西田宗千佳のRandomTracking
iPad Pro、新Apple TV、iPhone 6s/6s Plusを早速体験
3D Touchで進化したiPhone。TVは中身もビジネスも一新
(2015/9/10 10:41)
9月9日(現地時間)、アップルは米・サンフランシスコにて発表会を開き、今年末に向けた新製品群を発表した。ここでは発表会の詳報に先駆けて、発表会後に開かれたハンズオンの模様をお伝える。結果的には、手のひらサイズからテレビサイズまで、3つの領域がテーマの発表となった。
“最大”iPad Proの実力は? KeyboardやApple Pencilに注目
新製品としてまず注目は、やはり「iPad Pro」だ。12.9型/2,732×2,048ドットのディスプレイは、今までのiPad(9.7インチモデル)に比べ大きく、特に背面から見た時のインパクトは大きい。
とはいえ、実際持ってみると、サイズに比べて軽く感じる。実際の重量は713g(Wi-Fiモデル)で決して軽いわけではないのだが、薄いため、バランス的にそこまで重く感じないのだろう。
これが、別売の「Smart Keyboard」をつけると、なにやら非常に見慣れたサイズに感じられる。要は、モバイルPC、マイクロソフトのSurfaceなどで多く採用されている大きさだからなのだが。
Smart KeyboardこれまでのiPadのカバーと同じように折り畳み構造だが、キーの分大きくなった、という感じになっている。直接的な比較として、SurfaceのTypeカバーキーボードに対する利点は2つある。一つは、折りたたみ構造で本体とキーボードをしっかり支えるため、膝の上でもクラムシェル型のPCと同じようにタイプできることで、二つ目はタイプ感が良好であることだ。
キーはファブリック素材でできているが、その弾力でキーのスイッチのような感触を実現している。「チャカチャカ」というタイプ感ではないが、一つ一つのキーを押した感じはしっかりある。タイプストロークの浅さは最新のMacBookぽくもある。決しておまけという感じではなく、しっかりと「使える」キーボードだ。
もう一つの機能的特徴は、別売の「Apple Pencil」を併用すると、本格的な手描きが実現できることだ。スティーブ・ジョブズは「人間にはすばらいしい指がある」と、スタイラスに否定的な姿勢をみせてきたが、iPadのアクセサリーとして大量にスタイラスが売られていることからも、「紙のように描きたい」というニーズの大きさは明確だった。そこでアップルは、「圧倒的な精度を持ったペン」を導入することで、その矛盾を解決している。
使ってみて感じたのは、その自然さだ。反応速度がきわめて速く、スタイラスにありがちな遅延が感じられなかった。ペン先もかなり細かく認識しているので、殴り書きで細い字を書いても問題は感じなかった。同じ文字を紙とタブレットに書く場合では、どうしても紙と同じように細かく書くのは難しい。iPad ProとApple Pencilの組み合わせは紙と同じである……と思えるほどに使う時間はなかったため、使い勝手に関する結論を下すのは、製品が近くなってから、にしたいとは思うものの、高価なWindowsタブレットにも劣らない、という第一印象は得た。
また、ペンの筆圧や傾き検知もしっかり行なわれているし、手のひらをつけた時の誤動作を防ぐ「パームリジェクション」も当然のように働く。アプリによって使い勝手は異なりそうだが、正直、出来には期待できそうだ。
ペンは電力を使う電磁誘導式だが、バッテリーの充電はApple Pencilのお尻にあるLightningコネクタで行う。iPad Proに差し込むことはペアリングも兼ねており、アップル側の説明によれば「15秒の充電で30分使えるという。
残念ながら、iPad Proの性能などを詳しく試すことはできなかったが、ディスプレイの発色はかなり良好である印象だった。「iPadとしての性能」面では、おそらくほとんど心配する必要はないだろう。
3D Touchで本質的に操作性を改善「iPhone 6s/6s Plus」
そして、機器の販売数量の面でも、アップルの収益の面でも、一般の人々の注目という意味でも最も大きいのは、やはりiPhoneだろう。今回は、昨年のiPhone 6シリーズを受けて「iPhone 6s」シリーズになった。4.7インチの「iPhone 6s」と、5.5インチの「iPhone 6s Plus」の2ラインナップ構成で、カラーがシルバー、ゴールド、スペースグレイに加え、ローズゴールドが追加された。
新色の追加を除けば、前のモデルとの変化は、見た目上ほとんどない。0.2mm厚くなっているので、ピッチリサイズを合わせたケースなどの場合、前モデルのものが使えなくなる可能性もあるが、横に並べても見た目ではほとんど違いがわからない。
カメラ機能やプロセッサーの進化はハンズオンでは確かめづらいので、そこに着目するとiPhone 6との差はますますわかりづらい。だが、本質的な変化として投入されたのが「3D Touch」である。こちらはしっかりと試すことができた。
3D Touchはいわゆる「押し込み」を再現するインターフェースだが、基本的な使い方は2方向に分けられる。
一つ目は、「付加機能を呼び出す」ための使い方。アプリアイコンをぐっと押し込むと、指に振動が伝わって「押した感じ」がして、そのアプリで使う機能へのショートカットが現れる。これはいわば、マウスの「右クリック」に当たる。最近電話をかけた人にもう一度かけたり、地図の地点情報からナビを呼び出したりする際に使う。
これをアップルは「クイックアクション」と呼んでいる。
そしてもう一つの方向性が「チラ見」だ。メールアプリを例に説明しよう。未読メールの上で「ぐっと押し込む」と、そのメールのプレビューが表示される。そして、指を離すとプレビューは消える。さらに再度「ぐっと押す」と、そのメールは全画面表示になる。ウェブのURLがあった時も、「ぐっと押し込む」とウェブサイトのプレビューが出て、指を離すとプレビューは消える。さらに「ぐっと押し込む」と、ウェブが全画面表示される。Instagramアプリでは、「ぐっと押し込む」と投稿者の投稿内容を一覧したり、特定の写真の中身をチェックしたりできる。
これのどこが便利なのかは、やってみればわかるのだが、言葉で説明するのが難しい。
スマートフォンでは、アプリ内で画面を「行ったり来たり」することが多い。「戻るボタンが欲しい」と言われるのはそのためだ。アップルは今回、3D Touchで「内容をちょっと確認する」だけで画面が完全に遷移するのを避けるUIを実現しようとしている。メールの中身やInstagramアプリで「ちょっと見」できるようになると、確かに便利ではある。
これをアップルは「Peek」と呼んでいる。Peek時には背景がぼやけるので、レイヤー構造も把握しやすい。なお、二度ぐっと押し込んで全画面に開く動作を「Poke」と呼ぶ。画面遷移が多いUIがいいか、「ぐっと押す」という動作をおぼえる代わりに、よりシンプルに使えるようにするのか、という二択を、アップルは提示しているように思える。押し込みの強さ設定もかなり調整されているらしく、力を必要以上にいれたり、「長押し」になるほどずっと押し続けたりする必要はない。
iOS 9とOS X El Capitanより、普段は写真だが、必要な時はそれを短いムービーとしてみせる「Live Photos」が導入され、iPhone 6sでもフィーチャーされる。「写真」アプリから見るだけでなく、ロック画面のいわゆる「壁紙」にも、Live Photosは使える。Live Photosの再生には3D Touchの「押し込み」を使うようになっている。アップルの説明員の話では、「Live Photosで通常の最高画質写真の1.7倍程度のデータを使うはず」とのことだが、詳細はまだわからない。
iPhone 6sシリーズでは4K動画の撮影が可能になった。また、スローモーションの場合最高240fpsでの撮影が可能だという。
Apple TVが中身もビジネスも一新。SiriでNetflixやHulu検索
久々のリニューアルとなったのが、テレビ用STBである「Apple TV」だ。外観的には「少し厚くなった」程度だが、中身もビジネスモデルも大きく変化している。
今回の最大の変化は、「tvOS」の登場によって、Apple TV がアプリプラットフォームになったことである。その是非は別途記事で解説するが、操作感的な大きな変化は、音声認識の活用だろう。
Apple TVのような機器では文字入力が難しいので、リモコンに「Siriボタン」があり、同社の音声認識UIである「Siri」に声で命令を与える。例えば「子供向けの番組」とか「アクション映画が見たい」といえば、大量のVODから適切なものをピックアップしてくれる。しかもアメリカの場合には、HBO、Netflix、Hulu、iTunesが対象で、番組を「串刺し検索」して、どこで見れるかを見つけてくれる。
アップル関係者の説明によれば、これは各VODがアプリで対応しており、しかも、番組情報へのアクセスをSDKに基づく形で出しているため実現できている、とのことだ。アプリプラットフォームになると「まずゲーム」という印象もあるだろうが、それだけでなく、VODの追加対応が容易になることも重要である。日本でも、iPhoneやiPad向けにVODを展開している企業であれば、tvOSへの対応は「まったく難しくない」(アップル関係者)という。
また、「今聞き取れなかった」といえば、20秒映像を巻き戻した上でクローズドキャプションをオンにし、「セリフがなんだったか」を表示してくれたりもする。しかも、クローズドキャプションはしばらくすると「自動でオフに戻る」親切ぶりだ。この辺は、VODが軸であるアメリカ型機器の典型であるApple TV と、放送と録画がベースである日本のテレビの差が見える。
アプリベースになるために、リモコンはBluetoothベースで音声ボタンやタッチパッド、振動センサーのあるものに変わった。充電は、リモコン底部にあるLightning端子が担当する。HDMI CEC連携で音量や電源のコントロールが行なえる。
なお、Apple TVのSiriは「テレビとスポーツに特化している」(アップル関係者)とのことで、音楽やネット情報の検索、ジョークなどには対応していない、という。