝度を兼ねる」的な使い方ができるのは上位機のVW1000ESを除けば、HW50ESだけだ。

 画質もフルHD機という括りで行けば成熟の域に達しているし、なにより最新世代の残像低減技術である「モーションフロー」、超解像技術の「リアリティークリエーション」までが搭載されているため、ポテンシャル的には上位のVPL-VW95ESを喰ってしまっている。

 HDMI階調レベルの手動設定に対応したことでPCユーザーにも扱いやすくなり、表示遅延も改善されてゲームユーザーにも訴求できる製品となった。筆者個人としてはフォーカス合わせだけは電動化して欲しいところだが、それ以外に大きな不満はなかった。今季のおすすめ商品としてプッシュしたい。

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トライゼット西川善司

大画面映像機器評論家兼テクニカルジャーナリスト。大画面マニアで映画マニア。本誌ではInternational CES他をレポート。僚誌「GAME Watch」でもPCゲーム、3Dグラフィックス、海外イベントを中心にレポートしている。映画DVDのタイトル所持数は1,000を超え、現在はBDのコレクションが増加中。ブログはこちら