【新製品レビュー】

ソニーの新ヘッドフォン「MDR-Z1000/ZX700」を聴く

-新モニターの実力は? ZX700は1万円切る注目機


 9月3日に、ソニーからイヤフォン・ヘッドフォンの中上級モデルが一気に発表された。そこで、今回は10月10日に発売される民生向けの上位「MDR-ZX700」と、11月10日発売のスタジオモニター「MDR-Z1000」の計2機種を紹介する。



■ ラインナップをおさらい

左からMDR-ZX500、MDR-ZX700。奥がMDR-Z1000

 同日にヘッドフォンとイヤフォンが多数発表されたので、ヘッドフォンのラインナップを抽出しておさらいしておこう。全体の特徴は全て密閉型の薄型ハウジングを採用している事。上位機種も含め、屋外での利用も視野に入れたモデルとなっている。

 まず、プロ向けのスタジオモニターヘッドフォンとして開発された「MDR-Z1000」が11月10日に、61,950円で発売される。振動板に新素材の液晶ポリマーフィルムを採用しているのが特徴。プロ向けではあるが、民生向けにも販売するためハイエンドユーザーにも注目のモデルだ。ユニットの口径は50mm径。

 それに先駆け、同じ50mmユニットを搭載した民生向け「MDR-ZX700」が10月10日に発売された。「MDR-Z1000」に投入された技術を使いつつ、12,390円と大幅な低価格化を実現している。1万円を切る、9,980円などで販売しているショップもあり、最注目のモデルだ。

 そこから下位にいくにしたがってユニットが小口径になっていき、40mm口径の「MDR-ZX500」(6,195円)、30mm口径の「MDR-ZX300」(3,675円)、同30mm径の「MDR-ZX100」(2,468円)と続いていく。今回は最上位の「MDR-Z1000」と、注目機種の「MDR-ZX700」を取り上げる。


発売日型番特徴カラー価格
11月10日MDR-Z1000液晶ポリマーフィルム振動板
50cm径ユニット
360KJ/m3ネオジウムマグネット
耐入力4,000mW
7N OFCリッツ線
ノイズアイソレーションイヤーパッド
片出しケーブル
着脱式ケーブル
61,950円
10月10日MDR-ZX70050mm径ユニット
360KJ/m3ネオジウムマグネット
耐入力2,000mW
ノイズアイソレーションイヤーパッド
片出しケーブル
12,390円
MDR-ZX50040mm径ユニット
300KJ/m3ネオジウムマグネット
耐入力1,500mW
両出しケーブル
ブラック
ホワイト
6,195円
MDR-ZX30030mm径ユニット
300KJ/m3ネオジウムマグネット
耐入力1,000mW
両出しケーブル
ハウジング折りたたみ可能
ブラック
ホワイト
ブルー
レッド
ゴールド
3,675円
MDR-ZX10030mm径ユニット
耐入力1,000mW
両出しケーブル
ハウジング折りたたみ可能

ブラック
ホワイト
ブルー
レッド
ピンク
グレー
2,468円


■ プロ向けモニター「MDR-Z1000」

MDR-Z1000

 海外メーカーから10万円を超えるハイエンドモデルが続々登場しているので、「MDR-Z1000」の61,950円という価格もそれほど高価には感じないが、定番モニターヘッドフォン「MDR-CD900ST」(ソニー・ミュージックエンタテインメントとの共同開発)が18,900円である事を考えると、モニターとしても高価なモデルと言えるだろう。ただし、ショップによっては49,800円で予約を受け付けているところもあるようだ。

 その中身は現場のプロの声を取り入れつつ、ソニーとして考えられる技術・ノウハウを全て投入したという意欲的かつ、先進的なモデルとなっている。


MDR-CD900ST
 まず、手にして感じるのは軽さ。同じZシリーズの最上位モデル「MDR-Z900HD」(28,350円)の約300gよりも軽く、約270gを実現している。「MDR-CD900ST」の約200gと比べると若干重い。

 高級モデルらしく、ハウジングにはマグネシウム合金を使用。仕上げがマットなので一見プラスチックに見えるが、触れたり指で軽く叩くと、薄く、なおかつ硬い事がわかる。鳴きが少なく、薄くても高い剛性が得られる事から、軽量化に繋がっているという。

 アーム部分にもマグネシウムが使われており、触るとひんやりと冷たい。デザイン全体は下位モデル「MDR-ZX700」とほとんど同じで、たびたび見分けがつかなくなった。アーム部分だけ色が違う事を覚えておくとよさそうだ。「MDR-Z1000」はアルミでシルバー、「MDR-ZX700」はブラックでプラスチックだ。


ハウジングにはマグネシウム合金を使っているアーム部分もマグネシウムで、カラーはシルバー

 「Z1000」最大の特徴は50mm径ユニットに使われている振動板が、「液晶ポリマーフィルム」という新しい素材を使っている事。振動板の理想とも言える“軽量かつ高剛性”で、“内部損失が高い”(固有の音を持たない)素材で、高価なものだという。

 磁気回路もこだわっており、360KJ/m3という非常に高磁力なマグネットを使っている。再生周波数帯域は5Hz~80kHzと広く、ハイビット/ハイサンプリングの音楽配信サービスにもマッチするだろう。インピーダンスは24Ω。感度は108dB/mW。内部の線材には、信号ロスを最小限に抑えるために、線7Nグレード(99.99999%)の高い純度を持つOFC(無酸素銅)を使用している。

ハウジングは縦長で、薄めハウジングにあるポート。イヤーパッドの密閉度が高いこともあり、音漏れは少ない液晶ポリマーフィルムを使った新しい振動板

 イヤーパッドは新開発のノイズアイソレーションイヤーパッドを使用。パッド内のクッション材に低反発ウレタンを使っており、耳のまわりの複雑な形状にも柔軟に追従する。実際に装着してみると、側圧は適度で肌触りも良く、ほとんど負担を感じない。特筆すべきは耳たぶの下あたりの、ハウジング下部の密着具合。多くのヘッドフォンでおろそかにされがちな部分だが、「Z1000」では誰かが指でグッと押し付けてくれるようにシッカリ密着する。ハウジング/イヤーパッドの形状を縦長とし、隙間ができやすい上下を効果的にカバーすると共に、耳の左右の幅を絞ることで、髪の毛などの挟み込みを抑えた結果だという。

縦長のイヤーパッド装着イメージ耳たぶの下までしっかり覆われる

 プロ向けらしい機能として、耐久性の高さが挙げられる。OFCボイスコイルは、通常のヘッドフォンは全て金属で作られるが、紙のクラフトボビンに純度の高いOFCリッツ線を巻いており、ボイスコイル自体を軽量化。音質を高めると同時に、最大入力4,000mWを実現している。これは非常に高い数値で、例えばライヴのステージに置いたスタンドマイクがスタンドごと倒れた時など、突然の大入力があった場合などを考慮しているという。

 当然ケーブルは着脱式。片出しタイプで、3mと1.2mのケーブルが付属する。モニターヘッドフォンはカールコードのものが多いが、どちらの長さもストレートになっている。ハウジング接続側の端子は通常のステレオミニだが、ネジ式で固定可能。プレーヤー接続側もステレオミニで、端子は3mケーブルがストレート、1.2mがL型。標準プラグへの変換アダプタも付属する。

ケーブルは着脱式取り外したところケーブルはネジ式で固定
入力プラグはステレオミニ。3mケーブルはストレート1.2mはL型となっているケーブルはストレート


■ 民生向け「MDR-ZX700」

MDR-ZX700

 「MDR-ZX700」のデザインは「Z1000」とほぼ同じ。だが、ハウジングやアームの素材がプラスチックになっているため、触れるとちょっと安っぽい。重量は約260g。

 ユニットサイズは50mm径で同じだが、振動板は液晶ポリマーフィルムではなく、PETフィルムとなる。だが、磁気回路のマグネットはZ1000と同じ、360KJ/m3の高磁力のものを使っている。耐入力は2,000mW。再生周波数帯域は5Hz~40kHz。インピーダンスは24Ω。感度は106dB/mW。

ハウジングはプラスチック製だが、Z1000とパッと見で違いはわからない左がZX700、右がZ1000。アーム部分が黒になっているのがZ1000とのカラー面での違い振動板はPETフィルム

 「Z1000」と同じ形状で、ノイズアイソレーションイヤーパッドも採用しているため、装着感は「Z1000」とほぼ同じだ。

装着イメージ下部までしっかりホールドされるはZ1000と同じだ


■ 音を聴いてみる

試聴の様子

 試聴は、ポータブル環境として「第6世代iPod nano」+「ALO AudioのDockケーブル」+「ポータブルヘッドフォンアンプのiBasso Audio D2+ Hj Boa」を使用。据え置き環境としては、Windows 7(64bit)のPCと、ラトックのヘッドフォンアンプ内蔵USBデジタルオーディオトランスポート「RAL-2496UT1」を使用。ソフトは「foobar2000 v1.0.3」で、プラグインを追加し、ロスレスの音楽などをOSのカーネルミキサーをバイパスするWASAPIモードで24bit出力している。

 ●MDR-Z1000

 まずはモニターの「Z1000」から。特徴を先に列挙すると、モニターヘッドフォンらしく、非常に明瞭なサウンドで、音色はニュートラル。付帯音は一切感じない。音像が頭の中心に近く定位し、なおかつ音場が広い。特筆すべきは“解像感の高さ”と、“豊かな響き”の両立で、個々の楽器が明瞭に描写されるにも関わらず、しっかりと音に厚みがあり、音場の密度も“濃い”。民生向けヘッドフォンのような“芳醇さ”、“量感”など、音楽を楽しく聴かせる傾向を持ちながら、モニターライクな分析描写もOKという、ともすれば相反する特徴が同居している。

 クリプトンの「HQM STORE」で配信されている24bit/96kHzのJAZZ「Kenichi Yoshida Trio/STARDUST」から「Take The A Train」を再生すると、ピアノ、アコースティックベース、ドラムの細かい音が非常に明瞭に聴き取れる。1つ1つの音がとても“近く”、ピアノの筐体が目の前にあるように感じられ、ドラムセットの上を乱舞するスティックが肩に触れそうなイメージ。まるで、ステージに勝手に上がって、楽器が密集した空間に自分の頭を突っ込んだような音像だ。

 これだけ音像が近いと、前述した“音場の広さ”という特徴が嘘に思われるかもしれない。だが、個々の音像が近いだけで、それがダンゴのようにくっついているわけではなく、音像と音像の間にキッチリと“音の無い空間”があり、音像から発せられた音が、背後の空間に際限なく広がっている様が見えるのだ。超近接と、超遠方の両方が見渡せるような感覚である。

 また、密閉型とは思えないほど抜けがよく、閉塞感をまったく感じない。音像が近いにも関わらず、頭内定位を強く感じないのは、この抜けの良さも寄与しているだろう。ゼンハイザーの「HD650」のようなオープンエア型が好きな人も、一度体験してみて欲しい音だ。

 ●MDR-ZX700に着け替える

左がZX700、右がZ1000

 Z1000と同様、ニュートラルなサウンドだが、音像の定位が大きく変化。ステージ上に突っ込んでいた頭をスッと抜いて、おとなしくコンサートホールの前方の席に座ったような音に変化する。耳のすぐ脇で鳴っていた楽器が前方に並び、簡単に言うと“普通のヘッドフォンの音場”になる。Z1000の方は、個々の楽器の描写がチェックしやすいが、ゆったりと音楽を楽しむキャラクターとは異なる。どちらが良い、悪いではなく、目的と用途の違いと言える。

 ただ、違いがこれだけならば“音像定位の違い”という好みだけで選べるのが、さすがに5万円以上の価格差があるため、音の描写力そのものにも違いがある。

 特に顕著なのは“低域の量感&解像度”と“音のナチュラルさ”の2点だ。高域から低域までの、トータルバランスで比較すると、最低音の沈み込みや量感はZ1000の方が豊か。ZX700も、他のヘッドフォンと比べるとバランスは良好だが、どちらかと言えば高域寄りのバランスとなる。また、振動板の違いと思われるが、音のナチュラルさもZ1000の方が優れている。この2点も含め、他社のモデルを交えてもう少し細かく比較してみたい。

 ●Shure「SRH840」に着け替える

左がZ1000、右がShureの「SRH840」

 Shureの「SRH840」(オープンプライス/実売19,800円程度)は、低価格ながらニュートラルなサウンドが楽しめるモニターとして人気のあるモデルだ。モニターではあるが簡素すぎない、厚みのある音も再生できるため、一般ユーザーも十分活用できる。

 低域はZ1000よりも若干弱く、ZX700と似た傾向。音はニュートラルで、アコースティックベースの響き、シンバルの硬さ、ピアノの優しい響きが重なる場面でも、キチッと描きわけている。

 だが、中低域の解像感を比べるとZ1000よりも甘く、例えばアコースティックベースの弦の描写がくっつき気味になる。また、音場も狭く、頭の周囲に音がわだかまっている印象。ピアノの音の消え際、シンバルの音の伸び具合に注目するとよくわかるが、音と音の合間にある空間が見えにくく、音が“広がっていく様子”がわからない。狭いライヴハウスに押し込められているような音だ。

 ここから、1つの音に注目する。3分過ぎから入る、ドラムのハイハットを叩く“スティックの音”だ。SRH840ではこの音が「カカッ、カカッ」という硬いだけの単調な音で、聴いていても、とりたてて何も感じない。

 「ZX700」に戻すと、音場が広くなり、ピアノの響きが広がる様がよくわかる。そして、スティックの音が“硬い音”に聴こえるだけではなく、ハイハットに当たった衝撃が、“スティック全体に振動として伝わった音”がかすかに聴こえる。つまり、“棒”の音が聴こえてくる。言葉にするのが難しいのだが、音を聞いていると“棒の形”が脳裏に浮かんでくる。

 「Z1000」に変えると、個々の音がより明瞭に描きわけられる。スティックの音は「カカッ、カカッ」という硬いだけの音ではなく、「カコッ、カコッ」という“木の響き”まで聴こえる。ハイハットの「シャンシャン」という高域と、木の棒がぶつかる「カカッ」という音の間に、本来存在する“ココン”という響き成分が描写できるか否かの違いなのだろう。ZX700で頭に浮かんだ“棒”に、Z1000では色や木目が付いて、「ああ、木の棒の音だ」とスッキリする。

 スティックの音だけなら大した問題ではないが、この描写力の違いはヴォーカルやピアノなど、全ての音に関係してくる。聴き慣れた人の声でも違いがわかりやすい。「藤田恵美/camomile Best Audio」から「Best of My Love」で比較すると、Z1000は目の前で本人が歌っているようなリアルさで、伸びる高域の余韻も極めて自然だが、ZX700の音には振動板(PETフィルム)の硬い音がかすかに重なっている。

 ただ、この違いはZ1000とZX700を付け替えて、「そう言われてみれば確かに……」と感じるレベル。ZX700も1万円程度のヘッドフォンとしては付帯音が少なく、十分にナチュラルな音だ。価格差を考えると、むしろ賞賛に値するだろう。



■ 低音を比較する

 次は低音を比べてみる。JAZZのビル・エヴァンストリオ「Waltz for Debby」(Take 2)を再生。'60年代にライヴハウス「ヴィレッジ・ヴァンガード」で収録されたものだが、6分半過ぎにかすかに地下鉄が通過する音が収録されており、それが聴こえるか否かで低域再生能力が判断できる。

 Z1000で再生すると、スコット・ラファロのベースが音圧豊かに描写され、実に心地良い。そして、これだけ低域に迫力があるのに、地下鉄の音がクッキリ聴こえて驚かされる。それも「ヴォヴォ」や「ズズズ」というような、ノイズだけ残ったようないいかげんな描写ではなく、「ゴォー」というしっかりとした電車の騒音だ。

左がZ1000、右がShureの「SRH840」。ハウジングは「SRH840」の方が大きい

 ZX700では、低域がおとなしくなるため、ステージの熱気は減衰するが、ベースのラインはよく見える。ワイン(?)のコルクをひねる「ギュイッチョ、ギュイッチョ」という音も生々しくてドキッとさせられる。問題の地下鉄は、「ズズズーッ」と、振動と言うにはちょっと沈み込みが足りないが、それでも列車が通過したことはわかる。Z1000譲りの豊かな情報量を持っているようだ。

 Shure「SRH840」の低域はZX700と似ており、Z1000と比べると薄い。情報量はZX700の方が豊かで、「ザワザワ」というドラムのブラシの音が細かく、コルクをひねる音もZX700の方が生々しい。地下鉄の音はZX700と同程度だが、ピアノの音にかき消され気味で、注意して聴いていないと聞き逃しそうになる。

 ●ソニー「MDR-CD900ST」と比較

左がZ1000、右が「MDR-CD900ST」。ハウジングの薄さに注目

 ここで、モニターヘッドフォンの先輩となる「MDR-CD900ST」を使ってみる。極めて薄いハウジングからわかるように、ベースの量感は大幅に乏しく、ピアノの響きも減って楽器の音が安っぽくなる。

 だが、その引き換えとしてベースの弦やコルクの音はエッジを立てたように聴きとりやすく、解像度の高さは流石の一言だ。道具としてのモニターヘッドフォンを体現したような音と言えるが、個人的に長時間聴いていたいとあまり思わない音だ。

 地下鉄通過のわかりやすさは、ZX700とSRH840の中間で、薄く、軽い音だが、何かが通過した事はわかる。



■ 高域を比較する

 高域に元気がある楽曲として「放課後ティータイム/Utauyo!!MIRACLE」(けいおん!! オープニング)を再生してみる。ヴォーカルとエレキギター、コーラス、シンセなど色々な高域成分が怒涛のように押し寄せる楽曲で、高域再生能力に余裕がないと、何が何だかわからない音になってしまいがちだ。

 Z1000で再生すると、冒頭のベースラインがゴリゴリと溝深く再生され、その後に続く騒がしい高域にも、個々の音にしっかり陰影がつき、とても聞き分けやすい。音量を上げるとうるさく感じてしまう楽曲だが、Z1000では耳に悪いようなボリュームでも不快に感じず、むしろノリ良く聴けてしまう。高域が無理なく伸び、なおかつ解像度も高い証拠だろう。

 ZX700に変えると、高域の粒が鼓膜に突きささるようなキツさを感じ、慌ててボリュームを下げる。しかし、付帯音の少ないクリアな音ではあるため、音楽の内容はよくわかる。レビュー前に24時間×2日半ほどエージングをしているが、さらにエージングが進めばZ1000の領域に少しは近付けるかもしれない。

 Shure「SRH840」はZX700よりも高域のキツさは感じないが、反面、密閉型の抜けの悪さを若干感じる。ボリュームをあげるとガチャガチャした描写になり、どの音が何の音なのかよくわからなくなる。



■ まとめ

 Z1000の再生能力は、高域から低域までとても高く、音色の色付けの少なさも特筆すべきレベルに達している。モニターヘッドフォンとしての分解能の高さも十分で、MDR-CD900STのように“脂身を削ぎ落した末に実現した高解像度”ではなく、豊かな音の厚みを兼ね備えた上での高解像度を実現している点が好印象だ。MDR-CD900STと比べると高価だが、プロの現場でどのような評価が与えられるか楽しみなモデルでもある。

Z1000
ZX700
 同時に、そのようなバランスだからこそプロ以外のマニアユーザーにも気になる存在になるだろう。音像が近い特徴はあるが、日々の音楽鑑賞でも聴きやすいモデルと言え、解像度・抜けの良さ・低域の再生能力などの面で、同価格帯の海外製オープンエアヘッドフォンと渡り合える音を持っている。密閉型で、ハウジングが薄く、ストレートケーブルであることで、屋外でも使えるというのはオープンエアに対する大きなアドバンテージだ。ただ、ヘッドフォンに5~6万円払うのは、なかなか難しい人がほとんどだろう。

 一方、ZX700は高域の解像度と低域の量感がZ1000より劣るが、ナチュラルな音とバランスの良い再生音を持っており、実質1万円を切る価格を考えると、かなりお買い得なモデルと言える。低価格な密閉型ヘッドフォンは、低音過多で、高域の抜けが悪く、モコモコしたドンシャリサウンドが多いが、ZX700の基本をしっかり守った優等生サウンドは、良い意味で“特徴が無いところが特徴”。それゆえ多くの人にオススメできるモデルと言えるだろう。

 個人的な理想としては、Z1000の振動板(液晶ポリマーフィルム)を採用しつつ、筐体はコストダウンしたZX700を使った、2万円台後半~3万円程度の“中間モデル”の登場にも期待している。



(2010年 10月 14日)