【新製品レビュー】

1万円台のイヤフォン、注目の2モデルを聴き比べる

-ボーズの新提案「IE2」、Shureの入門機「SE315」


左がShureの「SE315」、右がボーズ「IE2 Audio headphones」

 新機種の発表が相次いでいるイヤフォン市場。高級モデルに注目が集まりがちだが、1万円台で購入できるモデルにも注目機種が登場している。

 ここでは、ボーズのイヤフォン第2弾モデル「IE2 Audio headphones」(9月25日発売/12,600円)と、ShureのSEシリーズのエントリーモデル「SE315」(10月上旬発売/オープンプライス/実売19,800円前後)を取り上げてみたい。



■ IE2 Audio headphonesの外観をチェック

 ボーズは2006年に、同社初のイヤフォンとして「in-ear headphone」(15,540円)を発売。今回の「IE2 Audio headphones」はそれに続く第2弾。同社イヤフォンの特徴はイヤーピースの形状で、耳穴への挿入は深くないものの、耳穴全体を覆うような独特の形状を採用。カナル型ともインナーイヤー型とも異なる、独自の構造となっている。

 新モデルでも傾向は同じで、新たに「StayHear」と名付けられたイヤーピースには、ウルトラセブンやシャア専用機のような“ツノ”が付いているのが特徴だ。

左が従来モデル「in-ear headphone」、右が新しい「IE2 Audio headphones」。イヤーピースの形状が目を引く違いだイヤーピースのみを比べたところ。左が新モデルの「StayHear」だ

装着したところ。耳の上部のくぼみにウイングをフィットさせてる事で、ホールド性を高めている
 デザインは“イカツイ”が、シリコン製で柔らかく、指でさわると簡単に形が変わる。ちゃんと意味のあるデザインで、この突起(ウイング)部分を、耳の耳甲介艇(耳の上側にあるくぼみ)にフィットさせるように装着することでホールド力を強化している。耳穴の周囲だけでなく、StayHearで“ふんばる”ことで、抜けにくいというわけだ。

 実際に従来モデルとホールド力を比べてみると差は歴然。イヤーピースに厚みがあるために耳から“浮き気味”だった従来モデルに対し、新モデルはガッチリと耳に密着し、浮き上がる気配が無い。安定性も高く、ケーブルを引っ張ると容易に抜ける前モデルに対し、新モデルではかなり強く引っ張っても抜けない。

 装着感も良好で、カナル型と比べて耳穴の異物感は少なく、耳の上部分にウイングが触れている感覚はあるが、柔らかいため、数分着けていれば気にならなくなる。

 耳との密着度が向上したため、遮音性も向上した。ざわつく喫茶店で新旧モデルを比較したが、新モデルの方が女性の話し声や食器の音から、エアコンの低音まで、まんべんなく騒音が減衰する。カナル型の強烈な遮音性までは至らないが、インナーイヤー型よりも遮音性は高い。カナル型の装着感が苦手という人にもマッチする製品と言えるだろう。

ハウジングの背面を比べたところ。左が従来モデル、右が新モデル。ポートが扇状の大きなものになっている

 同社製品の恒例として、ユニットサイズなどの細かいスペックは明らかにされていないが、ドライバユニットのサイズなど、イヤーピース以外の部分は従来モデルと大きく変わっていないそうだ。実際に並べてみてもハウジングサイズに大きな違いはない。

 外見的な大きな違いは、ハウジングの裏側。ハウジング内の空気を調節するポートが、前モデルは見えるか見えないか程度の小さな穴だったが、新モデルでは大きく開口。シルバーのメッシュも設けられ、目立つようになっている。

従来モデルはケーブルの途中にパッシブイコライザを備えていた

 また、ケーブル途中にも違いがある。従来モデルはプラグの付け根(初代モデル)や、ケーブル途中などに設けられていたパッシブイコライザが省かれ、新モデルではケーブルに何も付いていない。イコライザは、プレーヤーから出力された音を、同社イヤフォンに適した音に処理してからハウジングに渡す役割をしており、新モデルでは前述のようなハウジングの改良により、ハウジング側で再生音を最適化できるようになったため、イコライザが不要になったのだという。

 使い勝手も向上した。特に違いを感じるのはイヤーピースが“本体から”外れにくくなった事だ。従来モデルではイヤフォンを耳から外すと、イヤフォン本体からピースが外れ、ピースが耳穴に残ってしまったり、カバンの中に入れておくといつのまにかピースが外れて転がったり……といった事が何度かあった。

従来モデルはケーブルの途中にパッシブイコライザを備えていた

 新モデルでは、イヤフォン本体のあるピースを抑える突起が大型化され、ピースをホールドする力も高められた。これにより、耳に残ったり、勝手に外れたりといった事がまったく無くなった。細かい点だが、前モデルの不満点を着実に解消しているのは好感が持てる。

 ケーブルの長さは115cm。柔らかな素材で、黒と白のツートンカラーになっている。なお、ケーブルの途中にiPod/iPhone/iPad用のマイク付きリモコンユニットを備えた、ヘッドセットタイプ「MIE2i mobile headset」も用意している。こちらの価格は15,750円で、通常モデルより3,000円程度高価だ。使い勝手がアップするため、iPodやiPhoneユーザーならばこちらを検討しても良いだろう。ただし、発売日が1カ月ほど遅い10月30日になっているので注意が必要だ。




■ SE315の外観をチェック

 Shureの「SE315」は、バランスドアーマチュアユニットを搭載した入門モデルとも言える製品。カラーはブラック(SE315-K-J)と、クリアー(SE315-CL-J)の2色を用意する。

 同社のアーマチュア型イヤフォンは、7月にSEシリーズの上位モデルとして、2ウェイダブルウーファ仕様で3ユニット内蔵の「SE535」(実売5万円前後)と、デュアルユニットの「SE425」(実売3万円前後)が発売されており、「SE315」は同シリーズのエントリーモデルとなる。

「SE315」のクリアーモデルブラックモデルの使用イメージ上が2ウェイダブルウーファ仕様で3ユニット内蔵の「SE535」。下が「SE315」

 特徴は、上位モデルがマルチウェイ仕様になっているのに対し、SE315はシングルユニットを採用している事。しかし、筐体の形状などは上位モデルを踏襲しており、遮音性の高さやホールド性能の高さも上位モデル譲りだ。

 また、見逃せないのは1万円台のエントリーモデルでありながら、ケーブルの着脱機構を持っている事だ。これにより、コントローラー・リモコン付きケーブルに交換したり、ケーブルが断線した時に容易に交換できるようにもなっている。

エントリーモデルでありながらケーブルの着脱が可能耳裏に当たる部分のケーブルには、ワイヤーフィットが組み込まれており、形状が保たれる

 なお、ケーブルとイヤフォン本体の着脱部分は360度回転するスナップ・ロック式となっており、ケーブルに対して、イヤフォンの向きを自由に変えられる。これにより、装着しやすさの向上にも寄与している。

ケーブル着脱部分は回転可能なスナップ・ロック式。ケーブルを指でつまみ、ハウジングをクルクル回転させる事もできる

内部構造。灰色の大きなパーツの中にアーマチュアユニットが内蔵されている。赤いリングのようなパーツが“Oリングパーツ”だ

 装着方法は、ケーブルを耳の裏かけるタイプで、耳の形状に沿ってケーブルの形を固定できるように、耳裏に当たる部分にはワイヤーフィットが組み込まれている。このあたりの仕様も上位モデルと同じだ。

 クリアーモデルで内部構造を見てみると、長細い灰色の大きなパーツが内蔵されているのが見える。実は、内部のアーマチュアユニット全体をプラスチックモールドの箱に収容するような構造になっており、灰色のパーツがこのプラスチックモールドとなる。これは衝撃からユニットなどを保護するためのもので、同モールドには音の吹き出し口が設けられている。この部分を注視してみると、“Oリングパーツ”が付いており、耳へと音を出力するノズルに、余分な音が漏れ出さないよう工夫されている。

内部に灰色のパーツが見える。この中にアーマチュアユニットが内蔵されているノズルの付け根のさらに奥、内部にあるオレンジ色のパーツがOリング

リモコン&マイクケーブルを装着したところ

 イヤーピースはフォームタイプ、ソフト・フレックスタイプを各3サイズ(S/M/L)、さらにイエロー・フォーム・イヤパッド、トリプルフランジ・イヤパッドも同梱する。

 なお、発売を記念し、iPhoneなどが操作できる3ボタン付きのリモコン&マイク搭載ケーブルをセットにした特別モデルも数量限定で販売される。実売は22,800円前後。同ケーブルはSE535/425/315でも使えるが、標準ケーブルにあるワイヤーフィット機能は備えていない。リモコン操作対応プレーヤーは第4/5世代iPod nano、classic、touch 第2世代、shuffle 第3世代、iPhone 3GS/4。




■ 音漏れをチェック

 まず、ボーズの新旧モデルで音漏れを比較する。前述のように、新モデルはイヤーピースの密着度がアップしたため、おのずと音漏れも低減されたと予想した。しかし、実際に比べてみると、旧モデルの方が音漏れが少ない。

 高音が「シャンシャン」と漏れやすい「山下達郎/アトムの子」を高めのボリュームで再生し、聴いている人の隣に座って漏れた音の量を聴き比べたが、明らかに「シャンシャン」というドラムのシンバルの音が新モデルの方がハッキリと聴こえてしまう。

 原因を突き止めようと、耳に入れる前の段階で比較すると、この時点で新モデルの方が音漏れが大きい。音の出所はハウジングに大きく設けられたポート部分のようだ。神経質になるほどの漏れではないが、満員電車などでは音量に注意して使用したい。

 ついでにShureの音漏れも比較。こちらはカナル型であるため、ボーズの両機種よりも大幅に漏れが少なく、ほとんど外から音は聞こえなかった。




■ 音質をチェック

 音質のチェックは、ポータブル環境として「第6世代iPod nano」+「ALO AudioのDockケーブル」+「ポータブルヘッドフォンアンプのiBasso Audio D2+ Hj Boa」を使用。据え置き環境としては、Windows 7 64bitのPCと、ラトックのヘッドフォンアンプ内蔵USBデジタルオーディオトランスポート「RAL-2496UT1」を使用。ソフトは「foobar2000 v1.0.3」で、プラグインを追加し、ロスレスの音楽をOSのカーネルミキサーをバイパスするWASAPIモードで24bit出力している。

 ●ボーズ「IE2」

 「藤田恵美/camomile Best Audio」から「Best of My Love」を再生すると、即座に前モデルからの進化点がわかる。イヤーピースの密着度がアップして静粛性が向上したため、ヴォーカルやアコースティックギターの細かい音が、より多く聴き取れるのだ。前モデルを装着した状態で、手のひらで耳とイヤフォンを押し付けるようにすると、新モデルのイメージに近づく。

 イヤーピースの隙間から漏れ、薄くなっていた高域が、グッと音の輪郭が太くなり、ヴォーカルが自分に近づいてきたような明瞭度の向上が体験できる。音量をあまり上げなくても音楽のバランスが良い。また、密閉度が上がった事で低音もパワーアップ。1分過ぎから入るアコースティックベースの量感がより豊かに、力強くなった。

 Kenny Barron Trio、「The Moment」から「Fragile」を再生。ルーファスリードのアコースティックベースを聴き比べると、新モデルは「ズシーン」と沈んだ低音が頭の中心へと響いてくる。中低域は極めて豊富で、音楽全体を覆い隠す勢いだが、その中にあるピアノの響きは自然で、楽器のキャラクターはしっかりと描き分けている。ある程度のボリュームで再生するとバランスが良くなるが、小音量時は中低域のほうが勝る印象だ。

 旧モデルで同曲を再生すると、音場の濃密が薄くなり、スタジオにすきま風が入ってきたようなイメージ。ベースの迫力も減退する。ピアノの抜けもいまひとつで、高域の頭が抑えられたように感じる。

 細部を比べると上記のような違いがあるが、全体的なキャラクターは前モデルと良く似ている。楽器の音をストレートに描写するのではなく、豊かな音場の広がりを重視するタイプ。ヘッドフォンの音作りに似ている。そのため、演奏されている空間の音も収録されているような、アコースティック・ライヴなどの楽曲と良くマッチする。

 中低域の主張が大きいため、欲を言うと解像感がもうすこし欲しい。しかし、クリアネスや高解像度をアピールするイヤフォンが多い現在の市場において、こうした“ゆったりと聴かせるタイプ”には独自の個性がある。音楽を分析的に楽しむというよりも、散歩や読書など、何かをしながらまったりと聴きたくなるサウンドだ。

 また、ヴォリュームを上げるとキツく感じる、ロックやポップスの打ち込み系の楽曲ともマッチする。素のまま描写すると音がキツくなる女性ヴォーカルのサ行やシンバルなどを適度に聴きやすく丸め、心地よい中低域をドラマチックに再生するためだ。「坂本真綾/トライアングラー」を、かなりのボリュームで再生しても高域がキツく感じ無い。楽器の分離や情報量はいまひとつだが、このイヤフォンでしか楽しめない音が出ている。「放課後ティータイム/Utauyo!!MIRACLE」の冒頭ベースの中域の張り出しは豊かで、ギターの刺激音も適度に緩和される。

 ●Shure「SE315」

 アーマチュアは1つのユニットで担当できる帯域が狭いため、ワイドレンジな再生を行なうためにはマルチウェイ化が必要となる。しかし、マルチウェイ化することでネットワークが介在するなどの弊害が生まれるため、あえてシングルユニットを使い、耳への挿入度合いなどを工夫する事で、不足しがちな低域を補い、聴覚上のレンジの拡大を図るモデルも存在する。

 「SE315」もシングルユニットながら、ハウジングの形状や機構による遮音性の高さで低音を稼ぐ音作りをしている。「藤田恵美/Best of My Love」では、歌い出しの口の開き方や、小さな吐息の描写など、細かい音が非常に良く聞き取れる。解像度の高さはバランスドアーマチュアならではで、高域の抜けも良く、清涼感のあるサウンドだ。

 SEシリーズ最上位の「SE535」と比べると、どうしても絶対的な低音は不足しており、アコースティックベースの「ヴォーン」という量感や低域の沈み込みは薄い。しかし、上位機種ゆずりの遮音性の高さで、ある程度の低域は確保されている。そのため、シングルユニットにアーマチュアにありがちな、スカスカ、カンカンした“軽い音”にはなっていない。このあたりは音作りの上手さが光る。

 また、量感が薄い事で、ケニーバロンのアコースティックベースも、弦が震える様がよくわかる。分解能やクリアさなど、バランスドアーマチュアの“利点”がわかりやすいサウンドであるため、ダイナミック型イヤフォンからの買い替えにも良いだろう。さらに低域が欲しい場合は上位モデルを検討する流れになり、エントリーモデルらしい音作りだ。

 「坂本真綾/トライアングラー」や「放課後ティータイム/Utauyo!!MIRACLE」を再生すると、ボーズ「IE2」の音からベールを2枚ほど剥いだような、高解像度な音が飛び出してくる。明瞭さの面ではSE315が優れているが、低音の豊富さや、押し寄せてくるようなバンドサウンドの“熱気”は、IE2の方がドラマチックに聴かせる。見事に正反対なキャラクターの2モデルだ。

 最後に、低音の描写力比較として、JAZZのビル・エヴァンストリオ「Waltz for Debby」(Take 2)を再生。この楽曲は'60年代に、ライヴハウス「ヴィレッジ・ヴァンガード」で収録されたものだが、6分半過ぎにかすかに地下鉄が通過する音が収録されており、それが聴こえるか否かで低域再生能力が判断できる。

 IE2では残念ながらほとんど聴きとれず、時計の秒針を見ながら「ここで聴こえるはずだ」と待ち構えて、ほんのかすかにわかる程度。再生はされているが、他の音に埋れている印象だ。SE315では、“電車が通った事”はわかるが、「ゴオォォ」という電車の音から低音を抜いた「コォーッ」という音に近い。結果として2機種の違いがよくわかる比較となった。


(2010年 10月 1日)