西川善司の大画面☆マニア
第183回
“4K相当”はどこまでリアル4Kに迫る? シャープ「AQUOS XL10」
46型/4K相当「LC-46XL10」にみるクアトロンプロの実力
(2013/12/24 16:26)
シャープだけが実用化している「赤青緑+黄」の4原色パネル「クアトロン(QUATTRON)」。この4原色パネルを色再現ではなく解像度増強に転用する技術が「クアトロンプロ」だ。
シャープはこの技術に「4K相当の表示能力」と銘打ち、4KとフルHD(2K)のスイートスポットを突く戦略を取ってきた。「現状、4Kテレビは2Kコンテンツの超解像アップスケールしたものを楽しむのが主体」ということであれば「映像パネル自体が疑似4Kでもいいじゃないか」とでもいいたげな「シャープの新提案」の実力を評価する。
カタログ等では「新次元フルハイビジョン」と訴求されるクアトロンプロ採用製品。46/52/60/70/80型のサイズラインナップで構成されるが、今回の大画面☆マニアでは、最も小さく価格が安い46型「LC-46XL10」を取り上げる。現在の4Kテレビにはない40インチ台で、価格も20万円台前半と4Kテレビより安いだけに、"4K相当”の実力が気になるところだ。
設置性チェック~モスアイパネル採用。3ウェイ5スピーカーは前向きレイアウト
外観は、上下額縁をシルバー、左右額縁をブラックで配色した2トーンのカラーリングが個性的。外形寸法はディスプレイ部が105.6×9.2×64.5cm(幅×奥行き×高さ)、スタンド込みで105.6×31.0×69.2cm(同)。スタンドの背は低めで、設置台位置からディスプレイ部下辺までの隙間は4.7cm。
ディスプレイ部とスタンド部は固定され、左右の首振り機構はなし。重量は、ディスプレイだけで約18kg、スタンド込みで約22kg。安全を期するならば2人以上で設置すべきだが、2階への運搬なども含めて筆者一人で行なえた。最近の液晶テレビはとても軽量である。
額縁は実測で上辺が約13mm、左右辺が約15mm。下辺がスピーカー部まで含んで約49mm。上辺と左右辺はかなりの狭額縁で、照明を暗くして見ている限りでは、ほとんど額縁の存在を感じさせない。
映像表示面はモスアイ処理されており、室内の情景の映り込みは極めて少ない。明るい蛍光灯照明下の部屋でも、ディスプレイ面の暗い部分に室内情景が映り込まないのは感動的。なお、モスアイパネルは一度指紋が付くとこれを落とすには専用のクリーナーを用いなければならないため、運搬時にはディスプレイ表示面には手を触れないようにしたい。
最近のAQUOSはサウンド機能に力を入れているが、XL10も優秀だ。このクラスのテレビとしては大出力の総出力35W(10W+10W+15W)で、スピーカーユニットは3ウェイ、5スピーカー構成。しかも、下向きではなく、正面向きのレイアウトを採用している(ウーハーユニットは背面レイアウト)。スピーカーユニットは高音再生用の2.0cm径ツイーターが2基、中音域再生用の3cm×12cmの角形ユニットのミッドレンジが2基、低音再生用の8.0cm径ウーファ1基という構成。
実際に音を聞いてみたが、高音域の伸びと低音のパワー感は確かにこのクラスのテレビ内蔵スピーカーとしてはかなり上質。特に高音域の解像感がスゴイ。ただ、個人的には人の声やボーカルの音域である中音域にもう少し力があればいいと感じた。XL10には音質調整のためのイコライジング機能は低音と高音しか調整出来ないので、デフォルトで「低域」強調設定となっている「帯域拡張」を「しない」と設定してから音量を上げるなどして、相対的に中音域を持ち上げるしか手がない。
60型のLC-60UD1では下寄りに感じた定位感も、46型のLC-46XL10では不満なし。音像はしっかりと画面中央に定位していると感じる。定格消費電力は144W。年間消費電力量は84kWh/年。同サイズクラスのフルHD競合製品と比べると消費電力が低め。AQUOS XL10シリーズと同サイズの他社製4Kテレビと比較してもだいぶ低い。
接続性チェック~4K/30HzのHDMI入力対応だがGPUとの相性には注意
接続端子パネルは本体正面左側の側面と背面側にレイアウトされている。HDMI入力端子は全部で4系統あり、側面側だけに実装される。全てのHDMI端子はHDMI-CEC、3D立体視、Deep Colorに対応し、さらに4K/30p(3,840×2,160ドット/24Hz~30Hz)の入力に対応する。取説には「4K入力に関してはHDMI1入力の使用を推奨する」とあるが、筆者の実験ではHDMI4入力でも問題なく接続が行なえた。x.v.colorには非対応。なお、ARC(オーディオ・リターン・チャンネル)はHDMI2、MHLはHDMI4のみでの対応となっている。MHLでの供給電力仕様はDC5V/500mA。
PC入力としてアナログRGB入力を引き続き備えている。アナログRGB入力は640×480ドット、800×600ドット、1,024×768ドット、1,400×1,050ドットなどの解像度に対応している。アナログRGB入力での最大対応解像度は1,920×1,080ドット/60Hzまで。伝送信号の限界もあって4K入力には対応していない。
PC入力で4K入力を行なうためにはHDMI端子を利用する必要がある。今回の筆者の実験ではNVIDIA GeForce GTX780ti(ドライバーバージョンβ331.93)のHDMI端子から3,840×2,160ドット/30Hzの4K出力が行なえた。
一方、手持ちのGPUであるAMD RADEON HD7990(ドライバーバージョン13.12)でも実験。RADEON HD7990はHDMI端子がなく、DisplayPortとDVI端子しかないので、DVI-HDMI変換端子を通してAQUOS XL10と接続してみたが、1,920×1,080ドット/60Hzまでしか設定できず。現状では4K入力できないという結果となった。
アナログビデオ入力端子は、背面側に1系統のみ。D5入力端子とコンポジットビデオ入力端子が2つ実装されてはいるが、両者は同時には利用出来ず、どちらか一方のみが有効となる。ステレオアナログ音声端子は1系統のみ。音声関連では、この他、光デジタル音声出力端子と、HDMI3入力/アナログRGB入力のペア音声入力として利用出来るステレオミニ端子が配備されている。
ネットワーク端子はEthernetとIEEE 802.11a/b/g/n対応の無線LAN機能を搭載している。無線LAN機能はWiFi-Directベースの無線映像伝送技術であるMiracastにも対応しており、携帯電話やタブレット機器内の映像をAQUOS XL10に無線伝送できる。
また、Bluetoothにも対応。用途としてはBluetoothオーディオのレシーバとして利用することになり、スマートフォンやタブレット機器からの楽曲を無線伝送してAQUOS XL10側のスピーカーでの再生が行なえる。ただし、Bluetoothと無線LAN機能(含むMiracast)との同時利用はできない。
USB端子は側面に2系統、背面に1系統を装備。側面側はUSBメモリへの接続に対応し、背面側は番組録画用のHDD専用接続端子として割り当てられている。
USBメモリ内のコンテンツは、高解像度のJPG写真の再生のほか、MP3、WAVなどの楽曲、M2TS、MP4、3gpといった動画ファイルの再生にも対応しており、メディア再生対応力はかなり高い。筆者の実験でもPlayStation Vita用にエンコードしたH.264コンテンツの再生が確認できた。なお、USB端子にUSBキーボードを接続してみたが、これは認識しなかった。
操作性チェック~スマートフォン連携や2画面機能も強化
リモコンはここ最近のAQUOSに採用されているものと同一デザインで、細かなボタンの配置換えなどはあるが、本連載で取り扱った4K AQUOS UD1とほぼ同じだ。上部にテレビ放送種別切換やチャンネル切換用の数字ボタンが並び、中央部に音量上げ下げボタンやメニュー操作用の十字ボタン、カラーボタンなどを配している。
電源オンから地デジ放送が表示されるまでの所要時間は約6秒。地デジ放送のチャンネル切換所要時間は約2.5秒。最近の機種としてはまずまずの早さ。待たされている感はそれほどなし。
入力切換は[入力切換]ボタンの順送り式で、HDMI→HDMIの切換所要時間は約6秒で、やや待たされる印象がある。
プリセット画調モードの切り替えはリモコン下部の蓋を開けたところにある[画質切換(AVポジション)]ボタンを押して行なう。切換所要時間は約1.0秒から約2.0秒で、切換元と切換先の組み合わせによって若干変化する。早いとは言えないが待たされている感はそれほどなし。
アスペクトモードの切換は「ツール」メニューから「画面サイズ」設定を呼び出して行なう。操作所要時間はほぼゼロ秒。アスペクトモードは以下の通り。従来のAQUOSシリーズよりもモードが増えているようだ。
モード名 | 概要 |
---|---|
ノーマル | 4:3映像をアスペクト比を維持して表示する |
シネマ | レターボックス記録された映像を拡大表示する |
フル(フル1/フル2) | 入力された映像をパネル全域に表示する。実質的にはオーバースキャンモードとして動作する |
スマートズーム | 4:3映像の外周を引き伸ばして表示する疑似16:9モード |
ワイド4:3、ワイド16:9 | 16:9映像中の4:3領域をパネル全域に表示する。 |
Dot by Dot/アンダースキャン | 入力信号の1ピクセルをパネルの1ピクセルに対応づけて表示する。実質的にはアンダースキャンモードに相当する |
続いて操作感を見ていく。LC-60UD1と比べると、操作感は若干だが改善されているようで、メニューの動きも少し速い印象だ。UD1は4Kパネル採用だったので、メニュー描画の負荷も高かったのかも知れない。
AQUOS特有の縦長に伸びてページ切換まであるメニュー構成は改善され、「映像調整」メニュー以外はほぼ1ページで収まるようになった。「どこに何があるのかが分かりにくい」整理整頓できていないメニュー構成は相変わらずだが、使用頻度の高いメニューアイテムは[ツール]ボタンで呼び出せるなど、日常の使用においては、使い方に困る局面は少ない。また、迷ったときに、カーソルを合わせたまま放置しておくと、設定項目についての簡単な説明がポップアップ表示されるのは嬉しい。それでも分からなければ、リモコンの[?]ボタンを押すと、その機能項目を解説した電子取説の該当ページに一発ジャンプができる。電子取説を導入したメーカー/機種は多いが、この機能を搭載した機種は少ないので、高く評価したい。
[ホーム]ボタンを押して開かれるネットワーク関連機能メニューは相変わらずもっさりとしている。スマートフォンのキビキビした操作系に慣れていると「なんでYouTubeを起動するのに20秒以上も待たされるのか」とイライラしてしまう。テレビのネットワーク機能を使うには忍耐力が必要なのは、なんとか改善して欲しいものだ。
そんなもっさりネットワーク関連機能の中にあって唯一、使い勝手がいいのは「スマートサーチ」機能。視聴中の番組に関連したキーワード検索をワンタッチで行なえる機能で、リモコン上の[検索]ボタンを押すだけで、画面右側に、電子番組表からピックアップしたと想定検索キーワードが出現する。出演者などはほぼ間違いなくリストアップされるのでリモコンからの文字入力なしでワンタッチで検索できる。検索先はYahoo!の他、YouTubeなども指定できる。ただ、Webブラウザの起動やYouTubeアプリの起動まで時間がかかってしまうので、多少の忍耐は必要だ。
2013年モデルから導入された放送中番組の静止画サムネイル表示付き裏番組表は、ザッピング主体のカジュアルテレビユーザーにとっては便利。静止画でも番組の雰囲気は伝わってくるので文字だけの電子番組表にはない楽しさがある。ただ、日々使っていると、静止画取得が行なわれてないチャンネルも多く、場合によっては放送局名が書かれたアイコンだけが表示されることもままあり、できればサムネイルを常にバックグラウンドで取得するモードなどを新設して使い勝手を向上してもらえると嬉しい。また、普通の番組表表示モードでもこのサムネイル表示があってもいいかもしれない。AQUOSだけの特徴的機能だけに、今後も進化させていって欲しいと思う。
さて、シャープはスマートフォン連携機能に注力したAQUOS MX1を2013年春モデルとして投入したが、このスマートフォン連携機能が予想外に好評だったため、AQUOS MX1の当該機能を丸ごと今回のAQUOS XL10にも搭載してきた。中でも、MHL接続、あるいはMiracast伝送させたスマートフォンの画面と、テレビ画面等を同時表示させる「スマホスクリーン」機能はかなりユニークだ。スマートフォンやタブレット機器の映像は、一般的なテレビにも接続出来るが、AQUOS XL10では、縦表示状態のスマートフォン/タブレットの画面をテレビ画面に上下一杯に表示させながら、もう一画面の2画面同時表示が行なえるのだ。
このスマホスクリーン機能の追加で、AQUOS XL10の2画面機能はAQUOS UD1から若干の進化を遂げている。
HDMI同士などの外部入力同士は相変わらず選べないが、「デジタル放送同士」の他、「デジタル放送」「HDD録画コンテンツ」「外部入力」の自由な2つの組み合わせが許容されるのはAQUOS UD1と同じ。しかし、AQUOS XL10では、Miracast経由のスマホスクリーンを「デジタル放送」「外部入力」と組み合わせての2画面が許されるのだ。
なお、MHL接続経由でもスマホスクリーン機能は利用出来るが、MHL接続は実質、HDMI接続なので2画面機能にまつわる制限は「外部入力」扱いに準ずることになる。
なお、これ以上のスマホスクリーン機能の詳細事項やBluetooth機能を駆使したオーディオ機能については、筆者がAQUOS MX1を紹介した記事に詳しいので、そちらを参照いただきたい。
また、AQUOS XL10は、国内メーカーとしては初めてクラウドゲーミングサービスの「G-Cluster」を内蔵したテレビ製品となったのだが、今回の評価機は量産前の試作機のためか、起動ができなかったため、評価は省略する。
画質チェック~"4K相当"はどこまでリアル4Kに迫るのか?
AQUOS XL10で一番気になるのは「画質」だ。液晶パネルは「クアトロンプロ」と命名されているが、「液晶パネルそのもの」は、従来のQUATTRONと変わらない。パネル製造方式はシャープお得意のリブレス構造を実現したUV2A(Ultraviolet induced multi-domain Vertical Alignment)方式になる。
サブピクセルは青緑赤+黄(BGR+Y)の配列で、UV2Aの効果も有って画素の格子筋は極めて細い。よく見るとサブピクセルは赤と青が大きく黄と緑はやや小さいのが見て取れる。
クアトロンパネルでは1画素あたりのBGR+Yサブピクセルが多階調表現のために上下に1つずつある。クアトロンプロでは、この上下組のサブピクセルセットを時分割で個別駆動させることで1,080ドットだった縦解像度を2,160ドットへと倍化するのだ。
一方、横解像度については輝度情報だけの倍化だけに的を絞り、色情報については1ピクセル+α程度にあきらめることを前提としている。具体的には人間の視覚システムにおいて支配的な白黒の明暗情報を、BGR+Yサブピクセル構造のうちのBGRとYBで表現するのだ。これでは白黒の表現はできるがカラー表現は行えなくなってしまうので、実際のサブピクセル駆動ではBGR+Yによるフルカラー表現とBGR+YBによる白黒表現のバランスのいいところで画素を発光(発色)させることになる。なお、QUATTRONパネル自体はサブピクセルを完全個別に駆動はできないので、時分割による駆動を行なって、便宜上1ピクセルを4ピクセル個別発光させているかのように制御する。
クアトロンパネルで、このような駆動技術を採用して疑似4K表示(シャープは「4K表示相当」と呼んでいる)を実現するのが「クアトロンプロ」というわけである。より詳細については本連載のCEATEC2013編を参照いただきたい。
読者の最大の関心事は「その疑似4K表示(4K相当)とはどの程度のものなのか」という部分だろう。
AQUOS XL10では、このクアトロンプロによる疑似4K表示は「分割駆動エンジンの設定」にて、その動作モードを切り換えることができるようになっている。「しない」設定が疑似4K表示オフ、「モード1」設定は時分割駆動による疑似4K表示を、解像度よりは輝度優先で行なうモード。「モード2」設定は疑似4K表示を解像度最優先で行なうモードで、輝度は若干暗めになる。
まず、「黒背景に白文字」という、理論上、クアトロンプロの一番恩恵が出そうなテスト画面を作成して見てみたところ、ほぼネイティブ4Kに近い表示が得られた。表示しているのは「駆動」という漢字。「動」という漢字の「田」の字がモード2では、はっきりと描画出来ている。モード1は若干解像感が落ち、モード2と比べると画素が潰れている箇所が散見される。
マクロ視点ではなく、表示全体で見ると、フルHDでは白線で描かれているはずの文字のエッジにややギラギラした虹色の偽色を感じるが、モード2であれば、判読性はほぼ満点を与えられる。
続いて意地悪に「黒背景に青文字」という、理論上、代行表現が効かないクアトロンプロが一番苦手そうなテスト画面を作成して見てみた。表示文字は同じく「駆動」だ。
クアトロンパネルをもってしても青サブピクセルは水平方向には1つしかないので、他サブピクセルの代行が効かない。よって、青ピクセルのみの表現は、疑似4K表示時の解像度増しは縦解像度にしか効かなくなるのだ。
実際に見てみると、「動」という漢字はほぼ判読不能となった。「しない」設定と「モード1」「モード2」では縦解像度を増やそうという意図までは汲めるが、判読性はかなり低い。
うまくハマればいいが、ハマらないときには、ほとんど疑似4K表示の力が発揮できないことになるようだ。
続いて、4K解像度の赤の曲線表現も見てみたが、こちらも同様の理由で疑似4K表示の恩恵はほとんど得られず。
一方、4K解像度の黄色の曲線表現は、かなりスムーズに見え、疑似4K表示の威力を発揮できている。これは、黄色の表現は赤緑(RG)、あるいは黄(Y)のサブピクセルの組み合わせで表現出来るためで、クアトロンプロの疑似4K表示アルゴリズムとうまくハマるからだろう。
森の木々や茂み、岩肌の表現は、グレー主体の表現ではあるが、黒っぽい高周波の陰影の支配率が高いためか、疑似4K表示の品質はまずまずの見映え。ただ「解像感が上がった」というよりは「陰影がシャープになる」というような印象。
明色主体の淡い色ディテール表現なども疑似4K表示の効果はほとんど感じられない。色表現として1ピクセル単位で明解に描き分けられていても、輝度(あるいは階調としての濃淡)が同程度になると、クアトロンプロの駆動方式ではこれを描き分けられないのだ。
ここまでの実験はクアトロンプロの動作アルゴリズムをいじめるようなテストだったので、実際に映画コンテンツ、アニメ、PCゲームなどを4Kで出力し、これを疑似4K表示で楽しんでみた。
映画は「マン・オブ・スティール(MAN OF STEEL)」ブルーレイの2D版を4Kアップスケール機能を持つパナソニックのブルーレイレコーダ「DMR-BZT860」で再生。まず、なにより字幕が美しいことに気がつく。字幕は白文字なので、クアトロンプロの疑似4K表示アルゴリズムと相性がいいのだ。色ディテール表現やテクスチャ表現については、4K化されていることがあまりピンとは来なかったが、肌の肌理やシワ、衣服のシワ、オブジェクトの輪郭などは陰影が際立って見えるのがよく分かる。喩えるならば「フルHD映像が品良く超解像処理されている」というようなイメージだ。
リアル4K解像度のブルーレイ映画ソフトがないので、それを超解像4Kアップスケールして楽しむのであれば、この疑似4K表示機能はまさに「丁度いい」高画質性能だと言える。
アニメの視聴はいつも通り「星を追う子ども」のブルーレイにて。こちらは2K出力して、AQUOS XL10側で4K化するようにして視聴。アニメは、輪郭線や陰影の塗り分け境界のようなエッジ表現が目立つ映像なので、エッジの先鋭化とスムーズ化を得意とするAQUOS XL10の疑似4K化表示が見事にハマっていた。周波数の高いテクスチャ表現は、実写映像を見たときにはAQUOS XL10の疑似4K表示化ではイマイチその恩恵が伝わりにくかったが、アニメの場合はそうした表現自体が多くはない。総じてアニメ映像は、AQUOS XL10の疑似4K表示の「疑似感」が目立ちにくい相性の良いコンテンツだと思った。
PCゲームはGeForce GTX780tiを用いて、「BIOSHOCK INFINITE」(日本語版/2K GAMES/Irrational Games)を4K解像度でプレイ。実写映画よりも4Kの表示は上質で、視力が上がったようなくっきりとした映像になる。映画の字幕とは違い、ゲームの日本語字幕は表示フォントが小さいが、疑似4K表示をモード2とするとかなり見やすくなる。AQUOS XL10はハードウェア的な制約からフレームレートは30fps(30Hz)が上限となるため、さすがに60fps(60Hz)表示を見慣れているとコマ数の少なさは実感はするが、ハイフレームレート必須のオンライン対戦ならばいざ知らず、シングルプレイゲームでのプレイではもたつく感じはしない。
総じて、AQUOS XL10の疑似4K表示は、静止画も動画も、予想していたよりはだいぶ表示クオリティは高いといえる。不得意な映像表現もあるため万能ではないが、フルHD+αの高解像度表示機能としては使いではあると思う。
バックライトは白色LEDを左右額縁に仕込んだエッジ型バックライトシステムを採用している。近年モデルのAQUOSはどれも画面輝度の均一性(ユニフォーミティ)が優秀だが、AQUOS XL10もご多分に漏れず良好だ。シャープ関係者によれば輝度均一性は全域90%に迫るそうだ。
映像フレーム内の明暗分布に応じて、バックライト輝度のメリハリを付けるエリア駆動は最近のシャープの「こだわり」からあえてAQUOS XL10でも採用はしていない。これはシャープは近年、「UV2A液晶パネルであればエリア駆動は不要」という立場を取っているためだ。たしかに、エリア駆動なしの割には、明暗差の激しい映像においても暗部の沈み込みはなかなかのものだが、エリア駆動対応の競合他機種と比べてしまうと、暗室では若干の黒浮きは散見される。
じゃあ黒や暗部階調の表示能力が低いかというとそういうわけでもない。AQUOS XL10は、エリア駆動には未対応でも、映像フレーム単位のバックライト輝度制御は行なっているので、全体的に暗いシーンであればバックライト輝度は控えめとなり、その黒浮きもだいぶ低減される。そして、ピーク輝度が明るい表示特性と、モスアイパネル効果もあってか、蛍光灯照明下では、意外にも黒や暗部は締まって見える。
今回から画面輝度の測定を行なう事とした。LC-46XL10の最も高輝度な画調モードある「ダイナミック(固定)」を選択して全白画面を表示させ、照度計で画面中央部と画面端の輝度値を測定してみたところ、中央が637ルクス、画面端が494ルクスであった。
発色は「4原色パネル」というイメージとは裏腹に、ナチュラル系にまとめ上げられている。派手さはないが、かといって味気がないわけではなくバランスの良いまとまりになっている。純色は赤緑青のいずれも純度が高く、色深度も深い。かなり暗い領域にもちゃんと色表現が行なわれており、確かにエリア駆動がないがゆえの最暗部の黒浮きはあるにはあるがその黒浮きの度合いよりも色深度パワーの方が強いため、最暗部付近が黒浮きのグレーでノイジーにもなっていない。明室で見た方がAQUOS XL10の映像は美しいが、暗室でも見るに堪えうる画質になっている。
肌色の再現性も見事。透明感と血の気の表現が絶妙にバランスされており、疑似4Kオフ時(後述)には肌色の微妙なニュアンスの違いの色ディテールも描き出されている。この辺りのチューニングは最近のAQUOSは熟成度が凄い。
さて、様々なテスト映像を注意深く見た結果、疑似4K表示オフ(つまりリアル2K表示)の方が、色表現に関しては表現能力が上がる状況が確認できた。
まず、二色混合グラデーションなどでは、疑似4K表示オフの方が色分解能が向上する。これは疑似4K表示では時分割で時間積分的に色表現を行なうことの副作用だと思われる。特に顕著なのが、暗部の色表現で、2K表示だと明確に見えていた暗い領域の色ディテール表現が、疑似4K表示ではのっぺりとした面表現になってしまうことがある。疑似4K表示にしたのに解像感が下がったような表現となることがあるのだ。つまり「暗いシーンの多い映像では、2K表示のまま見た方がよい」といえるかもしれない。
3D映像も視聴してみた。AQUOS XL10では3Dメガネは付属してこないので、純正の別売りの3Dメガネ「AN-3DG20-B」を別途用意した。AN-3DG20-Bは液晶シャッター方式の3Dメガネで、シャッター同期には赤外線を採用。赤外線エミッタは、テレビ正面向かって左下にある。筆者の実験では、数秒間であれば赤外光を見失ってもそれまでの同期タイミングでシャッターを開閉する機構が備わっていることを確認できた。なかなか優秀である。
3D映像ソフトはブルーレイ映画の「ワールドウォーZ」。再生機は2D視聴時と同じくパナソニックのブルーレイレコーダ「DMR-BZT860」にて。3D映像再生中は、プリセット画調モードは「3D(映画)」と「ゲーム(3D)」の2つに限定される。電子取説によれば「ゲーム(3D)の方が明るさを抑えている」とあるが、実際の視覚上でも照度計で計測してみても、「ゲーム(3D)」の方が明るくなる。「映画(3D)」でも、蛍光灯照明下においても十分に明るい3D映像が得られていたが、より明るい3D映像を得たいという場合は「ゲーム(3D)」モードを使うのも手だ。
3D映像視聴において歓迎されないアーティファクトとしてクロストーク(二重像)があるが、AQUOS XL10でも、暗い背景に明るい立体物が配置されるシーンでは、ややこれが知覚される傾向にある。ただ、「映画(3D)」モードの方が映像がやや暗くなる分、クロストークも幾分か低減されるようだ。3D視聴時の画調モードの切り替えは、お好みに合わせて切り換えていきたい。
なお、3D映像モードでは、倍速駆動技術や疑似4K表示機能は利用できず。よってアップスケールされた疑似4K表示での3D映像は楽しめないことになる。
AQUOS XL10の残像低減技術についても評価を行なった。
AQUOS XL10では、補間フレーム挿入による120Hz倍速駆動技術に、バックライトスキャニング技術を組み合わせた「240フレッドスピード」機能を採用している。この機能の設定は「映像調整」-「プロ設定」メニュー階層下の「QS駆動」設定で行なえる。ここの設定項目の設定内容と機能の振る舞いの関係性についてはAQUOS UD1と共通なので詳細は本連載のAQUOS UD1編を参照して欲しい。
なお、AQUOS XL10特有の振る舞いとして特記しておきたい点がいくつかある。
1つは、4K映像入力時は疑似4K表示をオフにしていても、倍速駆動技術機能は無効化されてしまうという点だ。恐らく補間フレーム生成エンジンが4Kフレームの入力に対応していないためだと思われる。逆にフルHD(2K)映像入力であれば、これをアップスケールして疑似4K表示した際にも倍速駆動技術は利用可能である。
もう1つは、倍速駆動技術関連設定メニューの「QS駆動」に「240フレッドスピード」が追加された点だ。補間フレームを一枚だけ作って120Hz倍速駆動する点は従来と変わらないが、補間フレームを2度描きしてその都度バックライトスキャニングによる黒挿入も行うため、よりキレのある動画が楽しめるというのが売り文句なのだが、黒挿入頻度が上がることで映像は幾分か暗くなる。また、この「240フレッドスピード」に限っては、「2K→4Kアップスケーリングによる4K疑似表示」には対応していない。これは、疑似4K表示に時分割表示を行なうことが理由になっていると思われる。
まとめると下表の通り。
入力信号 | 倍速駆動技術 |
---|---|
4K入力時 | × |
2K入力時:2K表示 | ○ |
2K入力時:疑似4K表示 | △ 240フレッドスピード」のみ使用不可 |
さて、2K表示時の補間フレームの品質は、例によって「ダークナイト」のビル群空撮シーンの2シーンを確認したが、全く問題なし。補間フレーム支配率の高い「アドバンス(強)」「アドバンス(標準)」はもちろん、新設された「240フレッドスピード」モードにおいても、ピクセル振動のような問題は確認されず。非常に優秀だ。
恒例の表示遅延は画調モード「ゲーム」にて分割駆動オフとオン(モード1、モード2)にて計測。今回も表示遅延3ms(60Hz時約0.2フレーム)のREGZA 26ZP2と比較した。評価時の撮影は420Hz(7倍スロー)で行なっている。
結果は、分割駆動オフ(フルHD相当の圧縮表示)と分割駆動モード1(輝度優先疑似4K表示)では、若干26ZP2の方がカウンターが進んでいるフレームもあるものの概ね26ZP2とほぼ同等の表示遅延速度であった。分割駆動モード2(解像度優先疑似4K表示)も、ほぼ同等の結果が大半なのだが、26ZP2に対して約21ms遅いフレームも撮影されていた。恐らく、システム遅延は前出2つと同じなのだが、時分割駆動によって液晶画素の描画反応速度レベルの差異が出ているのだと思われる。いずれにせよ、AQUOS XL10は「表示遅延の少ないテレビ」と認定して良さそうだ。
おわりに~4K過渡期だからこそ有効な疑似4Kソリューション
4原色パネル「クアトロン」だからこそ実現できた「クアトロンプロ」は確かに面白い。「PCゲーム以外の4Kコンテンツがない」と言われるが、まさにその通りで、東芝REGZA などは「4Kテレビは、フルHD映像を一段上の高画質で表示するためのハードウェア的なアプローチである」とREGZA Z8Xで開き直ったくらいだ。
確かに、「フルHD映像の4Kアップスケール表示」が主たる活用なのであれば、「疑似4K表示」というアプローチは、時代が求めるリーズナブルなソリューションということができよう。
50万円前後の70型「LC-70XL10」や68万円前後の80型「LC-80XL10」は60インチ台のリアル4Kテレビが50万円前後にまで価格が下がってきていることを考えると市場では厳しい勝負を強いられそうではあるが、30万円強の60型「LC-60XL10」や20万円台後半の52型「LC-52XL10」は近いサイズの4Kテレビより10万円ほど安価。そして、今回評価した「LC-46XL10」も10万円代後半~20万円台前半でお買い得感は強い。PCでの4K活用を前提としない、フルHD映像視聴がメインの客層には、46~60型の商品力/訴求力は相当高いと思われる。
ただ、シャープ自身も4KテレビをAQUOS XL10でカバーできるとは思っておらず、実際、リアル4Kテレビ製品としてAQUOS UD1シリーズを展開している。こちらにはリアル4K表示が行なえること、60Hz(60fps)の4K表示が行なえるといった利点があるだけでなく、AQUOS XL10で起こりうる「疑似4K表示を行なったことによる部分的な画質低下」が起こらないというアドバンテージもある。
「4Kは過渡期」と言われるこのタイミングで、非常にユニークなソリューションを提示してきたシャープ。今回、指摘した課題を克服できれば、さらに魅力は増すはずだ。今後も、この"4K相当”をさらにリアル4Kに近づけていくブラッシュアップに期待していきたい。
LC-46XL10 |
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