西川善司の大画面☆マニア

第171回

CES特別編 4Kに見る映像の未来【1】

パナソニック、ソニー56型4K有機ELの秘密

4Kは必要か? 〜4K台頭は止められない

 今年のInternational CESは、そこかしこで、明けても暮れても「4K」の2文字が乱舞している。

 4Kは、「高解像」「広色域」「高コントラスト」「高価格」の頭文字をとったものだ……というのはまったくのウソで、横方向の画素数が4,000ドットに近い映像を言い表したキーワードになる。かつてフルスペック・ハイビジョン画質を縦解像度の画素数で1080pと呼んだのに、今回は横方向の画素で呼ぶのはなんとも不思議な感じだが、世間一般では4Kは3,840×2,160画素、あるいはDCI規格の4,096×2,160画素を指す。日本では4K、あるいは4K2Kと呼ばれることが多いが、欧米ではULTRA HD(UHD)の呼び名が定着しつつある。

 今回の4Kの盛り上がりぶりは、2010年時の3D立体視ブームに近いものがあり、きっと2013年は「4K元年」などと呼ばれることになるのだろう。

ソニーは特に4Kに力を入れているメーカーだ
韓国系は「Ultra HD」として4Kを訴求
シャープも北米では「Ultra HD」と表現

 一般ユーザーの中には「4Kなんて不要。だって4Kのコンテンツなんてないから……」という声も多いが、実はその論理でいくならば「フルHDなんて不要」という結論に達しかねない。

 というのも、実はフルHDのコンテンツはブルーレイやゲームくらいのもので、テレビのメインコンテンツである地デジ放送は1440×1080i(インターレース)で横長画素の映像なので、フルHDの映像パネルの表示の際には横解像度を1,440画素を1,920画素に伸長して、縦解像度は映像の2フィルード分をバッファリングしてプログレッシブ化してから表示していることになる。つまり、映像エンジンでフルHD化されたものを見ているわけで、フルHDですら「リアル表示ではない」事が多いのだ。ちなみにBSデジタル放送は1920×1080i(インターレース)なので、横方向画素伸長はないがプログレッシブ化処理は行なわれてからフルHD表示がなされている。

 デジカメの画素数が1,000万画素を優に超え、なおも画素数を増やしているのと同じようにディスプレイ装置の解像度上昇は、当面、止められることはないだろう。

シャープは「8K」テレビを展示。近未来に4Kは当たり前になるだろう

 2020年代には8K4K(7,680×4,320画素)のテレビ試験放送が予定されており、おそらくこの時までには、4K解像度も「あって当たり前」の存在になってしまうのではないかと思う。

 というわけで、前置きが長くなったが、今回の大画面☆マニアでは、International CESに見た4K関連の話題をお送りしたい。

パナソニックはRGB印刷方式の透明電極型トップエミッション構造を採用

 今回のInternational CESで、日本メーカーで4Kの有機ELディスプレイ(テレビ)を発表したのはソニーとパナソニックの2社であった。共に画面サイズは56型。

RGBオール印刷方式の利点

 パナソニックの4K有機ELディスプレイは、サブピクセルである各RGBの有機EL画素における有機EL材質を印刷で形成する「RGBオール印刷方式」を採用している。

 印刷方式は、一度、ドットピッチを決定して印刷ヘッドを開発してしまえば、このヘッドを共用して、画面サイズに依存しない生産が可能だ。例えば、大型サイズではこの印刷ヘッドで1枚の大型パネルに対してRGB有機EL材質を形成させ、中小型では同型印刷ヘッドで一度に複数枚のパネルに対してRGB有機EL材質を形成させる……といった具合だ。

 有機EL材質を蒸着させる方式とは違い、真空環境や高温製造プロセスが不要なので生産工程がシンプルでコスト的に安くしやすいという利点もある。

 また、この方式ではRGBのサブピクセルをリアルに形成できる利点もあり、ペンタイル方式(後述)などのサブピクセルレンダリングディスプレイ(SRD)技術を用いずにリアル解像度の表示が出来る利点がある。

 しかし、印刷方式に用いる青(B)の発光層の有機EL材質は、発光効率と寿命に関して弱いという弱点がある。

 今回、パナソニックが展示した4K有機ELディスプレイの表示映像は、黒の締まりは素晴らしいのだが、発色に癖がある。全体的に黄色っぽいのは、この特性が出てしまっている可能性がある。

黒の締まりはいい
発色に癖がある。特に白が黄色い

 今回のパナソニックの4K有機ELディスプレイは、RGB発光層からの出力光にカラーフィルタを組み合わせて色純度を高める構造になっている。

透明電極型トップエミッション構造

 有機EL発光層はメタル陽極と透明電極とのサンドイッチ型構造をとっており、有機EL発光層からの出力光は透明電極を通り、カラーフィルターを通って最終表示出力がなされる。これは透明電極型トップエミッション構造と呼ばれる。

 パナソニック側の発表ではピーク輝度は500cd/m2。階調表現は各RGB10bit。コントラストは300万:1。NTSCカバー率100%。外形寸法的には表示寸法が1233×639(mm)で対角55.6インチ(1414mm)、最薄部で8.9mm。重量は12.4kgと発表されている。

ソニーはスーパーハイブリッド有機EL方式

 ソニーの4K有機ELディスプレイは、印刷技術と真空蒸着を組み合わせたハイブリッド型形成方式を採用している。

 印刷技術で形成しても問題ないとされる赤色発光層と緑色発光層の形成に印刷技術を用い、印刷で形成すると発光効率や寿命の面で難がある青色については青色共通層として蒸着技術を用いて形成している。

スーパーハイブリッド有機ELの構造(ソニーの発表論文より引用)

 この構造の有機ELに対して、ソニーは「スーパーハイブリッド有機EL」という名称を与えている。
 また、今回の4K有機ELディスプレイにおいても、これまでソニーが有機ELディスプレイ技術として進化させてきたスーパートップエミッション(STE)方式を採用している。

 STE方式では、各画素からの出力光をマイクロキャビティ(微小共振器)に通して反復反射させて共振させて取り出す。取り出したい純色からずれた波長の光は、波長が揃えられて取り出される構造なので発光効率がよく、しかも極めて急峻で雑味のない特性のスペクトル光を高輝度で取り出せる特性がある。

 今回、ブースで展示されていた56型4K有機ELディスプレイは、黒の締まりもさることながらとてつもなく白が美しい。全体の発色バランスもいい。

 この特性は、スーパーハイブリッド有機EL構造の特質と、STE方式の相乗効果なのではないかと思う。

スーパートップエミッション構造
黒と白が同居したときにも安定したコントラスト感が得られている
白が美しいソニーの56型4K有機ELディスプレイ

画素を駆動するTFT層に採用される酸化物半導体はITZOか!?

 今回ソニー、パナソニック、2社が発表した56型の有機ELディスプレイには、有機EL画素を駆動するためのTFT回路に、ソニーと台湾AUOが共同開発した酸化物半導体ベースのものが採用されている。

 TFT回路部分はソニーとパナソニックのもので共通と見られており、これが画面サイズが共通の一因にもなっているようだ。

 酸化物半導体についての詳細の説明はソニーからもパナソニックからもないが、これは、インジウム・錫・亜鉛・酸化物半導体のITZOではないかとみられている。

 というのも近年のSID、IDWといったディスプレイ技術学会において、ソニーが有機EL用のTFT開発に際してのITZO関連発表が多いためだ。実際、各発表論文においてはかなり良好な研究報告がなされている。

 なお、このIn-Sn-Zn-O半導体……別名ITZO(イトゾー?)は、可視光に対して透明な特性があり、電子移動度がシャープが実用化を果たしたIGZO(インジウム・ガリウム・亜鉛酸化物:イグゾー)の約3倍の30cm2/Vs以上あるといわれる。

ソニーの56型4K有機ELディスプレイのサブピクセル構造に迫る

 「ソニーが発表した56型4K有機ELディスプレイはサブピクセル構造がRGBストライプではない」という情報があったので、ソニー側に確認したところ「お答えできない」と言われてしまった。

 仕方ないので、デジカメで11倍望遠で撮影してみたのがこちらの写真だ。

表示面を11倍望遠撮影した写真
左写真の部分拡大。白発色させた画素に波打ちがないのでペンタイルっぽくはない?

 「RGBストライプサブピクセルではない」という前提のもと、筆者が勝手に推測すると、可能性としては2つ考えられる。

 1つはペンタイル方式などの構造を使ってのサブピクセルレンダリングを用いる方式だ。

RGBサブピクセル方式とペンタイルRGB方式。視覚上、この2つは同解像度に見える。サブピクセルを数えると右の方が圧倒的に少ない

 簡単に言うと、1つのサブピクセルを複数のピクセル表現に流用する技術で、ディスプレイパネルに形成するサブピクセル数を、一般的なRGBサブピクセル方式と比較して33%ほど少なく出来るメリットがある。ちなみに、パテントは、米nouvoyanceがパテントを持つ。

 この方式を採用すると開口率も高くなり、輝度も稼げ、フルRGBサブピクセルと比較してサブピクセル数が少ないので歩留まり向上を狙えて、パネル製造コストを下げられる効果もあるといわれる

 2つ目の可能性は、共通層として蒸着させた青色サブピクセルの上に、緑や赤のサブピクセルをその上に形成させる方式だ。こうすると見かけ上、青のサブピクセルは存在しないように見え、単色青色光は、発光していない赤や緑のサブピクセルの裏から出てくるようなイメージとなる。量子ドット技術などを組み合わせての調光が必要な可能性もあるが、有機EL画素は、液晶画素のように厚みはなく数μmなので、サブピクセルの積層形成は現実なソリューションとして実際研究されてもいる。

 今回のソニーの4K有機ELディスプレイが採用するスーパーハイブリッド有機EL方式は共通青色層の上にR,Gサブピクセルを形成しているので、この方式の可能性が高いかもしれない。

 空間的にも青だけは分離していないフルカラーピクセル表現ができるので、ペンタイル方式と比較すると解像力の面でも優位である。

表示面を11倍望遠撮影した写真
左写真の部分拡大。白発光画素(R+G+B)と紫(R+B)発光画素と青(B)発光画素の面積比に着目してほしい。いずれも同じサイズに見える。ということは……?

ソニーとパナソニックの有機EL共同開発プロジェクトの進捗は?

 2012年6月に「ソニーとパナソニックの次世代有機ELパネルの共同開発に関する合意契約の締結」のニュースが報じられたが、今回のInternational CESでの両社の4K有機ELディスプレイの展示は、この共同開発の中間発表的な行為として捉えられている。

 実際、ソニーおよびパナソニック関係者に取材してみると、今回発表されたものは、両社の有機EL技術を持ち寄って開発が進められたものなのだという。

 しかし、同じ技術ベースのものを開発していても意味がないため、使える部分はお互いの技術を共有して用い、「未知な分野」や「さらなる研究が必要な分野」についてはソニー、パナソニックそれぞれの得意な技術を活かして個別・並列に開発を進めていく。

 今回、パナソニックがRGB印刷方式、ソニーがハイブリッド方式としたのは、まさにそれぞれの個別・並列研究成果といったところなのだろう。

 ある業界関係者は、「コスト的には印刷方式の方が有利なのは間違いない」としており、画質面について、現状は青が弱い特質もいずれ技術革新で解決されるであろという見通しを話していた。

 別の業界関係者は、印刷方式とハイブリッド方式をパネルサイズや製品グレード、量産性において使い分けていく可能性も強いと述べていた。

 ソニー、パナソニック、両者によるジャパン有機ELディスプレイ開発の切磋琢磨は今後も続いていくにちがいない。

トライゼット西川善司

大画面映像機器評論家兼テクニカルジャーナリスト。大画面マニアで映画マニア。本誌ではInternational CES他をレポート。僚誌「GAME Watch」でもPCゲーム、3Dグラフィックス、海外イベントを中心にレポートしている。映画DVDのタイトル所持数は1,000を超え、現在はBDのコレクションが増加中。ブログはこちら