日沼諭史の体当たりばったり!

温泉を目指す日本のお風呂。TVやサウンドにもこだわるLIXIL「SPAGE」の狙い

高級ユニットバス「SPAGE」について詳しく伺った

 前回は茨城にあるLIXILの工場で、同社のラグジュアリーなユニットバス製品「SPAGE」を体験した。浴室テレビと天井設置のフルデジタルスピーカーのサウンドシステム「アクアシアター」に加え、肩湯の「アクアフィール」、浴槽内を静かにかくはんする「サイレントジェット」、さらにはオーバーヘッドシャワーなど数々の機能を装備した製品だが、ここまで徹底的に高機能化を図るのには何か理由があるのだろうか。今回は企画を担当しているLIXIL Water Technology Japan浴室事業部の中野悟和氏に話を伺った。

スペック・価格競争から離れ、「温泉みたいな」お風呂を目指した

LIXIL Water Technology Japan 浴室事業部 浴室商品部 商品企画グループ 中野悟和氏

――御社は住宅設備全般を取り扱っているわけですが、ユニットバス製品、とりわけ「SPAGE」についてはどんな状況なのでしょうか。

中野:弊社のユニットバス製品は、この市場における出荷量シェアが30%で、トップです。「SPAGE」についていえば、2014年8月に最初の第1世代の製品をリリースして、今回2016年4月から第2世代目となりましたが、第1世代についてはリフォーム向けと新築向けが6:4の割合となっています。

 ここは他の製品と比べると大きく違っているところで、他はリフォーム向けと新築向けが4:6ですから逆転しているんですね。リフォームのタイミングで今までよりハイグレードな製品に切り替えたいという意向がお客様に強くあることがうかがえます。

――そもそも高級ユニットバス製品の「SPAGE」はなぜ生まれたのでしょうか。

中野:最近のお風呂は、かつてのお風呂の課題であった、「寒い、汚い、危ない」という部分を改善するために、浴槽のお湯が冷めにくく、床などがひやっとせず、格段に掃除しやすくなっている、など、基本性能の部分を向上させてきています。さらに“お風呂の困りごと解決”ということで、そこにオプションで乾燥機機能を付けて洗濯物を干せたり、ミストサウナを楽しめたりといった機能も追加できるようにもなっています。

1624サイズの浴室テレビ付き「SPAGE」

 そのあたりは弊社だけでなく他社製品も同様ですが、ちょうど2014年8月に最初のSPAGEを出したタイミングというのが、システムバスが日本に登場して50年目という節目だったんですね。50年前、1964年といえば東京オリンピックを控えてホテルをガンガン建てていた時です。他社の事例ですが、ホテルニューオータニにユニットバスが導入されたのが最初のようです。

 そこから50年の間で、自宅にないので銭湯に行ったり、家にあってもバランス釜だったりという身体を洗う場所としてのお風呂から、システムバスが登場したことで今のお風呂に近づき、さらにここ15年は基本的なところ以外の機能が追加され、といった進化をたどっています。

 が、それと同時にスペック競争、価格競争に入ってきて、我々としてはお風呂はそういうものじゃないんじゃないかと。だったら何を作ったらいいんだろうと考えて、社内でワークショップのようなことを1年くらい続けました。「お風呂ってそもそもなんだ」とか「くつろぐってなんだ」というところも突き詰めて、ユーザーの声を集めたりしているうちに、お風呂というものに対して「生活を豊かにするもの」、「1日の再生の場」、「お客さんが来たら自慢したい」、「リラックスする場所」などといったイメージを持たれていることが分かりました。

 また、日本人の8割が風呂好きという調査結果も得られました。それで行き着いたのが、シンプルに「温泉みたいなお風呂を作ろう」。気持ちの面でもっとぜいたくに、温泉みたいに過ごせる風呂を作ろうと。

――それで肩湯や打たせ湯のような機能を追加したわけですね。

中野:SPAGEのコンセプトとしては大きく2つほどありまして、1つは「お湯とコミュニケーションして楽しもう」ということで、「湯を、まとう」「湯に、うたれる」「湯に、つつまれる」の3つのテーマを考えました。

 「湯を、まとう」は肩湯のことです。首の後ろには動脈が集まっているので、そこを温めると全身が温まりやすい。そうすると半身浴でも入れて、体への負担も少なく長時間入浴できるのがメリットとなります。「湯に、うたれる」は打たせ湯のことで、湯布院にある滝の打たせ湯から着想したものです。オーバーヘッドシャワーは西洋の合理的なシャワーで、浴びている間も両手を使えますし、シャワーだけで身体を温めやすいなど、使い勝手の面で多くの利点があります。

SPAGEの肩湯

ショールームに設置されているスケルトンモデル
ポンプを使って浴槽内のお湯を循環させている

打たせ湯
オーバーヘッドシャワー

 もう1つのコンセプトは「時間を楽しもう」というものです。今のユニットバスだと座るのに小さな椅子を使うくらいしかなかったのが、広さに余裕のあるベンチカウンターを付けて温泉みたいにくつろげる作りにしています。それと、お風呂の中で本やスマートフォンを使っている人が多いので、今年の春にはそれに対応する「マルチボード」を用意しました。ベンチカウンターから横にずれる形で浴槽に移動しやすくなったり、バステーブルになったり、1枚外せば蒸し風呂みたいな形にできます。このコンセプトには浴室テレビやサウンドシステムも含まれます。

ベンチカウンター
マルチボードを使っているところ。本や飲み物などを置いても良い

裸になるお風呂の特性を活かしたヘルスチェックも?

――お風呂でテレビを見ること自体は、これまでもそれほど珍しい発想ではなかったんじゃないかと思いますが。

中野:12インチ位までの浴室用テレビはすでに出していますが、お客様自身がタブレットやスマホなどでテレビを見ていたりしますから、こういった小型の浴室用テレビというのは、我々が提供する意味はこの先なくなるんだろうなあという思いはありました。

 そこでSPAGEでは、お風呂用としては大型となる32インチのAQUOSを入れました。これが、けっこう売れて、SPAGE購入者の15%が浴室テレビを選ばれています。普通の32インチテレビは5万円も出せば買えますが、SPAGEの浴室テレビは一式で定価40万円もするのにです。こんなに数が出るとは正直思っていませんでした。お風呂のなかで大画面でテレビを見られることが新しい価値観として捉えられているのかもしれません。

 なお、サウンドシステムを選ぶ人が10%、肩湯が50%、オーバーヘッドシャワーと打たせ湯が25%となっています。

最新の浴室テレビ「アクアシアター」

コンテンツサービス「AQUOS City」で利用できる機能の数々
YouTubeももちろんアクセスできる

――なぜ32インチというサイズを選ばれたのでしょうか。

 弊社製品のモジュールは、800mmピッチでメインサイズができています。ユニットバスでは1坪サイズ、1616という1,600×1,600mmの大きさが一番売れ筋なのですが、その半分が800mm。テレビを設置した時のベゼルを含めたサイズがちょうど800mmで、それだと32インチサイズがぴったり収まるんです。

 この機種のベースは、映像を無線で飛ばせるタイプのシャープAQUOSですが、SPAGEでは接続方法としては有線としています。浴室に取り付けるにあたって、ガラスが曇らないようにしたり、ベゼルの張り出しを可能な限り小さくするなどの防水設計を弊社自身で行なっています。

最新モデルではベゼルは狭く、張り出しも少なくなっている

――サウンドシステムについてはクラリオンのフルデジタルスピーカーを採用しているそうですが。

中野:クラリオンさんと協力して開発したSPAGE専用設計のスピーカーとなっています。音質を高めるチューニングの内容としては、空間の中でどう耳障りのいい音にしていくかというところ。お風呂の壁などは耐火性能を備えている必要があって、使用しているのはプラスチック素材で反響しやすいのと、狭い場所に水平と垂直の壁があるのは音の反響などを考えた時にチューニングがすごく難しかったようです。

 フルデジタルスピーカーは、デジタル to デジタルの仕組みですごく省電力で軽量です。設置の際には断熱材が割れることもあるので、発熱(消費電力)は少ないほど良いですし、ユニットバスの天井は高荷重に耐えられないので、お風呂にはすごくマッチしているんです。もちろんスピーカーユニットの取り付けには、ユニットバスにはめ込む際の方法も工夫して、施工のしやすさにつなげています。

クラリオン製のフルデジタルスピーカー
浴室天井裏ではこのように取り付けられている

――今後、このSPAGEやユニットバスはどんな風に進化させていくのでしょうか。

中野:次はソフトの進化だと考えています。32インチという大画面に限らず、付加価値をつけたいなと。インターネットにつながるわけですから、昨今のIoTじゃないですけど、家庭内の情報ステーションみたいなものにしたい。例えば、お風呂というのは誰もが裸になる他にはない場所です。そういう性質を活かして血圧などのヘルスデータをサーバーに送信したりすることもシームレスにできちゃうんじゃないでしょうか。そんな将来性も見越したうえで今回の32インチという大型テレビを設置したところもあるんです。

 あとはカラオケ。さまざまなネットコンテンツを利用できるAQUOS Cityを搭載していますから、音が漏れにくいお風呂であれば1人カラオケし放題じゃないかと。リビングではカラオケをしたくない人も多いでしょうが、お風呂ならある程度防音もできますし。

――そうなったら今度は防水マイクが必要になりますね。

中野:そうですね、その時はシャワーヘッドをマイクにするのがいいでしょうか?(笑)。

いずれはシャワーヘッドがマイクになる!?

日沼諭史

Web媒体記者、IT系広告代理店などを経て、現在は株式会社ライターズハイにて執筆・編集業を営む。PC、モバイルや、GoPro等のアクションカムをはじめとするAV分野を中心に、エンタープライズ向けサービス・ソリューション、さらには趣味が高じた二輪車関連まで、幅広いジャンルで活動中。著書に「GoProスタートガイド」(インプレスジャパン)、「今すぐ使えるかんたんPLUS Androidアプリ大事典」(技術評論社)など。