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ソニー、2015年よりテレビに「Android TV」を全面採用へ

'15年モデルに搭載。黒字化も新会社今村社長が明言

 7月1日より発足するソニーのテレビ子会社「ソニービジュアルプロダクツ」の新社長に就任する今村昌志氏は、新会社でのテレビ事業に関する取材に答え、2014年度のテレビ事業黒字化を改めて強調、さらに、2015年度からBRAVIAのOSとして、6月25日(現地時間)、サンフランシスコで開かれた開発者会議「Google I/O 2014」で発表された、Androidを使ったテレビ向けプラットフォーム「Android TV」を全面採用すると明言した。

Android TV

「2015年度のBRAVIAの多くのラインに、Android Lを採用する。今ソニー自身が、新しいOSを開発することはあり得ない。お客様が便利で使いやすいものを横糸として選ぶ。Googleが提唱するAndorid LにBRAVIAをあわせていきたい。3年前、Googleと一緒にAndroidを使った『Google TV』を世に出したが、その時とは、Google全体の環境も、ソニーの環境も変わっている。なにより、お客様にどのように簡便で楽しくテレビを使っていただけるかが重要。そういう方針で進める」

ソニービジュアルプロダクツ社長に就任する今村昌志氏

組織は750名体勢、キーワードは「縦糸と横糸」

 今村氏は、テレビ事業の現状と分社化に至る流れについて、以下のように説明した。

今村氏(以下敬称略):今年の2月から準備をすすめてきた新会社が、明日からスタートします。新会社はテレビの開発・製造・設計・販売を担う会社になりますが、特に本社機能に集中した最小単位、約750名でスタートします。

 新会社の目的は、非常に厳しいテレビの事業環境の中で、環境の変化に対応した柔軟かつ素早いオペレーションができる、自律的なファンクションの会社でありたい、ということです。またその中で4Kを中心とした高付加価値の商品を投入することで、収益改善ならびにソニー全社への貢献を目指してがんばっていきます。

 2011年8月に私がテレビ事業担当になった際、平井と共にテレビ再生の色々な計画を練りましたが、当時はテレビマーケットが拡大成長期であり、その中で確実なポジションをとるための戦略をとっていたのですが、その後市場環境が大きく変化し、残念ながら、事業の拡大に沿ったものでない、「重い体質」であったのを認めざるを得ません。その中で、いかに「身軽に対応できるか」を目指し、多くの改善をやってまいりました。高コスト体質変更やモデル数削減といったリーンなオペレーションへの変更と同時に、ロスの削減もやっています。もちろん、4Kを軸に商品力強化も進めてきました。

 そのような努力をしながらも、残念ながら、2013年度は黒字を達成できなかったのは、私自身忸怩たる思いがありますし、申し訳なく思います。テレビの事業のみならず、ソニーのエレキ事業を不退転の決意で変えていく、という強い決意のもと、全社の事業改革の中で新しいテレビの事業スタイル、コンシューマビジネスの姿を作っていく、という強い覚悟の元事業運営していきたい、と考えています。

 現在、業界はコモディティ化が進んでいます。その中で私は、繊細な「タペストリー」を織っていきたいと考えています。水平型の世の中の動きに対して、ソニー独自のものを「縦」に織っていきたい。そして非常に強い布を作っていくようなものだと思います。

 ややもするとソニーは、自身の強い技術、自分達の主張で垂直型のビジネスを進める傾向があります。ただ昨今の状況では、それだけではビジネスは成り立たない。コモデディ化の流れにすべてを飲み込まれてしまっては、ソニー自身の差異化が生み出せない。その非常に複雑な方程式の中で、水平分業にソニーの「縦の糸」をどう織り込んでいくか。それが求められています。

 あえて新会社に「テレビ」とつけず「ビジュアルプロダクツ」としたのは、新しい価値をお客様に提供する、ということ。「BRAVIAは新しい感動の窓である」というスローガンの元、全社員がんばっていく所存です。

2014年度の黒字化に強い自信、フレキシブルな事業構造へ

 新会社にまず求められるのは、当然「黒字化」だ。10年にわたり事業状況の改善を求められていながら、テレビ事業は赤字を続けてきた。「必達」としていた2013年の黒字化は達成できていない。その理由を今村氏は次のように説明する。

今村:言い訳になってしまいますが、昨年の事業で対応できなかったのは、新興国での為替ヘッジです。弊社はドル・ユーロの変化には強いが、新興国為替変動対応が十分ではなかった。どのくらい変動の影響を受けたか、という数字についてはご勘弁いただきたいですが、赤字の多くの部分が新興国での為替変動が要因です。

 そこで、事業の中でいかに自分たちがコントローラブルな領域を増やすか、を考えています。具体的には、「縦の糸」を加える工程をできるだけ内製化しようとすすめています。すでにマレーシアの工場に作りました。こうした施策で、仮に昨年と同じ規模の変化があっても、内部で対応できるようにしました。

 今後の販売台数については、マーケットや競合の状況によって変化すると思っています。1,600万台を予定していますが、それは増えるかもしれませんし、減るかもしれません。その中でどんなラインナップ構成を採るかで、台数と利益率は変化します。事業の中で変動する要因と考えています。答えは一つではありません。明確にコミットメントすべきは、「2014年に黒字化する」ということです。それだけのフレキシビリティは自分達の体内にもっています。

 台数が変化する中では、本社の固定費が変動する必要があります。すなわち、販売会社が変わらなければいけません。昨年はそうしたフレキシブルな対応が難しかったのですが、今年は体勢を整えました。開発・流通とどう連携するのか、いままでの考え方とはまったく異なる組織に作り替えねばなりません。単純にコストをカットすると、会社としてのパワーをロスすることになりますから、効率化して総コストを下げていくことにチャレンジします。

 では「フレキシブルな対応」とは具体的になんなのだろうか?

今村:我々は、製品のラインナップを組み、各販売会社とミーティングした上で、どの製品を売るかを決めた上流通させます。それはお客様の状況によって変わるのですが、販売会社側から見ると、「モデルが用意されているならとっておこう、販売の手の内は増やそう」とするものなのです。そうすると、「手元にあるモデルをこの流通に当てはめよう」といった、パズルみたいなビジネスをやり始めるんです。結果、地域毎のモデル数が増えて、その結果、製販だとか在庫だとか、見えにくいロスがいっぱい生まれます。

 私がやりたいのは、まず「必要ないモデルは扱うな」ということを徹底したいです。本当にその地域でヒットするモデルに集中しなさい、ということです。それは4Kかもしれませんし、実はある地域には4Kはほとんどなく、2Kのミドルクラスかもしれません。地域毎に本当に売れるモデルを見極めていくことを、私の強い意志でやっていきたい。それが、ある意味で販売会社の改革につながると思いますし、新会社で私はそれなりの権限を与えられたと思いますので、実現したいと思っています。

2014年の日本市場向け4K BRAVIA中核モデル「KD-55X9200B」

 地域性とモデルの詳細については、現状細かくはお話できません。しかし、おおむね以下のように考えています。日本・中国・東南アジアは、4Kが軸です。ヨーロッパは4Kがドライブする部分もあるのですが、2Kの製品も含めた、トータルのビジネスで伸びています。ただそれは、ヨーロッパで我々のシェアが低かった、ということもあるでしょう。

 インドは、4Kではなく、画質や音質がインドの方々に、よりマッチしたものが好まれます。そうした製品を押し出していきます。ロシアも伸びが期待できる市場です。

 アメリカについては、実は、テレビの視聴時間は減っていないんです。昔も今も、テレビをかなり見ていらっしゃる。ただ現在違うのは、テレビを見ながらセカンドスクリーンを使っている、ということです。リビングで同じテレビ番組を見ながら、家族のそれぞれの世代が、違うセカンドスクリーンをみている。ここに新しいテレビの楽しみ方が生まれている、と考えます。

 では、2014年の黒字化について、どのくらいのメドがついているのだろうか?

 今村氏は「私個人の意見ですが」と前置きした上で、「天災などが起きない限り、黒字化は達成できるのではないかと考えている」と、非常に前向きな答えを返した。

 その真偽は年度末には明らかにはなるが、逆にいえばソニーとして、テレビ事業黒字化が「2013年に達成できなかったこと」が、非常に想定外であった、というニュアンスもくみとれる。

「技術のタネを切らすな」「決めた軸はぶらすな」

 とはいえ、こうした「組織改編」「内部改革」による変化は、あくまでソニー側の事情である。今村氏も、黒字化とビジネス環境改善の「最重要項目」が、「テレビの商品力強化にある」と強調する。「縦糸と横糸」の問題はまさにそこに関わってくる。だが、それだけでもない。

今村:黒字化は私にとっては「通過点」であり、ゴールではありません。

 確かに、非常に厳しい事業環境の中で、「コストを下げろ」という話はしています。そうでないと黒字化が難しいからです。

 しかし、黒字化などの事業の結果は、「お客様が対価を払っていただけるか」に掛かっています。私がやるべきことは、「ソニーのBRAVIAがいい、欲しい」とおもっていただけるようにすることであり、それをお客様に認めていただくことです。それができれば、黒字化なんて後からついています。黒字化だけを目標にしてもうまくいきませんよ。世の中そんな風には出来ていない。

 お客様に商品について喜んでいただくというのは、単純に商品力を上げることだけに留まりません。社内のすべてのオペレーションにかかわることです。サプライ・クオリティコントロール・広報・マーケティングが一つになって、お届けする商品が一つになること、「ソニーの商品がすばらしい」と思っていただけるようになることが重要です。

 もちろん、その軸は「商品力強化」だ。商品力強化の武器になるのは、今村氏が「縦糸」という、ソニーの高画質化技術である。そこで重要なものを、今村氏は「ぶれないこと」と話す。

今村:2013年のモデルで色域を広げようとした時、あえてつけた名前が「トリルミナス」でした。これは2004年、私が当時カメラをやっていた時、テレビと一緒に「色を良くしよう」と考えてつけたものです。しかしそれは継続できなかった。「新しい技術を普及価格帯に持っていくための障壁」を越えられないと、こういうことが起きるんです。

 残念ながら、液晶の価格が大きく変わる中で、お客様の感じる価格価値をどうポジショニングするのは難しいです。しかし、やはり技術屋が2年先・3年先の技術をどうやって仕込んでいくかが大切です。技術は連続であり、いきなり非連続な進化をすることはありません。

 昔、カメラをやっていた時に、高篠(筆者注:元ソニーの高篠静雄氏。ウォークマンの開発に関わり、「ウォークマンの父」とも呼ばれる)に、こんなことを言われたんです。

「ウォークマンが世に出た時、開発陣は三世代目のウォークマンのことを考えていた」

 当時おそらく、三世代先の技術はとても実現不可能なものだったろうと思うのですが、そういう準備をしていくことが、「ぶれない」主張をつなげるということです。

 技術の可能性は価値を上げることでもありますし、コストを下げることでもあります。そういう技術を仕込む、ということを、中のエンジニアには鼓舞しています。

「技術のタネを切らすな」「決めた軸はぶらすな」ということは、私自身、そして私の次のマネジメントにも引き続きやっていきたいと思います。

 例えば直下型バックライトについては、非常に価値のあるものですから、ぜひ量産型のところまで広げていきたい。そこはパネルに付随した「縦糸」です。それをどう技術を組み合わせて紡いでいくかが重要です。

 技術の進化は止まりません。私は最終的に、自発光型デバイスになるだろう、と思ってます。しかし、液晶の進化も止まったわけではないんです。X-tended Dynamic Range(XDR)という、きらめきや色再現を上げる技術はまだまだ進化の可能性を持っています。有機ELについては、それに勝るアウトプットを出せる時期に、商品としての価値を持つと思っています。そして、それがお客様の価値にどうミートするか。有機ELがいつ商品化されるかは、そうした時間軸の中で考えていくことだと考えています。決して否定するものではありません。他方で、液晶の技術進化も否定しません。要素技術の開発は進めていきます。色々な可能性を、内部でスタディしていますが、商品化は一番正しい時期に表明できるよう、進めてまいります。

直下型LEDの+XDR PRO搭載の4K最上位「KD-85X9500B」

 操作性に向けた技術という意味で、今村氏が言及したのは「Android TV」についてだ。ソニーは先週、GoogleがAndorid TVを発表した際、コミットメントすることを発表しているが、今回の取材でより明確なコメントが得られた。

Google I/OでソニーのAndroid TV対応が発表

今村:サンフランシスコのGoogle I/Oには、私も参加していました。

 Google I/Oで私たちが表明したのは、2015年度のBRAVIAの多くのラインに、Google社の「Android L」を採用する、ということです。

 これも「縦糸と横糸」の問題です。今ソニーが自分達で、まったく新しいOSを開発することはあり得ません。お客様が便利で使いやすいものを横糸として選ぶことが重要であり、Googleが新しく提唱するAndorid Lに、BRAVIA全体をあわせていきたい、と考えています。

 ちょうど3年前、やはり同じように、Googleと一緒にAndroidを使った「Google TV」を世に出しました。しかしその時とは、Google全体の環境も、ソニーの環境も変わっています。一つ違うのは、ソニーとGoogleはエコシステムで協業するのですが、そこで「縦糸を掘る」ことはしっかりとやっていきたい。

 なにより、お客様にどのように簡便に、どのように楽しくテレビを使っていただけるか、ということが重要です。商品の詳細はまだご説明できませんが、そういう方針で進めていきます。

2010年に米国などで発売したGoogle TV搭載のSony Internet TV(NSX-40GT1)

 今村氏の言うように、3年前「Google TV」をやった時には、個人向けの特別なモデルとSTB、という形での展開であり、ソニー内部からも「テスト兼おつきあい」という声が聞こえてきていた。市場投入した国も、アメリカなど数カ国に限られていた上に、実際売り上げで見れば、商品としては失敗だったといっていい。

 だが今村氏の言葉を信じる限り、今回のAndroid TVの扱いは「ソニーのテレビ向けプラットフォームとしての全面展開」であり、まったく異なる様相である。

 それがどういう意味を持つか、Android TVとスマートTVプラットフォームの関係などについては、より深掘りするために、別途記事の執筆を予定している。

東京オリンピックまでに「テレビに新しい定義を加える」製品を

 今村氏は、今後のテレビのあり方についてもビジョンを語った。それは、冒頭で述べた、新社名を「テレビ」としなかったことにつながる。

今村:では3年後はどうか、というと……。「これは新しいテレビだね」というものを生み出した会社は、まだないと思うのです。昔、テレビは「テレビジョン」でした。遠くを映し出す箱だったわけです。それが新しい技術によってどんどん大画面化し、コンテンツの幅が広がり、お客様への体験価値そのものが変わっていきました。商品の形、そこに映し出される映像や音、コンテンツへのリーチに関する使い勝手など、すべてが変わるとどうなるでしょう?

 それは3年後には起きると思っているんです。そうなった時、「テレビ」という名前が新しい意味を持つようになると思うんです。テレビという言葉はもう何十年も続いていますが、3年後、テレビ事業を黒字化してその先……、東京オリンピックの前には、テレビの新しい定義を作れるような商品を出したい、と思っています。

 この言葉だけでは、中身はわからない。だが、画質に対する考え方やAndroid TVについてのコメントで、「なんとなく」匂いは感じる。では、どういう製品になるのか。今村氏率いるソニービジュアルプロダクツは「正解」を得られるのか。ソニーそのものの行方も、そこに大きなカギがあるように思える。

(西田 宗千佳)