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ソニーAV製品責任者に聞く、ハイレゾ、TV、UHD戦略

オーディオはワイヤレス。UHD BDプレーヤーは'16年度

 ソニーがAV製品でどのような戦略をとるのだろうか? 平井一夫社長のインタビューに続き、同社のテレビ事業会社であるソニービジュアルプロダクツと、オーディオ・ビデオ事業会社であるソニービデオ&サウンドプロダクツ、双方の社長を務める高木一郎氏に話を聞いた。また、北島行啓氏にはオーディオ・ビデオ製品に関する具体的な情報を、ソニー・エレクトロニクス インク デピュティプレジデントの奥田利文氏にはアメリカ市場に関する情報について、補足をお願いした。

CES 2016ソニーブース

ワイヤレスオーディオから北米を攻める

 ソニーはエレクトロニクスにおいて「プレミアム戦略」を採っている。その代表格が、ハイレゾを軸にしたオーディオであり、4Kを軸にしたテレビだ。高木社長は「平井の口癖ではありませんが、顧客に感動を直接届けられるように努力します」と話す。

ソニービジュアルプロダクツとソニービデオ&サウンドプロダクツの高木一郎社長

 その中で、日本・アジアと欧米で状況が異なっているのがハイレゾオーディオだ。

高木社長(以下敬称略):ハイレゾに対し弊社として力を入れていくということは、3年前から継続しています。2015年度には、日本では計画通り、ソニーすべてのオーディオ製品のうち、金額ベースで4割の売り上げを目標としてきました。これは、ほぼ達成できる見通しです。2016年度には5割を越えてくるのではないか、と思います。ただし、全世界ですと直近で20%、少し先でなんとか30%、というところでしょうか。特にアメリカでは、10%いかないでしょうね。まだまだこれからです。

 ただ、元々欧米では展開に時間がかかるだろう、とは考えていました。日本・アジアでの成功は、欧米に対してそれなりの刺激になってきています。

 ポイントは、ハイレゾのコンテンツをどう普及させていくのか、ということです。特に欧米ではストリーミングで音楽を聴く方が非常に多い。ストリーミングのハイレゾ化も徐々に進んでいますので、まだ2、3年はかかると思いますが、あきらめずにやっていきます。

 今回、ソニーがCESで推したオーディオ製品は、ハイレゾとファッションを軸にした「h.ear」ブランドだ。h.earは昨年9月のIFAで発表され、日本でもすでに展開が始まっている。アメリカではこれからの展開だが、一見すると、単に遅れて出しただけにも思える。しかしそこには、アメリカ市場をみすえた戦略があった。

h.earのワイヤレスオーディオを強化

高木:h.earについてはすでに欧州・日本には導入済みですが、アメリカではこれからの展開になります。なぜなら、アメリカ市場はワイヤレスが主流だからです。ワイヤードの商品だけで無理矢理導入するのではなく、ワイヤレスの製品群が用意できるまで待ちました。ですので、ワイヤレスについてはアメリカが最初の導入になります。

 CESで発表されたh.earは、「h.ear on Wireless NC」「h.ear in Wireless」といったヘッドホン、スピーカーの「h.ear go」ともにワイヤレスである。スマートフォンでの視聴、移動中の視聴についてワイヤレス利用のニーズが大きいため、プレミアムモデルを狙うソニーとしては「ワイヤレスがなければ戦えない」という判断をしたのだ。

 ワイヤレスはポータブルだけに留まらない。室内向けも重要だ。

北島行啓氏

北島:今年はホームワイヤレスオーディオの強化に取り組んでいます。

 特にアメリカの場合には「マルチルーム」のニーズが大きい。複数の部屋で同時に同じ音楽を聴いたり、自分のいる部屋へと切り換えながら聴いたり、という使い方です。過去には「ホームオーディオといえば有線」、という感じでしたが、お客様が苦痛に感じている点を考えると、やはり「ワイヤレス」になります。

 ソニーのオーディオ戦略の主軸というと、日本ではウォークマン、それもハイレゾ製品だが、こと海外では「ヘッドホンがカギ」と高木社長は話す。

高木:残念ながら、(欧米市場では)ウォークマンは一度存在感がなくなったものです。シンプルにヘッドホンから攻めます。

 そこで、数が飛躍的に増える、とは想定していません。しかし、ハイレゾ対応で良い音のヘッドホンがあれば、ストリーミングなどの簡単に手に入る音源で満足している人も、より豊かな環境の中に身をおいていただけます。ワイヤレス系のハイレゾも重要です。弊社にもLDACがありますが、他社からも同様の技術が出てきましたし、ワイヤレスでもハイレゾと称せるものができます。

 ヘッドホンはどのスマホにもつながります。いいヘッドホンをつなげば、ハードウエアのパフォーマンスを引き出せる、という単純な気づきから広げて行きます。その先で、スマホではできないレベルの音作り・エクスペリエンスということで、ウォークマンも……という展開になるでしょう。

 アメリカ販社の奥田氏は、特に今年は、オーディオについて力を入れるとしつつも「長期戦だ」と言う。

米国市場の販売を担当する奥田利文氏

奥田:まずは、ソニーの音響製品はどういうものか、アイデンティティを作ることからはじめます。ソニーの音響がなにか、アプローチをやり直すところです。やはりみなさん、移動中はスマートフォンを持って聴いています。私もジョギング中に持つのはスマートフォンです。そこでお客様に身近に感じていただけなければ、お客様に刺さっていかない。ヘッドホンを軸に良さを市場に追求しなおさないと、そもそも「ソニーがこういうことをやっている」ということすら知らない方が多いのですから。

 そこでもうひとつの軸になるのが、重低音を軸にしたオーディオ機器である「EXTRA BASS」だ。元々ラテンアメリカを中心に人気があるラインナップだが、他の国でも人気が出てきているという。

北島:リスナーの嗜好は状況によって異なります。EDMやヒップホップでの重低音を好む層は「EXTRA BASS」を支持しています。特に北米・ラテンアメリカからのニーズが多いのも事実なのですが、日本でもアジアでも支持率が上がっています。嗜好の変化に応じているのです。もちろん、ハイレゾが軸であることに変わりはないのですが。

ターンテーブル発売の裏にある「音楽とソニー」の関係

 今回、ソニーが発表したオーディオ機器の中で、特に会場で注目を集めていたのが、ターンテーブルの「PS-HX500」だ。この製品は、レコードという「アナログ」機器でありながら、「ハイレゾ」ロゴもある。矛盾しているようだが、それは「配信におけるハイレゾ」とは少し違う意味合いなのだ。

PS-HX500

高木:アナログの復権、はあります。色んな音楽のバリエーションが見直されている、圧縮オーディオ一辺倒でなくなっていると感じます。そこで、ハイレゾの音源として変換できる機能を有したプレイヤーが、ソリューションとして必要だろう、と思ったのです。ターンテーブルは、アメリカ市場だけでなく日本でもきちんと売っていきます。

 音の世界は微妙なものだ。「音がいい」と良く言うが、それはスペックやデータとして「純粋である」「精度が高い」ことだけを示しているわけではない。原音再生という意味では、デジタルデータとしてのハイレゾ配信の優位性は揺るがないものの、再生した時のノイズやアナログ的な揺れも含め、「レコードから再生された音」をできるだけ充実にデータ化したものもまた「音がいい」と感じる人がいる。その辺が、「アナログなのにハイレゾで記録する」ということだ。

奥田:ソニーにはグループ会社にソニーミュージックがあるのに、市場の評価を見ると、音楽とソニーの結びつきでは、過去に比べ「かなり離れてしまった」と感じる人も多い。アップルとはそこが違います。ウォークマンが売れなくなった、ということだけが理由ではないのですが。音楽を聴きたい、音楽が好きな人に結びつく、という意味では、ソニーミュージックと、もっとなにかできないかとも思います。

 要は、「ソニーが音楽が好きな会社である」ということを、もっと知って欲しいのです。

 ターンテーブルを発売するのも、そうしたことに関連しています。アメリカ市場で「レコードの復権」が話題になっていますが、それは多分にファッション的な要素を含みます。アナログ的な音がいい、ということもありますが、私もレコードの持つ「儀式」的な部分への愛着もあります。実は最近、またカセットテープも売れています。これはある部分、ノスタルジーのようなところもあります。レコードは、音楽専門店だけでなくアパレル系の店にも置かれていますし。「音楽が好きな人」にとって、そういったものには価値がある、ということなのです。

 もちろん、ビジネスとしては冷静にみなくてはいけません。レコードが伸びているといっても、ストリーミングが圧倒的に主流であることに変わりはないですから。

ソニーが「Ultra HD Premium」ロゴに乗らない理由

 ビジュアルの面で、今年の話題は「4K+HDR」だ。ソニーとしてもアピール軸として重視している。高画質化・大画面化に伴うプレミアム路線にも沿う。そもそも、ソニーのテレビ事業は「数を追わない」形への転換でここまでやってきた。それはそのまま継続される。

奥田:現状、弊社が北米で販売するテレビは、ほとんどが4K、台数ベースで7割を占めます。その中でも、1,000から1,500ドルの製品にフォーカスしています。ここは高価格帯市場で、現状安定しています。画面サイズは55インチが主流だったのですが、急速に65、75インチと大きくなり、年末には75インチが品切れを起こしたほどです。

新4K BRAVIA「X93Dシリーズ」

高木:アメリカでは、プレミアムは75インチ以上になってきています。今後、80、85インチも出てくるでしょう。中国も同様です。ヨーロッパは55から65インチが主流、日本はさらに小さく、49インチから55インチです。これが一気に65インチまで広がる……というところではないでしょう。特に日本では、大画面化よりも4K化の方がマーケットでの支持は上です。

 そこで出てくるのが、今回技術展示が行なわれた「Backlight Master Drive」(BMD)採用の液晶テレビだ。製品化はまだ先だが、そのクオリティは素晴らしく、筆者個人としても期待している。

Backlight Master Drive

 一方で、市場にはプレミアム路線のパネル技術として有機EL(OLED)も登場している。ソニーとして、OLEDをどうするのだろうか?

高木:弊社はデバイスを買って製品を製造する立場です。その選択肢のひとつとして、OLEDの採用は常に検討しています。可能性はあるでしょう。

 ただし、今ソニーは、ブランディングの方向性を「大画面」「高画質」に置いています。OLEDは大画面でのコストパフォーマンスに問題があります。そこでBMDを使った液晶テレビと同じサイズのOLEDがあるのかどうか。ないなら採用しない、ということになります。

2012年のCESで発表したクリスタルLEDディスプレイ

 結局、他のデバイスも含め、どういう価格で作っていけるのか、ということです。2012年のCESで技術展示した「クリスタルLED」ディスプレイも、弊社内では平行して開発を進めています。しっかりとした商売の中でどう取り組むか、ということです。

 プレミアムという意味では、4K+HDRのコンテンツとそれが表示できるデバイスについて、業界団体である「UHD Alliance」が「Ultra HD Premium」ロゴを発行することが、今年のCESで発表になった。パナソニック、サムスン、LGは「Ultra HD Premium」ロゴをつけたテレビを展開するが、ソニーは、UHD Allianceに参加しているにもかかわらず、ロゴを取得しない。自社で独自に「4K UHD」ロゴを作り、対象製品で利用する。どのような意図に基づくものなのだろうか?

ソニー独自の4K/HDRロゴ

高木:ロゴを業界内で標準化する、という行為についてはリスペクトはしています。

 ただし、です。

 私たちは顧客に対し、「UHD」でなく「4K」を訴求してきました。「2より4」という、誰にでもわかりやすい形を採ったのです。また、放送機器・カメラ、コンテンツまでグループ戦略として、テレビ以外の製品でも「4K」を訴求してきました。テレビだけを中心にやってきたブランド戦略とは異なるべきだし、異なっていいと思っています。今年はそこに「HDR」を加えます。今後「なにがしたいですか?」という時に、ダイレクトに訴求できる言い回しを使います。

ソニーが採用を見送った「Ultra HD Premium」ロゴ

 一方で、「プレミアム」というのですが、我々はこれまでもずっと「4K Premium」でやってきました。1,000ドル以上のものをプレミアムと称してやってきたので、さらにそこで「プレミアム」という呼称を加えることに違和感もあります。あるスペックをクリアーしたものに「UHD Premium」というロゴをつけるわけですが、私たちはずっと「プレミアム」を主としてやってきました。継続的なマーケティングの中で「プレミアム」が重なることに違和感があるのです。

 それよりも「2Kより4K」「SDRよりHDR」、このシリーズでアピールする方がソニー全体の戦略にも合っていますし、お客様にもわかりやすい。そういう考え方です。

 ソニーはハイレゾでは「HiRES」ロゴを他社にも提供、業界全体の印として普及を目指した。だが、「4K HDR」については、「他社にロゴ供給をする予定はない」(高木社長)という。

「アウトプットデバイス」重視、UHD Blu-rayプレーヤーは「2016年度内」に

 4K+HDRの戦略において、ソニーは明確に「配信重視」を採っている。今年のCESでも、ディスクメディアである「UHD Blu-ray」への取り組みは発表されなかった。この点はどうなっているのだろうか? また、昨年末はレコーダーも新製品がなかった。ここも気になる。

高木:ディスクメディアを軽んじているわけではありません。ソニーグループとしてはパッケージソフトも出しますし、フォーマット作りでリーダーシップもとってきました。

 ただしビジネスとして、限られた時間とリソースの中で行なうことを考えると、ソニーは「アウトプットデバイス」に集中しています。音であればハイレゾのヘッドホン、映像であればテレビ、ということです。

 一方、プロセッシングデバイスであるデッキやプレーヤーについては、集中しているアウトプットデバイスの「次」に来ます。

 レコーダは日本がほとんどを占める市場で、縮小しているのは事実です。しかし、お客様からご要望いただいていることも承知しています。多少、開発の時期やタイミングの問題はあります。現在、発売のタイミングや商品戦略を、対話しながら決めているところです。「遅い」と思われるかもしれませんが、しばらくお待ちいただければと思います。レコーダに関する戦略を根本的に変えたわけではないですし、レコーダ市場にのこっておられるお客様との対話は続けていきます。

北島:やはり、お客様がどのように楽しまれているかが重要です。4Kの場合、現在はまずストリーミングがあり、放送がきて、その次にディスクです。どのくらい市場が広がっているかを見極める

「スタートの段階でソニーのレコーダ/プレーヤーやないことにがっかりする」というお客様がいらっしゃるのは理解していますが、誤解していただきたくないのは、「とにかく再生できるものを出す」ことが大事ではない、と考えている、ということです。本当に価値があり、楽しんでいただけるものを提供したいのです。

 過去に先陣争いをしてきた取り組みについて、御評価をいただいたことはありがたく思っています。しかし本当に考えないといけないのは、プライドであったりメーカーの沽券ではない、と思うのです。どうやって商品の価値を実感して、使っていただけるか、ユニークな製品を出すことです。

 高木社長も北島氏も、UHD Blu-ray製品やレコーダを「作っていないわけではない」と口を揃える。その内容についてはコメントがないものの、北島氏は、「UHD Blu-rayプレーヤーについては、2016年度内には」と一言だけ教えてくれた。

 他社に比べると登場は遅れるが、その分、画質や使い勝手などで差別化された製品が登場することを期待したい。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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