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西田宗千佳の
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Sony Tabletで狙うものはなにか?

鈴木事業本部長インタビュー&試作機ハンズオン


Sony TabletのS1(左)とS2(右)

 4月26日、ソニーは噂されてきたタブレット端末「Sony Tablet」の存在を公開した。同日、ソニー業務執行役員 SVP 兼 コンスーマープロダクツ&サービスグループ デピュティプレジデント兼VAIO&Mobile事業本部長の鈴木国正氏を囲んで開かれたラウンドテーブル取材より、Sony Tabletの概要と同社の狙いを探った。

 なお、Sony Tabletこと「S1」「S2」の概要と、会見での発表内容の詳細については、事前に別記事をご参照いただけると幸いである。




■重さも動きも驚くほど「軽い」! 工夫でタブレットに「ソニーらしさ」

 

手に持ったところ。左がS1、右が2Sだ
 最初に、ラウンドテーブルで短時間ながら触れることができた「S1」、「S2」試作機のインプレッションからお届けしよう。試作機の写真や動画の接写は禁止されていたため、文章による表現となることをご了承いただきたい。

 第一印象は「軽い!」ということだ。特に、最初に触れた「S1」の軽さは圧倒的だ。ディスプレイサイズは9.4インチ(1,280×800ドット、縦横比16:9)だから、他のタブレット型端末に比べ一回り小さい程度である。だが、手に持ってみた印象は大きく異なる。


 

9.4型ディスプレイ搭載のS1 横から見たところ。厚さに違いがあるところに注目 背面

 軽く「感じる」秘密は、鈴木氏が「偏重心構造」と呼ぶ、片側が厚くなった形状にありそうだ。持ちやすさを考え、S1を持つ時は自然と「厚い」方を手にする。そうして持ち上げると、重心は厚い側に偏ることになり、反対側(薄い側)の加重を感じにくくなるため、とても軽く感じるわけだ。実際の重量が公開されていないので断言はできないが、多少なりとも軽いのは間違いないとはいえ、おそらく他機種に比べ「劇的に軽い」わけではないだろう。

 

偏重心構造により、手にした際に“重い”という印象を受けにくくなっている

 S2は、2つに折りたためるという特性から、軽さよりも小ささを感じる。5.5インチ/1,024×480ドットのパネルを2つ繋いだ構造なのだが、折りたたむと「太めのリモコン」といった印象のものに変わる。その際の横幅はシャツの胸ポケットくらいだろうか。背面が丸く、見た目はコロっとした印象だが、開いて使うと意外なほど「タブレット」的な印象になる。

 

5.5型ディスプレイを2つ搭載するS2 折りたたんだところ 手にしたところ

 軽いのは重量だけではない。動作もかなり軽い。メモリーやクロック周波数が公開されていないので、あくまで「印象」レベルと捉えていただきたいが、同じ「Tegra 2」をプロセッサーに使い、OSに「Android 3.0」を使っているタブレット型端末の中でも、動作のなめらかさはトップクラスだと感じた。この点はS2も同様で、ピンチイン・アウト動作も快適だった。

 特に効果的だと感じたのは、Webブラウザの動作速度だ。「swift web access technology」と同社が呼ぶ技術をオンにしたS1と、そうでないS1でのウェブ表示を比べてみると、ページが表示されるまでの体感速度がかなり異なっているのがみてとれた。

 ここで重要なのは、実際に「すべてのコンテンツを表示し終わるまでの速度」は差がない、ということだ。Sony Tabletの企画開発を担当する、VAIO&Mobile事業本部 企画戦略部門 企画2部 統括部長の石井眞氏は、その秘密を「プロトコルレベルで手を入れて、多くの人が重要視するところから表示するようにしているため」と解説する。例えば、本文は先に、GIF広告などは後で表示されるため、まず本文を読みながら、ページがすべて表示し終わる前にリンクを飛んで次のページへ行く……といった使い方ができる。「特に(3Gのように)回線速度が安定せず、遅い時に効果的」と石井氏は話す。またS2へのこだわりについても「広げた時はふつうのタブレットのように感じられることを狙った。横1,024ドットのパネルにこだわったのはそのため」と説明している。



■サブブランドはつけず、徹底的な「体験重視」

 今回の製品は、「VAIO Tablet」でもなく「BRAVIA Tablet」でもない。S1・S2という名称は正式な製品名、というわけではないが、ブランドネームは「Sony Tablet」になる模様だという。ここには、同社がこの製品にかける狙いが込められている。

S2を手にした、業務執行役員 SVP 兼 コンスーマープロダクツ&サービスグループ デピュティプレジデント兼VAIO&Mobile事業本部長の鈴木国正氏

鈴木氏(以下敬称略):象徴的な意味合いを込めて、この製品にはあえて「サブブランド」をつけません。

 タブレットは、ハードだけでなく、ソフトもサービスも重要であり、ソニーの持っている資産を活かせる「象徴的な商品」、ソニーらしさを表現しやすいのがタブレットだ、と考えています。

 ソニーは2年以上前からこの市場を狙い、タブレット機器の開発を続けてきたという。だがその経緯を聞くと、いかにも「これまでのソニー」を思わせる部分と、「これからのソニー」を思わせる部分が見えてくる。

鈴木:たとえば、ハードウエアの作り込みの積み重ねだけが重要なのではなく、ハードウエアの上で動くアプリや、顧客から見た時の使い勝手がむしろ先にある商品です。開発のあり方も、いままでとはまったく違う考え方で取り組みました。

 まず「ユーザーになにをしてもらいたいのか」、「ユーザーがなにをしているのか」を、現場の設計部隊が議論をしながら進めるスタイルです。設計の優先順位を変える意気込み、モチベーションをもってがんばっています。

 ソニーは、S1・S2を魅力ある製品にするために、以下の4つの柱による「Uniquely Sony」(ソニーならでは)という要素を盛り込むことを目標としている。

  • 最適化されたハードウエアデザイン&ソフトウエア
  • ネットワークエンターテインメント
  • 様々な機器との連携
  • サクサク テクノロジー

 やはり気になるのは4つめだろう。英文では「Swift & Smooth Performance」とされているが、日本語では「サクサク」が合い言葉だという。S1・S2試作機で感じた動作速度は、まさにこの点を象徴するものといえる。設計担当・石井氏は、開発の「狙い」を次のように話す。

石井:鈴木から指定されているミッションは、「顧客体験が最初。スペックシートではなく体験で勝つ」ということ。ちょっと今までとは違ったアプローチです。そのためにハードとソフトが一体となった体験が必要ですので、そのために必要なチームを作り、開発を進めています。

 開発の主軸となっているのは、石井氏が所属し、鈴木氏が統括する「VAIO & Mobile 事業本部」になる。では、単純にこれまでVAIOを開発していた部隊がスライドして開発しているのか、というと、そういうわけではないようだ。そもそもSony Tabletの開発が、ソニー社内を精査した上で生まれたもの、というイメージが強いからである。

鈴木:実は、ざっくりいうと、みなさんが思う「タブレットのようなもの」のプロジェクトが、社内に3つくらいありました。それをある意味で集約し、最終的に「S1」と「S2」というハードの形にしていった、とお考えください。ですから、社内の様々な部隊が集まった「混成チーム」です。ネットワーク系に強い人々がいれば、IT系を中心にやってきた人もいるし、通信を長年やっていた人もいる。サービスに強い人もいる、といった具合です。

 そこで、Tabletとして「2つのハードウエア」を用意した理由はなんだろう? 現状、タブレット端末の市場はまだ大きくない。比較的コンサバな「S1」だけでなく、「S2」も準備をすすめている理由はなんなのだろう?

可搬性の高さと大画面の両立を目指すS2
鈴木:S1は形状的にも使い勝手的にも想像がつくものだと思います。ですが我々としては、9インチ・10インチ・11インチといったサイズ感は「重い」。気にされないお客様は多いでしょうが、我々としてはこれだけでは、と感じます。スマートフォンとの中間領域といいますか、ポケットやバッグに簡単に入りつつ、大画面としても二画面としても使える。そういうUIを提供できないか、と考えたのです。そういうユーザー・エクスペリエンスが期待できると思います。

 

 ただ、開発工数的には、まったくおっしゃる通り。単純に経営的にいえば1機種の方が有利です。なにも悩まず2機種に決めたわけではありません。

 しかし、LSIに「Tegra2」、OSに「Honeycomb」(Android 3.0)という形でプラットフォームを共通化することで、作り込みとしては1チームにきわめて近い形でやっています。2つにみえますが、工数は2倍ではありません。

 石井氏によれば、S1・S2のハード開発は「発売する秋から逆算しても1年くらい」で行なわれており、それなりに速いペースで進んでいるようだ。他方、「本当に秋で勝算はあるのか」という疑問も出てくる。その点はまた改めて触れるとしよう。



■日本でも「Muisic Unlimited」をスタート?! “常に進化”を念頭に

 タブレット端末は、単純にPC的なことをするデバイスではない。Web閲覧やメールは基本としても、それ以外の部分では「今PCにできること」をそのままさせても満足度は低く、別のことに向いたデバイスといえる。実際ソニーも、Sony TabletによってPC事業を食うのではなく、PC事業はPC事業で進めつつ、新ジャンルとして展開する方向性を明確にしている。ただし、PC事業については今後の成長軸を新興市場においており、タブレットが先進国向け、という位置づけはあるようだが。

 そこで注目される「PCと違う部分」が、コンテンツの消費だ。映像や音楽、ゲームといったコンテンツを気軽に扱うには、PCよりタブレットが向いている。iPadもそこで成功している。ソニーは海外で「Music Unlimited」やQriocityブランドでのビデオ・オン・デマンドといったコンテンツサービスをすでに展開中であり、プレイステーション・プラットフォーム用ゲームタイトルをAndroid上でプレイする「PlayStation Suite」も、Sony Tablet上でのサービスが明言されている。電子書籍サービスである「Sony Reader Store」も展開予定。これらを武器に、ソニーがアップルに対する対抗軸を用意しようとしているのは明白だ。

 

Qriocityの動画選択画面 S1で動画を再生したところ S2の動画再生では、下部のディスプレイをコントロールパネルとして使える

 

PlayStation Suiteで、初代プレイステーションのゲームも楽しめる。左がS1、右がS2だ

 だが、ここで気になる点がある。

 日本で、これらのサービスは問題なくスタートできるのだろうか? 特に音楽と映像はハードルが高い気もする。

鈴木:日本ではちょうど(それらネットワークサービスを)開発中で、なんともいえない部分があります。しかし基本的には、なるべくすべてを用意する形でストーリーを組み立てています。

 他方、発売日から100%なにもかも用意してスタートしなければならない、という考え方ではありません。ネットワーク社会は常に進化を続けるものですから「100」がない、とも言えます。

 理想が100だとして、まずは80でもいいから出す。それでもいいと思います。そしてどんどん進化させていく。仮に半年後に進化して100になっても、それで終わりではなく、120へと進化していくわけです。

 

S2で電子書籍を表示
 なお、これらソニーのコンテンツサービスは、決して「ソニーの端末だけに閉じるつもりはない」という。いつからどのような形で、という明言は今回もなかったが、方針としては、各サービスは他社の端末上でも利用できる形で公開する予定がある。例えば電子書籍サービスも、日本ではまだはっきりした動きがないが、海外ではソニーのAndroid端末以外にも公開されている。

 「まずはソニー端末から。その後他社にも広げ、ソニー端末上では一番快適に使える」形を狙っているようだ。

 他方「進化」という点で気になるのは、ソニー独自の点よりむしろ「Androidとしての進化」である。

 S1・S2は、ソニーならではのカスタマイズが行なわれた部分が相当にある。カスタマイズを行なうということは、OSに近い部分に手を入れているということにもなり、OSのアップデートに支障を来すのでは……とも思える。事実ソニーエリクソンは、昨年発売したXperia X10(SO-01B)にて、Androidのアップデートに苦しんだ経験を持つ。特にアーリーアダプター層の場合、独自の作り込みよりも自由度が高くてアップデートが素早い「素うどん」のような端末を好む傾向もある。

鈴木:私の認識では、あるバージョンのAndroidが公開されてから1年経っても、そのバージョンを使った製品が出ているのが現状です。3.0が公開されたのが2月。そこから(Sony Tablet発売まで)の数カ月は、大きな問題ではないと認識しています。他方で、OSアップデートの遅れにアレルギー的なものを感じる顧客の層があるのは認識しています。なるべく新しいものにキャッチアップしていくよう開発をすすめています。

 今回の会見にアンディ(グーグルのAndroid事業総責任者のアンディ・ルービン氏)が来たのは、そのくらい密接な関係でやっている、ということでもあります。(両社の)コンビネーションとしては最短のものです。



■急いで「出すだけ」でなく「差別化」を重視

 やはり最後に気になるのは、商品化が「秋」という点だ。アップルやモトローラなどのライバルは春に製品を投入、他社も秋までに続々と製品を出していくことだろう。その中で「半年」の時間をかけることの勝算はなんだろう?

ライバル製品との差別化を重視していると語る鈴木氏

鈴木:なにもしないでOSだけを入れた製品を出すならば、この時期に発売することもできました。しかし我々は、「4つの柱」を持った「Uniquely Sony」といえる商品を出すことを選択しました。最適化していくと数カ月の遅れはやむを得ません。しかし、柱が揃えば競争力があるものが出せる、と確信したからこそ決断したのです。

 特にアメリカ市場において、アップルに強さがあることは認めざるを得ません。その上で、まずはアンディを象徴としたAndroid陣営として、アップルに対して対抗軸を作ろう、というのが今の動きです。

 しかし、もう、電機業界内での「A社対B社」の時代ではありません。アップルとグーグルという力の強い2陣営の中で、同じOSを使って製品を作る限りは、少なくとも優位な顧客体験をつくって、圧倒的に強い製品を用意することが必要です。

 目標の数値化は難しいです。しかし開発チームに対しては「まずはAndroidの中で一番になろう」と明確に言っています。

 またもう一つ、「今」発表したことには意味があるようだ。

鈴木:今日デモでお見せしたのは、あくまで「我々の考える」ものですが、今後デベロッパーの方々にお見せすると、もっといろんなものが出てくるでしょう。

 もういまや、一つの商品を、我々の作ったハードやソフトだけでどうこう言う時代ではないと思うのです。

 いろんな方々が作ったコンテンツが降ってきて、魅力を増すはず。そのためには、SDKを用意した上で、3カ月から4カ月は必要。発売まで1カ月、では厳しい。秋に発売するものを今発表するには、そういった意味合いも込められています。

 すでに他社にも2画面をやられているところはあると思いますが、我々がこういった形でやることで広げていける部分はある、と考えています。

 このあたりの考え方は、ゲーム機ビジネスに近い。「プラットフォーム」を切り口にするならば、当然のことでもある。

 ソニーとしても、S1・S2を「できるだけ早く出したい」のは事実だろう。その中で、単純な製品の速度よりも「クオリティ」、「体験」を重視したい、というのは頷ける話だ。短時間の試用で結論を下すことはしないが、少なくとも試用機の操作感からは、ソニーが目指す「サクサク」の姿がなんとなく見えてくる。

(2011年 4月 27日)


= 西田宗千佳 =  1971 年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、PCfan、DIME、日経トレンディなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。近著に、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「メイドインジャパンとiPad、どこが違う?世界で勝てるデジタル家電」(朝日新聞出版)、「知らないとヤバイ!クラウドとプラットフォームでいま何が起きているのか?」(徳間書店、神尾寿氏との共著)、「美学vs.実利『チーム久夛良木』対任天堂の総力戦15年史」(講談社)などがある。

[Reported by 西田宗千佳]