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Mixed Realityにデバイス連携、そしてAI。マイクロソフト次世代戦略の本質

 マイクロソフトの開発者会議「BUILD 2017」が終わった。今回のBUILDほど、面白いが解説に困るイベントも少ない。「これが出た」という万人にわかりやすい内容は少ないが、マイクロソフトの今後、そして我々がIT技術に囲まれて生活していく形を占う上では、非常に重要な示唆に富む発表が多く行われたからだ。

マイクロソフトのサティア・ナデラCEO。今年も、モバイルファーストかつクラウドファーストな戦略をアピールした

 速報としての記事はすでに公開しているが、あらためてBUILD全体を俯瞰し、我々の生活にどのようなインパクトがあるかを改めてまとめてみたい。そこからはもちろん、我々の「オーディオビジュアル生活」に関わる話題も見えてくる。

年末発売の「Windows MR用HMD」は安価で高品質

 さて、まずはわかりやすいところから解説したいと思う。

 今回デバイスとして話題の中心になったのは、Windows Mixed Reality(MR)対応のHMDである。昨年12月、WinHEC Shenzhen 2016でWindows Holographicとして対応HMDともども公開され、その後いくつかの場で限定的なデモは行なわれてきたが、筆者を含め、多くの人が体験できる形での展示はなされてこなかった。今回BUILDでは、実機を体験することができたので、その感想もお伝えしておこう。なお、HMD本体は試すことができたものの、今回初めてお披露目された「Windows Mixed Reality motion controllers」については、体験することができなかった。そのため、HMDだけの話になることをご了承いただきたい。

Windows Mixed Reality motion controllersも発表された。だがこちらは実機展示やデモがなかった。発売は年末を予定

 今回体験できたのはAcer製HMD。どこかのモビルスーツかバーチャロイドを思わせる、青いデザインが目立つ、あのHMDである。

BUILD会場でデモされた、Acer製のWindows MR用HMD。PCとはHDMIおよびUSBケーブルで接続。フロントにはポジショントラッキング用のInside-Out方式のセンサーがある

 スペック的に言えば、1,440×1,440ドット・90Hz駆動の液晶を使ったパネルを2枚使っていて(すなわち2,880×1,440ドット)、視野の画角は95度。これは、解像度でOculus RIFTやHTC Vive(2,160×1,200)に若干勝り、PlayStation VR(1,920×1,080)よりかなり高い。一方リフレッシュレートでは、Oculus/Viveと同等で、PSVR(120Hz)より低い。ハイエンドVRと呼ばれる、スマートフォン向けVRよりも上のゾーンで比較すると、おおむね肩を並べる範囲といって差し支えない。

 だが、VR用HMDにとって重要なのは数字に出ない「体験」であり、ポジショントラッキングを含めた違和感の小ささだ。この点でいえば、Acer製HMDはトップグループに「わずかに及ばないがきわめて満足度が高い」と判断した。

 まず、HMD自体が非常に軽く感じる。バンドで頭に固定するプロセスは、正直PSVRやOculusの方が手軽だと思ったが、着けてしまえば違和感は小さい。重量バランスが良いのか、他よりも軽く感じる。また、HMDの部分を上に「跳ね上げる」ことができて、手軽に周囲を確認できるのは非常に便利だ。

HMDを後ろから。バンドで斜めに頭を締め付けるようなシンプルな構造。HMDはかなり軽く感じた

 トラッキング精度も大きな不満は感じなかった。ごくたまにトラッキング遅れに近い現象があったが、すぐに改善されるので気にはならない。PSVRではカメラの認識範囲から外れると警告がでて、それが意外と頻繁なのが気になったが、Acerのものはそれがない。

 トラッキングの点については、HMDのポジショントラッキングに使っているのが、HMD自体に内蔵されたセンサーによる「Inside-Out方式」である点を加味する必要がある。他のハイエンドVRはセンサーやカメラを部屋に設置し、HMDの位置を把握する方式なので、セットアップがなかなか面倒である。しかしInside-Out方式では外部にセンサーがいらないので、セットアップはかなり簡単になる。具体的には、HDMIとUSBのケーブルを挿すだけだ。今回発表になったハンドコントローラーも、HMDのセンサーをそのままつかって認識されるため、別途外部にセンサーを必要としない。PCとBluetoothで接続した上で、単に手で持てばいい。

 この手軽さはきわめて大きな要素だ。セットアップの手間が減ってユーザーが楽になることも重要だが、ハードウエアセットの内容もシンプルになるため、コストが安くなることも見逃せない。Acer製HMDは、今年の末に399ドルでHMDとコントローラーがセットで売られることになっているが、これはOculus/Viveの半額の水準であり、PSVRよりもさらに下となる。この価格でこの水準のHMDが出てくることは、ライバルにとって大きな脅威であるのは間違いない。詳しくはのちほど解説するが、対応PCも高価なゲーミングPCである必要はなく、ここでもハードルは低い。

 Inside-Out方式のトラッキングについては、同じマイクロソフトのMR製品であるHoloLensでも使われている。Windows MR対応HMDはマイクロソフトが技術を提供した上で開発されているので、安価なAcer製HMDでもHoloLensの延長線上にあるものが使われている……と考えていいだろう。また、HP製のHMDも公開されているが、こちらも価格的にはさほど違わないので、Acer製HMDと似た(もしくはほぼ同じ)センサーを使っているだろう。

 HoloLensのInside-Out方式トラッキングは、少なくとも市販されている機器の中では、ちょっと他にないくらい精度が高い。HoloLensの特別さを担保する要因でもある。ただ、筆者が体験した限りでは、Acer製のそれとHoloLensでは精度に差が見られた。そこはコスト差が反映されていると思われる。

 ちなみにマイクロソフトでは、Windows MR用HMDは「Immersive devices(没入的体験向けデバイス)」と定義されており、HoloLensとは、同じWindows MRでありつつも、いわゆるVRに近く、少し違ったものとされている。そのあたりの体験が、他のVRやHoloLensとどこまでどう違うのかは、よりアプリケーション環境が揃ってくるまでわかりにくい状況ではある。

手前がHoloLensで、奥の3つがWindows MR用の「Immersive device」。左から、Lenovo・HP・Acerのものになる。今回、HPとAcerのものが、アメリカとカナダで開発者向けに受注が開始された

ディスプレイデバイスに液晶を採用、「コンシューマ版」では必須スペックを削減

 表示に関しても、かなり良好だ。解像感は十分に高く、なにより、ドットとドットの間にすき間を感じる「スクリーンドアエフェクト」が非常に小さく、緻密に見えることが美点だ。パネルそのもののスクリーンドアエフェクトが小さいので、映像を拡散させるフィルターなどがいらない。このため、非常にすっきりとした解像感・緻密さの高い映像になっているのも特徴だ。

 これはおそらく、表示デバイスがOLEDではなく液晶であることに起因している。液晶はOLEDに比べ、発光画素の面積が大きくできるからだ。解像度が他のデバイスに比べ高めであるのも、液晶の方がその点で有利であるからである。

 VR向けにOLEDパネルが使われてきたのは、映像を書き換えた際の「キレ」が酔いの回避に重要であったからなのだが、昨今は書き換え速度を重視したVR用液晶も登場しており、それを使っていると思われる。VR用液晶はジャパンディスプレイが製造しているが、他の製造元はまだ少ないはずだ。何処製のパネルかを断言することはできないが、OLEDと液晶の競争の中で生まれた最新デバイスが使われている、と思ってもらえればいい。

 ただ、表示については、すべての面で「最高」ではない。

 VR用HMDでは魚眼レンズを使って映像を視野全体に拡張する必要がある。Acer製HMDでは、その際にフレネルレンズを使っているようだ。フレネルレンズはレンズの厚みを減らすのに効果的な技術で、VR用HMDでは採用例が多い。だが、同心円状に段差を作る関係上、その段差が画質に影響を与える。特にVR用HMDでは、段差に光が当たる「迷光」により、本来は存在しない同心円状の光が映像に混ざることがある。PSVRがフレネルレンズを使っていないのは、この対策である。Acer製HMDではフレネルレンズによる周辺視野の解像感低下と迷光が存在した。

 視野角が狭く感じたのも、マイナス点と言える。他のハイエンド製品が100度から110度であるのに対し、Acer製HMDは95度。スペック表によれば、HP製HMDも同じ95度なので、マイクロソフトから提供された光学設計が同じなのだろう。95度でも視野を覆っている感じは十分にあるが、他のハイエンドVRと比べると、若干の「狭さ」を感じる。

 VR系では、画質と快適さに「マシンのパフォーマンスとチューニング」が大きく関与する。HMDが立派でも、PCの側でスペックが低いと体験が大きく落ちる。PS4がゲーミングPCに比べると低いパフォーマンスでVRを実現しているのは、専用設計によるチューニングの賜物である。

 今回、開発者版のプレオーダーが開始されるのに合わせ、Windows MR用HMDの推奨スペックも公開されている。

推奨スペック:
・CPU:デスクトップ向けCore i7(6以上のCore)、またはAMD Ryzen 7 1700(6 Core/12スレッド)
・メモリー:16GB以上
・ストレージ:10GB以上の空き領域
・グラフィック:NVIDIA GTX 980/1060、AMD Radeon RX 480(2GB)
・端子:HDMIまたはDisplayPort×1基、900mAの電源供給が可能なUSB 3.0 Type-A×1基、Bluetooth 4.0(アクセサリー用)

 このスペックはOculus/Viveで求められるものとあまり変わらない。HMDが手軽さをアピールしているのにこれでは厳しい……という声もある。

 だが、ご安心いただきたい。マイクロソフト関係者によれば、このスペックはあくまで「開発のためのもの」だという。

 現在のWindows 10(Creators Update)環境でも、Windows MR用のシステムである「複合現実ポータル」は実装されているのが、必須スペックを満たしていないとシステムには現れない。それが上記スペックである。

Windows 10(Creators Update適用済み)のPCである一定の条件を満たしていると、コントロールパネル内に「複合現実」という項目が現れる(赤丸)。
Windows MRを使うための「複合現実ポータル」。マイクロソフト社内では「Cliff's House」と呼ばれているワークスペースが表示される

 しかし、秋の「Fall Creators Update」に向け、Windows MRの必須スペックは引き下げられる。目標は「外付けGPU必須とせず、比較的新しい世代のインターナルGPUであれば動作する」こと。すなわち、一般的なノートPCでも動作することを狙っている。

次期Windows 10大型アップデートは「Fall Creators Update」。後述するが、Creators Update以上に様々な変化がもたらされる

 今回試した環境はゲーミングノートPCで動作しており、上記の推奨スペックは十分にクリアしていたと思われる。その状態ではとても快適だった。これが「低スペックへの最適化」でどこまで変わるのか注視しておく必要はある。品質的に、今のハイエンドVRと同じところがカバーできるとは思いづらいが、それでも、スマホVRよりはずっとずっと上の体験になるのは間違いない。

 どちらにしろ、「とりあえずVRが使える」レベルがかなり引き下げられる。他のプラットフォームには脅威だし、消費者とコンテンツ提供者にとっては注目すべき動きであるのは間違いない。

すべてのコアになる「Microsoft Graph」ってなんだ

 個人の生産性に関わる部分において、今回のBUILD2017で話題のコアにいたのが「Microsoft Graph」である。

「え? なんでいまさらグラフ作図ソフトが?」

 いや。そうじゃないのだ。これは、Wordに付属するグラフ作図ツールのことではない。マイクロソフトが2014年に発表した、Microsoft Officeのツール群を横断する、Office 365向けの「ゲートウエイ」とも呼べるものである。人はWordやExcel、PowerPointなどで文書を作り、メールやグループウエア、SNS、メッセンジャーなどでコミュニケーションをする。その履歴や関係性をクラウドサービス側で把握し、活動や人々との関係を可視化してビジネスの円滑化を図る、というのがMicrosoft Graphの狙いである。Microsoft Graphの「Graph」とは、ソーシャルグラフ(人と人の結びつきの関係)の「グラフ」のことなのだ。

マイクロソフトが考えるワークスタイルの模式図のひとつ。こうした関係をつなぐのが「Microsoft Graph」の仕事だ

 Microsoft Graphは2014年3月に「Office Graph」として発表されているのだが、それ以降、主に企業向けのアプリケーションや社内ポータルなどを開発するコア機能として提示されてきた。あくまで黒子のような存在であり、「新機能」として脚光を浴びるようなものではなかったのだ。

 だが今年のBUILDでは、企業向けから個人まで、あらゆるところでMicrosoft Graphが出てきた。もはやマイクロソフトのビジネスは、特定のOSやアプリを売ることではなく「人々が生活するための必要な環境を提示し、その使用量で収益を得る」トランザクション型に近いものに変わっているからだ。そのためには、人々がより行動しやすいように、「こうすべきだ」「こうするとわかりやすい」という形を提示し、スムーズに作業が進むことが重要になる。クラウドにデータが蓄積され、それをAIで解析してすべきことを提示するシステムが必要になるため、その時のゲートウェイになるのがMicrosoft Graph、というわけだ。

「Windows PC Loves All Your Devices」が目指すもの

 以上の説明はちょっと概念的でわかりにくいが、要はこういうことである。

 企業向けのシステムにおいて、今回マイクロソフトは製造業をターゲットにした発表が多かった。製造機材にインテリジェントなIoTを組み込み、その様子と運用データをクラウドで収集・監視した上で、AIが学習して動作の安定や効率化に必要な情報を提示したり、作業環境を映像監視した上で、備品や人員の管理し、事故を防止したりすることに役立てるデモが行われた。特に人が関わる場所では、この背後ではMicrosoft Graphが大きな役割を果たす。企業向け開発者は各種の情報を処理するバックエンドと、その情報をわかりやすく提示されるポータルを作ることが仕事になる。

現在のクラウド連携の形。各機器がインテリジェントになり、それぞれで制御とデータ収集が行われつつ、クラウド側で巨大なデータとなり、よりインテリジェントに働く
1日目の基調講演でデモされた、製造業での活用例。各機器の動作状況がモニタリングされつつ、収集されたデータをマシンラーニングで分析、制御方法を提案する
Outlookでの連携例。Microsoft Graphが裏で動き、SkypeやLinkedInの情報などと連携し、働く人の間でのソーシャルグラフを活用する

 個人向けには、秋に登場する次期大型アップデート「Fall Creators Update」において、Windows PCとiPhone・Androidなどのスマートフォンの連携が大幅に強化されることに注目したい。

 Fall Creators Updateでは、Windows 10に「Timeline」という機能が追加される。この機能は、PCやスマホの上で「自分がやったこと」を自動記録し、デバイスをまたいでも続きがすぐに行なえるようにする……という発想の機能だ。ウェブや使ったアプリの履歴が時系列で並び、すぐに確認できる。オフィスから自宅へPCを移動すると、「前に使ったPCに残してきたもの」をコルタナが提示してくれたりする。音楽を聴きながら、ウェブを参考にPowerPointでプレゼン資料を作っていたのであれば、その作業がワンクリックで「レジューム」できるのである。同じ事はPCでないとできないわけではない。iPhoneに入れたコルタナは、PCで行なっていたことの続きをiPhone上でも提示してくれる。

Fall Creators Updateの目玉機能のひとつ「Timeline」。作業履歴をクラウドに自動保存し、機器の間をまたいで続きができる
PCを移動すると、「前のPCでやっていたこと」をコルタナが提示し、ワンクリックで続きができる
Fall Creators Updateからはコントロールパネルに「Phone」という項目が増える。ここで連携するスマートフォンを登録する
Windows PCからiPhoneへの連携も可能。もちろん、AndroidでもWindows Phoneでもいい

 また、ここで威力を発揮する機能に「Cloud-powered Clipboard」がある。これはその名の通り、クリップボードをクラウド化し、「コピペ」が機器をまたいでできるようにしたものだ。別のWindows PC同士はもちろん、iOS機器へも、Androidへも受け渡せる。Timelineを活用するには、クリップボードの受け渡しが重要になるため、必要な機能である。

機器をまたいでコピペできる「Cloud-powered Clipboard」が登場。もうメールの続きを書くために、その内容を自分にメールする必要はない

 現在もMacとiOS機器の間ではクリップボードがクラウド連携し、MacからiOSへ起動しているアプリの情報や電話の着信などが連携するようになっている。マイクロソフトがFall Creators Updateで行なうことは、それを「デバイスの種類を問わずに」行なう、ということである。

 デモンストレーションを担当した、米マイクロソフト・Operating Systems Group副社長のジョー・ベルフォア氏は、このコンセプトを「Windows PC Loves(実際はハートマーク)All Your Devices」と説明した。「Microsoft Loves」でなく「Windows PC Loves」というところがキモである。マイクロソフト全社的には、以前から「クラウドファースト」「モバイルファースト」が基本であり、どれかのデバイスやOSにこだわる姿勢からは脱却していた。それが本格的に「特定のOS」であるWindowsを搭載したPCそのものも、積極的に「皆がPCだけで生活しているわけではない」ことを意識し、そこを埋める戦略を明確化しているのである。iTunesのWindows版が、今年中にWindows Storeにて配信されることも発表されたが、これも、様々なデバイスとWindowsの間を近づける施策のひとつ、という見方ができる。

米マイクロソフト・Operating Systems Group副社長のジョー・ベルフォア氏。長期休暇から帰還し、久々に壇上に。戻ってきたら髪を金髪に染めていた
機器連携の方向性を「Windows PC Loves All Your Devices」と説明。PC以外にどんなデバイスを使っていても連携する、と打ち出した
ある意味一番のサプライズとなった「iTunes for Windows」のWindows Store対応。アプリの配布先を一元化し、管理を容易にする狙いがある

 こうした機能は、すべてがMicrosoft Graphをベースに組み立てられている。企業向けの機能も、もはやWindows PCだけでできても意味はない。家ではスマートスピーカーで、移動中はスマホと連携した自動車で使い、出社したらもちろんPCで使う。そして、緊急時にはスマートフォンへ通知が来る。

 こうした環境の基本がMicrosoft Graphであり、それを活用するアプリケーション・サービスを作ってもらうことこそ、これからもマイクロソフトが成功するために必要なことなのだ。だからこそ、これまではあまり表に出てこなかったMicrosoft Graphが、すべてのハブでありゲートウェイとして脚光を浴びることになったのである。

Microsoft Graphとデバイス連携の関係。バッグラウンドでゲートウエイとして働くことで、今回発表された多くの機能を実現する

コグニティブ技術と新UIがこれからの基盤に

 そしてさらに、今後の同社の基盤となる技術が3つある。

 ひとつが「コグニティブ(認知)」系技術。画像認識や音声認識などの、いわゆるAIを活用した技術だが、コンピュータと人の仲立ちをし、人の活動をコンピュータが理解して動くためには必須のものである。

マイクロソフトAI部門のトップである、Artificial Intelligence & Research担当上級副社長のハリー・シャム。「マイクロソフトのAIは人の知性を拡張するもの」と定義した

 今回も、作業環境中の設備や人員、トラブルを映像で認識して伝えるシステムや、音声認識から翻訳を行なうマイクロソフト・トランスレータのデモが行われている。また、画像認識を企業側で簡単にカスタマイズし、その企業が求める画像認識の精度を挙げる……という仕組みも公開されている。また個人向けにも、Fall Creators Updateに入る動画編集ソフト「Story Remix」にて、人物認識のために本格的に使われている

会場に作業場をイメージしたセットを作成。そこを画像認識することで、備品や人員の管理を行なうデモを展開した。不審人物の存在や事故につながる問題については、自動的にスマホへ通知される
英語での音声認識の誤答率が5.9%に到達。人間でも平均6%を超えるので、これはひとつのブレイクスルーと言える
マイクロソフト・トランスレーターを使い、スペイン語から英語へ音声を自動翻訳し、PowerPointの上に表示。実はもう日本語でも利用できる
Windows 10 Fall Creators Updateに搭載される「Story Remix」。自動編集系が充実した動画編集ソフトだは、人物認識を本格的に導入しているのがポイント

 カメラやマイクがコンピュータにとっての感覚機器である、ということは間違いなく、コグニティブ系技術と連携することで、その価値はどんどん拡大する。今回の取材出張中も、音声からのテキスト変換や音声からの翻訳といった技術を補助的につかっているのだが、もはや数年前には考えられなかったほど精度が上がっている。機械が人間の意図をある程度正確に把握する、という技術は実用段階に入っており、数年のうちに、今ならSFの中の出来事と思われていたようなことが十分に可能になる。その時の基盤として、マイクロソフトは自社を選んでもらいたいわけだ。そしてその時には、カメラやマイクの品質としては、より高いものが求められるようになる。我々の生活の中にある「カメラ」「マイク」に求められるものが変わっていくのだ。

一日目の基調講演では、Microsoft Graphで連携し、スマートスピーカーからスマホ、自動車の中へと、コルタナで音声連携しながら生活するデモが行なわれた

 残る2つが「Project Rome」と「Microsoft Fluent Design System」だ。前者はWindows・iOS・Androidで同じアプリを効率良く開発するための仕組みであり、デバイス連携やMicrosoft Graph連携を促進するものである。

 後者は新しいUIを記述するための仕組みで、より美しくわかりやすく、デバイスのスクリーンサイズに依存しないUIを作りやすくなる。また、ペンとタッチの操作をうまく統合し、よりペンだけで多彩な操作をしやすくする……という要素も取り込まれる。

マイクロソフトの新デザインフレームワーク「Fluent Design System」。今後のWindowsやマイクロソフト製スマホアプリなどでは、このデザインモチーフが使われていく

 コグニティブ技術も含め、こうした基盤に投資し、開発者向けに提示できることこそ、マイクロソフトという会社のひとつの本質である。そして、今後は「Mixed Reality」の実現についても、同じように積極的な技術支援をしていくことになる。冒頭で紹介した、格安かつ高品質なHMDを投入する理由も、そうした環境の整備にあるのだろう。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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