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西田宗千佳の
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アメリカで人気の「Netflix」とは何か?

米国担当取材と実機デモから見る人気サービスの正体


 今回は、日本からは全く使えないサービスについて、あえてご紹介したいと思う。

 題材は「Netflix」だ。映像配信に興味がある方なら、一度は名前を聞いたことがあると思う。アメリカでは数多くの機器に搭載され、デファクトスタンダードとなっており、9月2日に発表された新「Apple TV」でも、新たにサポートされることとなった。筆者も、海外事情を伝える記事の中で、何度となくNetflixの名をご紹介している。

 では、Netflixとは具体的にどのようなサービスなのだろうか? 今回は、実機でのサービスと、Netflix関係者へのインタビューを通し、その正体に触れてみよう。インタビューにご対応いただいたのは、Netflix コーポレートコミュニケーション担当バイス・プレジデントのSteve Swasey氏である。電話を通じたインタビューであったため、写真がない点をご了承いただきたい。

 インタビュー中にもあるように、日本にこのサービスが参入する予定はない。だが、実に魅力的で、ぜひ利用したいと思う。光回線が普及した日本でこそ、あるべきサービスだと思うからだ。

「映像配信先進国」のアメリカがどうなっているのかを理解するためにも、みなさんにぜひ、現状を知っておいていただきたいと思う。(以下、敬称略)

 


■ DVDとストリーミングの二本立てでビジネスを展開

−まず、Netflixの事業の概要を教えてください。

Swasey氏:(以下敬称略)Netflixは映画をディストリビューションするための会社です。アメリカでは1,500万人の契約者がおり、現時点ではアメリカでのみビジネスを展開しています。ただし、もうすぐ、カナダでの運用を開始します。

 アメリカでのビジネスの方法は2つあります。一つは、テレビやパソコンに対し、ブロードバンドネットワークを使い、ストリーミングで配信する方法であり、もう一つがDVDを郵送で届ける方式です。

 我々は元々、1999年、DVDを郵送で届けるビジネスから会社をスタートしました。ストリーミングに関しては、PC向けが2007年から、他のものは2008年からスタートしています。

アメリカでDVDの郵送に使われる封筒。これが毎日220万枚やりとりされており、「3日分で富士山の高さを超えるほど」だという。

 ここでもう少し、Netflixについて解説を加えておこう。

 Netflixは元々DVDを宅配でレンタルするビジネスで成長した企業。ネットで借りたいDVDを予約しておくと、それが特定の順番で、写真のように、紙の封筒にDVDを入れた形で配達され、見終わったらポストへ入れて返却する、というスタイルである。日本でいえば「ツタヤDISCAS」、「ぽすれん」、「DMM」といったサービスと同じだが、より正確に言えば、日本でのDVD宅配レンタルサービスのほとんどが、Netflixを模範に作られた、といった方が良い。

 料金は、月額8ドル99セントから。ディスクを月に何枚まで借りられるのかで料金が異なり、最大50ドルまでのプランがある。

 だが、ストリーミングでの視聴については、追加料金は発生しない。8.99ドルでの利用者も、どれだけの映画を観ようとも、追加料金を請求されることはない。

−現在、Neiflixはディスクレンタル会員に対して無料でストリーミングサービスを提供していますが、今後もずっと無料で提供可能と考えていますか? それとも、PPVのような有料のプレミアサービスの導入も検討するのでしょうか?

Swasey:ストリーミングは「無料」ではありません。ディスクレンタルとストリーミングの両方をあわせ、現在の利用価格なのです。

 ストリーミングの利用者が増えると、DVDを郵送で受け取る必要がある人々が減ります。我々にとっては、郵送のコストが減ることになるわけです。

 2010年、Netflixは600万ドルを郵送費用として、アメリカ合衆国郵便公社(USPS)に支払っています。これが減っていけば、そのコストをもっとコンテンツを入手したり、ストリーミングビジネスに利用したりできるようになるのです。

 現状では、Netflixはサブスクリプション型のサービスのみを提供しています。他のモデルは採っていません。人々は、このシンプルなモデルをハッピーだと感じています。

 この秋に、カナダではストリーミングのみでビジネスをスタートします。これが、我々にとってはじめての「ストリーミングのみ」のプランになります。これを注意深く見守って評価し、もっと多くの国にストリーミングを展開したり、他にストリーミングのみのプランを考える参考としたいと考えています。

 


■ ゲーム機での利用が中心、だが「低価格STB」も人気

−現状で利用可能な機器はどうなっていますか?

Swasey:250以上のコンシューマ機器に接続機能が搭載され、その中には、Wii、Xbox 360、PlayStation 3、パナソニック、ソニー、東芝、サムスン、LGのBlu-ray Discプレーヤーが含まれています。そして、アップルのiPad、iPhone、iPod touchでも利用可能ですし、先日発表されたApple TVにも対応します。

 他にもいろんなデバイスがありますよ。ご存じないかもしれませんが、こちらでは「Roku」というSTBが売られています。

 このように、おそらく皆さんの家庭にある多くの機器が、すでにNetflixに対応しており、簡単にストリーミングで映像を楽しめる環境が整っているわけです。

−利用率は?

Swasey:おおむね60%以上の契約者がストリーミングに登録しています。900万契約というところでしょうか。テレビ向けのストリーミングは2008年にはじまったばかりなのですが、これだけの数になっています。

 利用者拡大の牽引力となっているのが、ゲームコンソールからのストリーミング利用です。Wiiは非常に巨大なインストールベースを持っていますし、PS3、Xbox 360も同様です。

−一番多いのはビデオゲーム?

Swasey:その通りです。ただ、どのくらいの割合であるかは公開できません。

 とはいえ、それらの利用は「排他」ではないのです。1人のユーザーが、ある日はゲームコンソールで、別の時はiPadで、またある日はBDプレーヤーで、といったように、複数のデバイスをMixして利用しているのです。

 Netflixの美点をご説明しましょう。ある日、PS3やXbox 360で映像をストリームで見て、途中で止めたとします。また別のデバイス、iPadから視聴した時には、その「途中」から見ることができるのです。他のデバイスでも同様です。

−すなわち、Netflixにとっては、どのデバイスで見るかは重要なことではなく、「どのデバイスでも見られる」ことが重要、ということですね? すなわち、どのデバイスも等価である、と。

Swasey:はい。単語でいえば「ユビキタス」ということになります。Netflixとしては、どのスクリーンであっても、あなたが見たいと思う時に、見たいと思うデバイスで映画やテレビショーを見られるようにする、ということが目的です。

 この2年間にやってきたことは、いくつもの大画面テレビ、例えばVIZIOやソニーのBRAVIA、その他のネット接続機能を持ったテレビや、ゲームコンソールへとサポートを広げていくことでした。究極的には、ありとあらゆるデバイスにNetflixへの接続機能を提供できれば、と考えています。Netflixのロゴさえクリックすれば、映画やテレビショーが見られる、というようにです。

 


■ 「十字ボタン+決定」で使うシンプルなUI。クラウドを活用し「止まらない」「どこでも見られる」を実現

 では具体的に、どのような感じでNetflixでのストリーミングが利用されるのだろうか?

 インタビュー中にあるように、もっともポピュラーなものはゲーム機を介した利用だ。WiiとPS3に関しては専用のクライアントが入ったディスクが無償で提供されるため、それを使って利用する。Xbox 360については、アメリカ市場向けのシステムソフトウエアに機能が組みこまれているため、ディスクを入れることなく利用できる。PS3に関しても今後、同様にシステムソフトウエアへの組み込みができないか交渉中だという。

WiiやPS3向けのクライアントは、このようにディスクに入れて届けられる。日本でもDMMがPS3向けに似た形態でビジネスをしている PS3向けのNetflixクライアント画面。操作はシンプルに「カーソルと決定」くらいしか使わない

 ストリーミングでの映像配信なので、映像は当然、すべて「ストリーミング」で配信される。使い方は驚くほど単純だ。観たい映画を検索などで見つけて、「Instant Queue」と呼ばれる「見たい映画リスト」に追加する。後は、そこから、見たい映画を選べばOKだ。映画はすべてがHD、というわけではなく、SDで用意されているものもある。

Instant Queueに映像をチェックしていき、そこから見たいものを選ぶのが基本。見放題のサービスなので、いくら登録してもかまわない 再生時には「Play」を選ぶだけ。監督や概要などの情報も提供される

 ビットレートは、一般的なNetflix対応家電向けにはSDが500kbps、800kbps、1.3Mbpsの3つ、HDが720pで2.5Mbps、3.6Mbpsの2つの合計5つが用意されているが、ユーザーがそれを認識することはない。再生時に回線の速度がチェックされ、最初は低ビットレートで送信されたものが、余裕を見てどんどんと高ビットレートへと変更されていく。逆に回線が安定しない場合には、ビットレートが下がっていく。データは内部的にはWMVで用意されているようだが、今後はWMVに加え、別の形式も追加していくことも検討されているようだ。

最初の再生時は、このような表示が出る。要は「バッファリング」待ち。ここでHDと出るとHD版が、表示がなければSD版が表示される

 最初の再生までには数十秒の時間がかかる。だが、その後はほとんど途切れることがない。ビットレートを複数用意し、回線事情に応じて変更させているのも、簡単さを追求するがゆえだ。途中で映像が止まっては映画鑑賞の興を削ぐ。多少画質が落ちても、止まることだけはないように、との考え方なのだ。

 この裏には、アメリカのブロードバンド回線が日本ほど高速でない、という事情もある。2〜3Mbps出ていれば一般的、という、日本でいえば5年から6年前の状況に近い。そのため、あまり高ビットレートに設定しても再生が止まるだけなので、あえて表にはビットレートを出さない、という形になっているようだ。

 そのため、画質は必ずしも良くない。特に、低ビットレートでの映像はちょっと苦しい。しかし、SDの最高ビットレートとHDに関しては、日本人の観賞にも堪えうるモノだと感じた。

 再生時には、早送りや巻き戻しといった「トリックプレイ」もできる。実は、映像を10秒単位でスキャンしたJPEG画像がサーバーサイドに用意されていて、それをサムネイルとして早送り先を見つける形。シンプルだが使い勝手は悪くない。インタビュー中にも示されているように、Instant Queueに登録した映像の種類はもちろん、映像の再生位置もすべてサーバー側に記録されているので、再生端末が変わっても、同じアカウントでアクセスするならば、続きがすぐに見られる。

「Roku」での操作画面。再生までのバッファ待ちは、編集によって10秒ほどカットしてある。ジャケットで選ぶリッチな操作画面と、早送り用のサムネイル表示に注目

 特に面白いのは、映像を見つけるための機能が充実していることだ。映画の出来にはレーティングがつけられて、ユーザーの間の評価も分かるが、それだけでなく、「以前見た映画によく似た映画」などをリストアップできるようにもなっている。

Instant Queueでのレーティング画面。これを参考に映画を観るかどうかを決められる

 これらのユーザーインターフェイスは、基本的にすべてサーバーサイドで生成されている。そのため、機能アップや操作性の向上にあわせ、日々細かく変更がされている。また、デバイスによっても操作性は異なる。

 映像は、小型のNetflix対応STB「Roku」のもの。Rokuは、69ドル99セントから購入できる製品で、小型でとてもシンプルな機器。リモコンも十字ボタンと決定ボタンくらい、というシンプルなものだ。だが、ジャケットを表示して映画を選んで観る、というシンプルながらリッチで高速なユーザーインターフェースが実現されていて、実に快適に映像が視聴できた。

デモに利用した、Netflix専用低価格STB「Roku」。最も安価なSDモデルで69.99ドル、無線LAN内蔵・HD対応の高級モデルでも99.99ドルだ。サイズも手のひら程度しかない Rokuのリモコン。とてもシンプルで、誰にでも使えそうだ

 このようなUIは、アップルが新Apple TVで再現するもの、としてデモされていたものに似ている。日本ではNetflixがあまり知られていないため、「Apple TVはとても画期的なものだ」という評価が多かったが、筆者にはそうは思えなかった。もちろん、アップルならではのクオリティの高さには期待するものがあるが、「100ドル以下の小型機器をテレビにつなぐと、ストリーミングで安価に映画が見放題」という環境は、すでにアメリカでは当たり前のものなのである。 


■ 今後はSDKでの対応を検討、Android向けアプリも検討中

−それぞれのデバイスに対して、接続用のソフトウエアを提供するのは大変ではありませんか? ソフトをNetflix側が提供するのか、機器メーカー側が提供するのか、どちらになるのですか? SDKなどの提供はどうなっていますか?

Swasey:非常にいい質問です。究極的には、我々からSDKを提供し、家電メーカーがそれに従って実装する、という形をとるようにしたいと考えています。現在そういった形をはじめたばかりです。

 この2年間は、Netflixといくつかのパートナー企業、例えばソニーやサンヨー、サムスンにLG電子などに対し、我々のエンジニアがソフトウエアを組みこむ形でデバイスに組みこんで提供してきました。

 しかし、そういった形はとても高価なのです。そのため究極的には、SDKを提供して、1つのシンプルなプロセスで開発が行なえるようにしたいと考えているのです。

−アップルの機器に対するNeflixの実装は、アップル側から持ちかけられたものですか? それとも、Netflix側からアプローチしたものですか?

Swasey:この話の美点は、2つのシリコンバレーの企業が、とても似ていたということなんです。とてもイノベーティブで、人々が製品を愛しており……。

 公式に、どのような話し合いがもたれたかをお話することはできません。しかし、一つだけ言えることがあります。

 iPad向けのアプリケーションを、Netflixのエンジニアは60日以内に完成させました。iPad向けの仕事について、アップルと共同で行なう機会を得たことになるわけですが、これはすばらしい仕事でした。4月2日には、iPad向けアプリケーションをローンチしています。すぐにiPhoneおよびiPod touch向けアプリケーションの開発にとりかかりました。そして現在は、先日発表されたApple TV向けに取りかかっています。

 コンシューマにとってはすばらしいことです。コンシューマはアップルが好きですし、Netflixも好きです。

−映像配信の権利について。権利の取得については、なにか苦労はありますか?

Swasey:トレンドとしては、「もっとたくさんのコンテンツを」ということになります。もっともっと早くコンテンツの権利を得ることを狙っています。この2年間に、我々は多くのメジャースタジオおよび小規模プロダクションと、ペイ・パー・ビューチャンネルに関する契約を行ないました。我々は今後も、コンテンツをすぐにみられるように、契約を行なっていきます。

 傾向としては良い方向にあると思っています。Netflixは非常に価値ある配信チャンネルとなりつつあるので、コンテンツの権利を持っている人々にとっても価値あるものだと考えます。

−アメリカおよびカナダ以外への進出をどう考えていますか?

Swasey:現在は、カナダでの展開がどうなるかを見守ろうと思っています。現状では明確なプランはありません。

−現在iPhoneやiPadへはサービスを提供していますが、他のモバイルデバイスについてはどうですか? スマートフォンや、一般的な携帯電話などですが。

Swasey:今年の段階では、我々は「大きなスクリーン」での視聴にフォーカスしています。リビングにあるワイドスクリーンのテレビなどですね。アップルと協業の機会を得ましたが。我々のCEOであるReed Hastingsは、1月に、出資者に対して「現状は、モバイルデバイスへの計画をもっていない」と語っています。

 現在、iPhoneやiPadなどが登場したことで、我々の方向性は変わりました。現在もまだ「大きなスクリーン」に注力しているのは間違いないのですが、すべてのAndroidユーザーはとてもNetflixと親和性が高いと考えています。今はiPhoneのみで、Android向けは存在しませんが。どちらにしろ我々の究極的な目標は、「すべてのデバイス」に広げていくことです。

(2010年 9月 17日)


= 西田宗千佳 =  1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、PCfan、DIME、日経トレンディなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。近著に、「iPad VS. キンドル日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏」(エンターブレイン)、「iPhone仕事術!ビジネスで役立つ74の方法」(朝日新聞出版)、「クラウドの象徴 セールスフォース」(インプレスジャパン)、「美学vs.実利『チーム久夛良木』対任天堂の総力戦15年史」(講談社)などがある。

[Reported by 西田宗千佳]