西田宗千佳のRandomTracking

最新4Kテレビ、Android TVで起きている「スマート化」を俯瞰する

シンプル操作に舵を切ったTV用UIのいまとこれから

 6月30日、ソニーは2015年よりBRAVIAにAndroidの次期バージョン「Android L」とそのテレビ向けバリエーションである「Android TV」を採用する、と明言した。このことから、今後のテレビ向けプラットフォームへの注目が集まっている。

Android TV

 みなさんもご存じの通り、現在テレビは「4K」に向けて変化を始めている。この機会を単に解像度向上と捉えるか、テレビそのものの変化と捉えるかによって、商品作りは大きく変わっていくだろう。実際のところ、大手テレビメーカーのほとんどは、このタイミングを「テレビが大きく変化する好機」と考え始めている。

 では、4K時代のテレビプラットフォーム、そしてその中での「スマートTV」的要素はどうなるのだろうか?

 Google I/Oで発表されたAndroid TVの概要に加え、ソニー・パナソニック・東芝の関係者に取材した内容から、「4Kテレビで起き始めているテレビの変化」を、スマートTV的な軸で、改めてまとめてみたい。

基盤統一で開発効率向上、が狙い

 まず、一番の話題から解説していこう。そもそも、ソニーが全面採用を明言し、シャープも採用を予定している「Android TV」とはどのようなものなのだろうか?

テレビもAndroidファミリーの一つになった、と強調。「Android L」の特徴は、用途拡大とOS基盤統一にある

 OSのバージョンとしては、今秋の公開が予定されている、Androidの次世代バージョン「L」である。Googleは、Android Lより、「多用途展開」をよりはっきりと打ち出している。Androidはスマートフォン/タブレット向けOS、というわけではなかったのだが、それ以外の用途向けにはUIや機能の戦略が一本化されておらず、より「派生版」的な色合いが強かった。だがAndroid Lからは「One Fits All」(Android事業部門責任者、スンダル・ピチャイ氏のGoogle I/O基調講演発言より)戦略を採る。2010年に発表されたテレビ向けプラットフォーム「Google TV」において、Androidが黒子的役割であったこととは、かなり様相が異なる。

 なお、ここからの解説は、基調講演で解説された情報に加え、Google I/Oで行われたAndroid TVそのものの解説セッションの内容を分析したものだ。同セッションのビデオはYouTubeで公開されている。本記事で紹介するAndroid TVに関するスライドも、同ビデオから抜粋したものだ。全編英語になるが、この種のプラットフォームに興味があるなら、チェックしておくことをお勧めする。

・Google I/O 2014 「Android TV - A Platform for the living room」
https://www.youtube.com/watch?v=y3dCUPeyhag

「TV」と名付けられているものの、Android TVは「テレビを作るためのAndroid」というわけではない。ケーブルTVやVOD向けのSTB、Androidを使った簡易なゲーム機(マイクロコンソールと呼ばれる)などを開発するためのプラットフォームでもある。そのため、リモコンアプリやゲームパッド向けのボタンマッピングなどの標準化も、Android TVの中に含まれる。Android Lベースなので、EthernetやWi-Fiなどはもちろん、Bluetooth LEなどのインタフェースにも対応する。

Android TVの現状でのスペック。通信系インターフェースがテレビ向けとしては豊富で、スマートフォンなどとの連携が強く想定されている

 ここに一つのカギがあるのだが、Android TVが目指そうとしているのは、こうしたインターフェースに対する対応を標準化し、シンプルにする、ということだ。どれもいまや、実装そのものは難しくない。実際には、そうした部分の開発をSoCやインターフェース用LSIのベンダーが開発して各メーカーに売り込んでいるため、製品メーカー側の苦労はそれほど大きくない……というのが正確だろう。だが、各メーカーがバラバラに開発すると、互換性維持などの点で問題が生まれやすい。リモコンアプリ一つとっても、各機器が内部で利用する「リモコン操作用API」が異なるため、機器メーカー毎にリモコンアプリがバラバラで、統一は難しい。Android TVでそうした部分をまとめてしまえば問題は解決する……というのが、Googleの主張だ。スマホ・タブレットで起きたことを考えれば当然の発想とも言える。

 そして「アプリ」についても、もちろん同様のことが言える。

 スマートTVを開発し、テレビ上でアプリを動作させよう……という試みは長く続けられているが、現状、うまくいっているとは言いがたい。自社テレビに「専用アプリ」を作ってもらうのは、プラットフォームの普及数の点で問題が多い。そこで、テレビ向けにはウェブ標準技術を活用し、HTML5やFlashで「ウェブアプリ」として実装してもらう……という流れが主流だ。そうすれば、開発効率の問題はある程度カバーされる。そのため現在のテレビの多くは、HTML5対応のブラウザを搭載し、それを様々な機能に生かす試みがなされている。

 だが、現時点では、それがきちんと生かされているとは言いがたい。PCやスマホ的に考えると、テレビも「ひとつのOSの上にブラウザーやテレビがアプリとして載っている」ように思えるが、現在はそうではなく、「テレビという独立した機器に、ブラウザーなどが同居している」構造に近い。結果、ブラウザー側で利用できるリソースには限界があり、動作速度などの面で不利な状況がある。機能切り替えに時間がかかったり、2つの機能を同時に使うのが難しかったりするのはそのためだ。リソースが潤沢なスマホですら、機能や動作速度を考え、いわゆる「ネイティブアプリ」が主力になっている。テレビの中でも同じ事が求められる。

 Android TVは結局「Android L」なので、Android L向けに開発したアプリを、容易にTV向けにフィットさせることが可能になる。スマホのタッチUIで使うアプリをそのままもってきても成功しづらいとは思うが、VOD用のアプリや音楽アプリ、ゲームなどでは有用であるはずだ。この辺はまさに「Androidであること」が重要な点であり、Googleも強調していることだ。セッションでも、YouTubeをはじめとしたVOD系のアプリや音楽アプリ、ゲームなどのデモが行なわれている。

YouTube。Android TV上で動作するアプリは、ゲームなども想定されているが、どちらかといえばこうした「メディア系アプリ」が中心だ
Tunein

「シンプル操作」に舵を切るAndroid TV、スマホ的価値観からは距離が

 しかしGoogleは、「アプリを使えること」をAndroid TVの軸に据えようとしていない。それどころか、アプリは付加的な要素であり、スマホやタブレットのようにその機能の主軸、と位置づけるわけではなさそうだ。その点も含め、3〜4年前のGoogle TVの時と大きく違う点はたくさんある。

 まず第一に、「シンプルなテレビ体験」に特化する、ということだ。

 Google TVは「テレビにGoogleの検索性を持ち込む」ことを軸に置いていたため、専用のキーボードを使う場面が多かった。また、タッチパッドを使い、画面上にポインターを表示して操作する場面も少なくなかった。

 しかし、Android TVは違う。ミニマムな操作系は「デジタル十字キー+決定+Home+Back」だけ。わざわざ「メニューボタンやポインターはない」と断られているほどだ。

Android TVの操作は「シンプル」が基本。いままでのテレビ用リモコン以上にボタンの削減を狙う
わざわざ「タッチスクリーンは使わない」と釘を刺す。スマホ・タブレット的な価値観とは距離を置く考え方だ

 Google TVの時には、テレビを「今日的なIT技術を使った道具にする」ことを狙っていた節がある。そのためどうしても「主体的・積極的に使う」思想が見受けられた。だがAndroid TVでは、「リーンバック(Leanback)」という言葉が多用されている。リーンバックとは、ソファなどでくつろいでいる姿勢のこと。スマホなどのように「じっくり主体的に」という使い方との違いが強調されている。

 解説セッションの中では、GoogleのUI開発者であるMatias Duarte氏の以下のような言葉が引用されている。

「When your butt hits the sofa you lose 20 IQ point.」(ソファに尻を乗せた時、あなたはIQを20失なう)

 少々品のない言い方だが、確かにその通り。くつろいでテレビを見たいときに、真剣に考えて機械を使いたいとは思わないものだ。

 そうした思想から、Android TVでは「テレビ的体験」に機能が絞られている。十字キーでメニューやアイコンをたどって操作する、というメニュー画面の構成に新鮮味はないが、確かにこれなら誰にでも使える。

Android TVの操作画面。サムネイルを基本にしたシンプルな構成。背景には、再生(もしくは放送)中の映像が流れ続けている

 ウェブの利用や複雑な操作は想定しておらず、検索には音声入力の利用が推奨されている。そもそもその入力すら、すばやく見たい映像を探すためのもの、という扱いに近い。

Android TVでの音声検索画面。表示だけを見ると、タブレットなどでの音声検索画面に近いが、対象はウェブでなくあくまで「テレビ番組や映画」だ。

 なにより、Googleが変えようと考えているのは、テレビのもつ「複雑さ」だ。チューナーが複数あって入力も複数あり、切り換えながら使うのが常だ。そして現在、そこにIPベースの放送が入ってきている。テレビ側でそうした複数の入力ソースをうまく統合し、入力切り換えや複数リモコンの使い分けといった点を放逐して、よりシンプルな操作方法にしよう……というのが、Android TVの狙いである。

 実は、意外なことに、「番組ソース切り替えのシンプル化」という方向性は、Google TVも同じだった。ただその際、切り口にしていたのは「検索窓」だった。Google TVは、番組名や出演者で検索すれば、EPGからIPTV、録画番組まで串刺しにして番組を見つける、というフィロソフィーで作られていた。非常にコンセプチュアルなのだが、そのための文字入力や「みたいものを見つけるための検索キーワードを考える」というやり方は、テレビの利用シーンに必ずしもフィットしていなかった。

 Android TVではより穏当な路線になるが、OS側で「ライブ放送でソースを意識しない」仕組みを整えることで、テレビの複雑さを回避しようとしている。

Android TVでのテレビ再生画面。入力されるチャンネルやコンテンツは統合して表示される
Android TVへの入力は「統合」され、チューナーや入力系統の違いを意識しないで使えるようにすることが目指されている

 目的が「テレビの複雑さの解決」にある以上、テレビをスマホやタブレットのような作りにするわけではない。すでに述べたように、Androidアプリを動作させることは主眼ではない。ある程度ハードウェアスペックも規定しているが、内容はスマホやタブレットとは趣が異なる。そもそも、映像や音声については、OS上でソフトデコードする方法だけでなく、従来のテレビのように別途存在するハードウェアで再生した上で、それをOS上にスルー表示する形態もサポートする。だから、Android TVはUIこそ大幅に異なるものの、映像・音声の品質面において、現在のハイエンド製品と同等のものを開発することも難しくない。

Android TVのサポートするTV機能。HEVCや4Kなどの最新事情に合わせた機能がサポートされる他、ハードウェアベースでのAV系コンテンツ表示のサポート強化も注目

 PCやスマホ・タブレット、もしくはゲーム機のようなアーキテクチャをテレビに流用した場合、問題になるのは「品質確保」と「そのためのノウハウ」だった。PCやタブレットにチューナーを入れたものにすれば開発は簡単だが、そうすると、現在進行形で開発中のノウハウを併用するのが難しくなる。Android TVにおいても、そうした技術継承の問題は確実に存在しそうだ。だが、少なくとも表示品質については、ある程度継承できると想像できる。こうした点は、Google TV展開後に、Googleがテレビメーカーなどから学んで採り入れた部分だろう。

 結果、これは筆者の予想になるが、同じAndroid TVを搭載した製品であっても、画質・音質を中心とした「テレビセット」としての完成度は、メーカーや製品によって大きく変わる。ノウハウが重要な部分であるだけに、その差は、現在のスマホ・タブレットより大きなものになるはずだ。

ソニー・Panasonicなどが「今年のテレビ」で手がける「操作の改革」

 Android TVが提唱していることは、テレビの開発トレンドを考えると決して特異なものではなく、むしろ「きわめて王道」的なやり方だ。過去からのノウハウ引き継ぎや開発コストなどの関係があり、現在発売されているテレビの多くは、OSや動作プラットフォームの構造に古典的な部分が多い。高価な製品であるのに動作が緩慢であるのは、その一例である。

 とはいうものの、テレビメーカー側が今年展開している製品からは、彼らが「テレビをどう変えようとしているか」が見えてくる。その多くは4K対応製品だが、ことUIやスマートTV系機能についていえば、「4Kだから変わった」というよりも、「4Kにあわせて投資するならば、この時期に必要な変化を準備しておきたい」という発想に基づく、と考えるべきだ。

 例えばソニーは、今期の製品から、タッチパッド搭載リモコンを使った「番組チェック」という機能を搭載している。アメリカでは同じ機能を「One Flick Entertainment」と呼んでいるが、そちらの方がなんとなくイメージはしやすい気もする。タッチパッドリモコンで「ホーム」から上にフリックすると、テレビの視聴中にも画面下に、現在のお勧め番組や録画番組、YouTubeなどが1ラインのリストになって表示される。視聴している番組はそのままに、「他になにか面白いものがないか」を探せるわけだ。特に日本の場合には、LAN内にあるレコーダー(BDレコーダーはもちろん、nasneも対応。具体的には、DTCP-IP+DLNAを採用したレコーダーが対象になる)と、USBでテレビに接続したハードディスクに録画した番組が、機器の違いを意識することなく、並列に並ぶようになっている点が注目される。CESで2014年モデル向けに「One Flick Entertainment」を発表した時には、「外部入力とテレビ放送の境目を意識せずに使える」という方向性をアピールしていた。

ソニーが今期のテレビで採用しているUI。タッチパッド搭載リモコンで「フリック」すると、おすすめ番組やYouTubeのコンテンツ、録画番組などがリストアップされる

 こうしたUIを採用した理由を、国内でBRAVIAの商品企画を担当する、ソニー・ホームエンタテインメント&サウンド事業本部 企画マーケティング部門 TV&Video商品企画部 企画第一課 統括課長の廣田秀郎氏は次のように説明する。

「お客様は、テレビの上でスマホ的なアイコン操作を求めていない。番組を見ながら別のものを探せるよう、画面をフルにふさがないものが求められている。また、地デジなのかBSなのかネットなのか、その差はあまり意識しないようになっている」

 どこかで聞いた話ではないだろうか。実装方法は違うが、GoogleがAndroid TVで目指すものと非常に似ている。

 パナソニックは現在、同社のテレビで音声入力を機能の主軸に置いている。その理由を、パナソニック・アプライアンス社 ホームエンターテインメント事業部 テレビビジネスユニット 電気設計グループ 第二設計チーム 設計第四ユニットの清水浩文氏は以下のように説明する。

「録画番組からネット動画まで、テレビで扱うコンテンツは劇的に増えた。ジェスチャーなどで位置を指し示してもうらう、などの方法も検討しているが、どのコンテンツがどこにあるかを簡単に検索してもらうには、声で入力するのが現状ベスト」

パナソニックの4K VIERA「AX800」シリーズ
パナソニックが今期のテレビで採用している音声入力対応リモコン。中央のタッチパッドも操作に使う

 パナソニックは、画面上はどちらかといえば従来型のコンテンツ検索機能を提供しているが、コンテンツの種別を問わずに検索する、という意味では、従来のテレビから一歩踏み込んだ操作体系を目指している。こうした要素を、同社は「Life+Screen」と呼んでいる。同社の場合、他の家電機器との連携も、その中で必要な要素となる。そこに音声入力リモコンを活用すると、操作が非常に簡単になる。このやり方は、特にITに慣れない高齢者には評価が高い。Android TVが音声入力を重視することと似ている。

 両社は今年の4Kテレビでは、OSや開発プラットフォームの面で、対外的にアピールするような劇的な要素を入れていない。しかし、コンテンツの多様化に対応する取り組みは、今年からすでにはじめているわけだ。むしろ今年は、特に画質面での進化にリソースを割いたのではないか、と感じる。画質面での今年の進化は、それだけめざましい(画質については、次週以降詳しく解説する)。

 そして、ソニーとパナソニックは相次いでテレビ用OSを切り換えることになる。ソニーはAndroidを使い、パナソニックはFirefox OSを使うことになる。LG電子は一歩先に、テレビ用OSを「webOS」に切り換えた。狙いはソニーやパナソニックと同じく「大量のコンテンツを快適に扱うUIの実現」と「アプリ開発環境の整備」である。

 こうした試みがテレビの商品性を上げ、消費者の支持を得ることに役立つのか、まだ答えは出ていない。消費者が「テレビはシンプルなディスプレイで良く、内部に機能はいらない」という路線を選択する可能性もあるからだ。とはいうものの、2010年以降の「スマートTV」で押し出された「アプリ路線」はうまくいっていないのは事実。そこで打開策として、単純な多機能化でなく「操作性改善」に振るのは理解できる。

 とはいえ、モダンなOSの導入=操作性の改善、と簡単に結論づけるのはまだ早い。実装された操作体系が本当に受け入れられるのかは、また別の問題だからだ。またAndroid TVの場合、基本的なUIをメーカー側がカスタマイズすることは禁止されている……との話もある。他社との差別化という点で、そうした部分はマイナスだ。今期で新しい操作性を導入したばかりのソニーだが、そうした機能とAndroid TVの「Google側の縛り」をどうやって同居させるのか、そもそもソニーとGoogleの思想がまったく同じかどうかも、まだわからない。

「多機能化」でなく「操作性改善」に振ることは、テレビとIT機器の「アンマッチ」を避ける意味でもプラスだ。

 スマートTVの問題点は、テレビとIT機器の商品寿命の違いにある。テレビは平均7年から8年使われるが、スマホなどのIT機器は2年程度で、進化速度もより早い。テレビにスマート系機能を搭載しても、2年経てば古びてしまう。「あなたのテレビではこのアプリは動きません」と言われるようでは興ざめだ。しかし、UIにスマート系機能を使うとするなら、商品寿命の問題は小さくなる。操作が快適であることは、常に一定の価値を持つからだ。スマートTV向けに使えるSoCの能力が高まり、十分に高速なUIを搭載しやすくなっていることも追い風だ。とはいえそのためには、テレビにおいても「UIのためにコストをかける」思想を徹底することが必須ではある。OSを入れ替える以上、そうした部分で手を抜くとは思えないが……。

「テレビをネットにつなぐ」インセンティブと「操作ログ」の現実

 他方で、テレビのスマート化にはもうひとつ、根本的な問題がある。「テレビをネットにつなぐ」ことがまだ定着していない、ということだ。本誌読者の方ならばつないでいない、という人の方が少ないだろうが、消費者全体で見ればまだまだ少ない。日本の場合、ネットに接続してもらうための「用途」そのものがまだ弱いのだ。

 東芝は6月10日から、同社テレビ「REGZA」向けのサービス「TimeOn」の中で、Tポイント・ジャパンとの協業により、「Tポイントためよう!」というサービスを開始した。

 このサービスは、TimeOnの中から「Tポイントためよう!」コーナー内の告知を見たり、TimeOn上でCM動画を見てアンケートに答えると、設定された分のTポイントが貯まる、という仕組みだ。ウェブやアプリのクーポンサイトに近い構造であり、技術的に複雑なものではない。

テレビ向けウェブサービス「TimeOn」内でスタートした「Tポイントためよう!」。ネットCM視聴や告知をチェックすると、その分、テレビに紐付けたTポイントアカウントにポイントが貯まる

 そもそもこの機能の狙いはなんだろうか? サービス企画を担当する、東芝ライフスタイル・ビジュアルソリューション事業本部 VSクラウド&サービス推進室 室長の片岡秀夫氏は「よりカジュアルな人々に、テレビをネットにつなぎ、テレビに日常的に関与する仕組みを作るため。テレビに毎日触れてもらう、毎日見てもらう機会を作らないと、テレビの価値が高まらない。ネットにつないでもらい、毎日テレビを使ってもらうインセンティブとして、『ポイントが貯まる』という要素はアリだと考えた」と説明する。

 テレビが好きでITリテラシーも高い人々であれば、テレビをネットにつなぐためのハードルは低い。だが、そうでない人々には「つなぐ理由」がまだ薄い。そこで「Tポイント」という価値を使うことで、テレビをネットにつなぐ意味を用意しよう、というのが東芝の今期の作戦だ。「Tポイントためよう!」はTimeOn対応のREGZAすべてで使えるものだが、ハイエンドモデルの「Z9X」ではなく、普及モデルの「G9」発売に合わせて用意された。ここも、G9を選ぶような層に訴求したい、との狙いがある。

 実のところ、この枠組みは、ITリテラシーの高い層からはあまり評判が良くない。「テレビとTポイントが結びつくことで、個人情報が使われる範囲は広がるのでは」との懸念もある。テレビはプライバシー情報の塊だ。毎日どのくらいテレビを見ているのか、いつどんなチャンネルを見たか、番組のどこでチャンネルを変えたのか……。そうした情報が取得できるなら、マーケティング上の価値は計り知れない。

 しかし、結論から言えばそれらは懸念に過ぎない。片岡氏は「Tポイントとテレビをリンクしない人には一切関係がないし、リンクしたとしても、テレビの操作情報などは一切提供されていない。「Tポイントためよう!」で告知されている項目以外で、テレビ側で操作した情報がTポイント側に送られることはない。

 本サービスをTポイント側で担当する、カルチュア・コンビニエンス・クラブ マーケティングカンパニー 企画部 メディア企画ユニット ユニットリーダーの増田慶太氏は次のように本音を交えて語る。

「色々な情報があれば、と思う部分はありますが、最初に我々側から『細かな操作データは、処理しきれないのでいただかない』と明言させていただきました。お客様との接点という意味で色々な活用は考えていきますが、それは操作データをいただいて行なう、というものではない」

 東芝の説明によれば、現在、TimeOn側に蓄積されている番組関連・操作関連のデータは、日々の社内でのバックアップ用の転送に4時間もかかるほど巨大なものだ。各機器での操作が1秒単位で記録されており、非常に多彩なデータである。だがそこには、顧客の名前や住所はない。「どのテレビ・録画機がどう動いたか」という記録である。あくまで操作ログなので、「どんな番組を見ていたか」「いつチャンネルを変えたのか」といった、文脈を持つ情報にするには、高度な分析を行なう必要がある。

「すべての情報を他社に渡すということは、ビジネス上もあり得ない。また、データを使うにしても、『弊社のエースエンジニアを解析にあたらせる価値がある』場合にしか使えません。ニーズがあってパートナーがなければ、ビジネスになりません」

 片岡氏はそう説明する。

 スマートTVに関する議論では、「テレビをネットにつなぐと大きな価値が生まれる」、「ウェブがマーケティングツールになったように、テレビ側の操作ログからは大きな価値が生まれる」という話になりがちだ。それは事実だが、実際にテレビビジネスで生かす場合には、その前にある「つながせる」、「ビジネス価値を見つける」というハードルを越える必要が出てくる。

 東芝は、ウェブベースの機能をテレビに組み込む、という意味で、他社よりもかなり先行して経験を蓄積している。そのため、他社よりもちょっと先に「スマートTVの持つ現実的な課題」に直面している、ともいえるようだ。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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