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TVで見なくなった芸人のディープな日常「髭男爵 山田ルイ53世のルネッサンスラジオ」

 かつて、学生の“深夜の友”と言えば深夜ラジオ。若者の声を代弁するようなパーソナリティーのトークに励まされたり、テレビで活躍するアイドルやお笑い芸人の意外な素顔に触れたり。アニメ系のラジオ番組が急増した現在では、アニメファンと声優を繋ぐ重要なメディアにもなっている。

髭男爵 ルネッサンスラジオ(C)Nippon Cultural Broadcasting Inc. All right reserved

 子供の頃からそうしたラジオを楽しんでいるが、放送時間がやたらと遅かったり、裏に人気番組があるので聞いている人が少なかったり、いわゆる“コア”な番組に惹かれる。その方がラジオ独特の連帯感が濃密な気がするからだ。最近のお気に入りは「髭男爵 ルネッサンスラジオ」だ(ポッドキャストは毎週月曜日更新/ラジオ放送は山梨放送)。

 髭男爵と言えば、ワイングラスを手に「ルネッサ~ンス!」というギャグでお馴染み。貴族(という設定&衣装の)山田ルイ53世とひぐち君のコンビだ。2008年頃にテレビに頻繁に登場。いわゆる“ブレイク”を果たしたが、その後テレビで見かける頻度は減少。ただ、完全に見なくなったわけではない。“消えそうで消えない一発屋芸人”的な印象を持っている人も多いだろう。

 だが、当然ながら、テレビに出ていないからといって遊んでいるわけではない。彼らにも生活があるので“テレビ以外の仕事”もこなしている。仕事の種類は驚くほど多彩で、例えば「ルネッサ~ンス!」というギャグは、御存知の通り“乾杯”の掛け声だが、それは“お祝い”の場で映える。それゆえ、彼らには個人の結婚式や企業のパーティーなどに声がかかる。いわゆる“営業”というやつだ。

 だがこれも簡単な仕事ではない。お酒が入ってステージに乱入してきたオジサンの頭を、ギャグで叩いたら、会社のとてつもなくえらい人だった…。パチンコ屋で地元の不良にからまれた……等々、苦労の連続だ。

 東京のテレビ局に出ていないからといって、地方局ではレギュラーを持っている場合もある。営業も地方が多い。しかし、ラジオの収録は東京。衣装が入った重いスーツケースを引きずりながら、連日の移動も大変だ。

 「売れなかった頃のアルバイトなどの苦労話」を芸人が披露する番組はテレビにも存在する。だが、「ルネッサンスラジオ」では、「今日は◯◯の営業に行って来た」と、現在進行形の苦労話が生々しく披露される。言わば、“ブレイクし続けない芸人”という1つの職業スタイルを眺めているような気分。そこには、独特の悲喜こもごもが溢れていて面白い。番組のパーソナリティーを務めるのは、髭男爵の横に大きな方(山田ルイ53世=番組内では通称・男爵)だ。

もっぱらスマホで楽しんでいる

 こうした日々の苦労をリスナーに届ける男爵のトークスキルも素晴らしい。もともと2008年に文化放送で放送が開始され、放送+ポッドキャストという形態を続けてきたが、いつの間にか文化放送で流れなくなり、地方局+ポッドキャストだけに。2015年春からは山梨放送+ポッドキャストのみという状態だが、それでも400回以上続いている根強い人気は、お笑い芸人としての確かな実力を示すものだ。いつでも再生できるポッドキャストでの配信も、スマホが普及した現在ではある意味ラジオより聞きやすくてリスナーには嬉しい。

 ハガキ職人達の投稿からチョイスするセンス、耳に入りやすい読み方、ネタハガキの面白さを何倍にもする絶妙な“間”など。個人的には、伊集院光のような“ラジオスター”にも負けない実力だと感じている。しかし、メインストリームではなく、あくまで“ラジオのすみっこであらゆるものに噛み付いている”雰囲気が最大の魅力だ。

 番組の規模が小さいためか、冠コーナーを持つスカパー! の提供が番組存続の命綱になっており、改編期を乗りきれるかどうかも1つのエンターテイメントになっている。それにしても、スポンサー(スカパー!)の担当者から「来期のラジオ提供用の予算を獲得できたかどうか」のメールを、パーソナリティーがハラハラしながら番組内で読み上げる番組は前代未聞だ。リスナーと番組の境界が限りなく“あやふや”な、古き良き深夜ラジオの匂いがここにある。

山崎健太郎