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東芝「REGZA Z8X」開発陣に聞く、「本格的4K時代」

4Kだから差が出る画質。地デジを高画質化の秘密

左から商品企画担当の本村氏、画質担当の永井氏、TV映像マイスターの住吉氏、映像エンジンを担当した山内氏

 今年に入り、テレビの世界は「4K」へと移行を始めている。とはいえ、まだまだ市場の勃興期。4Kネイティブのコンテンツがないことなどを理由に、「4Kには興味がない」と思っている人も多いのではないだろうか。

 では、市場立ち上げを試みるメーカー側は、4Kをどのように広げていこうとしているのだろうか。そして、今年向けの4K製品が販売されてみて、どのような手応えを感じているのだろうか?

 今回から2回に分けて、4Kテレビについて、メーカーが考える現状をお伝えする。第一回は東芝。東芝はすでに2年前から4Kテレビを販売しているが、今年からはより広い普及を目指している。顧客層・画質に対する考え方・商品性などを改めて聞いた。

 今回ご対応いただいたのは、株式会社東芝・デジタルプロダクツ&サービス社ビジュアルソリューション事業部 VS第一部 商品企画担当 参事の本村裕史氏、画像エンジン開発を担当したプラットフォーム&ソリューション開発センター オーディオ&ビジュアル技術開発部 第三担当 グループ長の山内日美生氏、画質調整技術を担当した、同設計第二部 第三担当 参事の永井賢一氏と、東芝デジタルメディアエンジニアリング株式会社・デジタルメディアグループ デジタル映像商品技術担当 TV映像マイスターの住吉肇氏だ(以下敬称略)。

売れ行きは第一世代の10倍! 84型も好調

 現在東芝が主力とする4Kテレビは、「REGZA Z8X」シリーズ。Zの型番でおわかりのように、同社の主力製品の中でも最上位モデル、という位置付けだ。2011年以降販売されてきた4Kモデルは「X」シリーズであり、ある意味特別なモデルであったが、Z8Xは違う。そのため同社はずっと、「4Kは次世代テレビではない」、「大型になると4Kである価値が出てくる」という言い方をしてきた。本連載でも、そうした同社の主張をお伝えしている。

 発売から1カ月以上が経過した今も、その考え方は変わっていない。

東芝・デジタルプロダクツ&サービス社ビジュアルソリューション事業部 VS第一部 商品企画担当 参事 本村裕史氏

本村:今テレビを買い換えるお客様は、もうブラウン管からじゃなくて薄型から薄型へのお客様です。一回薄型テレビを買ったお客様は、「もっと大きいものを買えば良かった」と思っている。2006年から2007年頃に42型のプラズマなどをお買いになった方々です。そういう方々は、「いいものはいい」と分かれば、価値が分かれば対価をお支払いいただける。それに、テレビは20万円を越えると「せっかくならいいものを」という意識が強くなります。そこで、50型を越えるともう2Kでは荒い。だからこそ、急に4Kがメジャーになってくるのだと考えています。

 大画面ニーズの高まりの中での高画質が欲しかったからこその4Kですし、そのためにも新エンジンが必要だった。あちこちの販売店の方々にもそういう話をさせていただき、「やっと4Kをどう伝えればいいか、理解できた」というコメントをいただいています。

 その結果は数字に出ている。

 2011年から販売してきた4K製品、「X3」や「XS5」は、価格も高く特別な位置付けだった。それに対し、Z8Xの売れ行きはいい。

本村:Z8Xは、X3やXS5シリーズの発売開始1カ月半の実績に比べ、10倍以上の売れ行きを示しています。決して特別なテレビじゃないんですが、「現時点で最高画質のパフォーマンスを提供できる大画面テレビ」というご認識はいただけていると考えます。

 お客様には2つのタイプがいらっしゃいます。まず、4Kという意識をあまり持たずに店頭に来られて、「きれいな大画面テレビ」ということでご購入されるお客様。

 そして、半年言い続けた効果もあって、「大画面なら4Kじゃないとキレイじゃないんですよね」という認識でいらっしゃるお客様。次世代のテレビじゃなくて、大画面で高画質、ということを理解していらっしゃるお客様もだいぶ増えています。

 ですから、この二乗の効果は、現在の好調に繋がっているのではないか、と分析しています。

 サイズアップ戦略として、東芝のやり方でプラスに働いているのは「ナローベゼルデザイン」だ。

本村:ベゼルを細くして、すべてが画面、画面以外の要素を排除するというコンセプトは、お客様にすごく受け入れられています。ここは本当に大きい。お客様は大画面テレビが欲しい。その時に心配なのは「置けるか」「邪魔にならないか」。画面だけなので入るだろう、と考えていただける点がプラスに働いています。

 それだけじゃなくて、我々は、84型も含め、搬入方法にすごく気をつかっています。今後もナローベゼルは変える予定がありません。そのくらい手応えを感じています。

 もう一つ重要だったのは、「4Kはもう1社じゃない」とうことだ。

本村:4Kという言葉もだいぶ浸透してきました。東芝1社がやっていた時と違って、複数のメーカーがあって、お客様が比べて選べると思っていただけている効果もあると思います。それがいい流れに繋がっていると思いますね。

 やっぱり「一人旅」は結構つらいですよ。

REGZA Z8Xシリーズ。58/84/65型の3モデル

 現状東芝は、84/65/58の3モデルを用意している。84型は価格的にもサイズ的にもちょっと位置付けが異なる。高いとはいえ、58型、65型はまだ手を出しやすいが、84型は実売価格も170万円近い。東芝としても65型以下を主軸とおいている。

 だがどうやら、84型がかなり好調であるようだ。もちろん数は限られているが、想定以上に出荷されている。

本村:84インチは相当なフラッグシップと位置づけていて、「こんなおっきいテレビが世の中にあるのか」「4Kならここまで大きくても大丈夫ですよ」という位置付けでした。正直そういうトーンだと思ってたんです。一番数が出るのは58型だと思ってましたし、事実そうです。しかし、84型もかなり出ているんですよね。これはうれしい誤算でした。

 やっぱりテレビに感動が欲しいと思うと、84型って「超感動」じゃないですか。ブルーレイがキレイになりますよ、ということだけではなく、地デジもキレイになりますよ、という部分が支持されています。地デジは圧縮率が高くて84型では耐えられないのでは……と思った部分もあるのですが、新しいエンジンの力で84型でも十分に鑑賞に耐えるし、安心してお買い上げいただける。そこが大きかったのでしょう。

58Z8X
65Z8X
84Z8X

精細感を含めた「超解像」がポイント、ノイズ表現に注目せよ

 本村氏の言う通り、東芝がZ8Xを作る上で特に重視したのは「高画質化エンジン」だ。REGZAでは「レグザエンジンCEVO」というエンジンが利用されてきたが、4K化するにあたって、「シネマ4Kシステム」を準備した。4Kへの高画質化を担当するクアッドコアLSI「レグザエンジンCEVO 4K」と、2K高画質化用のデュアルコアLSI「レグザエンジンCEVO」をセットで利用している。

シネマ4Kシステム。3つの基板で構成される
レグザエンジンCEVO 4K
プラットフォーム&ソリューション開発センター オーディオ&ビジュアル技術開発部 第三担当 グループ長の山内日美生氏

山内:映像エンジン開発の立場から言うと、「実物感」がどうしても2Kでは出なかったのですが、4Kでは実物感に到達できる、というポテンシャルを感じたのです。4Kネイティブを入力した時にはもちろん明らかに感じられるのですが、映像エンジン側でがんばれば、2Kからでもそこに到達できるのではないか……、というのが、最初の発想でした。

 ではなにが実物感に繋がっているのかというと、グラデーションの美しさであったり、自然なエッジの持つ「柔らかいが細かい」という感覚です。映像エンジンとしては、階調性や微小な振幅が失われないよう、いかに内部のバス幅を広くとるか、ということを意識して開発しています。

東芝デジタルメディアエンジニアリング デジタルメディアグループ デジタル映像商品技術担当 TV映像マイスター 住吉肇氏

住吉:いまさらっと言いましたけど、微小信号をちゃんと伝送することは、なにに効くかというとコストに効くんですよ(笑)。多分、東芝だけが、こだわっていることです。(薄型テレビ専用半導体として)最初に導入した「メタブレインプロ」の時代からこだわっていることですが。4Kになると、それがいっそう際立ってくる。最後まで12bitで伝送するといったことにこだわらないと、4Kらしい実物感が出てこないのです。しかし、それを4Kのエンジンでしっかりとやろうとすると、どうしても回路規模が大きくなるんです。なので、かなりお金がかかっているところです。

 結果、グラデーション再現性やエッジ、デジタルなノイズ感というものも、良くなってきています。そこがかなり実際の映像に効いています。IFAなどでお見せしたデモの段階ではシミュレーションだったので、8bit精度でした。精細感はあったのですが、「怖いような生々しさ」はなかったですが、最終製品のエンジンで処理すると、そうした実物感が出てきた、というのが、新しいエンジンの効果です。

 この辺は筆者も同感だ。

 4Kというと「解像感」という評価になりがちだが、この世代の4Kでは、特に「自然なノイズ感」から来る生々しさが魅力と感じる。

 例えば、BDの劇場用映画を見る際、グレインノイズの存在は映画な質感の最たるものだが、Z8Xで見ると、そうしたノイズがより微細になり、自然に感じる。2Kの時には「そういうものだ」と感じていたノイズが、実は粒度が大きくて雑味が強かったことに気づく。4Kになると自然な感じに変わり、見やすさも生々しさもプラスに働く。

東芝VS社 ビジュアルソリューション事業部 設計第二部 第三担当 参事 永井賢一氏

永井:2Kの時って、ノイズが「画素にはまってしまう」んですよ。ノイズにも階調はあって、それによって見え方は違ってきます。4Kになるとそこで表現の幅が広がりますから、プラスに働くんです。

本村:これは地デジも含めてですが、以前に比べ情報量は圧倒的に増えているわけです。グラデーションやノイズも含め。増えた情報量を最後までいかに忠実に再現するのか、ということだと思います。ノイズを切ってしまうこともできるでしょうが、それでは大味になってしまうかもしれない。2Kの時の「高画質」と4Kでの「高画質」では、そこが違うんだと思います。

住吉:画素が細かくなっているということは、元々急峻なエッジがあった時のスルーレートの傾きの表現量が増えているんです。2Kは画素が決まっているのでスルーレートが決まってしまい、実際の信号は「ちょっと寝ている」「ちょっと立っている」形でも、どちらも同じ表現になってしまっていました。そこが4Kだと、正しいエッジの傾き、傾斜を表現できるようになります。画素が倍あるわけですからね。

 ただそれを正しく表現するには、4Kへのアップコンバーターが正しく表現できることが重要です。そうでなければ単にぼけるだけです。フォーカスが合うところは合い、ぼけるところはちゃんとぼける。そういう立体感的なところを出そうとするとビット精度が大切になります。

「地デジ」4K化には「2段の超解像」が必要だった

 ここで問題になるのは、現在の映像ソースの場合、地デジを中心に、1,920×1,080ドットよりも、さらに解像度の低いものが少なくないことだ。アニメーションにしろ撮影ソースにしろ、一見1080pに見えても、より低い解像度で撮影したものもある。

 そうしたものを4Kへと、いかに自然にアップコンバートするのか、ということだ。

本村:そこは、X3の時と大きく変わっている点ですね。あの当時は、1080pの「最高画質のBDをより最高画質に」ということだけを考えていました。ところがこの製品は「Z」。日常使いのテレビですから、地デジなどがきれいにならないと意味がないわけです。ですのでずっと、この3人にひたすらお願いしてきたわけで……(笑)。

住吉:非常にハードルが高かったです。別の言い方をすれば、そこにだけ注力した、とも言えます。ポイントは、まずCEVOで2Kにアップコンバートしたあと、CEVO 4Kで4Kにするわけですが、そうすると、それぞれの回路に同じような部分があるわけです。超解像もそれぞれにありますし、ノイズリダクションもあります。重複する部分をいかにベストミックスして、高解像度化することに注力しました。

 当初はCEVO 4Kだけで地デジをなんとかできないか、チャレンジしたんですよ。かなり出来の良いものだったので。しかし、隣に(2Kの)Z7をおいて見比べると、どうしてもZ7に敵わない。

 なぜなんだろう? と考えると、2Kを4Kに上げるための高域の成分は復元できるんですが、地デジの場合それより下の成分が落ちてきているということから、ある程度帯域が低いところからの周波数特性を持ち上げてやらないと、4K感というか先鋭感が出ない。細かいテクスチャーは出ているんですが、なんとなく物足りない……、立体感みたいなものが後退している……。そこを復元しないと、映像にパンチがないというか、リアリティが出ないんです。

 これはやってみてはじめてわかったことです。

4K超解像技術 微細テクスチャー復元
4K超解像技術 絵柄解析再構成型超解像技術

 すなわち、2Kの段と4Kの段をしっかりわけて処理しないと、そうした「リアリティ」が出ない規模の処理であった、ということのようだ。

 東芝は当初より、2Kと4Kでエンジンを分け、2つで処理をする構想であった。だが、2K側と4K側の両方で超解像処理をする想定ではなく、製品版での構成は、画質を評価した上で採ったやり方だった。

住吉:特に地デジの場合、横1,440ドットから1,920ドットにする部分が重要なようです。我々の場合には、そこに再構成型超解像技術を使っているわけですが、それを十分に活用していなかいといけない。

 しかし、そんなにゲインをかけてはいないです。微小なところしかかけていないんですが、それを入れるか入れないかで、4Kになってしまうと大きくかわってきます。

山内:二段にかけると、本当はノイズを持ち上げやすくなるんです。東芝がこだわっているのは、「いかにぼかさずにノイズをとるか」ということです。超解像に渡したい成分を消さずに、デジタル放送の振幅の大きなノイズを消すかに注力しています。

テレビはふたたび「画質」の時代に戻る!

 こうした話になると、必ず出てくる話題が一つある。

「そもそも4Kの放送も、ネイティブコンテンツもあまりない。アップコンバートにこだわって4Kテレビ、というのはおかしいのではないか」という論調だ。

 この点を、本村氏も否定しない。

本村:ずっと「大画面のための4Kですよ」とお伝えしてきましたが、やはり「4Kネイティブがなければ」というお客様はいらっしゃいます。質問としてはずっと出てきます。

 それは、今回我々がZ8Xでやろうとしていたことにとって、ビジネスでいえばマイナスバイアスではあります。当初はほんとうにそういう声が強かったです。しかし、実際に商品化をして、これで映画をみていただくと、そういうコメントはなくなるんですよ。

「キレイだね!」って。

 頭の中では「ネイティブでなければ」ということなのですが、実際に見ると、我々が伝えようとしたことがおわかりいただけると思うのです。

 ただ一方で、4K時代が足音をたてて近づいているのも事実です。我々が気づかないうちに4Kコンテンツに触れている。映画などは元々のソースが4Kですし。ただ、(放送やインターフェイス、パッケージのの)4Kの規格が確定していないので、そこの話は、各メーカーがするのは無理です。しかし、我々は、今考えられることはすべてこの製品に盛り込んでいるつもりです。

 商品をお買い上げいただくということは、その商品への満足をお買いいただくことです。「Z8Xを買って良かった!」と思っていただける内容が入っていると、自信を持っています。なぜなら、この絵を見ていただければ、BDの映画もBSデジタルも地デジも、YouTubeのコンテンツであっても、満足して見ていただけるはずです。「全録」のタイムシフトマシンも含めて。

 価格以上の満足を提供している自信があります。それが4K第一世代に比べて販売数量が多い、ということですし、週を追う毎に販売数量が伸びているのも、そのためだと考えています。

 通常、フラッグシップモデルは最初の売り上げは大きいが、すぐ落ち着く。そこで落ちていかないのは珍しい。「いままでのZシリーズの販売カーブに近い」と本村氏は説明する。すなわちその点でも、「4Kという特別なもの」ではなく「東芝のテレビの中で、現状でずば抜けて画質の高い製品」として売れている、という自己評価につながるのだろう。

本村:いまの我々にとっては、「4Kなど不要なのでは」という論が、奇異に感じます。この方向性は間違いなく正しかった、と思います。もっともっと市民権を得ていく方向を、我々は先取りできたのだと感じています。

 画質評価については、常に映像を見て開発を続けている開発陣の中でも、イメージが変わってきているようだ。

永井:変な話なのですが……。今も、2Kテレビの開発のため、実験室で2Kのテレビを見ているわけですが、「なんか物足りない」と感じるようになってきてしまったんですよ。もちろん、ソースが2Kでも。このところずっと4Kの開発をしていたので、いつの間にか目が慣れて、4Kで表示しないと物足りないと感じるようになっているんですね。不思議ですね。

住吉:画素そのものは、距離が離れているともう見えていないんですが、それでも何となく「画素感っぽく」感じるんですよ。そこが不思議なところで。

本村:我々は、「テレビは原点回帰の時代を迎えた」と思っているんです。

 一時期、「テレビに高画質はもう求められていない。そこを追求したから日本メーカーは負けた」という論が立った時代があります。もちろん製品として、高画質論だけではだめです。しかし、逆に言えば、高画質をないがしろにしたテレビもダメだと思っているんですよ。

 4Kは、明確にテレビを「高画質化する技術」です。世界的に見て、そこがご評価いただけているわけです。中国・アジアでも4Kでテレビが動き始めています。

 ただ、いままではほとんど放送を映すだったものが、今は様々なソースがあります。そうしたものすべてを含めた「感動再生」というところに変化していて、それをどう捉えるかが、今後のモノ作りに大きな意味を持っていると考えています。

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西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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