西田宗千佳の
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iPhone 4Sのカメラ機能をチェックする

~1080p対応。暗所性能向上し、青(緑)かぶり解消~


iPhone 4S

 もうすぐiPhone 4Sが発売になる。16カ月ぶりの新機種となるが、iPhone 4からデザインが変わらなかったためか「拍子抜け」という声も少なくないようだ。

 しかし、中身を見ると、4Sは4に比べ長足の進歩を遂げている。特に注目は「カメラ」。スペックだけを見ても、他のスマートフォン用カメラに勝るとも劣らないものになっている。

 今回は、日本で発売される製品と同じ機器を使い、iPhone 4Sのカメラ機能をチェックしてみた。結果は、なかなか興味深いものとなった。



■ 画質は静止画/動画とも、「iPhone 4」から大幅に向上

iPhone 4S

 筆者の手元には、常に何台かのスマートフォンやタブレットがある。だがその中で、日常的に使っているものがなにかと言われると、「iPhone 4」と「Xperia arc」だ。

 iPhone 4は、もう16カ月にわたって使い続けているが、こと使いやすさに限っていえば、その後に出た他のスマートフォンと、いまだ十分に戦っていけるだけの商品性を備えていると思う。

 他方、カメラの機能についてはどうも不満が残る。特に気になるのは、条件が悪い時の撮影品質の悪さだ。暗いところに弱いだけでなく、色がかぶることも少なくない。気軽に持ち歩いて使えるのはスマートフォンの良さだが、それだけに、カメラ品質は重要だ。Xperia arcをはじめとした、他のスマートフォンも併用するのは、そういった気分によるものが大きかった。


iPhone 4Sでは新光学エンジンを搭載

 だが、iPhone 4Sは違う。詳しいスペックは発表時の記事を別途参照していただきたいが、レンズが5枚5群、F2.4の明るいものに変わっただけでなく、センサーそのものの精度も上がっているという。解像度が800万画素になっているが、そちらは余禄といってもいいくらいだ。4Sに搭載されたシステムLSI「A5」は、iPhone 4用の「A4」と違い、高性能なイメージ シグナル プロセッサ(要は、カメラ機能用の画像処理回路)が混載されているという。レンズの性能向上、センサーの性能向上、画像処理の性能向上により、カメラ画質が大幅に上がっている、というのがアップルの主張である。

 では、その主張は正しいのだろうか? 実際に撮影して確かめてみよう。

 比較に利用するのは、iPhone 4S 64GB(白、ソフトバンクモデル)とiPhone 4 32GB(黒)、Xperia arc(NTTドコモモデル)の3機種である。すべて、最高画質、オートの設定で撮影している。「さっと撮影してぱっとしまう」という、携帯電話の特性を考えてのことだ。なお、iPhone 4SはiOS 5、iPhone 4はiOS 4で動作している。

 まずは、iPhone 4でよく問題になりがちな「青(緑)かぶり」からだ。iPhone 4では、特に光量が不足する室内で色が均質な部分を撮影した際、中央に青い色がかぶってしまうことが多かった。書類や室内の風景を撮るときなどに起こりがちで、筆者も最も不満な部分であった。

 結論から言えば、青かぶりはまったくなくなった。4Sは、ホワイトバランスが暖色系になっている印象を受けるが、実際に目に見える色で考えると、Xperia arcよりも4Sの方が忠実か、と思える。ただし、周辺部ゆがみの少なさは、Xperia arcが最も少ない。

【青(緑)かぶりのテスト】

iPhone 4SiPhone 4Xperia arc

 暗い街中も、iPhone 4が苦手としていた場所だ。ホワイトバランスがおかしくなりやすいし、ノイズも多くなってきちんと写りにくい。だが、iPhone 4Sではかなりこの点が改善した。ノイズ感の少なさではXperia arcの方が上という印象も受けるが、色合いは4Sの方が正しい。

【夜間撮影:フラッシュを使わない場合でもそれなりに写る

iPhone 4SiPhone 4Xperia arc

 明るい日中の写りも、4Sは大きく変わった。

 全体的な印象でいえば、「解像感が上がって発色が自然になった」「外縁部の色変化が少なくなった」という感じだろうか。センサーが500万画素から800万画素に増えたこと以上に、レンズのクオリティ向上がプラスに働いているのでは、という感触だ。Xperia arcは、4Sに比べると「薄い」写りで、発色が自然ではない。ディテール感はarcも悪くないが、色の点でマイナスだ。iPhone 4は、時にどぎつい色になってしまいやすい。

iPhone 4SiPhone 4Xperia arc
赤いポストの色合いと、周囲の自転車のディテールに注目

 

iPhone 4SiPhone 4Xperia arc
iPhone 4Sは少し暖色寄り過ぎる印象も受けるが、秋らしい色合い

 

iPhone 4SiPhone 4Xperia arc
解像感は、iPhone 4S・Xperia arcが良好。iPhone 4は周辺部の色変化が気になる。Xperia arcは全体的な色味が不自然

 

iPhone 4SiPhone 4Xperia arc
パンの肌などのテクスチャー感に注目。iPhone 4Sは全体が良好。iPhone 4もコントラスト感は悪くない。Xperia arcは、ちょっと色が浅すぎる。

 では動画はどうだろう? どの機種も、圧縮コーデックとしてはAVCを利用しているが、解像度やビットレートは異なる。

 iPhone 4Sは1080p/30fps、24Mbps程度と、かなり圧縮率が低く、一見して高画質である。iPhone 4が720p/30fps、10Mbps程度であるのに比べると、相当に大きなデータになっている。その分もちろん、画質も良い。それに比べるとXperia arcは、最高画質設定でも720p/30fps、6Mbps程度と、圧縮率が高めになっている。20秒分の映像データの容量で見ても、4Sが約62MB、4が約28MB、arcは約18MBと、サイズも画質に応じたサイズ差がある。携帯電話であるためにarcは小さめのサイズに抑えているのだろうが、ちょっと圧縮しすぎという印象を受ける。

 ここまで容量の大きな映像を記録することになると、記録容量は大きければ大きいほどいい。特に、メモリーカードを使えないiPhoneの場合ならなおさらだ。録画に使うデータがおおむね倍になったことを考えると、iPhone 4Sのフラッシュメモリー容量が倍になったのも頷ける、というところかも知れない。

【撮影動画サンプル】


pq4s.mov(59.6MB)

pq4.mov(26.9MB)

pqxp.mp4(16.8MB)
iPhone 4SiPhone 4Xperia arc

 なお、iPhone 4Sは、撮影映像同様、1080pのMPEG-4 AVC/H.264 ハイプロファイル レベル4.1の動画再生に対応している。この点は、同じA5採用のiPad 2と同じである。ファイルを実際にiPhone 4Sに転送してみたが、特に問題なく再生できた。また、Apple Digital AVアダプタやApple VGAアダプタを使った場合には、ディスプレイに表示されている映像をそのまま外部ディスプレイにミラーリング表示できる。この場合も、1080pでの動画再生が可能であった。

 ただし、Apple TVにAirPlayミラーリング機能を使って転送表示する場合には、解像度は720pへと落として表示された。


■ カメラの起動速度が大幅向上、手ぶれ補正機能も有効

 そもそも、iPhone 4Sでは、カメラの写りはもちろん、使い勝手の面でも大きな進歩がある。

 まず起動時間。論より証拠、各機種でのカメラ機能の起動までを撮影したムービーをご覧いただきたい。iPhone 4に比べ、4Sは圧倒的に高速になったのがおわかりいただけるはずだ。

 iOS 5では、ホームボタンをダブルクリックした際、ロック画面から直接カメラ機能を呼び出すことができるようになっている。この機能はiPhone 4やiPhone 3GSでも使えるが、カメラそのものの起動高速化には、ハードウエア面での改善も必要だ。そのため、4Sほど素早くカメラが使えるようにはならない。

 iPhone 4Sは1、2秒でカメラが使えるようになるのに対し、iPhone 4はかなり遅い。Xperia arcはiPhone 4より速いが、4Sに比べると若干遅いようだ。

【カメラ起動時間の比較】

iPhone 4S
iPhone 4
Xperia arc
撮影時にはグリッドラインが表示できる。切り替えは、中央上部の設定項目から

 もう一つ、便利なのはiOS 5での改良に伴う操作性の改善だ。これまで、iPhoneでは写真を撮る際、画面上のシャッターボタンを押す必要があった。そのため、不自然な姿勢で撮影しないといけないため、急いで撮影しようとすると手ぶれしやすかった。iOS 5では、音量の「+」ボタンがシャッターとしても働くようになったので、より自然に撮影ができる。

 また、グリッドラインも表示できるようになったので、水平の確認も楽になった。このあたりは、iPhone 4や3GSをiOS 5にアップデートしても利用できる。

 問題だと思うのは、デジタルズームの開始が、ズームレバーのスワイプではなく「ピンチ」動作になったことだ。ズームレバーなら指1本で操作できたが、ピンチには指二本が必要。ちょっとしたことなのだが、意外と面倒に感じた。


iPhone 4Sでは、AF/AEロックに対応。撮影したいポイントにAF/AEロックをかけられる

 iPhone 4Sならではの改善点は、オートフォーカスと自動露出の活用だ。撮影中にAF・AEを効かせたい部分を長押しすると、そこにAF・AEロックがかかる。撮影の自由度を上げるにはありがたい改善だ。

 また、動画撮影時には「手ぶれ補正」も効くようになった。センサーが撮影した部分を手ぶれに合わせて移動する、俗にいう「電子式」のものだが、効果はなかなか。手ぶれ補正のないiPhone 4やXperia arcに比べ、はっきりと見やすい映像が撮影できる。

 同じ場所をできる限りおなじように歩き、手ぶれの状況を確かめてみた。iPhone 4Sでは、手ぶれ補正機能の効果により、細かなぶれがかなり消えている。


【手振れ補正の比較】

iPhone4S(元映像:36.8MB)
iPhone4(元映像:20.6MB)
Xperia arc(元映像:12MB)

 iPhoneのカメラ機能は、他の製品に比べ非常に設定がシンプルだ。画質設定や圧縮率の設定は、iOS5/iPhone 4Sになっても存在しない。新たに搭載された手ぶれ補正についても、自動的に働くようになっていて、オフにする設定はない。この割り切りがアップルらしさだが、解像度や圧縮率の変更くらいは、そろそろあってもいいのでは、と思う。


■ 「音楽のクラウド化」には未対応だが無線LANでの同期は便利

 最後に、iOS5に対応した「iTunes 10.5」「iPhoto 9.2」の改善点にも触れておこう。

 iOS5では、クラウドサービス「iCloud」に対応する。iCloudには、最近30日分もしくは1,000枚までの写真が記録される「フォトストリーム」機能がある。これを使うと、撮影した写真はiCloud上に蓄積されることになり、パソコンや他の機器との間で簡単に共有できるようになる。例えば、iPhoneで撮った写真をパソコンに転送する際などに便利だ。

 フォトストリームは主に無線LAN下で使うものと規定されており、特に新しい写真の端末へのダウンロードは、無線LAN利用時のみ行なわれる。大容量データの転送が、3G回線に混雑を引き起こすことを嫌っての施策と思われる。

iOS 5対応のiPhotoから見た「フォトストリーム」。iCloudに登録した複数のiOS対応機器、パソコンなどから収集した写真がすべてこの中にまとめて表示される。位置情報など、タグ内に記録された情報もここで見られる
無線LANでiTunesとiPhone 4Sを同期

 また、iTunes 10.5では、楽曲の同期にケーブルを使わず、無線LANを使うこともできる。一度登録しておけば、あとは「同一のLAN内にいる」「iOS機器が電源につながってる」という2つの条件を満たした時、自動的に楽曲やアプリが同期されるようになるのだ。

 例えば、パソコンが置かれている場所とiPhoneを充電する場所が離れている時などに、非常に便利だ。


iTunes 10.5での「iTunes Wi-Fi同期機能」の設定項目。これまでケーブルをつないで行っていたことが、みな無線LAN経由で行なえるようになった

 アメリカでは「iTunes in the Cloud」機能を使い、アプリだけでなく、iTunesで購入した楽曲もiCloud上に履歴が蓄積され、手持ちのパソコンやiOS機器に「自動ダウンロード」されるようになっている。この機能は残念ながら、日本では利用できない。また、10月下旬からスタート予定である「iTunes Match」も、日本はスタート予定に入っていない。

 これらの「音楽を自由に楽しむサービス」が日本でまだ使えないことは残念だが、いつまでも不便なままではいないだろう。それを消費者が許すとは思えないからだ。

 そのタイムラグをどこまで縮められるのか。アップルという会社の交渉力、そして日本のコンテンツホルダの「本当に重要なものを見通す目」が試されている。

(2011年 10月 12日)


= 西田宗千佳 = 1971 年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、PCfan、DIME、日経トレンディなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。近著に、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「メイドインジャパンとiPad、どこが違う?世界で勝てるデジタル家電」(朝日新聞出版)、「知らないとヤバイ!クラウドとプラットフォームでいま何が起きているのか?」(徳間書店、神尾寿氏との共著)、「美学vs.実利『チーム久夛良木』対任天堂の総力戦15年史」(講談社)などがある。

[Reported by 西田宗千佳]