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iPhone 6/6 Plus実機レビュー。カメラは「動画中心」に進化

スケーラー+ディスプレイ向上で大画面/解像度変更対応

 9月19日、iPhoneの新製品「iPhone 6」が発売になる。ご存じの通り、今年はサイズバリエーションによる2ラインナップ展開で、4.7インチが「iPhone 6」、5.5インチが「iPhone 6 Plus」となる。iPhoneとしてははじめて、ディスプレイサイズと解像度を大胆に変更し、今までとは趣の異なる製品になった。

 では、その使い勝手はどうなのだろうか? iPhone 6およびiPhone 6 Plusの実機を使い、チェックしてみた。なお、スペックの詳細については、別記事をご参照いただけると幸いだ。

左がiPhone 6 Plus(ゴールドモデル)、右がiPhone 6(シルバーモデル)。ディスプレイサイズだけでなく、デザインも大幅に変わった
iPhone 6シリーズの化粧箱。本体の写真が姿を消し、紙を押し加工したものになった。Touch ID部は光沢のあるコート仕上げになっている。一見全カラー同じように見えるが、サイドのロゴなどは、ボディカラーと同じ色になっている

解像度の変更を「スケーラー」で乗り切る

 冒頭で述べた通り、今回のiPhoneのトピックは「ディスプレイ」に集中している。

 これまでアップルは、iPhoneのディスプレイサイズと解像度に、厳格なルールを定めて製品を作ってきた。2007年にアメリカで発売された初代iPhoneは縦横比3:2・3.5インチ・480×320ドットだった。2010年のiPhone 4でドット数が縦横2倍の960×640ドットの「Retinaディスプレイ」になったが、ディスプレイサイズや縦横比に変化はなく、解像度だけが変わった。2012年、iPhone 5で縦横比が16:9・4インチのディスプレイになったものの、縦のドット数が増えただけで、横幅に変化はなかった。

 それをアップルは、Android陣営に対して「一貫性」「フラグメンテーションのなさ」としてアピールしてきたわけだが、今回の変更により、ルールは大きく変わり、一貫性が失われたようにも思える(下表参照)。

機種 ドット数 アスペクト比 ディスプレイ
サイズ
ppi
初代iPhone 480×320ドット 3:2 3.5インチ 163ppi
iPhone 4s 960×640ドット 3:2 3.5インチ 326ppi
iPhone 5s 1,134×640ドット 約16:9 4インチ 326ppi
iPhone 6 1,334×750ドット 約16:9 4.7インチ 326ppi
iPhone 6 Plus 1,920×1,080ドット 約16:9 5.5インチ 401ppi

 それに対し、あるアップル関係者はこう反論する。

「画面の大型化は必然。iPhone発売当時は『こんな画面の大きな電話は使えない』と言われたが、その後どうなっただろうか? サイズを変える時には、必要な仕掛けがある」

 その仕掛けが、画面を適切に拡大するためのスケーラーだ。アップルはこのスケーラーに相当の自信を持っているらしく、「適切な品質のスケーラーが開発できたからこそ、今回大型化に踏み切った」(アップル関係者)とまで言うほどだ。

 ではその品質はどのような感じなのだろうか? とりあえず画面をご覧いただきたい。左から、iPhone 5s・iPhone 6・iPhone 6 Plusのスクリーンショットを並べたものだ。使ったのは、みなさんもご存じ大ヒットゲームアプリ「パズル&ドラゴンズ」。原稿執筆段階ではiPhone 6シリーズ向けの最適化が行なわれておらず、スケーラーの働きをチェックするには適切なアプリだ。この画面は、1ドットのサイズを固定した上で、3つの画面を横に並べたもの。これだけサイズが違うのに、妙にぼやけた感じもなく、自然だ。そしてもちろん、画面の上でこれが再現されれば、より差は感じられなくなる。

左から、iPhone 6 Plus、iPhone 6、iPhone 5sのスクリーンショット。1ドットを同じサイズとし、横に並べてみた。ドット数はこれだけ違うのだが、自然に拡大されている点に注目

 この仕掛けで注目すべきは、画面上方のステータスバーの部分である。同じものが表示されているのだが、太さが変わっていることに注目していただきたい。

 ここでまた別の画面をみていただこう。これは、iPhone 6シリーズに内蔵されていて、最適化済みのアプリである「メモ」と、iOS用エディタ「WriteRoom」を比較したものだ。WriteRoomは保守サポートが今年の1月で中止されており、iPhone 6シリーズおよびiOS8向けの最適化が行なわれていない。最適化がなされていないアプリではUIまでスケーラーで拡大されているのがわかる。画像で見ると若干ぼやけて見えるのだが、画面上ではほとんど気にならない。当然、画面回りに黒枠も出ない。

iPhone 6 Plusでの「メモ」のスクリーンショット。横画面ではキーボードのレイアウトがいままでとは変わり、カーソルキーや「カット」ボタンなどが用意される
iPhone 6 Plusにて、iPhone 6シリーズに最適化されていないアプリである「WriteRoom」を動かした画面。UI関連が最適化されたアプリとは大きく異なる点に注目
iPhone 6で「メモ」を表示した時の画面。画像だけを取り出すと、最適化されたアプリでは確かにぼけ感がない
iPhone 6のホーム画面。イメージはいままで通りだが、解像感が上がり、文字などがより精細になった
iPhone 6でのアプリフォルダ。アイコンは今まで通り3×3の9個ずつだ。
iPhone 6 Plusのホーム画面。横に倒して使っても、それに合わせたモードに変わる。横画面モードはiPhone 6 Plusだけの要素だ。
iPhone 6 Plusの横画面モードでの設定画面

 UI要素が異なることは、操作の一貫性という点ではマイナスだが、これで互換性が維持されるならプラマイゼロ、というところだろうか。UIまで含めて拡大するという手法は、iPadでiPhone用アプリを動かす時にも使われているもので、アップルが好んで使う手法でもある。

 実際、iPhone 6と6 Plusで、文字系や地図、電子書籍など、かなりのアプリを試してみたが、UIの違いをのぞき、違和感を感じることはなかった。アップルが言う通り、この仕組みはなかなか優れたものだ。もちろん、開発上ではサイズの違いなどの配慮は必要となるが、基本的な互換性において、「解像度変更」のリスクは小さいといえる。少なくとも使う側は、解像度変更を意識する場面はあまりない。

 この辺については、色々なサイズ・解像度のディスプレイが存在するAndroidではすでに通り抜けた道ではあるが、UI要素まで拡大するわけではないので、開発や調整にはそれなりの手間がかかる。iPhoneは同じ問題を、「精度の高いスケーラー」と「OS全体を含めた対応」でカバーして乗り越えようとしている。今後、iPadやiPhoneでさらに解像度が変わる時には、同様の仕組みでギャップをうめつつ、段階的に越えていくのだろう、と予想できる。

 なお、iPhone 6では、初期設定で文字やアイコンのサイズを「少し大きく」できるようになった。特にiPhone 6で、「より大きい方が見やすい」と感じる人は、この設定を生かすのが良さそうだ。

iPhone 6では「拡大」という表示モードが用意される。アイコンや文字を少し大きくできるので、特にiPhone 6で「文字が小さい」と感じる人に

視野角特性の改善でディスプレイ品質が大幅向上

 スペック的には「サイズ」「解像度」変化が注目されるディスプレイだが、筆者がもっとも感銘を受けたのは「視野角特性の改善」による見やすさの向上だ。

 発表会場からのハンズオンレポートでも述べたが、iPhone 6と6 Plusは視野角特性がとても良い。iPhone 5sもかなり良好な部類に入るが、それよりさらに良く、上下左右どこから見ても色の変化がほとんど見られない。解像度が上がって文字表現が緻密になったこともあり、輝度が十分に高い状態だと、まるで印刷物が貼られたモックアップのように見える。精細感だけならば、他のより解像度の高いディスプレイを使ったスマホでも体験したことがあるが、解像感+広視野角がもたらす快適さのバランスは、いままでにない体験だ。特に屋外では、照り返しなどを避けて本体を動かしながら見ることが多いが、その時にずっと見やすいため、使いやすい。この点は、後述するカメラ機能に対してプラスの要素となる。

 モックアップのように見える感覚の裏には、カバーガラスの角が丸く仕上げられていて、画面の上に画像が貼り付いているような印象を受ける、というデザイン的な工夫もありそうだ。カバーガラスとボディの仕上げの良さは、本体をより薄く見せることにもプラスに働く。アップルの広告ではスペースグレイのボディがフィーチャーされているが、それは本体とカバーガラスの「丸み」をより美しく強調するためだろう。

 今回、iPhone 6シリーズのデザインやスペックは事前にかなり流出しており、「だいたいこんな感じのハードウエアである」ことは、発表前から多くの人々が知っていた。だから、ハードに新奇性を感じない、という声も耳にする。しかし、ボディの仕上げの良さとディスプレイの良さから感じる「モノとしての素性の良さ」は、実際に製品を目にすると、情報や写真だけとはかなり異なる印象だと感じる。だからこそ、今回はいつも以上に、店頭などで実機をチェックすることを強くお勧めする。

画質向上は確実だが音質は変わらず

 本誌らしく、ここからはAV面を中心に語っていこう。

 まず音だが、本体スピーカーは、いままで通り底面にモノラルのものが内蔵されている。他社では液晶ディスプレイの上下に配置し、ステレオスピーカーとするものが増えているが、アップルは今回も採用していない。音質傾向は似ているが、iPhone 6/6 Plusともにボディが大型化したために音が反響する余裕ができたためか、5sに比べると若干良くなったように感じる。ボディが大きい分、6よりも6 Plusがさらに良い。だが、結局は内蔵モノラルスピーカーなので、過大な期待は禁物だ。

 ヘッドホン出力については、特筆すべき変化が見いだせない。良く聞くと広がりが増しているか、とも感じるが、その差はごく小さなもの。音質面では「5sを踏襲している」と考えていい。

 他方、すでに述べたように、表示クオリティは大きく改善したと感じる。筆者の手元にある個体の傾向かもしれないが、iPhone 5sは比べると若干色が黄色方向に振れており、iPhone 6/6 Plusの方が自然だ。ただし、アップルはパーツについてマルチベンダー体勢を敷いており、色傾向などにはぶれもあるため、あくまで「筆者の手元にある個体での色調」とご理解いただきたい。少なくとも、前出の「視野角特性の良さ」は、筆者が見たすべての個体に共通の要素であり、「ディスプレイの進化」は確実だ。

カメラは合焦速度が向上、手ぶれ補正もより強力に

 パーツ面で進化が見えるのは「カメラ」だ。

 といっても、センサーの画素数・画素サイズに変化はない。8メガピクセル、画素サイズ1.5μmという点は、iPhone 5sと変わりない。そのため、先に結論を述べてしまうが、若干色味がより自然な印象に変わったこと以外、静止画での画質傾向に大きな差はない。

【撮影サンプル】
iPhone 6
iPhone 6 Plus
iPhone 5s
Xperia Z2

 iPhone 6/6 Plusと、iPhone 5s、Xperia Z2の撮影サンプル。iPhone 6シリーズでは若干色味が自然になったが、その差は小さく、傾向はかなり似ている。

【撮影サンプル/フラッシュ】
iPhone 6
iPhone 6 Plus
iPhone 5s
Xperia Z2

 iPhone 6/6 Plusと、iPhone 5s、Xperia Z2の撮影サンプル。iPhone 5s以降ではフラッシュに暖色系を混ぜた「True Toneフラッシュ」が採用されている。こちらの撮影傾向も、ほとんど変化がない。

 だが、撮影中の使い勝手は別だ。iPhone 6シリーズでは、センサーに「Focus Pixels」という機能を搭載している。これは、デジカメの世界でいう「像面位相差オートフォーカス」のことで、オートフォーカスの速度を上げる効果を持つ。実際、iPhone 6・6 Plusともに、5sよりもオートフォーカス速度はかなり速い。スマホのカメラでは、タッチ位置でフォーカスや露出を変えられるのが一般的であり、iPhoneもその例に漏れないが、5sと6シリーズの動作速度を見ると、体感で分かるほどの差がある。

【撮影サンプル】
iPhone 6
iPhone 6 Plus
iPhone 5s
Xperia Z2
【撮影サンプル】
iPhone 6
iPhone 6 Plus
iPhone 5s
Xperia Z2
【撮影サンプル】
iPhone 6
iPhone 6 Plus
iPhone 5s
Xperia Z2
【撮影サンプル】
iPhone 6
iPhone 6 Plus
iPhone 5s
Xperia Z2
【撮影サンプル】
iPhone 6
iPhone 6 Plus
iPhone 5s
Xperia Z2
【撮影サンプル】
iPhone 6
iPhone 6 Plus
iPhone 5s
Xperia Z2

 今回もベンチマークとして、国産スマホの中でもカメラ機能に注力している「Xperia Z2」と比較してみたが、フォーカス速度はiPhone 6シリーズが一番速いと感じた。

 アップルがスペックを公開しておらず、実際の動作を測るのも難しいため、勢い体感的な表現になることをお許しいただきたいが、より撮影しやすくなったことは断言できる。特に、フォーカス位置や明るさをタッチで調整しながら撮影する際には、iOS8でさらに操作に微調整が加えられたせいか、iPhone6、6 Plusがより使いやすいと感じた。

iPhone 6で、逆行の夕焼けを撮影。タッチ位置で露出やピントを変えられるが、その調整幅や速度が優秀で、5s時代よりずっと使いやすくなった

 機能面では、動画向けの強化が目立つ。例えば、5sまでは毎秒120コマまでのスロー撮影が可能だったが、iPhone 6シリーズでは新たに240コマの撮影もできるようになった。

 以下は、iPhone 6 Plusで撮影したスロー撮影のサンプルだ。今回新たに、毎秒240コマでの撮影も可能になった。音もその分ゆっくりになっている。

iPhone 6 Plus 240fps(動画:20MB)。音もその分ゆっくりになっている点に注目

 また、いわゆる「タイムラプス撮影」も、別途アプリを入れることなく、簡単に行なえるようになっている。(撮影サンプル。【動画:7MB】)

 それらを支えるのが「手ぶれ補正技術」の進化だ。まずは動画をご覧いただきたい。途中に小さな階段もある、同じ距離のところを、スマホを持って小走りで駆け抜けた時に撮影した映像である。何度か同じ経路・同じスマホで撮影し、もっとも平均的なものをサンプルとして採用している。

 ご覧のように、iPhone 6と6 Plusはかなり手ぶれが消えている。6は5sと同じ電子式手ぶれ補正を進化させたものを、6 Plusは光学式手ぶれ補正を採用している。これらは静止画でも効果があるが、サンプルとしては動画での効果がもっともわかりやすいと考え、動画でお見せしている。形状の問題もあり、スマホをしっかり構えて撮影するのは難しいものだが、これだけぶれが消えるなら助かる。

 もちろん、これによってカムコーダが不要になる、というものではない。カムコーダのように高レベルな光学ズームと手ぶれ補正を同居させて撮影できるものではないからだ。

 しかし、スマホで手軽に動画を撮ってシェアする、というコミュニケーション形態は、日本以上に海外で広がっており、そこへの対応はとても重要だ。今回、iPhone 6シリーズのカメラの強化は、ある程度動画ニーズを見据えたもの、といっても良さそうだ。

 なお、iPhone 6・6 Plusともに、5sに比べ、パノラマ撮影時の画素数が最大43メガピクセルに拡大しているため。精細さという面では大きな進化だ。

パノラマ撮影サンプル
iPhone 6
iPhone 6 Plus
iPhone 5s
Xperia Z2

*注:拡大画像は横2,400ドットに縮小しています

NFCは「当面Apple Pay専用」、日本では活用できず

 iPhone 6での残るハード的な大きな変化は「NFC」の搭載だ。アンテナは本体上部に搭載されており、アップルはこのために、高効率で小型のNFCアンテナを独自会発したという。同時に決済機能「Apple Pay」を発表しており、今回の搭載はその準備だ。

 NFCのような非接触通信機能というと、日本ではFeliCaを使った「おサイフケータイ」が思い浮かぶが、iPhone 6シリーズはあくまで「Apple Pay」にのみ対応しており、FeliCaは搭載していない。そのため、日本でのおサイフケータイ系サービスには対応しない。

NFCはほぼApple Pay専用だ

 また、NFCというと、特にAV系では、Bluetoothスピーカーやヘッドホン、カメラなどとの接続を簡便化するもの、としての要素もある。AndroidでNFC対応があたりまえになりつつあることから、周辺機器もNFCを搭載して利便性を高めるものが増えている。NFC搭載というからには、iPhone 6でこれらの機能が使えるようになるのでは……との期待もされた。

 だが結論から言えば、今はこれも使えない。アップル関係者は「当面Apple Payに注力する」とコメントしており、NFCでのペアリングはできない。

 というよりも、iPhone 6シリーズに搭載されたNFCは、今のところ「Apple Pay専用の仕組み」であり、他の機器でいうところのNFCとは異なる、と理解すべきだ。国際規格を使いながらも、使い方は独自のものになっている。他のNFC対応機器を近づけても、NFCタグを近づけても、iPhone 6は反応しない。正直、これをNFCと呼ぶのはどうだろう……、とは思う。

 詳しい説明は省くが、決済としてのApple Payは安全性と利便性に配慮されており、おサイフケータイと比較しても、シンプルで優位性がある。きちんと普及し、色々なところで使えるようになれば、そこに価値があると感じる。だが、Apple Payは10月からアメリカでスタートするものの、日本を含む他国での展開はまだ未定だ。となると、日本ではしばらくの間、「搭載されていても生かすところのない機能」ということになる。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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