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E3 2014にみるマイクロソフトとSCEの「新型ゲーム機戦略」

ゲームに集中は共通。Xbox Oneの転向とPS4の深化

 今年も、ゲーム関連イベント「Electronic Entertainment Expo(E3)」の季節がやってきた。

E3会場となるLos Angeles Convention Center

 昨年のE3は「新型ゲーム機お披露目の場」だった。マイクロソフトがXbox Oneを、SCEがPlayStation 4(PS4)を発表し、2013年末の発売で覇を競った。

 結果はみなさんもご存じの通りだ。PS4・Xbox Oneともに好調に売れたものの、数の面ではPS4が圧倒し、2月の日本発売時には、販売数量で100万台単位の差が生まれた。緒戦はPS4が勝利したといっていい。

 先週、WWDC取材時、筆者はサンフランシスコのゲームショップを覗いてみたが、そこでも印象は「PS4圧勝」だった。Xbox Oneや任天堂系のタイトルももちろんあるが、もっとも目立つ場所はPS4が占めていた。そもそも2年ほど前は、家庭用ゲーム機より中古のスマホやタブレットの方が目立つ状況だったのだが、いまやそんな印象はない。PS4の登場で、アメリカのゲーム業界は久々に活気づいている。

 今年のE3は、そうした状況を受ける形で始まる。

 E3はまずハードウエアを提供するプラットフォーマーのプレスカンファレンスから幕を開ける。ただし昨年から、プラットフォーマー3社のうち、任天堂はカンファレンスを開かないで、オンラインイベントを行なう方策に舵を切っている。だから、カンファレンスを行なうのは、マイクロソフトとソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)の2社である。E3開催前日の朝一番がマイクロソフト、そして夕方最後がSCE、という順番は、ここ数年変化はない。その間、エレクトロニック・アーツ(EA)やUBI Softといった大手ゲームパブリシャーが、ロサンゼルス・ダウンタウン近郊でプレスカンファレンスを行なう……、という形になっている。

 本連載のレポートでは、マイクロソフトとSCEの状況を分析するところからはじめてみたい。

 なお、各カンファレンスで発表されたゲームのタイトルおよび内容については、僚誌・GAME Watchのレポートを併読していただければ幸いだ。

マイクロソフトは「徹底したゲーマー狙い」に戦略修正

 マイクロソフト(MS)のカンファレンス開始前、会場内では、イベントについてのティザー的な実況が流れていた。

「今日はまず、ゲームの話。それから……ゲームの話。最後にやっぱりゲームについてお伝えする予定だ」

 ティザー実況では、そんな風にMSのイベントについて解説していた。

 終わってみれば、まさにその言葉通りだった。カンファレンス中、ゲームタイトル以外の話題は一分たりとも出なかった。

マイクロソフト・カンファレンスの舞台となるGalen Center
会場に入るとリストバンドが渡される。舞台演出に合わせて明滅する仕掛けだ

 Xbox事業のトップであるフィル・スペンサー氏は、カンファレンスを次のような言葉からスタートした。

「今週のイベントでは、ソニー・任天堂、そして業界のデベロッパーと、共通の目的をもってあたります。それは、急速に伸びているエンターテインメント、ゲームというビジネスのショーケースとなることです。昨年2つの素晴らしいコンソールが出ましたが、非常に良い競合関係にあります。パプリシャーもクリエイターも、そしてゲーマーも喜んでいます」

マイクロソフト・Head of Xboxのフィル・スペンサー氏。今回はなによりも「ゲーム」に特化したプレゼンテーションを行なった

 家庭用ゲーム機の業界は、スマートフォンなどのプラットフォームと競合関係にある。そこで、任天堂やSCEはライバルであると同時に、市場をリードする仲間でもある。特に熱心なゲーマーは、良いゲームが登場することそのものが望みであり、競合は二の次だ。市場を活性化するための競争に着目した上で、さらにこう続ける。

「みなさんのフィードバックは大切に受け止めて、数多くの部分で反映しています。今日、我々はこのブリーフィングを、ゲームに特化したものにします。我々のゴールは、Xboxを、ゲームをするためのもっともよい場所(Best Place to Play)とすることです」

 これはもちろん、Xbox One向けの魅力的なタイトルをいち早く提供することが、マイクロソフトの置かれた状況を覆すカギだ、ということを強く意識したものである。皮肉なことだが、「Best Place to Play」というフレーズは、昨年SCEが多用したものであり、マイクロソフトは実質的に、Xbox Oneで改めてその路線を追いかける。

 そのため今回、紹介されたタイトルはすべてXbox One用。実際にはマルチタイトルもあるが、機種名としては、前世代であるXbox 360についての言及すらなかった。ゲーム機の世代交代は数あれど、ここまで新世代にガラリと切り換えてきた例はない。

 そして、Xbox 360世代では存在した「ゲーム以外の用途」についての言及もゼロになった。2012年、マイクロソフトは「Xbox Beyond the Box」と銘打ち、Xboxブランドをゲーム以外にも広げ、マイクロソフトの家庭向けエンターテインメントブランドとすることを発表した。Xbox Oneを発表した際には、テレビとの連携、Kinectの操作性を生かした「リビングエンターテインメント」の訴求を行ない、ゲームと両軸でビジネスを行なう、と語ってきた。

 だが今回、そうした「ゲーム以外の要素」「過去のプラットフォームに対する言及」はほぼゼロになった。唯一のゲームでないアナウンスは、人気タイトル「Halo」のドラマシリーズ「Halo: Nightfall」(エクゼクティブ・プロデューサーはリドリー・スコットが務める)が、今秋に公開される、ということくらい。Xbox Oneで年末までに楽しめるタイトルを軸に、いくつかの大型タイトルの発表を行ない、「ゲーマーが求めるもの」をとにかく見せる戦略に出たのだ。例年なら存在する、ハードウエア普及台数やプラットフォームの状況についての数字的なアップデートもない。そうした側面は「ビジネス上大切なもの」だが、ゲーマーにとって大切なのは「ゲーム」だからだ。

マイクロソフト最大のヒットタイトルである「Halo」シリーズの最新作「Halo 5: Guardians」は2015年発売。マルチプレイのベータ版が今年末から始まる
Xbox Oneだけで出るゲームタイトルには「Only on Xbox One」の文字がテロップで。こうして、Xbox One独自色をアピールしていた

 5月14日、マイクロソフトは、Xbox OneにKinectセンサーを付属しないモデルを設定、エントリー価格を、PS4と同じ399ドルに値下げしている。アメリカでのKinectなしモデルの発売日は、まさに本日(6月9日)だ。その結果か、プレスカンファレンス中、Kinectを積極的に利用するタイトルは1つしか紹介されず、マイクロソフト側からも詳しい言及はなかった。「ゲーマーが好むゲーム」へと舵を切った印でもある。

 ゲーム機という家庭向けエンターテインメント端末を追いかけてきた本連載としては、正直、あまり言及するところのないプレスカンファレンスである。だが、マイクロソフトのアピールとしては正しい。提示されたタイトルも、Xbox 360世代とは明確に異なる、「リッチかつ広大」な印象を受けるものばかりだ。マイクロソフトとしては、PS4・Xbox One世代に吹いている追い風を受けつつ、いかにマイクロソフトがゲーマーを大切にしていて、魅力的なゲームが多く集まりつつあるか、ということをアピールしたかったのである。

 では、そうした戦略変更の背景はどうなっているのか、そして、9月に控えた日本での発売をどう見ているのか? そうした点については、E3会期中に、マイクロソフト担当者へのインタビューを予定しているので、そちらをお待ちいただきたい。

SCEもゲーム強調、PS Nowは7月末よりオープンベータ開始

 続いて、SCEのプレスカンファレンスに移ろう。E3はアメリカ市場向けのイベントなので、このイベントの主催はSCE「A」になる。マイクロソフトのイベントが日本マイクロソフトでの発表事項と若干異なるのと同様、SCEAのイベントも、日本を担当するSCEJA(ジャパン・アジア)の発表事項とは若干異なることをお含みおきいただきたい。

SCEAカンファレンス会場のLos Angeles Memorial Sports Arena

 すでに述べたように、現在PS4は、日本以外の市場では絶好調であり、今回のカンファレンスも、それを受けたものになる。

 PS4が支持されているのは「ゲーム」を軸に置いたがゆえだ。そのため、マイクロソフトのカンファレンスと同じく、イベントの大半は新しいゲームタイトルの告知に費やされた。そしてその中身も、ごく一部PlayStaion Vita向けのものがあったものの、ほとんどがPS4向けである。このあたりは、マイクロソフト側と事情が似通っている。PS4・Xbox One世代については、PS3・Xbox360世代や、現在の日本市場から感じる印象よりも、遥かに速いスピードで移行が進んでおり、タイトルについても、PS4・Xbox One世代への移行が早い。

 そんな中、SCEのアンドリュー・ハウス社長兼グループCEOが強調したのは「Best Place to Play」の言葉だった。

SCEのアンドリュー・ハウス社長兼グループCEO

 この言葉は、マイクロソフトのカンファレンスでも登場したものだが、元々は、SCEが2年ほど前から折りに触れて使っていたキーワードでもある。PS3事業を立て直す中、「ゲーム機」に特化してメッセージを伝える目的から多用されたものでもある。紹介するタイトルはPS4向けになり、グラフィックの質も、ゲームの規模感もPS3時代よりぐっとアップしたが、プレゼンテーションの組み立てそのものは、2012年あたりから大きく変化していない印象を受ける。逆にいえば、それだけ軸がぶれていないのだ。

 そんな中SCEは、タイトル紹介に多くの時間を費やした。一つ一つについて本稿では言及しないが、マイクロソフトのカンファレンスで紹介されたものに比べバリエーションに富んでおり、より「独自」のタイトルが多い印象だった。ただしそれは、そもそも現在、マイクロソフトよりもSCEの方が自社傘下の開発スタジオ(ファーストパーティー)を多く抱えていること、意外と2015年発売タイトルを多く紹介したことなどが影響しているだろう。

PS3でも人気だった「Little Big Planet」のPS4版、「3」が登場。北米市場では11月に発売される
2013年最大のヒットタイトルとなった「Grand Theft Auto V」のPS4版も公開。リリースは、PC版・Xbox One版とともに今秋を予定。
コナミが開発中の「METAL GEAR SOLID V:THE PHANTOM PAIN」。今回紹介された中では、数少ない国内メーカータイトル。新トレイラーが公開されたが、発売時期などは未公表

 他方、純粋にゲームだけに終わらなかったのも、マイクロソフトとの違いといえる。この4月から、SCEAの社長兼CEOに就任した、ソニー・ネットワークエンタテインメント(SNE) エクゼクティブ・バイスプレジデント兼COOのショーン・レーデン氏は、壇上から次のように説明した。

「PSNは、強く支持されたプラットフォームになっている。PS4の95%がネットワークに接続されており、12億5,000万時間のオンラインプレイ、10億件のマルチプレイ・セッションが行なわれた。そして、2億2,000万回『SHAREボタン』が押された」

 PS4のコンセプトは、ゲームの情報を「シェア」し、その結果、ネットワークでゲームを楽しむ人を増やすことだ。その目的が達せられており、そこがPS4の支持につながっている……とSCEは主張したいのだ。

ショーン・レーデン氏が示した4つの数字。PS4のネット接続率が高く、「シェア」の特性を生かして活発に楽しまれている、ということを示す値だ

 そして、その方向性を強化するために発表されたのが、YouTubeへの対応だ。PS4は、UstreamやTwitch、そして日本ではニコニコ動画に対応していたものの、世界最大の動画配信サービスであるYouTubeへの対応は弱かった。SCEは2014年中にYouTubeへの動画アップロード機能や、動画の視聴機能をサポートするとしている。ただし、ライバル・Xbox Oneは、すでにYouTubeへの動画アップロードや視聴に対応しており、この点ではPS4が遅れていた。要はライバルに遅れている点を追いかけた……ということだ。

PS4もようやくYouTubeに本格対応。対応時期は「2014年中」とちょっと先になる模様

 そしてもう一つSCEとして大切なのが、クラウドゲーミング環境の「PlayStation Now」(PS Now)だ。昨年発表され、今年1月末よりアメリカで限定的なユーザーに向けたベータテストが行なわれていたが、ついに北米では、7月31日よりオープンベータテストが行なわれる。オープンベータ開始の時点では100本ほどのタイトルが用意され、SCEからのリリースによれば、「ほぼすべてのタイトルが2.99ドルから19.99ドル」で提供され、将来的には定額制サービス導入の準備も進めていくという。また、2014年中には、公約通り、北米で販売されているソニー製テレビ「BRAVIA」の一部で、ゲーム機を使わず、テレビのみによるサービスの利用も開始される予定だ。なお現場、日本や欧米でのサービスは「準備を進めている」とのみコメントされている。

サーバーからのストリーミングでPS3のタイトルをプレイする「PlayStation Now」。アメリカおよびカナダでは、7月31日からオープンベータテストが始まる

 また、PS Nowの開始に合わせるように、アメリカおよびヨーロッパ市場にて、日本では「PlayStaion Vita TV」として販売されている製品を「PlayStation TV」として、今秋より販売することも発表された。価格は99ドル(欧州では99ユーロ)とお手軽だ。

日本からおよそ1年遅れで、Vita TVが「PlayStation TV」として欧米市場に。本体価格は99ドルとお手頃だ

「PlayStation TVは、PS Nowの利用に加え、Vitaの専用タイトル、そして、PS4のリモートプレイが楽しめる。低価格で非常に多くのゲームが楽しめる製品になる」(レーデン氏)と説明しており、日本とは多少違った売り方になるようだ。確かにPS Nowがあれば、低価格なPlayStation TVはより魅力的な存在になるだろう。日本での展開が待ち望まれる。

 その他、PSNユーザー向けのオリジナル作品として、Marvel Comicsの「POWERS」が実写ドラマ化されることも発表された。こちらは、北米のPSN利用者であれば1話が無料で見れる他、月額制サービスの「PlayStation Plus」(PS+)利用者は、全話が無料で見られる。いわばPS+拡販策であり、SCEにとって、PS+利用者拡大による収入基盤が大きなものになっていることをうかがわせる。

Marvel Comicsの「POWERS」を実写ドラマとして製作。ゲームファン向けにエクスクルーシブな映像コンテンツを作成する流れは、現在のトレンドであるようだ。

 マイクロソフトにしろSCEAにしろ、今回のカンファレンスで発表されたゲームの量は、まだ発売から半年しか経ていないゲームプラットフォームのものとは思えない充実度だ。開発が容易であること、マルチプラットフォーム化が進展していることといったバックグラウンドはありそうだが、なにより、「大規模かつPS3世代とは異なる品質のゲーム」に投資をし、そこでビジネスが成立すると考えるゲームメーカーの「熱気」のようなものを感じる。日本にいると「PS4はまだまだ。Xbox Oneもどうなることやら」という印象をうけがちだが、少なくともアメリカ市場においては、「家庭用ゲーム機市場の復活」は本物だ。

 他方、日本市場にいる身としては、若干の違和感を感じずにはいられない。筆者も海外産ゲームをそこそこやる方だと思うが、それでも、プレゼンテーションで流れた血みどろのゲームすべてに歓声を挙げられたか、というと、そうではない。やはり、良くも悪くも、文化の違い・感性の違いを感じずにはいられない。その差は例年以上に、強く感じた。

 日本市場にこれからどうフィットさせるのか、そして、日本のゲームメーカーはどうやって、「感性も規模感も違う市場」に出ていくのか。

 日本という視点で見ると、むしろ課題ばかりを感じた1日でもあった。

 E3会期中には、SCE・マイクロソフト双方のエクゼクティブとのインタビューを予定している。日本市場との違いやこれからのビジネスの方向性などについても、色々と聞いてみたいと考えている。

「PS4ユーザーからの声を聞きながらビジネスをすすめている」ことを強調するプレゼンテーション。「ゾンビ」に対する盛り上がりひとつとっても、「日本だけがどこか違う」と思わざるを得ない

西田 宗千佳