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ソニーモバイル鈴木国正社長に聞く「4世代目Xperia Z」軸でのスマートデバイス戦略

 いうまでもなく、今のソニーにとっての中核事業は「スマートフォン」だ。そして、タブレットやスマートウォッチは、それに続くビジネスとして期待されている。

 では、今期のフラッグシップモデル「Xperia Z3シリーズ」はどのような考え方の元に生まれたのだろうか? そして、ウェアラブル機器の戦略はどのようなものになるのだろうか。

 他方で、ソニーモバイルは今年の第一四半期に、それまで年間5,000万台としていた目標販売台数を4,300万台に下方修正し、2014年第1四半期の段階では、営業損益が27億円のマイナスとなっている。ソニーのこれからを牽引する存在でありながら、リスクが懸念される存在でもある。

 現状とこれからの方針について、IFAでの発表も踏まえ、ソニーモバイルコミュニケーションズの鈴木国正社長に話をきいた。

ソニーモバイルコミュニケーションズの鈴木国正社長。手にしているのは、Xperia Z3 Compact。日本でも年内の発売が予定されている

 Z3シリーズの詳細については、別途IFAで開かれた記者向けのラウンドテーブルで語られた内容も加味してお伝えする。ラウンドテーブルでは、同社・シニアバイスプレジデント デザイン・商品企画部門 部門長の田嶋知一氏、UX Creative Design & Planning UX Product & Portfolio Planning Product Planning 統括部長の伊藤博史氏にご対応いただいた。

 なお、本記事に関するインタビューは、9月9日(現地時間)のアップル新製品発表イベントよりも前に行なわれている。競合状況などの分析については、そうした状況であったことをご理解の上、お読みいただきたい。

今年もプレミアムには自信、今回は「スタミナ」の進化に注力

 まず気になるのは、Xperia Z3シリーズの評価についてだ。ソニーモバイルはここ2年間、半年に一度フラッグシップ「Z系」を市場投入している。その狙いと、4度目のモデルチェンジとなる「Z3」の狙いはどこにあるのだろうか?

今回発表された「Xperia Z3シリーズ」とウェアラブル製品群。どれもデザインテイストは似ており、一貫性を感じる

鈴木社長(以下敬称略):プレミアムフラッグシップに関しては、我々はきわめて順調です。商品力については手応えをもってやってきています。

 半年に1回フラッグシップを出す、という点についてはこれまでもご説明していますが、まず、ソニーの技術「Best of Sony」と言っているからには、技術のシードがある限りそれを集めて商品化する、ということがあります。それに外部要因、デバイスやプラットフォームの進化度もあります。ここでユーザーエクスペリエンスが一段階上がるな、と判断したのが、過去の「Z」「Z1」「Z2」、そして今回の「Z3」と続けてきましたが、要はそういうネタが揃えばやるし、揃わなかったら進化しにくい、ということです。この間で、基本的に「ソニーはフラッグシップを持っている」「軸がある」という打ち出しができたと考えています。一年に1回よりも、半年に一回やったことで、フラッグシップの認知としては、よりいい結果を得られたと思っています。

 もちろんそれぞれの体験は、Z3シリーズでも進化させています。

 今回重視したのは「スタミナ」です。これを一番の軸にしています。Z2で「1.4日動作」としていましたが、Z3では「2日動作」まで伸ばしました。この辺は、ソフトウエアの作り込みによって実現できたものが大半です。なんとかねじ込んで2日が実現できました。

IFAのプレスカンファレンスで、Z3のバッテリーライフについて発表する鈴木社長

鈴木:もう一つは防水。これは欧米ではXperiaが代名詞になるような状態なので、強く押しだしています。

日本ではあたりまえになった防水だが、欧米ではまだ一部メーカー、一部機種のものだ。IFAではZ3シリーズやウェアラブル製品を水に沈めて展示し、防水性能のアピールを行なっていた
Z3など商品企画の統括責任者である、ソニーモバイル シニアバイスプレジデント 田嶋知一氏

 商品性という意味で、スタミナはZ3に大きな意味をもっていた。他社では大型モデルで進む「フルHD以上の解像度を持つパネル」の採用が見送られたのも、「スタミナ」が理由だ。

田嶋:問題は輝度と消費電力です。今はちょうど技術的に端境期だと考えます。スペックレースの上では解像度の良いパネルに目がいくのですが、輝度・コントラストなどのソニーがこだわるところで劣ること、消費電力がかなり厳しいことなどを考え、Z3では採用を見送っています。

「ソニーらしい」という意味では、AV系のクオリティが大切。そこもこだわっている。

鈴木:もちろん、音質やカメラも大切です。Z2ではデジタルノイズキャンセルという「使ってみて良さが分かる」ものを盛り込みましたが、Z3ではハイレゾ。音の良さをきちっとやっていきます。画質面では、屋外での見やすさを改善しました。カメラは色々とアプリを豊かにしましたし、広角と暗所性能改善を行なっています。この辺も、使っていただければ改善の度合いがおわかりいただけるはずです。

Z3シリーズの商品企画を担当したソニーモバイル伊藤博史氏

伊藤:Z3では、カメラモジュールの変更が行なわれています。センサー自体はZ2と同じものですが、レンズ回りの設計が変更されたことで、より薄型化が進み、広角撮影性能や暗所撮影性能が上がりました。

 また、ヘッドフォンアンプがハイレゾオーディオに対応したことで、デジタルアンプをつながずに、本体だけでハイレゾ再生が可能となっています。

左がXperia Z3の、右がZ2のカメラモジュール。わずかだが薄型化している
Z3シリーズ3機種は、すべてヘッドフォン出力でのハイレゾ対応

鈴木:機能面で大切なのが、PS4のリモートプレイです。Z2からZ3へのもっとも大きな進化です。PS4の広がりという軸でも、ソニーらしさという意味でも、面白さを出せたのではないか、と思います。

 PS4連携機能であるリモートプレイは、「SCEと共同でかなりチューニングを加えたもの」(田嶋氏)であるといい、当面はXperiaシリーズ独自の要素として使われる。機能的には「Vitaで実現されているものと同等」(田嶋氏)というが、LTE通信モジュールを使い、Wi-Fi以外の通信網を使い、宅内のPS4へ屋外からアクセスし、ゲームをプレイすることも可能になる。

Xperia Z3 Tablet Compactにアダプターをつけてリモートプレイ
アダプターは、カーナビの固定器具に近い吸盤式。スマホの裏に固定する

 だが、「その点はオペレーター(携帯電話事業者)とは相談しながらやらなければならない」(田嶋氏)という。回線網に負荷がかかるためだ。しかし一律に禁止される方針ではなく、むしろウェルカムだと考えるオペレーターもいる。

田嶋:オペレーターのみなさんは、LTEという土管にどういうデータを流すのかに興味を持っています。特にハイクオリティのネットワークを提供して高いARPU(1契約者あたりの売り上げ)を取りたいオペレーターさんは積極的になるかもしれません。特にヨーロッパのオペレーターが積極的です。ARPUは、このまま放っておくとズルズルと下がります。それを抑えるための方策として、音楽やゲームのストリーミングに期待が集まっています。そこで付加価値の高い商品とサービスを一緒に提供できればと考えています。

鈴木:オペレーターさんとは、導入に関する議論を数カ月前から行なっていますが、彼らからのフィードバックはとてもいいです。販売や発表のタイミングがiPhoneの新機種と重なる、というビジネス的な側面はあり、告知や販売の面で工夫はしないといけない、と思いますが、商品そのものについては、良いフィードバックを得ている、とお考えください。

技術進化により「無理しなくなった」Z3、男性的フォルムからの変化

 今回、Z3シリーズのもっとも大きな変化がデザインだ。といっても、シルエットはいままでと違いはない。ただ、ディテールが変わったことで、ともすると「男性的」だったイメージが柔らかくなった。

鈴木:Z3と同時に、フルスペックの「Z3 Compact」を出したことは大きいですね。

 Z系は女性が飛びつきにくい、というフィードバックがありましたので、どちらかといえば、Compactの方で女性にもと色などを用意したのですが、いい反応です。ところが、男性でもこのサイズを好む人はかなりいますね。それは日本だけではないです。その点、Compactへの手応えは感じますね。数量はZ3とZ3 Compact、どちらをどれだけ用意するかを読むのがこれからのチャレンジですが、両方ともいい数字をたたき出すのではないか、と期待しています。

 8インチの「Z3 Tablet Compact」は、「8インチのプレミアム」にチャレンジしてみたい、という我々の思いがありました。今回Z3では、3つのラインナップが同時に用意できることが大きいです。

 この辺の考え方というのは、業績うんぬんはあっても、一番変わらない姿勢の部分です。フラッグシップであり、色々な技術を盛り込んで「他社より抜きん出ているな」という部分をやってきたつもりでいますし、これからもどんどんやっていきます。やれます。これが我々の「柱」です。

 Z3系のデザインについて、田嶋氏は「かなり肩の力が抜けてきた」と表現する。それはもちろん手を抜いた、という意味ではない。

田嶋:今まではディスプレイと「枠」のサイズ差が大きいかったため、少しでも顔(ディスプレイと枠の総体)を小さく見せるための「デザイン的な工夫」「デザイン上の技術」が必要でした。しかしエンジニアリングの進化があり、そうした無理はしなくても済むようになってきました。また「Xperiaはこういうデザインである」ということも認知されてきたので、そういう面でも無理をしなくてもいい。

 そういったことから、Xperia Z3シリーズは、より丸みを帯びて優しい「顔」に感じられつつも、いままでのイメージからはぶれない、というデザインに仕上がっている。

 ただし筆者の意見をいえば、今回もZ3は確かに完成度は高いが、この2年似た戦略・着実な進化を目指しすぎたためか、どうもワクワクするようなトガった感覚や、やんちゃさに欠ける印象はある。品質面以外でも「WOW」を見せてくれると、ソニーらしいと思うのだが。

普及価格帯戦略を見直し、軸となる「Xperia E3」の存在

 だが、冒頭でも述べたように、Xperiaのビジネス全般を見ると、修正が必要な状況も多々ある。その中でも特に大きなテーマになるのが「普及価格帯」への対応策だ。鈴木社長も「問題の本質がそこにある」と認める。

鈴木:問題は下、バリューラインですよね。ここは価格に非常にセンシティブです。一般論として他の会社も同じようにうけてきている攻勢、特に中国の企業を中心として、あっという間に販売台数を数千万台増やしたところが何社かいます。そこは他の産業と同じで、価格を抑えられる企業だと思いますし、実際、中国や一部アジア地域に、その企業の影響が出てきています。そのため、我々の普及価格帯・低価格帯の製品は、数を強く読みすぎていた部分があったので、そこの修正はかけています。

 特にポートフォリオとしては、オペレーターさん経由での取引が多いわけですが、日本以外では、欧州・アジアなどで、フラッグシップが中心ではあるが普及価格帯も含め、全体で契約者をとってほしい、という要望があるので、普及価格帯の製品も揃えざるを得ません。

 今回発表した製品でいえば、それが「E3」に当たります。あれはいろんな意味で戦略を見直した結果、あのラインならいける、というところで準備しました。

 ただし、そこに莫大な数を期待して、そこがビジネスの中心になる、といったやり方もしない、ということです。フラッグシップを中心にし、ポートフォリオとして最低限持つべきラインナップをしっかりともって、価格もプレミアムをとれる、ソニーとしてのブランドプレミアムをとれる価格帯しかやらないです。

 例えば、0から50ドル、という製品が、携帯電話業界のセグメントとして存在します。そこは、うちはいままでもやっていませんし、これからもやるつもりもありません。しかし、他社は49ドルの製品も入れてくるでしょう。ソニーはやりません。「そのゾーンで他社より3ドル高く売る」「5ユーロ高く売る」といった売り方はできないじゃないですか。だから「ソニーのプレミアムが効くレンジまではやります」というのが私の答えです。

 ではそれは今いくらまでなのか、というと……。今は200ユーロ前後、ということになりますが、その点は、時期や地域によってまた変わってきます。市場を見ながら、オペレーターさんの議論の中で決めていこう、と思います。そこにはビジネスパートナーがいますからね。それが、今の我々のビジネスの見方です。

 経営リスクを減らす上では、携帯電話出荷のポートフォリオ組み替えが必要だ。そうした部分での経営的な手当はどうなっているのだろうか?

鈴木:ひとつは、フラッグシップ系の商品を徹底して見るグループと、普及価格帯を見るグループの責任者を社内で改めて明確化して、それぞれの市場でどのような変化が起きた結果どうすべきか、ということを、今までよりも責任性を明確化した、ということはあります。

 変化に強い体勢の必要性は変わりません。いまに始まった話ではなく、ずっと課題であり、取り組んできたことではあります。

 その最たるものが、商品化プロセスのリードタイムを短くすることです。そこを短くすることが、企業としての変化への強さになります。そこはざっくり、2年前と今だと……そうですね、5割から6割くらい改善しているんじゃないですかね。

ソフトバンクは「ノーコメント」、「SIMロックフリー」も今はやらないが脈あり?

 ビジネスパートナーという面で、注目されるのが「ソフトバンクグループ」との関係だ。現状日本では、XperiaシリーズはNTTドコモとKDDI向けにのみ供給されている。だが先日来、ソフトバンクでの取り扱いがあるのでは……との観測がではじめた。となると同時に、グループ企業である米国オペレーター、Sprintへの供給も考えられる。この点については、鈴木社長は明言を避けた。

鈴木:すごい熱意でやられている会社だと認識していますから、色んな意味で可能性を議論しています。

 ただし我々は、世界中の大手オペレーターとは、例外なく、現行のビジネスをやる・やらないに関わらず、全員と議論をしています。その一つではありますし、この業界で非常に大きな役割を果たすグループなのだろう、とは思っています。

 それ以上については、まだコメントすべき段階ではありません。

 では、一般論として注目すべき市場はどういう観点で選んでいるのだろうか?

鈴木:「ソニー」あるいは「ソニーモバイル」、「Xperia」はプレミアムブランドですが、プレミアムの価値が取りやすいところ・取りにくいところがあります。何年かかけてプレミアムを作ってきて、市場を見る、という事は非常に大切です。これから作る市場には投資が必要ですし、すでにある程度のブランド価値がある国では、効率良くマネジメントしていかなくてはいけない。

 エリアの分け方については、そういう見方をしています。「プレミアム価値がどれだけあるか」「プレミアム価値ををどうやって作るのか」、そこの基準を一つ作るのがとても大事ですね。

 日本やヨーロッパのように、Xperiaのブランド価値が高いところはもちろん重要です。

 アメリカも、T-Mobileで端末が取り扱われている他、Verizonで一部タブレットの販売を始めたばかりですが、もちろん大切です。アメリカ市場の良さというのは、PlayStationが非常に強くて、エンターテインメントに関するブランドバリューが非常にある土地だ、ということです。「ソニー」ということで、そういう部分を重く見ていただける。他国とはちょっと違ったブランド価値があるんです。そういう部分を生かす、というのがアメリカの見方ですし、オペレーターさんもそういう価値で我々を見ます。「ベストオブソニー」にはエンターテインメントを常に入れていますが、アメリカでは特に、そうしたコンテンツやサービスの部分の価値が大きい、と感じていただける可能性を持ったエリアです。

「ワンソニー」アプローチというか、「ベストオブソニー」アプローチというか、そういうものがとてもやりやすい地域であり、積極的に展開する価値のある国だと思っているんですが。

 携帯電話にはもう一つの売り方がある。キャリアを限定せず、「SIMロックフリー」の形で、ソニー(もしくはソニーモバイル)自体でXperiaシリーズを売ることは考えているのだろうか?

田嶋:それがビジネスとして、顧客の要求として正しいのであれば検討すべきだと思いますし、実際、色々な可能性を探っています。

 しかし、今は考えていません。日本市場についてはブランディングも落ち着いたことですし。しかし、将来的には、ありとあらゆる可能性を考えています。

 技術的な障壁がある話ではないので、各社考えるでしょうし、当然検討すべき内容だと思います。

タブレットもプレミアム路線、リモートプレイに自信

 タブレットビジネスについては、特に2014年度の出荷台数が伸びない、という予測も出ているから、市場成長に対する懸念も出てきている。その中で、商品には一定の評価がありつつも、数としての成功を、ソニーはまだ実現していない。

鈴木:確かに、タブレットの需要は国によっては一巡したところはあります。

 しかし私の手元にあるデータでは、まだまだ多くの国で伸びる余地があります。スマートフォンよりもむしろ数字的には伸びている国があります。数字として全体が停滞しているわけではないです。

 ひとつの見方として、PCのリプレースメントという部分があります。本格的にそこが伸びてきたので、市場が大きくなっている部分はあるでしょう。

 その中で我々は、徹底的なプレミアムにこだわります。「Z2 Tablet」は、商品性の面では認めていただいていると考えていますし、徹底的に濃いユーザー層をつかめたと考えています。物量的なものよりも、「やっぱりソニーはタブレットでこういうものを作るんだな」というところは示せたと考えています。ですからその流れで、プレミアムタブレットはしっかりやっていきます。

 ここから相当意識しなくてはいけないのですが、リビングユースの10インチはマジョリティ、とまず誰もが考えます。そこでPCの使い勝手に近づけていきたい、と思います。そこは各社が挑戦しているところではありますが、ソニーらしさを出せれば、と思います。そこは、アクセサリーも含め、「かっこいいPCをリプレース出来るタブレット」です。8インチ・10インチになると、コンテンツの消費にはとてもいいじゃないですか。私も出張中、10インチで映画をかなり見ますし。5インチでは限界を感じますが、8インチ以上ならかなり満足感を得られます。そこはソニーが強みとするところです。

 さらにリモートプレイもある。デモは5インチで行なうことが多いのですが、8インチを卓上に置いて、DUALSHOCK 4でプレイする、という感覚、これはもう……。ディスプレイまでの距離も近いので、まるでPS4をそのままプレイしているかのようです。まして10インチだと、テレビでやっているような感覚になります。これもソニーのタブレットだからこそ提案しやすいものです。ですから、リモートプレイはキーになると思っています。

 その辺を組み合わせると、ソニーモバイルとしてのタブレットとはなにか、が見えてくるのではないか、と私は思っています。

タブレットではアダプターを介したものだけでなく、スタンドなどを使って卓上でプレイするやり方も訴求する

鈴木:タブレットというのは、本当に価格だけでドライブされがちなマーケットでもあります。そこは、経験上、もうソニーの一貫性・プレミアムが取れ得ないところだろう、と思います。そこには行きません。コンテンツやアプリケーション、周辺機器に価値を認めてお金を払っていただけるお客様に、本体を売っていきたいと考えます。

 タブレットからスマートフォンまで、デバイスのサイズバリエーションは、業界全体で見ると増える一方、大型化する一方に見える。その中でソニーも、色々なトライアルをしてきた。昨年は6.4インチディスプレイを採用した、いわゆるファブレットである「Xperia Z Ultra」を発売しているが、今年は後継機がない。田嶋氏はその結果から「あのサイズを使いこなすユーザーは、正直少なかった」と分析しており、それが後継機のない理由になっている。では、今後ソニーモバイルはどのようなサイズ戦略を採っていくのだろうか。

鈴木:他社のように「全部のサイズを埋める」ということはしないです。

 色々な顧客のフィードバックを得たいですから、トライアルはします。昨年は6.4インチも出しましたし、今年は8インチも出します。

 ただし「ここはイケる」と確信しているエリアとして、4.7インチ・5.2インチ、そして10インチがあります。こうした部分は確信をもってやっていきます。あとの部分は、市場を見ながら、「ソニーだからこその面白さ」を認められる製品になるなら、ブランド価値を認められるサイズであるなら、やる、ということです。

一歩一歩「段階を踏んで次」を狙うスマートウォッチ、プラットフォーム変更は「必然」

 ソニーはSmartWatch 3の製品化を始めるが、そもそもスマートウォッチやウェアラブル機器の商品性を、どう思っているのだろうか。

鈴木:ウェアラブルは、中核事業になり得ると思っています。

 我々のビジネスには、ウェアラブルとコンパニオン(周辺機器)、両方あって、これらは、スマートフォンのエクスペリエンスをより強化するための道具という位置付けで、まず今は始めている、と思ってください。ケースなどは当然ですが、スピーカーやマイク、レンズスタイルカメラのQXシリーズなどはソニーらしいところです。そういうところも徹底的に掘っていきます。そこにソニーらしさは出ると思うし、うちのエンジニアや企画者もそうした製品を好むところがあるので、スマートフォンがあるからこそ生まれる市場ですから、力を入れていきます。

 ウェアラブルは今スタートを切ったところです。そこでの軸は、まずLifelogアプリケーションです。いまスタートした所なので、第三者によるサービスの取り込みもこれから始まります。

写真はXperia用のLifelogアプリ。IFAでも長い時間をとって「なにができるか」を紹介した

鈴木:ここに関しては、やはり、商品のデザイン性や使い勝手の良さを徹底して追求していくしかない、と思います。Androidを使うことになったのは、みなさんも納得していただけるところだと思います。とはいえ、しっかりとしたLifelogアプリケーションがある、ということは、他社にないポイントかと思います。そして(SmartWatch3をさわりながら)こうやって、バンドからコアが外れます。外れることが「コア」というコンセプトで、ずっとやってきていますが、それによってバンド部が自由になるわけじゃないですか。何社か、ファッションブランドのデザインパートナーのご紹介もしましたが、確実に面白いものが出てくると思います。もちろん、Lifelogも大切ですが、それとデザイン性を柔軟にする、それも第三者の力もお借りすることも含めて、ということです。そういう部分は徹底してやるしかない。

SmartWatch 3は機能を持つ「コア」部と「バンド部」が取り外せる。そこにファッションデザイナーなどとのコラボレーションを狙う

 現在、スマートウォッチのデザインを考える時、「時計らしいものを」という企業も目立つ。その中でソニーモバイルは、SmartWatch 3でも「IT的」なデザインにしている。その狙いはどこにあるのだろうか。

鈴木:ここについては、誰もが納得してくれる論理がある、と思っているんですが……。例えば、私、時計が趣味なんです。平井もいい時計を持っています。時計は自分を示すものなので、一財産分もっているんじゃないか、という人もいます。一つ2、3万円から何千万円のものまでありますが、それはそれであり続けるでしょうから、スマートウォッチに何百万円もの価値があるようなデザイン性を持たせることは、あえてしないです。これはやはり機能性を重視した、そういう顔をした商品でいいと思います。そこに遊び心と個性があって、という。

 同じ人でも、「週末はあまりメールをみないから、スマートウォッチをしない」という形でもいい。週末はデザイン性の高い、世間でいうところの時計をつけてもいいじゃないですか。そうすると、この(スマートウォッチの)顔はこれでもいいじゃないか、と思うのです。そこで中途半端になるなら止めた方がいい。

 円形であることはいいですよ。それはそれでいい。

 でもそこで、すべての時計をリプレースしよう、という発想ではうまくいかない、と思います。時計のエミュレーションをしても時計には敵わない。スマートウォッチにはスマートウォッチなりの機能性を重視した、まさに「ITっぽい顔をした時計」であり、そこにサードパーティーのデザイナーなどが、ソニーの中で考えた発想とは違うものを持ち込んでくれれば、すごく楽しいものになるのではないか、と思っています。

 他方で、田嶋氏は別の点も指摘する。それは、スマートフォンを見る時の「姿勢」だ。

田嶋:「ルックアップ(顔を見上げる)エクスペリエンス」にしたいんです。スマホではどうしても、顔を下げて操作する時間が増えます。そして、ルックダウンしている

 特に今回、SmartWatch 3では、OSにAndroidを使った「Android Wear」へと、プラットフォームを移行している。ソニーモバイルはすでに3世代にわたり、他社に先駆けて、独自プラットフォームでのスマートウォッチを商品化してきているものの、まだヒットに結びついていない。また、6月のAndroid Wear発表当時は、スマートウォッチ用プラットフォームの移行について、あまり積極的でないような発言も見えた。今回のプラットフォーム移行は、どういう発想で決断したものなのだろうか?

鈴木:Androidのエコシステムを徹底的に利用することが、まずユーザーエクスペリエンスとして重要になるだろう、それだけ豊かなアプリケーションが出てくるだろう、という発想です。まずユーザー視点でそこが大切です。

 差異化については、Lofelogアプリケーションで線を引くとか、デザインのフレキシブルさであるとか、WALKMANアプリのような独自性であるとかで出していきます。開発費などが削減できるだろう、ということよりも、そちらを選んだ方がユーザーエクスペリエンスが良くなるだろう、という判断です。

 ウェアラブル製品は、確かにそれぞれ面白い要素がある。ソニーが推すLofelogも面白い要素ではあるが、100人ユーザーがいたとして、全員が「これだ!」という要素ではない。どのメーカーも、そうした真ん中のニーズを描けずにいる。まだそこまではいけない。では他のメーカーがそうした、真ん中を射貫くようなニーズを見つけられているかというと、そうではない。そのことはソニーも理解しているはず。

 では、どういう風なやり方で、その「真ん中」を目指そうとしているのだろうか?

鈴木:その論はわかります。しかしスマートウォッチの提案は、まず踏まないといけないステップです。

 世間の言う「スマホの次はなんだ」というところで、多くの人はすぐに答えを求めようとしますが、現実的には、ステップがある。こういうものがどう顧客に受け入れられるかを見る必要があります。スマートウォッチひとつにしても、IFAやアップルの発表も含め、こうした製品に、業界関係者やジャーナリストだけでなく、一般の人々がこういう商品の存在を知ることが非常に大切ですし、そこからペネトレーション(市場浸透)が上がっていくと思います。

 いま、ウェアラブルのジャンルでの統計データは少ないのですが、一般の人々への認知・浸透度は低いですよ。ここは確実に、まず産業の認知度が上がらないといけない。過当競争が否か、という以前の問題です。

 一部のメーカーは3G網での通信機能をスマートウォッチに入れています。技術的にはいつでもできますし、デザイン的な問題もあります。ただし、3Gがスマートウォッチに入っていなくても、この段階で、スマホをポケットや女性の鞄から取り出す回数を減らしてあげているわけです。それが出来ることが、ユーザーエクスペリエンス的なステップです。スマートウォッチの画面がさらに大きくなったり、違う形になったりして、よりスマホを使わなくてもいい、というものになり、スマホへの依存性が低くなっていく。その段階を踏んで行くことが、ユーザー体験としてのステップだと思います。あるところで「スマホがいらない」というデバイスが出てくるし、「スマホはいらない。スマートウォッチだけでいい」という人が出てくるかも知れない。それが、業界全体でにらんでいる見方だと思っています。

 でも、そこまではステップが必要です。「これが出たのでもうスマホはいりません。捨ててください」といっても、世の中の50%の人が認めてくれるものでもない。少しずつ広がっていきます。ソニーはそのためのステップを踏みますか? と言われたら「しっかり踏みながら進みます」ということです。

 特に我々は「ガジェット系」と言われる分野は、デザイン性も含め、色々なアイデアが会社の中で出やすいところだと思っています。アプリの開発も含め、昔とは違い、サービスもコンテンツもアプリも持っている企業として、ガジェット作りが大好きな奴らが社内にたくさんいて……。そういうステップを踏んでいく上での「アイデアが出やすい企業」なのだ、と思っています。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
 メールマガジン「小寺・西田の『金曜ランチビュッフェ』」を小寺信良氏と共同で配信中。 Twitterは@mnishi41