西川善司の大画面☆マニア
第186回
韓国勢が作り出す4K/湾曲/有機EL/21:9ブーム
LG、サムスンとも“平面-湾曲変形型テレビ”を公開
(2014/1/10 21:33)
International CESに来ると圧倒されるのが韓国系メーカーのパワーだ。開幕初日と2日目のLG、サムスンは、ブースの通り抜けすら難しいほどブースが混雑。取材はテーマを決めてかなりの時間を掛けないと難しいというレベルで混雑している。
日本系メーカーではソニーやパナソニックのブースが比較的混雑するが、LG、サムスンのブースほどではない。北米地区ではLGとサムスンは人気ナンバーワン、ツーの家電メーカーであるため、一般来場者の関心は非常に高いのだ。
大画面☆マニアのInternational CES編では毎年恒例になりつつあるが、日本にいるとなかなか目にする機会の少ない、韓国系メーカーの最新大画面ネタをお届けする。
LGが'14年に推すキーワードは「4K」、「湾曲」、「有機EL」、「21:9」
LGブースでは、55型フルHD 3Dテレビを横20台、縦7台の合計140台並べた“3Dビデオウォール”が出迎えてくれる。LGブースに入ろうとすると、コンパニオン達が偏光方式の3Dメガネを手渡してくるので、ブース内の展示を見る前に、まずは、この横38,400×縦7,560ドット・3億ピクセルからなる3D立体映像を楽しむことになる。この映像、かなりの大迫力で、会期中は、ただループで流しているデモ映像リールにも関わらず、来場者からは拍手や歓声が上がることもあった。
そんなド派手な“店構え”のLGブースだが、入口だけでなくブース内も、相当な「大画面パラダイス」な作りとなっている。“3Dビデオウォール”には及ばないものの、49型から79型までの4Kテレビを並べたビデオウォールは大迫力。動く幾何学的な模様を表示しているだけかと思いきや、入口で手渡された3Dメガネを掛けたままでこれを見ると、なんとこれも3D立体映像のデモだということに気がつく。
さらに進んでいくと、105型の21:9の“5K”(5,120×2,160ドット)テレビが、縦置きに5台並べられたビデオウォールと相対する。プレスカンファレンスの時には1台だけステージ上に担ぎ出されていたあの105型/5K画面が、縦置きで5枚並べられている景観はなんとも感慨深い。
この105型5K×5面デモは「世界初の10,800×5,120ドット、5,500万ピクセルからなるビデオウォール」として訴求されていた。
今年のLGの大画面関連製品を端的に表現するとすれば「4つのキーワード」に集約される。
1つは改めて言う必要も無いだろうが「4K」だ。
LGディスプレイでは、4K解像度のIPS液晶パネルを55型以下や、84型以上のサイズにバリエーション展開するようで、LGエレクトロニクスは、これらを採用したテレビをフットワーク軽く、幅広くラインナップ展開する。
日本のユーザーに関心が高そうなのは49型4K解像度のIPS液晶パネルを採用した4Kテレビ。色再現性も良好で、パーソナルな4Kディスプレイとしても大きすぎず、いいサイズ感だ。
もう一つは、98型4K解像度のIPS液晶パネルを採用したテレビ。約100型といってもいいこのサイズは、プロジェクタベースのホームシアターを構築している人のリプレースにも丁度良いサイズ。
これまで、LGディスプレイ製の4K IPS液晶パネルの量産モデルは84型が最大だった。このパネルがソニーや東芝の最上位/最大サイズの4Kテレビに採用されていたのは公然の秘密だったわけだが、今後、LG製も含めて、98型4Kテレビのラインナップが騒がしくなるかもしれない。
LGディスプレイは、これ以外にも65型、79型の4K IPS液晶パネルを2014年から量産していくとしており、LG製4Kテレビもこうしたサイズの北米モデルがラインナップされていた。日本モデルは、どの画面サイズのモデルがラインナップされるのか気になるところである。
キーワード2つ目は「湾曲」だ。
LGは、携帯電話の画面までを曲げてしまうほど「湾曲」デザインにこだわっているメーカーだ。湾曲画面のスマートフォン「LG G FLEX」は既に韓国と香港で発売され人気を博しており、日本での発売も予定されている。
LGの見解では「湾曲デザインは、あらゆる角度から見て人間工学的に理に適っている」としており、このデザインを薄型テレビにも多角的に波及させる計画だ。
プレスカンファレンスで公開された105型 4K湾曲型IPS液晶テレビ以外に、65型 4Kの湾曲IPS液晶テレビもラインナップする。
担当者によれば「液晶パネルを湾曲させると、VA液晶パネルの場合は、垂直配向という液晶分子の配列構造上、迷光出射が増加し、コントラストや輝度均一性維持の面で不利とされるが、横電界方式のIPS液晶パネルの場合はこのデメリットが生じ得ない」という。
湾曲型の人気が高まれば、4K解像度だけでなく、フルHD解像度のモデルも含めて「どんどん曲げていきたい」とのことであった。
3つ目のキーワードは「有機EL」だ。
LGは、量産性と輝度性能に優れる白色有機EL画素にRGB+Wカラーフィルターを組み合わせた「WRGB有機ELディスプレイパネル」を実用化している。
白色有機ELパネル+カラーフィルター方式は、サブピクセルの有機材の積層に際して、RGBを蒸着(あるいは塗布)し分けなくていいというコストメリットが存在する。つまり、製造コスト、歩留まり的に優位なのだ。
また、白色(W)サブピクセルを使ったサブピクセルレンダリングを実践して、RGBサブピクセルの光量を最適化して消費電力を稼ぐこともできる。また、黄(Y)サブピクセルを追加したシャープのクアトロンと同じ理屈で、4サブピクセル構成を広色域表現方向にも利用ができるとも、LGは主張している。
2014年は、このLG式有機ELパネルの量産効率を向上させ、競合サムスンが未だ55型の1サイズ展開に留まっているのに対し、LGは55型に加え、65型、77型のマルチサイズ展開を仕掛けて行くという。
なお、有機ELテレビに関しては、55型の壁掛け型の絵画風デザインの「GALLERY OLED TV」(55EA8800)以外の55型、65型、77型の全ての2014年モデル(EC9800シリーズ)は湾曲型モデルになる。
もう一つ、「湾曲」と関連の深い話題をすれば、プレスカンファレンスではアナウンスしなかったものの、LGもブースでは「湾曲←→平面」の状態変化に対応する可変型有機ELテレビを展示していた。ボディ背面側に3箇所の接合部が存在し、それが関節のように折り畳まれるようにして画面が曲がる。
最後、4つ目のキーワードは「21:9」。いわゆるシネマスコープサイズのアスペクト比だ。
LGは今回、105型の5,120×2,160ドット湾曲型5Kテレビ「105UC9」を発表しているが、この21:9アスペクト画面を、2014年はPCディスプレイに強力に展開していくようだ。
ブース内で展示されていたのは34型、21:9アスペクト、3,440×1,440ドットの「34UM95」と、2,560×1,080ドットで25型の「25UM95」だ。ともにIPS液晶パネルを採用する。
前者は1,920×1,080ドット画面を表示しても、さらに横に1,280×720ドット画面が2面表示できるという21:9画面。フルHDと4Kの中間的な高解像度ディスプレイとして訴求される。デザインワーク向けにも訴求される製品で、sRGBカバー率99%対応、Thunderbolt2接続にも対応する。
後者は、既に好評を得ていた29型、2,560×1,080ドットモデルの後継製品。解像度はそのままに、25型へと小型化し、型番は「25UM65」となっている。こちらは4系統入力を同時に表示する4画面分割表示機能を持っているのが特徴とされる。色再現性能はsRGBカバー率99%。ステレオスピーカーも内蔵する。
また、21:9以外の変わり種アスペクト比ディスプレイとして、1,920×1,920ドットのアスペクト比1:1、26.5型液晶ディスプレイも参考出品されていた。こちらはデジタルサイネージ用途がメインとなるようだが、フルHD画面を縦にも横にもリアル表示出来るのはデザイン業務用途では便利かも知れない。
サムスンは湾曲をフルHDまで展開。有機ELは4K化するも55型ワンサイズ
サムスンブースも最大規模のブースサイズにも関わらず、歩くのがままならないほど大混雑している。日本ではテレビ市場から撤退してしまったために存在感が薄いが、北米ではLGと熾烈なシェア争いをしていることもあり、LGのラインナップに1つずつ競合製品が存在するような製品展開となっている。
2014年向け新製品でも、やはり「4K」、「湾曲」、「有機EL」、「21:9」といった4つのキーワードで表す事ができる。
「4K」については、サムスンは主にVA型液晶で具現化していく。画面サイズは50型、55型、60型、65型、75型、78型、85型、110型という豊富なバリエーションで取り揃える。
「湾曲」についても注力していく。4K液晶モデルのうち、55型、65型、78型の画面サイズに対しては湾曲型モデルを用意するが、それだけでなく、フルHDモデルに対しても湾曲モデルの展開を進めていく。
ある業界関係者によれば、VA液晶は、視野角性能の面でIPS液晶に劣るため、大型画面サイズにおいては、画素を視聴者に向けられる湾曲デザインの方が、平面モデルより画質的に優れる……とのことであった。サムスンが「湾曲」を広く展開するのには、そうした理由が隠されているのかもしれない。
「有機EL」については、今年も55型のワンサイズ展開となる見込み。
サムスンの有機ELパネルは、RGBそれぞれで発光する有機材でRGBサブピクセルを形成させる。構造が複雑な分、製造時の歩留まりが悪く、LGのような豊富な画面サイズバリエーション展開ができないといわれる。
ただ、55型のワンサイズ展開とは言え、解像度は4K化に突き進むと見られ、ブースでは、4K解像度化した55型有機ELパネルを採用した湾曲タイプの試作テレビを展示していた。
展示されていた試作機を拡大撮影してサブピクセル構造を調べてみたところ、昨年のフルHDモデルと同様に、RGBサブピクセルが縦に並んだ特徴的な配列をしていることが確認できた。
平面-湾曲の可変モデルについては、サムスンも、4K液晶パネル採用機と有機ELパネル採用機の両方を用意。変形のメカニズム自体は有機ELも液晶も同じで、パネルを収納しているエンクロージャの左右端が押し出されて湾曲表示状態となり、引っ込んで平面表示状態に戻る……というシステムであった。
21:9のシネマスコープ・アスペクトについては、105型 5,120×2,160ドットのVA型液晶パネルを採用した1モデルのみ。他の画面サイズへの展開や、PCディスプレイ製品への展開は見当たらず。サムスンは「湾曲」には力を注ぐが、「21:9」にはLGほど執心していないのかもしれない。