西田宗千佳の
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新AQUOS「DS6」に見る「新フェーズに入った液晶テレビ」

~システムを一新し、市場に攻勢をかける戦略モデル~


AQUOS DS6シリーズ

 シャープは、液晶テレビ「AQUOS」の主力モデル「Dシリーズ」のモデルチェンジを行なった。今回のモデルネームは「DS6」。価格帯こそ主力の40型クラスで25万円前後と、従来と大差ない。だが、その内容や作り方は、「これまでのモデルとは大きく変化している」とシャープは話す。

 今回は、DS6の商品企画・開発陣へのインタビューを通し、液晶テレビが迎えた「次のフェーズ」を探ってみる。


LC-40DS6-R(左)、LC-32DS6-B(右)LC-40DS6-B

 

製品名サイズパネルカラー店頭予想価格
LC-52DS652型1,920×1,080ドットブラック(-B)
ホワイト(-W)
45万円前後
LC-46DS646型ブラック(-B)
ホワイト(-W)
35万円前後
LC-40DS640型ブラック(-B)
ホワイト(-W)
レッド(-R)
25万円前後
LC-32DS632型ブラック(-B)
ホワイト(-W)
レッド(-R)
20万円前後

■ 同じパネルなのに画質は大幅向上。機能も画質も「上位機クラス」

 まずは簡単に、DS6の概要を説明しておこう。

「AQUOS DS6」の位置づけ。ネットワークまでを基本機能としつつ、エコ性能・画質なども向上、バランスの良さを狙った

 すでに述べたように、DS6は同社のAQUOSシリーズの中でもミドルクラス、主力に位置づけられる商品で、販売数量も多いモデルだ。昨年7月発売の「DS5」の後継機にあたる。同社としては「ベストバランスTV」に位置づけ、拡販を行なっていく。

 昨年モデルと大きく違うのは画面サイズだ。

 従来は32/37/42型というサイズ構成であったが、DS6は32/40/46/52型と、大型化、ラインナップ拡充がはかられている。特に注目は「40型」の存在だ。これまでこのサイズは、特に国内市場の場合、ソニーが中心となって盛り上げてきたところであり、一般的には「37型と42型で挟み撃ち」という印象の強いところであった。だがそれが、最大手のシャープも一気に「40型」へシフトした。これにより、液晶テレビの「主力サイズ」の分布は、大きく塗り替えられることになるだろう。

 パネルのスペック自身は、現在販売中のEX5シリーズと同等。パネルのコントラストで2000:1、テレビコントラストが15,000:1という値は、今の製品として見れば「それなり」である。

 だが、製品の映像を見てみると、印象はかなり異なってくる。

 DS5との比較ではもちろんだが、EX5との比較でも、画質は明らかに上だ。特に違うのは、映像として見た場合の「コントラスト表現」だ。従来はディテールがつぶれてしまっていた「暗い場所」がしっかり見える上に、色再現性も高まっている。店頭展示用の「ダイナミックモード」は、やはり少々色合いがきつい感じだが、それ以外のモードに変更した場合には、階調表現もなめらかになっている。明らかにこれまでのシャープの絵作りとは異なった印象を受ける。普及機でこの画質が出るのならば、かなりお買い得といっていいだろう。

 機能面でもかなり充実している。

 これまで、シャープはアクトビラ・ベーシック以外のネット機能については、「Rシリーズ」、「Gシリーズ」といった上位機種にのみ搭載してきた。しかし、DS6ではその方針を変える。アクトビラ・ビデオフルはもちろん、5月27日よりスタートした、Yahoo! JAPAN運営による動画配信機能を持つ「Yahoo! JAPAN for AQUOS」にも対応。また、NTTぷらら運営の「ひかりTV」受信機能も持ち、別途STBをつなぐことなく利用できる。

高画質化を狙うために、主に3つの機能を搭載。特にアクティブコンディショナーの効果は高く、発色とコントラストが自然になった印象を受けるインターネット機能は大幅拡充。アクトビラ・ビデオフルはもちろん、ヤフーとの提携による独自の映像配信が利用できる点が大きいチューナ追加なしに「ひかりTV」に対応する

 ミドルクラスのモデルで、画質と機能を大幅に向上させた上でサイズを大きめに振ってきたということは、他社製品に対する大きな武器となるが、他方で「上位モデルに動く顧客」を、あえて低価格帯にとどめてしまう危険性も持っている。逆にいえば、普及価格帯にこれだけのモデルを用意してきたということは、今期シャープが、液晶テレビ市場に相当の覚悟をもって臨むことの証といえる。

 


■ エコ・低価格に市場は「変わった」。「第六世代プラットフォームLSI」で高画質化を実現

「この半年で、市場はほんとうに、びっくりするくらい変わった」

 シャープ・AVシステム事業本部・事業推進室・参与の出野忠男氏は、開口一番そう告げた。出野氏は、同社液晶テレビ事業で長くマーケティングを統括してきた人物で、今回の新モデルの仕掛け人の一人である。

出野:今回のような変化は、本当はもっと長い時間をかけてやらなければいけないものです。ですが、やってしまった。

 昔は、「電気代なんてどうでもいい。とにかくいいのを持ってきてよ」と言われたものですが、いまはまったく違います。省エネであることはもうあたり前。その上で、高画質でないと買っていただけません。今回の製品の仕込みを行なっていたのは、昨年のことです。一気に市場が冷え込み、他方で「エコ」が重要になってきました。

 しかも現在、液晶テレビは「フォロワー」の時期に入ってきています。薄型大画面テレビの世帯普及率は、だいたい45~50%くらいですかね。この変化にあわせた上で、「お得感」がないと、お客様のマインドについていけないんですよ。

 すでに述べたようにDS6は、「大幅な画質改善」と「高機能化」を実現している。既存の高級モデルである「Gシリーズ」「Rシリーズ」の領域を、ある程度浸食しはじめている。

出野:日本のお客様は、現在守りに入っています。言葉はよくありませんが、「高級機種を買って見せびらかす」ような消費が減るのでは、と思っているわけです。商品開発を行なっていた、昨年の10月、11月、12月に、まったくそのようなことを考えました。

 そこで考えたのは、「Dシリーズ」クラスを「Rシリーズ」クラス(の画質・機能)にまで上げてしまわないと、ということです。はっきり言って、「上をやっつける」くらいのものではないと。

 特に今回、まったくの「新機軸」として搭載されたのが「Wクリア倍速」という機能である。これは、いわゆる中間フレームを生成しての120Hz駆動なのだが、中間フレームの作成方法が他と異なる。

 通常、中間フレームは「前後の2フレームから補完」する形で作成する。だがDS6シリーズの「Wクリア倍速」では、補完画像生成の際に「動画ボケ」の検出を行い、あえて「ボケのない」映像を作成して挟み込む、という作業を行なっている。

 ここでいう「動画ボケ」とは、カメラの左右パン時などに発生するブラーのことだ。ブラーがかかった映像から補完画像を作ると、もちろんその映像にもブラーがかかる。そのため、本来「ボケを緩和するための映像」にボケが加わることになるため、ディテールのつぶれがよりひどくなるのである。この際には、カメラの映像撮影モデルを参考に作った「ブラー検出アルゴリズム」を使い、出来る限り「パンによるブラーのみを補正する」ようにしている、という。

Wクリア倍速のデモモード。パンのある映像でつぶれがちなディテール(写真の場合には屋根瓦の部分など)のぼやけが少なくなり、映像が大幅に見やすくなるWクリア倍速の設定画面。「パンのぶれを取る」という特質上、副作用もゼロではないため、標準設定は「比較的コンサバ」(同社)な設定。強めに設定変更をすると、よりボケは緩和されるこの機能は、24pの映画タイトルのジャダー防止にも使われれる。ただし、完全になめらかにしてしまうと「映画らしさ」が失われるため、こちらも標準設定はコンサバなものとなっている

 これに加え、各シーン毎にノイズリダクションやコントラスト/色調整を行なう「アクティブコンディショナー」という機能を追加することで、パネルスペックを大幅に変更することなく、画質の向上を実現している。

シャープ AVシステム事業本部 要素技術開発センター 第二開発部 小池副参事

 シャープ AVシステム事業本部 要素技術開発センター 第二開発部 副参事の小池晃氏は、「前段の処理を行なうことで、ボケは大きく緩和できるようになる。アクティブコンディショナーの場合、処理は1フレーム単位で行なっているが、継続的に設定を切り換える場合が多い。シーンチェンジ時には1フレームでスパッと切り換え、そうでない場合はじんわりと変化させている。その際には、ビットレートの変化も参考にしている」と話す。

 実のところ、DS6の秘密のほとんどは「画像処理LSI」にあるわけだ。

 このような傾向は、どの液晶テレビでもあることだったが、シャープの場合には、これまで「高画質化エンジン」の効能をあまりアピールしてこなかった。誤解を恐れず筆者の認識を言えば、「パネルなどのデバイスの力はすごいが、画像処理能力では他社に一歩劣るため、ミドルクラス以下の製品では画質的に厳しい」というものだった。


 だが、DS6はその印象を一変させるポテンシャルを秘めている。

 出野氏にそう語ると、彼は笑いながら次のように話した。

出野:輝度をあげれば画質はあがるが、いまはそういう時代ではないでしょう。でも、もう許されない。そういう変化が、この半年で起こったんです。実際、エコモデルである「AE6」は、おかげさまで非常に好調です。

「パネルのスペックを上げていないじゃないか」と言われそうですが、そんなことはないんです。32型、37型のパネルから、AE6で作った「32型のエコパネル」「40型のエコパネル」を生かしたものへと変えたんです。パネルは色々ありますが、そういう使い方をしていかないと、もうラインの維持はできませんよ。

 (液晶パネルの)技術者には怒られるかも知れませんが、「パネルが変わらなくてもLSIでなんとかしてやる」くらいのつもりで作りました。だから、(映像処理の)エンジンも違うし、商品の設計スタイルも違う。いままでのものとは、全然違う作り方をしたんです。

 出野氏によれば、あえて「240Hz」や「黒挿入」でなく「Wクリア倍速」であるのも、このモノ作りのあり方から来ている。

出野:色々評価はしましたよ。でも、黒挿入は弊害も多いんです。輝度が下がるのはもちろんですが、CCFLではフリッカー(ちらつき)が出るんです。

 CCFLとLEDでは、適している処理が違うのではないか、というのが我々の結論、です。LEDはバックライト制御で挿入するので問題ないんですが……。ですから、CCFLであるこの製品では、「Wクリア倍速」が最適だと思っています。

 シャープ側は、DS6で採用したLSIを「第六世代プラットフォーム」と呼んでいる。この名称からわかるように、DS6への搭載だけを目的に開発したものではなく、今後同社のテレビで広く使われていくことになる。

出野:かなりのコストをかけて、一生懸命作ったLSIです。ですから、RシリーズやGシリーズにも使っていきますよ。それがどんな商品になるかは……(笑) 楽しみにお待ちください。機能的には、きっちりプロ級のテレビにまで使えるものになっていますので。

「Wクリア倍速」採用の理由として、「CCFLに向く」という言い方をしているのは、そのあたりの絡みがありそうだ。シャープは、最上位機種「XS」で、エリア駆動カラーLEDバックライトを採用している。どんなものになるかはわからないが、ハイエンドにあたる「Rシリーズ」では、おそらく、単純にCCFLを採用することはないのでは……。筆者はそう予想する。

 


■ ネット機能まで「1チップ化」。Exシステムで「テレビらしい」ネット動画を

 もう一つ、DS6に搭載された新LSIには特徴がある。画像処理エンジンとネットワーク処理系のエンジンが「1つのLSI」に統合されている、ということだ。

 すでに述べたように、DS6にはネットワーク系の機能が充実している。特に注目すべきは、「Yahoo! JAPAN for AQUOS」で、映像配信やユーザーインターフェース開発に利用されているシステムである。

AQUOS DS6における「アクトビラ・ビデオ フル」の画面

 4月からスタートした「テレビ版Yahoo! JAPAN」では、「デジタルテレビ情報化研究会」の定める「デジタルテレビ ネットワーク仕様」が利用されている。といっても複雑なものではなく、ベーシックなHTMLにMPEG-2やMPEG-AVC/H.264といったコーデックを組み合わせたもの。特別なブラウザは必要とならない代わり、ユーザーインターフェースは古典的なウェブを少々手直ししたもの、という域を出ない。

 シャープのAQOUS向けウェブサービスでは、同社とヤフー・ジャパンが共同開発した「Exシステム」が採用されている。これまでは静止画までの対応だったが、DS6からは動画に対応、より「デジタルテレビ ネットワーク仕様」との差が明確になった。

 Exシステムの開発を担当、今回もヤフーとともにサービス実装を手がけた、シャープ・AVシステム事業本部・A1259プロジェクトチーム・主事の稲本憲氏は、狙いを次のように語る。

稲本:ウェブのリンクをたどる、というユーザーインターフェースではなく、映像をリモコンで選ぶ感覚で使えるのが最大の特徴です。例えば、お勧めの映像が流れている最中にも、リモコンの上下・左右ボタンで別の映像に切り換えることができます。一覧を表示した場合でも、テレビやレコーダを使う感覚に近い画面で利用できます。リモコンの赤ボタンを押していただければ、画面下に、映像にオーバーラップする形で、切り換え用の画面が出ます。ですから、映像を邪魔することもありません。ちなみに、上下がカテゴリの変更、左右が作品の切り換えです。

 やはりテレビですから、気楽に簡単に見れることが重要。そのためのインターフェイスを構築するが、Exシステムの狙いです。

Exシステムを利用した「Yahoo! JAPAN for AQUOS」における動画再生時のUI。リモコンでの操作性を高め、映像の切り換えは、動画上にオーバーラップする小さなウインドウで行なう。現在なにが再生中かを見るには「赤」ボタンを押してウインドウを出し、そののち映像を切り換える際には、十字キーで操作する。一覧表示にすることももちろん可能だ

 もう一つ重要なことがある。

「Yahoo! JAPAN for AQUOS」の画面。高い画面解像度にあわせて最適化されたものになっている。また、リンク先の先読みなどもおこなわれるため、一般的なウェブ閲覧よりも快適になる

 Exシステムを使った「Yahoo! JAPAN for AQUOS」は、DS6のパネル解像度である1,920×1,080ドットに合わせて構築されている。アクトビラ・ビデオ フルなど汎用のサービスは、他の製品との互換性を取るため、800×450ドットでUIを構築し、それを「拡大表示」する形になっている。そのため、前者の方がより精緻で見やすい表示になっている。特別なシステムを使っているため処理が重いのでは……と思われそうだが、短時間利用した範囲では、「もっさり」感は感じなかった。これを画像も含め1チップでやっている、というのだから、なかなかのものだ。

 また、DS6には「ホームネットワークを使ったスライドショー」の機能が搭載されている。要は、DLNAを使って、NASやPC内の写真、音楽のフォルダにアクセスするものなのだが、あえて「スライドショー」に特化している。

 映像入力を「ホームネットワーク」に切り換えると、DS6は自動的に、DLNAサーバー内にある、指定のフォルダー内にある写真を、同様にフォルダー内の音楽ファイルを使い、「スライドショー」の形で自動再生する。もちろん、直接DLNAのフォルダ構造を見て再生もできるが、それは「メイン」ではない。稲本氏は、「わかりやすさを優先しました。ニーズが高い機能に特化した、とお考えください」と語る。

ホームネットワーク画面DS6の「ホームネットワーク・スライドショー」機能。入力を切り換えると、すぐにスライドショーが始まる仕組み。画面中にはほとんどDLNAの文字が出てこず、操作は確かに簡単だ

 機能的に考えると、ネット動画であれだけ優れた機能を持つDS6のLSIが、DLNAによる動画配信に対応できない理由はない。難しい機能を搭載しても使われないだろう、と判断してカットした、と推測される。少々残念だが、「どんなサーバーを使うのか」「トランスコーダーのないサーバーが主流の現在、再生互換性の問題をどうするのか」といったあたりにある程度の解決策が見えてこないと、シャープが狙う顧客層にはマッチしない、ということなのだろう。

 


■ 40型は「液晶のマジックナンバー」? グレア液晶やヒドゥン・スピーカーは否定

 他方、DS6は他社の動向を強く意識したモデルともなっている。最も大きいのは、液晶サイズの変更だろう。

出野:32型をお買いになった方を長期的にリサーチしてみると、やはり「後悔している」とお答えになる方が多い。サイズは大きい方がいい、ということなんでしょう。

 中でもやはり「40型を超える」というのは、心理的にかなり大きな意味を持っています。40型というのは、マジックナンバーなんですよ。車でいえば「3ナンバー」みたいなものですかね。

 もうひとつ大きな要因があります。それは、1998年から2002年くらいまでに販売された、37/42型のプラズマテレビの買い換えが始まっている、ということです。おおむね、160万台くらいの市場になるでしょうか。 意外と大きいでしょう?

 当時購入された方は、まあ、相当な投資をされていると思います。そういった方々に、「もっと高機能で、高画質で、ぐっと省エネな液晶テレビが、こんな値段で買えますよ」というメッセージを出せれば、と考えています。

 37型を考えておられた方には「夢の40型」を、42型を持っておられた方には「46型も届きますよ」「似たようなサイズなら、もう少しお手軽になりますよ」とアピールできれば、と思います。これまで、ソニーさんが熱心にやってこられたところですが、我々も本腰を入れますよ。

 他方で、他社が先行している「グレア液晶」、「音の反射を利用したヒドゥン・スピーカー」には、批判的な立場を取る。

AQUOS DS6では、上位機と同じフルデジタル・1ビットアンプを搭載。スピーカー周りの設計・デザインは、これまでのモデルを踏襲したものとなっている

出野:もう、ずっと前にリサーチを終えているんです。営業の現場では「グレア」の話が必ず出ますが、私は「グレアは良くない」と説得して回っています。液晶に反射があると、見る時にストレスがかかる。それは良くない、と思っています。そういう医学的な調査結果もあるので、グレア液晶はやりません。それに、特に安価な製品で、アクリルパネルだけつけて「透過性が高いので見やすい」とアピールするのは本末転倒でしょう。

 海外で流行りのヒドゥン・スピーカーもやりません。だって、音が悪いじゃないですか。

 今回DS6では、フルデジタル・1ビットアンプを搭載しました。従来はすこしだけアナログ回路があったんですが、今回はフルデジタル。大きなバスレフもつけて、スピーカーもきちんと正面を向けて、しっかり音を出します。フルデジタル化による差は、実のところものすごく大きい、というわけではないですよ。でも、見栄えだけを重視して音を悪くするのは違うと思います。


本体下部にスピーカーを搭載。アンプは1ビットデジタルサイドポートバスレフを搭載

 これはあくまで私見だが、「ミドルクラスの価格でも、LSIの力で画質は良好、機能も十分」という方向性は、東芝のREGZAを意識したものではないだろうか。REGZAは、画質・機能の高さに加え、「上位機のZシリーズが安い」ことでシェアを伸ばしてきた。事実、Zシリーズの優秀さは、東芝が開発したオリジナルエンジンである「メタブレイン」シリーズに寄るところが多い。

 液晶テレビでトップシェアを持つシャープとしては、ミドルクラスという主戦場で、「画質・機能でも負けていない」という商品をもって闘いたい、ということなのだろう。グレア液晶やヒドゥン・スピーカー、比較的煩雑なネットワーク機能のカットといった商品性は、レグザと比較すると、非常にキャラクターがわかりやすい。

 短時間ではあるが、映像を見た限りにおいて、彼らの主張は正しいように見える。昨年モデルなどに比べ、明らかに「お買い得」になっている。「ベストバランスTV」という言い方も、そういったイメージから来ているのだろう。自社開発のエコパネル+第六世代プラットフォームが、どこまで「ミドルクラスAQUOS」の評判を高めるのか、注目したい。

 そして、「同じLSIでハイエンド液晶デバイス」を使った商品がどうなるのかも、興味深い。遅くとも年内、早ければ数カ月以内にも登場すると思われるが、「もうちょっと上位機」が気になる方は、そちらも要チェックである。

(2009年 6月 4日)


= 西田宗千佳 = 1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、月刊宝島、週刊朝日、週刊東洋経済、PCfan(毎日コミュニケーションズ)、家電情報サイト「教えて!家電」(ALBELT社)などに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。

[Reported by 西田宗千佳]