西川善司の大画面☆マニア

第185回

CES編:パナソニック、液晶でプラズマ画質完全再現?

4Kプロジェクタを小型/低価格化するPixel Quadrupleも

 今年も大画面☆マニア的な視点でInternational CESブースを見ていきたい。今回はパナソニックブース。4K有機ELや、4K DLPプロジェクタを身近にする技術、そして液晶テレビでプラズマの画質を再現する技術など、興味深い展示が目白押しだった。

4K有機ELパネルは画質も表示フレームレートも進化

 ソニーとパナソニックはテレビ向け有機ELディスプレイパネルの共同開発技術提携を行なってきたが、2013年12月末に提携を終了すると発表した。この際には「基礎技術開発フェーズが終了した」、「量産技術においては各社それぞれが独自に追求する」といったことが提携終了の理由に挙げられた。

 となれば気になるのが、年が明け2014年のCESにおける有機ELテレビ展示となるわけだが、日本メーカーで直視型有機ELテレビの試作モデルを展示していたのはパナソニックだけであった。

 パナソニックが展示していたテレビ向け有機ELパネルは画面サイズが55型で、解像度は3,840×2,160ドットの4K。展示品に近づくことができなかったため、サブピクセル構造は不明だ。

 しかし、パナソニックの有機ELは、RGBオール印刷方式を採用しているはずなので、基本的にはRGBサブピクセル構造のはずだ。

 RGBオール印刷方式とは、RGB有機EL材質を印刷で形成させてしまう方式。あるドットピッチの印刷ヘッドを開発してしまえば、このヘッドを共用することで、画面サイズに依存しない有機ELパネルの量産が見込める点がアドバンテージとして訴求される。

 パナソニックの有機ELパネルは、有機EL発光層がメタル陽極と透明電極とのサンドイッチ型構造をとっている。有機EL発光層からの出力光は透明電極を通り、カラーフィルターを通って最終表示出力がなされる構造で、これは特に「透明電極型トップエミッション」と呼ばれている。

RGBオール印刷方式
透明電極型トップエミッション構造

 昨年のCESの有機ELパネルのデモは、画質的なチューニングが間に合っていないような、ホワイトバランスが崩れたような画質だったのだが、今年のデモはそのあたりが劇的に改善され、純色はもちろんのこと、鮮烈な白の表現も美しかった。

 暗い映像デモがなかったので、自発光式の有機ELが不得意とする暗部階調表現の分解能についてまではよく分からなかったが、昨年の展示よりは明らかに画質が向上している。パナソニック関係者によれば、現在は、動画表示能力の性能向上に努めているそうで、動きの激しい映像での輪郭ボケなどの対策が行なわれているらしい。

 なお、昨年までは、60Hz(60fps)表示までの対応だったのだが、本年の展示モデルは120Hzにまで動画性能が高められているとのこと。これは有機EL画素を駆動するTFT(薄膜トランジスタ)回路の駆動性能が高められた恩恵だとされている。

 今回は、「4K Curved OLED」と銘打ち、有機ELパネルを曲げた状態で展示しているが、コレに関しては特別な対策は講じていないとのこと。「有機ELは曲げようと思えば曲げられる」というメッセージを込めているだけで、韓国メーカー系の湾曲テレビへの対抗意識というわけではないという。

今年の日本メーカーの有機ELパネルの展示はパナソニックのみ。昨年から画質が劇的に向上。さりげなく120Hz表示にも対応

「疑似4K表示なのにリアル4K表示」とは? Pixel Quadruple技術

 「フルHDパネルを用いた疑似4K表示」は直視型パネルではシャープの「クアトロン プロ」があるし、投写型マイクロディスプレイではJVCケンウッドの「e-Shift」がある。

 今回のCESでは、パナソニックが、こうした疑似4K表示のための新技術を発表、実際にデモンストレーションを行なっていた。DLPプロジェクタ向けの技術で、「Pixel Quadruple」(ピクセルクアドラプル)という名称。意訳すれば「ピクセル四倍化」技術といったところか。

 Pixel Quadruple技術で映像パネルとして用いるのはフルHD(1,920×1,080ドット)のDMDチップだ。これを時分割で4倍化することで4K表示行なう。

 その実現方法は、概念としてはJVCのe-shift技術に近い。e-shiftでは投写像を斜め方向に光学的に時分割シフトすることで解像度を2倍化する。e-shiftは「疑似4K」と言っても、実際には解像度は3,840×2,160ドット化はされておらず、厳密には1.5〜2.0倍程度に留まる。

 Pixel Quadruple技術では、フルHDのDMDチップからの出力光を垂直・水平に光学的にシフトさせるので、リアルな4K解像度が得られるとしている。

 どのようにシフトさせるかは非公開。ただ、時分割であることは間違いなく、それも、1フレームあたり、4ピクセル分の時分割シフトを行なう事から、想像するに、DMDチップ自体のMEMS動作自体を直接制御するような駆動技術であるようだ。

 高速度撮影すればそのシフトの仕組みが解明できると思ったのだが、残念。撮影は禁止だった。

投写映像は撮影禁止だったので、本体の写真のみ

 実際の投射映像を見た限りでは、試作プロジェクタが3板式DLPということもあってカラーブレーキングはほとんど感じない。解像感も素晴らしく、輪郭だけでなく、テクスチャ表現もちゃんとリアル4K表示になっていることに感動する。

 ただし、映像がパンするシーンでは、斜め方向のピクセルクローリング(ピクセルシマー/画素がうねって見える現象)を感じる事があったので、ここに技術の秘密があると思われる。なお、担当者によれば、このピクセルクローリングは、技術的に低減出来る見込みが立っているとのこと。

 現在、3板式のリアル4K DLPプロジェクタに採用されているDMDチップサイズは対角1.4型と、とても巨大で、これでフロントプロジェクションシステムを構築すると本体サイズがとても巨大になってしまう。Pixel Quadruple技術を応用すると対角1型未満のフルHD DMDチップで3板式の4K DLPプロジェクタを構築出来るため、価格的にも安く、重量、大きさ的にも小さくできるというのだ。

 この技術は、当面3板式DLPプロジェクタ向けに応用され、ホームシアター向けプロジェクタではなく業務用プロジェクタ向けの技術となるようだ。

プラズマ画質を液晶で実現する「Studio Master Drive」技術

 2013年10月31日、パナソニックはついにプラズマテレビからの撤退を表明した。

 2014年からは大型画面サイズの薄型テレビ製品は、プラズマラインナップの御機嫌を伺うことなく、躊躇なしに液晶VIERAとして登場することになる。

TC-65AX800Uの実機デモ

 その皮切りとなるのが北米型番「AX800U」シリーズで、58型「TC-58AX800U」と65型「TC-65AX800U」が4Kテレビ製品として2014年春モデルとして発売される。

 このAX800Uシリーズは、VA型液晶パネルとエッジ型LEDバックライトを採用しており、実質的には日本モデル「WT600」シリーズの後継に相当する。

 AX800Uシリーズの進化ポイントは「Stduio Master Color」機能と命名された広色域技術にある。AX800Uシリーズから採用された新世代のバックライトとカラーフィルタによって実現されるもので、DCI(Digital Cinema Initiatives)色域カバー率98%を実現する。

 DCI規格色域カバー率98%というと、丁度2013年モデルのプラズマVIERAの「ZT60」と同等ということになる。パナソニックとしては「ついに液晶VIERAの色域もプラズマと同等になった」というメッセージを強く訴えたいようだ。

右が従来の液晶VIERAの色再現性。写真では違いが分かりにくいが、純色の発色が左のAX800Uシリーズの方が鋭い
既に4K液晶VIERAのTH-L65WT600で実現済みの「4:4:4」フルプロセスのデモも行なわれていた。北米ではこの「4:4:4」フルプロセスに対しては「4K PURE DIRECT」という技術名をあてている
上の赤い写真を拡大。4:4:4フルプロセスでの、中央の1ドット線分の、十字部分に注目。赤の1ドットで十字が描かれている
4:2:0プロセスでの十字部分。赤の1ドット線分の他に、緑や青のドットまでが発光してしまっている
Studio Master Drive機能は液晶テレビにプラズマ果実を実現する技術

 もう一つ、クローズドシアターでは、AX800Uシリーズよりも先の次世代モデルに採用される予定の高画質技術「Studio Master Drive」技術を公開していた。

 これは、既に解散したプラズマテレビの画質設計チームが開発中の技術だという。AX800Uシリーズでは、「色再現性がプラズマVIERAと同等のDCI色域カバー率98%となった」と訴求されているが、実はこれは、階調全域で達成されているわけではない。

 そこで、このDCI色域カバー率98%を階調表現全域で実現するのは無理でも、せめてBT.709(sRGBカラー相当)は全階調域でプラズマテレビ並に実現出来るように、液晶パネルの駆動とバックライト制御をチューニングしていこうとするプロジェクトが立ち上がった。それが「Studio Master Drive」なのだ。

 「Studio Master Drive」は「Super Chroma Drive」と「Black Gradation Drive」の2つから成っており、前者は色再現性に関与する液晶×バックライト駆動技術で、後者は階調再現性に関与する液晶×バックライト駆動技術になる。

 液晶はバックライト輝度が下がる暗い階調表現の時ほど色再現性が悪くなる傾向がある。簡単に言えば、暗い映像になればなるほど、黒浮き割合が多くなって、出したい色が出にくくなる(黒浮きの迷光が、本来出したい色を妨害する)。

 そこで、直下型バックライトを組み合わせたときのバックライトのエリア駆動と液晶パネルの駆動を全て見直し、プラズマテレビの画質開発チームがこれまで培ってきた、輝度IRE0%から輝度IRE100%までの全輝度における、プラズマの色再現性を移植する方向で画質を再設計したというのだ。階調については、映像フレームの輝度ヒストグラムを取り、リアルタイムにフレーム適応型の非線形な階調割り当てを実践し、安定的な発色と階調を両立させる。

 クローズドシアターでは、スタジオジブリの「千と千尋の神隠し」から、IRE30%付近の暗いシーンばかりを再生し、これが、プラズマの画質といかに近くなっているかの比較実演していた。

 比較デモで展示されていたのは65型のフルHDプラズマ「ZT60」、新開発の65インチIPS液晶パネル×直下型白色LEDバックライトシステムの試作機(デモの主役)、比較用の「TH-L65WT600」(エッジバラックライト採用の32ブロックエリア駆動)の3台。

 実際の表示映像は、言われなければ、判別が難しいほどプラズマ(ZT60)の画質に近かった。特に黒の締まり具合、漆黒から始まる暗色の再現性が素晴らしい。IRE30%付近の暗いシーンで、ここまで色豊かな表現が液晶で行なえるとはにわかに信じがたかったほどだ。

 このデモは来場者からも相当に好評なようで、2014年内にはこの技術を採用した4Kテレビの製品が登場することは間違いないとみられる。

 ちなみに、ブース内の各所には85型の4K液晶VIERAの試作モデルが展示されていたが、これにはこの「Studio Master Drive」機能は搭載されていないらしい。またAX800Uシリーズも、エッジバックライトシステムを採用していることから、この「Studio Master Drive」機能は搭載できないとのこと。

 とあるパナソニック関係者が「このStudio Master Drive技術が搭載された液晶VIERAこそが色んな意味でBeyond Plazmaモデルになると思う」としみじみ語っていたのが印象的であった。

左がプラズマZT60、右が「Studio Master Drive」機能搭載4K液晶試作機。写真だからというわけでなく、本当に一瞬では判別できないほど両者の画質は近かった
85型の4Kテレビはプロトタイプで型式番未定。是非とも「Studio Master Drive」機能を搭載して欲しい
85型の4Kテレビでも、60fpsのPCゲーミングは当然可能

トライゼット西川善司

大画面映像機器評論家兼テクニカルジャーナリスト。大画面マニアで映画マニア。本誌ではInternational CES他をレポート。僚誌「GAME Watch」でもPCゲーム、3Dグラフィックス、海外イベントを中心にレポートしている。映画DVDのタイトル所持数は1,000を超え、現在はBDのコレクションが増加中。ブログはこちら