西田宗千佳のRandomTracking
PlayStation Vita/Vita TV 開発者インタビュー
Apple TV競合ではなく「ゲームファースト」
(2013/9/19 21:35)
9月9日に開かれた、ソニー・コンピュータエンタテインメントジャパンアジア(SCEJA)のプレスカンファレンスにて、突如として発表された「PlayStation Vita TV」(型番VTE-1000 AB01)。ディスプレイを液晶に変え、薄型化を果たした新PlayStation Vita「PS Vita PCH-2000シリーズ」(以下Vita2000)も驚きであったが、Vita TVに驚いた方は非常に多かったはずだ。PlayStation 4ももちろんだが、今回の東京ゲームショウが初お披露目ということもあり、来場者からの注目度も高い。
新型VitaとVita TVはいかに生まれたのか? そして、その狙いはどこにあるのだろうか? Vitaの開発と商品企画のキーマンに話を聞いた。ご対応いただいたのは、ソニー・コンピュータエンタテインメント SVP 兼 第2事業部長の松本吉生氏と、同 第2事業部 ソフト開発部部長の島田宗毅(むねき)氏、戦略・商品企画部 部長(ハードウエア、システムソフトウエア担当)兼 ハードウエア企画課 課長の渋谷清人氏だ。
Vita2000でより「カジュアル化」、液晶選択の理由は「デュラビリティ」
--まず、薄型Vitaこと「Vita2000」を企画した理由を教えてください。
松本:1000(初代Vita。PCH-1000)は2年前に発売させていただきましたが、まずはプレイステーションのユーザーさんにということで、最新のテクノロジーを入れていきました。そこに、次のフェーズのタイミングがきたかな、と思っています。国内で値段を下げてタイトルも増えてきましたし、もうちょっとカジュアルな、薄くて軽くてカラバリもあって……というところを狙う、というのが基本的な考え方になります。今回、さらに使いやすい形になっていると思いますので、そうしたユーザーを狙います。
--OLED(有機EL)パネルから液晶に変えた理由はなんですか?
松本:一般にはOLEDの方がきれいと言われていますけれど、液晶の性能が非常に上がっているんですよね。その中で液晶の「強さ」もあります。外光に強かったり。それに、たくさん生産して使われていますので、信頼性といいますかデュラビリティ(耐久性・可用性)が強いと思っています。PSPがそうであったように、お客さんの層を広げて行く中では、極端な話、本体を投げる人も出てくるわけです。そういう中で液晶にして、よりカジュアル性を高めるのもいいのでは、と考えました。
コンセプトはあくまで「カジュアル化」です。もちろんその中でもOLEDでやっていく方法もあったと思いますし、液晶でやる方法もあります。実際にモノを作っていく時のデュラビリティを考えると、今回は液晶の方がいいのではないか、という選択になってます。
もちろん、Vitaの第一の特徴は「きれいな画面」ですので、液晶になってそれがスポイルされるようでは意味がありません。その場合には採用しないつもりでした。その上で十分に比較し、選択したつもりです。
ここで、ブースなどで見た筆者の第一印象をお伝えしたい。確かに、Vita2000の液晶画面は、Vita1000のOLEDの持つ「締まり」感も、驚くほどの色の立ち上がり感もない。だが、発色や精細感では別の美点があると感じる。逆にOLEDのもつ「どぎつさ」はなくなって見やすくなった、という部分もある。「1000とは違うものになって、それをマイナスと感じる人もプラスと感じる人もいるだろう」というのが筆者の意見だ。
島田:ゲームをプレイする時にメモリーカードがないと遊べない場合が多い、という点については、かなりユーザーさんから良くないポイントとして挙げられていました。しかし、あまりたくさんフラッシュメモリを積むとコストに跳ね返ります。セーブデータ保存や緊急パッチ、ミニアプリケーションのダウンロードなどならば、サイズはそれぞれ数十MBと小さいので、バランス的には1GBでもいいのではないか、と思いました。
キルゾーンやアンチャーテッドのようなポータブルのトップエンドのゲームは、ダウンロードコンテンツを含め、さすがに1GBではまかないきれない場合もあると思います。その場合には、メモリーカードをお使いいただくような形になるでしょう。しかしカジュアルなお客様の場合には、ダウンロードコンテンツなどよりも、ゲームカードの形でゲームを購入されて……ということが多いかと思います。
--microUSB採用の理由は? Vita1000では専用のコネクタが採用され、充電などの際、少々面倒に感じました。microUSBになることで、利便性はかなり上がるはずですよね。
渋谷:2000を出してユーザー層を広げていきたい、と考えた時に、すでにユーザーの方々に普及しているものを選びたかったのです。使いやすさを重点に考えた時、どこをどう改善した方がいいのか、を検討したのですが、その結果出てきたものの1つが「microUSBに変えたほうがいいのではないか」ということです。
島田:専用コネクタを使うことで様々な周辺機器を生み出せる、という考察は当然ありました。それは今でも構想はありますし、当時の考えは間違っていなかったと思っています。しかし、渋谷が話したことも事実です。要は、この時点でのバランスですよね。どちらを採るか、ということで、microUSBになりました。実際、喜ばれていると思っていますし。
渋谷:ユーザーの方にとにかく持っていただくために、「必要なものが別個にあります」ということをするよりは、汎用的なものがあるならばそれを使えるようにしていきましょう……というのが議論の根本です。
--充電するために、電流など細かな条件はありますか?
松本:バッテリ容量に対する最高の急速充電の値、というのはすぐに決まるんですが、USBの場合ですと色んな電流の値がありますから、供給された値でやるしかないですね。USB規格の範囲内の値なら、どれでも充電はできます。ただし、電流が小さいと時間はかかりますが。
渋谷:カラバリを増やしたのもユーザーフレンドリーを考えたものです。色んな方々にもっていただきたい、と考えると、「黒しかない」「白しかない」ではなく、色んな色から考えて選んでいただきたいんです。
--1000と2000の間で変わったことに、OLEDとWAN(3G通信機能)があります。そのために「Vita1000は併売」、とSCEJA(ソニー・コンピュータエンタテインメントジャパンアジア)はコメントしていますが、単に在庫を売るだけ、という見方もあります。Vitaはどうなのですか?
松本:基本は、Vita1000も生産するという方向ですから、併存です。
しかし新しいVitaの売れ行き・反応を見ないといけません。結局「3Gモデルはやっぱり、あまり需要はないね」とか「OLEDよりもユーザーは液晶へと急速にシフトした」ということがあれば、事業としては考えないといけないかも知れません。
3Gに関しては特に、NTTドコモさんと協業でやっているビジネスでもあるので、いますぐに止める、という話ではないです。
Vita TVは「STB」ではない、PS4とは競合せず
--Vita TVについて。どのような企画から製品化されたのでしょうか。その企画意図は?
松本:僕らとしてはまず、STB(セットトップボックス)だという風には思っていないです。まずは自分達としても「ゲーム」の世界を、どれだけのお客様に広げさせていただけるか、がポイントだったんです。
ホームコンソールのアーキテクチャでポータブル機を作るのは難しいですが、ポータブル機のアーキテクチャでホーム系・コンソール系はそこそこできます。社内の検討の中で、「せっかく作ったプラットフォームをどう広げるか」を議論していく中で、せっかく作ったゲームの資産がコアコンピタンスになるなら、こうしたテレビにつないでみたら……? という話になりました。
そうすると、当然価格帯が違いますし、違う層の人々を採れる、支持を受けるのではないかという話が出てきて「面白いじゃないか」となり、作ることになったわけです。
--社内でニーズを食い合い、カニバリズムに陥る可能性はどうですか?
松本:PS4、PS3とVita TVはカニバらないと思います。そこはさんざん社内で議論を重ねました。当然、事業部も色々ありますからね。社内の議論を整理していき、色んな形でプレゼンをしてみて、確信していますが、「これはカニバらない」、と思います。
渋谷:狙っている層を基本的に変える、違う、という前提なんです。値段感は一番目に付くところですが、Vita TVに関しては、エントリーユーザーやプレイステーションから離れてしまった方々、初めて遊ぶ方々にお手にとっていただき、プレイステーションの世界を体験いただきたいと思っています。
逆にPS4は、最初のうちはゲームが得意な方々を中心に売られていくと思いますし、差別化は当然できていますし、PS4とVita TVがしっかり連携するということでやっていけるなら、家の中で色々プレイステーションのコンテンツに触れていただける……という判断です。
Vita TV小型の理由、プロセスシュリンクはなし
--Vita TVは、正直劇的に小さいコンソールです。いわゆる「コンソールクオリティ」のゲームができる現役のゲーム機としては最小では? なんでここまで小さくしたのですか?
松本:社内でもそういう話が出てます(笑)。そこは、商品企画の渋谷がすごくこだわったところで。内情的にいえば、Vitaのプラットフォームをどうテレビに持って行くか、ということなんですが……。
実は「Vitaコア」という概念があります。そういうちっちゃいユニットをベースに色々展開できるよね、という考え方があります。例えば、Vita TVとVita2000を比較していただければ分かるのですが、ボタンと液晶の部分をとってしまうと、ほぼ同サイズになります。そういうイメージの中で、心臓部がVita TVとして出てきて、ネットワークにもつながって……という形になっているんです。
島田:さっきのカニバリゼーションの話も関係はしているんです。価格の面の差もあるのですが、存在として、テレビの横に二つボックスがあるような形はあまり望ましくない、と思いまして。これは「劇的に違うものです」と言ってもいいくらいのフォームファクタにしないといけない、とは考えました。それが、これをここまで小さくしようとしたモチベーションでもあります。
ここまで小さくなってしまうと、「どこにあるの?」的になりますよね。
渋谷:テレビに溶け込んでしまいますよね。そういう雰囲気をとにかく作りたかったんです。
nasneの時もお話しましたが、テレビの周りには色んな機器が存在していますが、そこに「どーん」と鎮座するものはPS4で行きたいんです。Vita TVは「そっとある」状態を作りたい。だから、デザイナー・設計のメンバー含めて「どうせやるならちっちゃくやろうぜ」、「テレビにつながる機器としては最高にちっちゃいものを作ろうぜ」といって、かなり無理をいってここまでやっていただいた、というところです。
島田:カラーリングを白でやっているのも、その辺の考えがありますね。そういう(そっとある)存在感でやるのでこの色で、というか。ホワイト系、壁のクリーム色みたいな雰囲気の方が、溶け込みやすい形になるんじゃないかな、と思ったんです。
--(電源が)5VってことはUSBで動いたりしない?
松本:さすがに電流が足りなくなることがありますね。USBも出しますし。
--Vita TVは有線前提なんでしょうか。
島田:いえ、基調講演でのデモが有線だったのは、ああいう環境だからですね。無線が飛びまくっているところのデモは怖かったので。無線でも有線でも、という形です。
--SoCの設計はVitaと変わっていませんか?
島田:はい、メモリーのフットプリントもSoCも、なにも変わらないです。
--SoCのプロセスルールは、新型とVita TVの世代で変えましたか?
松本:変えてない、変わっていないです。
--Vita2000では、Vita1000に比べバッテリ持続時間が1時間伸びていますが、それは、液晶への置き換えやバッテリ増量を含めた、全体の工夫で成り立っているわけですか?
松本:そういうことです。
--まだ、低コスト化・省電力化の伝家の宝刀(プロセスシュリンク、SoC大幅再設計)は抜かない、と?
松本:そうなりますね。
同じアーキテクチャでユニークな発想を
--テレビにつなぐシステムと、コントローラを内蔵したポータブルデバイスとではシステム要件が異なると思うのですが、VitaとVita TVではどこが異なるのですか?
島田:Ethernetポートの用意と、テレビにつなぐための各種調整機能を持つとか、そういうところはつけましたが、基本は同じですね。逆にいえば、なるべく共通性を持たせることがポイントでした。また別のシステムを作ってしまうと効率が悪いので。
過去のプレイステーションは全部そうですが、今後のシステムアップデートは、VitaとVita TVでひとつになります。同時にやる、ということです。例えば「バージョン3.00」とかいった時には、同時に適用される。そして機種を判別して適用される、ということです。
--ゲームもミニアプリも同じように同時供給され、ものによっては「これはVita TVである」と判別されると、別の挙動になる、と?
島田:そういうことです。
--背面タッチやカメラなどが、Vita TVにはありません。Vitaでは、そういうものをどう使うかがアイデンティティの一つだったわけですが、ここで不連続性が生まれる。ゲームデベロッパーとしては、ついていない機能があると、それは重視したくない、と考える可能性があります。その点はどうですか?
島田:技術的には、かなりのレベルで互換を保つこともできます。それに、機種判別能力を持っています。確かに、センサー類の差異が問題になることもありますが、その気になれば、根幹のゲームシステムを変えることなく、Vita TVで動く時はボタンで操作……といった対応ができます。技術的にはまったく可能ですので、そういう風に使い分けていただければ。
--例えばですが、最初っからタッチパッド搭載「DUALSHOCK4」(DS4)で出荷すればいいんじゃないですか? 少なくともフロントタッチを簡単に実現できますが。
松本:DS4は今開発中です。まだ世の中に商品として出ていません。まあ、色々なタイミングはありますよね。こうした商品を出すには、年末商戦が大事でしたし。ですのでまずはDS3で出して、DS4は準備中、ということです。これからやらせていただきますので、まずはお持ちのDS3で遊べます。PS4が出てくるとリモートプレイもできますし、PS4もお買い上げの上(笑)、連携してお使いください、という形になれば、と思います。
--例えば、ジャイロデータをVita本体でなく、デュアルショックから取得することもできるのですか?
島田:はい。ただし、センサーそのものの性能は様々なので、DS4の活用も含め、今後検討していきたいと思います。
渋谷:効率性を求めて機能を使わない判断をするゲームライセンシーさんも、当然いらっしゃると思うんです。それは当然のことです。SCEとしてPCH-2000という「ポータブルとしてのVita」についても、これはこれでしっかり売っていきたいと思っているんです。ポータブル機についているセンサーは大切にしたいんです。
なのでゲームメーカーさんには効率性だけを求めるのではなく、Vitaというデバイスをつかってより楽しく遊んでもらいたい、バックタッチが必要なら当然使ってもらいたい、カメラも使っていただきたい、と考えています。ここは一貫して変わっていない。
そのゲームを持ち帰ってDS3で遊びたいと思うのであれば、その部分の調整を当然していただきたい、ということになります。その方がありがたいです。
--Vita TVの映像出力解像度は?
島田:1080i(インタレース)ですね。ゲームとしては元々964×544です。
実は既存のVitaにもスケーラーは入っています。964×544のものを引き延ばして表示することもあります。ビデオなどは問題を生みやすいので、720pのフォーマットなら720pで流す、といったことをしています。
--新しく特別なスケーラーを乗せたわけでない、と?
島田:はい。今回は。
--ということは、元々Vitaでは、インターフェースさえあればテレビに映るはずだったわけですか?
島田:そうなりますね。
渋谷:PSPの時、PSP-2000の段階でテレビへの接続に対応しましたよね。その時にも思ったのですが、モーションなどを使う機器の背中からケーブルが生えて、テレビにつながっている状態が本当にいいのかな、という疑問がありました。
そういう内部議論の末に、「ポータブルのVita2000」と「Vita TV」に分けるのがいいだろう、という結論に至りました。
--テレビにつながるために、テレビならではのアプリも考えられると思います。ビデオオンデマンド系などは、Vita TVの方が似つかわしいかもしれない。その部分の発掘はどう考えていますか? 海外市場から見れば、はっきりいって「Apple TV対策」としての期待もあると思うんですよ。
松本:期待はされると思いますよ。でも、最初にお話したように、そのために作ったわけではない。あくまで「ゲーム」から入ってもらうものなので、そこは変わらない。
やはり「ゲーム」の存在こそが、我々の強みだと思いますので。そこを捨ててしまうと、AndroidのSTBもアップルのSTBも、みんな同じになってしまうと思うんです。
そこでウチの強みはなんなのか。ゲームの存在ですよね。その上で、色んなSTB・VOD系の機能を入れていく。そんな感じだと思います。
島田:コンソールとSTB、という議論は、これまた社内ではよくあるものです。おっしゃるようにSTB対抗の可能性も十分あると思っています。
しかし我々は、やはり「コンソール」をやっている。そこが強みになると思うんですね。そこが中途半端になりすぎると、差別化は逆に難しくなる。そこをしっかり押さえた上で、でも、ソニーのビジネスチームと一緒にSTB的な映像ストリーミングを……ということになります。
やはり日本では、まだまだIPストリーミングが普及していません。そこに対するトリガーになれればな、とは思います。
渋谷:STBの議論でいうと、PS3の上でHuluがあったりNetflixがあったりしますよね。色んなサービスがありますよ、という感じで見せられるので、PS3の時となにも変わっていないんですよ。そのポイントで「Apple TV対策だ」と言われるとそうかも知れません。
しかし、プレイステーションのエンタテインメントって、ゲームのビジネスに乗っかって色々な可能性がある、というところです。Vita TVもその一環ですね。
実は、そんなにいままでと変わっているわけではない、と捉えていただければな、と思います。