日沼諭史の体当たりばったり!

究極の癒やしはお風呂から。LIXIL「SPAGEの湯」に入った【入浴編】

これが本物の「お風呂テレビ」。デジタルサウンドも

 日本人にとって「風呂」は、身体の汚れを落とす場所であると同時に、1日の疲れを癒やし、明日への活力を蓄えるところでもある。かつては蒸し風呂、今でいうサウナのようなところから出発した日本の風呂文化は、その後大衆浴場としての“外風呂”から一般家庭向けの“内風呂”へと発展してきた経緯がある。そして現代になると、機能性の高いユニットバスが広く普及し、より癒やしを求めるユーザーニーズに応えて使い勝手や快適性を急速に進化させてきている。

来たぞ茨城、「LIXIL温泉SPAGEの湯」

 そんななか、住宅設備機器の大手LIXIL(リクシル)が2月に発表したのが、ユニットバスの最上級モデル「SPAGE(スパージュ)」だ。AV Watch的には、テレビが見られてシャープの「AQUOS City」を介して、HuluやTSUTAYA TVなどの映像配信サービスも楽しめるところがポイントとなるわけだが、コンセプトとしている「高級ホテルのバスルームやスパリゾート施設のような心地よさを自宅で味わえる」というのが気になる。本当のところはどうなのか。

 ぜひとも試してみたいところだが、昨年11月に新築したばかりの筆者の自宅浴室を、半年しかたっていないのにリフォームするわけにもいかない。なんとかして試せないか同社に問い合わせてみると、なんと、茨城でSPAGEを体験することができるのだという。さっそく浴衣に着替え、筆者は筑波山の麓にあるという「LIXIL温泉SPAGEの湯」(筆者命名)へ向けてクルマを走らせた。

川の対岸に見えるLIXIL茨城工場。筑波山を見上げる位置にある

高級住宅のような風呂場が2つ、そこにあった

 誤解のないよう断っておくと、LIXILが筑波山の麓で温泉を掘ったわけではなく、新たに銭湯経営を始めたわけでもない。茨城にはLIXILの工場と研究・開発施設、ショールームがあり、その一角で最新の同社製ユニットバスを実際に体験できる設備があるのだ。また、この体験設備は一般公開されておらず、購入希望者や工務店、施工業者などから問い合わせがあった時に案内する場合があるとのこと。それでも体験入浴に訪れる多くの人で、ほとんど毎日稼働状態なのだとか。

 今回はあくまでも仕事、あくまでも取材のために特別に利用させていただいたのであって、「とにかく風呂に入りたいから」とか「溜まった疲れを取りたいから」という個人的な理由で訪れたのではないことは強調しておきたい。写真ではわざわざ浴衣を着たうえに、じっくり入浴して楽しんでいるように見えるかもしれないが、これは取材である。ただ、結論から言えば、とてもいい湯でした。

 そんなこんなで、さっそく体験入浴。天井の高い、まさしく工場の雰囲気の広い空間の片隅に、壁に囲まれたSPAGE専用の“モデルルーム”が設けられている。一歩足を踏み入れるとそこはまるで高級住宅風の脱衣所。設備とサイズの異なる2つの浴室と、それぞれに洗面所が用意され、すでにどちらの浴槽にもほどよい湯加減のお湯が張られていた。タオルなどのアメニティまで準備が整っており、「ご自由にお使いください」状態である。

工場な雰囲気の一角にある体験入浴設備の入口
一歩足を踏み入れると……
高級感漂わせる洗面所が2つある
洗面台手前に設けられた収納に驚く。これは便利そう

肩湯を流しながら、大画面でテレビを見るぜいたくさ

 SPAGEとは、LIXILのバスルーム最上位シリーズの愛称。浴槽に加え、サーモフロアやシャワー、照明などがセットになっており、オプションで浴室テレビやサウンドシステムなどを追加できる。

 まずはひときわ広い、1624サイズ(1.5坪)のSPAGEを体験してみる。こちらには浴室テレビが壁に取り付けられ、防水リモコンで操作しながら映像などを見ることが可能な「アクアシアター」を備えている。

1624サイズのSPAGE。テレビは前の世代の設備だが、これが最上級モデルに近いタイプとなる

 ただ、残念ながらこの“モデルルーム”のSPAGEに設置された浴室テレビは2014年にリリースされた一世代前のもの。最新の浴室テレビと同じシャープ製の32インチだが、AQUOS Cityは利用できないモデルだ。他は、ベゼル幅や壁からの張り出しが少し大きめになっていることを除けば、外観はほぼ同一となる。

湯加減はバッチリである

 湯加減がベストであるのはともかく、浴室テレビの大きさにまず感動する。風呂でテレビといえば、せいぜいタブレットサイズの防水ポータブルテレビを持ち込んだりとか、地デジチューナ付きの防水(風呂対応)スマートフォンがイメージされるところで、32インチというサイズの画面が壁にどーんと固定されているのは迫力そのもの。

 インチサイズから考えると、32インチはリビングに置くには小さめで、子供部屋や寝室のサブテレビとして扱われることが多いかもしれない。しかし、1~2坪程度の限られたスペースの風呂場では十分に大きく感じられる。

32インチの大画面でさっそく映像視聴
ふむ
リモコンももちろん防水仕様

 気になったのは設置位置がやや高めであること。位置はカスタムできず、浴槽内で体育座りしているような状態だと、かなり見上げる形になって疲れてしまいそうだ。しかし、SPAGEのウリの1つである肩湯機能「アクアフィール」のヘッドレストに頭をもたれかけた、半ば寝そべっている状態であれば、ちょうど視線の先に画面が来る。担当者に伺ったところでは、やはり意図的に高めに設置し、リラックスした状態で視聴しやすいようにセッティングしてあるのだという。

Post from RICOH THETA. -Spherical Image - RICOH THETA

 なるほど、たしかにヘッドレストに頭を乗せると、画面を自然な視線で見ることが可能だ。なるほどなるほど、というわけで、浴槽のすぐ横の壁に据え付けられているリモコンスイッチでアクアフィールをオン。温泉によくある“滝口”をイメージしたこの肩湯は、太い動脈が流れる首の後ろにお湯を直接当てることで、身体の温まりの促進を狙ったものだという。肩こり軽減にも効果がありそうだ。

壁に据え付けられたリモコン類。右のリモコンで肩湯機能のアクアフィールをオン・オフでき、照明の明るさもコントロールできる。左は後述のサイレントジェット
明かりを暗めに調整してムーディーに。よりリラックス効果が高まるとも言われている

 アクアフィールには“強・弱・パルス”の3つのモードから選べるが、個人的には常に温まることができる“強”が好み。LIXIL独自の技術により全体に渡って均等な薄さで、散乱せずにまっすぐお湯が吐出される工夫が施されているためか、首や肩に余計な負担がかからず、とにかく心地よい。浴槽内のお湯を循環させて流しているため、水道代がかさむことがないのもありがたい仕組みだ。

アクアフィールを体験
日本人の95%の肩幅に合うように吐水幅を調整したというアクアフィール

 ただし、テレビを楽しみたい時はアクアフィールはオフにしておきたい。機械音はほとんどしないけれど、耳のすぐ近くで水の跳ねる音がするため、テレビの音声がほとんど聞こえなくなってしまうからだ。

アクアフィールを調整してみる

リラックスが止まらない! ラグジュアリー感たっぷりのデジタルサウンドシステム

もう1つの浴室。こちらはテレビはないが、最新のサウンドシステムを利用できる

 もう一方の浴室にはテレビはないが、最新の浴室サウンドシステムを備えている。天井の2箇所にクラリオン製の防水ステレオスピーカーが埋め込まれ、Bluetoothで接続したスマートフォンなどで再生している音楽を出力できる。

 なお、浴室テレビがある場合は、テレビの音声もこのサウンドシステムから出力される。

天井に埋め込まれたクラリオン製のフルデジタルスピーカー

 使い方としては、アクアフィールのリモコンの隣に設けられたサウンドシステム用のリモコンのボタンを押し、ペアリング待ち状態にしたところで、手持ちのスマートフォンなどからBluetooth接続するだけ。あとはスマートフォン上で好きな音楽ファイルを再生したり、ストリーミング配信コンテンツを流せばOKだ。

右端がサウンドシステム用のリモコン。最初に上部を押せばペアリング待ち状態になる。左右下を押すとボリューム調整が可能

 狭い浴室で、しかも天井スピーカーのみということもあり、反響して聴くに耐えない音質になってしまうかと思いきや、これが意外に風呂という環境にフィットしたサウンドになっている。クラリオンがSPAGEのために専用チューニングを施し、施工時の容易さも考慮しつつ開発したというこのサウンドシステム。使用しているのはフルデジタルスピーカーで、LIXILの担当者いわく「軽量、高音質で、(高荷重に耐えられない)ユニットバスの天井に設置するのにもマッチしている」という。

 必ずしも低音は得意とはいえないフルデジタルスピーカーではあるが、かえって浴室内で不快な反響音として残ることがない。スピーカーユニットが横向きに(耳にまっすぐ向かって)配置されているのではなく、上から音が降ってくるように聞こえるため、耳当たりはマイルドだ。それでもしっかり伸びやかな高音が出ていて、同時に複数の楽器が鳴る時のごちゃごちゃ感などもなく、ボーカルの明瞭さや押し出しの良さもきっちり感じ取れる。リラックスしたい風呂で聞き疲れしない、ちょうどいい音質にチューニングされていることが実感できた。

いいわ~

 Bluetooth接続の、プロファイルがA2DPのみであることを考えると、おそらくSBCコーデックと思われる。かといって、音質の劣化は感じられないし、音楽を流すだけなので、遅延が気になるようなこともない。

 防水(風呂対応)ではないスマートフォンの場合は、浴室の外で接続と再生操作をしてから入浴することになるが、このサウンドシステムをフル活用したいなら、風呂対応の防水スマートフォンも欲しくなるのではないだろうか。アクアフィールで温まりつつ、好きな音楽を聞きながら目を閉じると、全身ふやけるまで長風呂してしまうこと間違いなしだ。

Post from RICOH THETA. #theta360 -Spherical Image - RICOH THETA

熱くないのに温まる不思議。最上級ユニットバスはあらゆる面ですごかった

 体験入浴にかけた時間は、撮影も必要だったためだいたい30~40分程度と少し長めではあったものの、長時間お湯に浸かっていたわけではなく、浴槽のお湯の温度も体感上はおそらく38度か39度と、決して高くはなかった。けれども、湯上がり後はじっとり汗をかき、喉が渇いて仕方ないほど。肩湯機能などによって、効果的に身体が温められたおかげかもしれない。

 お湯の温度が低くても温まるということは、つまり光熱費が抑えられるということであり、急激な温度変化もないため身体への負担が少なく済むことも意味する。SPAGEでは、他の一般的なユニットバスでも見られるような、断熱性能や給湯機器の省エネ機能といったある意味分かりやすい部分でのメリットだけでなく、こういった実際に体験しなければ分からない部分においてもメリットがあるということも、ぜひ覚えておきたいポイントだ。

 ところで今回紹介したSPAGEには、浴室テレビやサウンドシステム「アクアシアター」、肩湯の「アクアフィール」以外にも、リラックスタイムを満喫するための多彩な機能が用意されている。腰掛けて足湯を楽しめる「ベンチカウンター」を設置できるほか、頭もしくは肩に1本の滝のように浴びることができる打たせ湯、欧米でよく見られるオーバーヘッドシャワー、静かに動作して浴槽内の湯を効果的にかくはんする「サイレントジェット」、浴槽の上に小さなテーブルを設置してお湯に浸かりながら本を読んだり、ドリンクを置いたりできる「マルチボード」など、1つの風呂というスペースで、人それぞれで異なるリラックス方法に合わせて、さまざまに活用できるようになっているのだ。

足湯や打たせ湯の時に座って使うベンチカウンター
こんな風に頭や肩に当てて、打たせ湯を満喫できる
ほとんど音を出さずに浴槽内をかくはんしてくれるサイレントジェット。音楽を聞く時も邪魔にならない
シャワーシステムはかなり多機能
天井から雨のように降ってくるオーバーヘッドシャワー機能付き
こんな風に堪能できる
打たせ湯やオーバーヘッドシャワー、通常のシャワーはこれらのノブで全てコントロール

 今回は最新のユニットバスのオーディオ・ビジュアル機能をはじめ、その癒やし効果について楽しま……もとい実体調査をさせてもらったが、なぜこういった高機能ラグジュアリーバスを開発するに至ったのか、またその狙いはどういったところにあるのか、製品の細かな機能なども含め、次回はLIXILの担当者に詳しく伺ってみようと思う。

いい湯でした
SPAGE体験入浴VR

日沼諭史

Web媒体記者、IT系広告代理店などを経て、現在は株式会社ライターズハイにて執筆・編集業を営む。PC、モバイルや、GoPro等のアクションカムをはじめとするAV分野を中心に、エンタープライズ向けサービス・ソリューション、さらには趣味が高じた二輪車関連まで、幅広いジャンルで活動中。著書に「GoProスタートガイド」(インプレスジャパン)、「今すぐ使えるかんたんPLUS Androidアプリ大事典」(技術評論社)など。