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変わるゲームビジネスの中で、再び「PS2」のような成功を

PS4に込めたPSのDNA。SCEハウス社長インタビュー

ソニー・コンピュータエンタテインメントのアンドリュー・ハウス社長。手にしているのは、もちろんPS4だ

 E3では毎年お届けしている、ソニー・コンピュータエンタテインメントのトップインタビューをお届けする。ご回答いただいたのはもちろん、SCE社長のアンドリュー・ハウス氏だ。PlayStaion 4(PS4)の発売を控え、SCEがPS4に対して賭けていること、PS4のデザイン秘話、そしてゲーム機のこれからなど、話題は多岐に渡った。

販売モデルは「ユーザー第一」、オンライン対戦は有料モデルへ移行

──PS4をローンチ(事業立ちあげ)する上で、どういったことを重視しましたか? コンソールビジネスは変わりつつある、と言われます。そんな状況の中で、どうすべきと考えて、PS4のローンチ・プランを定めたのでしょうか。

ハウス社長(以下敬称略):ユーザー体験を第一優先にしています。2月の発表時にもお話しましたが、「新たな人と人とのつながり」による新しいゲームのおもしろさを提供したい、と考えています。

 その上で、身体的・フィジカルなユーザーインターフェースの向上にも、注目していただきたいと思います。「The Playroom」という技術デモを用意しました。ステレオカメラ(別売のPlayStation Camera)とライトバー(コントローラー内蔵の光る部分)で、どんなことができるかを、ぜひ体験していただきたいです。

 あとは当然のことですが、これだけすばらしい処理性能によって、新たなエモーションを与えられるようなゲーム体験を提供できるのでは、と思っています。これも2月からお話していますが。どこまで映画のような感動を実現できるかは、チャレンジです。

PlayStation 4本体
コントローラ内部に、光るライトバーを設けている

──これまでのゲームユーザーにとってトピックだったのは、ゲームの販売モデルを大きく変えなかったことです。パッケージメディアはパッケージメディアとして、譲渡や貸し出しが普通に行なえるよう、特別な認証プロセスを採りませんでした。PS4でビジネスモデルを変えなかった理由は?

ハウス:変えません。正直に言って、変えるつもりはまったくなかったんですよね。

──それは中古問題も含めて。

ハウス:はい。なぜかというと、フィジカルなディスク(注:物理的なディスク。PS4の場合BDで提供されるゲームタイトル)を買った人については、「買った人がコンテンツのオーナーである」という意識が非常に強いからです。それを我々は尊重しなくてはいけないと思いました。

 プラットフォームを提供する時、目的の一つは「できるだけ広い、大きなユーザーベースに提供したい」ということです。そうすると、DRMとオーセンティケーション(認証)をユーザーに期待する場合、インターネットがない人や、ネットの信頼性が低い国を対象とすることが難しくなります。もちろん、インターネットに接続していただければ、素晴らしいゲーム体験を提供できます。しかしベースとなるユーザー体験としては、「ゲームを買えばプレイできる」というのが基本的なものであり、相変わらず中心だと考えています。

 ソフトの販売についてですが、基本としては「できるだけフレキシブル」に、あらゆつビジネスモデルに対応できるものであるべきです。Free to Play(F2P)も非常に大事ですが、通常のゲームソフトに対する課金とは別のところにおいています。パブリシャー側も「F2PはF2P」と切り分けてビジネスができます。この7年間で、ネットでのコンテンツ販売の知識をずいぶん積み重ねました。PlayStaion Plus(月額課金性の会員サービス。以下PS+)ユーザーに追加フリーコンテンツを提供するモデルは、ユーザーにとても高い評価を得ていますから、これは続けたい。フィジカル・ディスクのゲームに対するゲームへのダウンロードコンテンツ販売によるeビジネスも続けたいです。

 フィジカル・F2P・追加コンテンツ、そしてフルサイズゲームのダウンロード販売。すべてをユーザーに対するオプションとして用意しておきたい、というのが我々のスタンスです。

 また特に欧米では、月額課金制度は収益の柱になると考えています。

──PS4では、オンラインマルチプレイについて、PS+のユーザーだけが対象となるようですが、それもそうした施策の一つですか?

ハウス:はい、PS3の時とは方針が変わります。ビジネスの面では、PS+が収益の一つの柱になるのは事実です。

 しかしユーザーとのコミュニケーションとしては、大事に考えているのは、まず「オンラインマルチプレイを、もっといいものにしたい」ということです。PS4ではそうしたい。しかしビジネスですから、会社にとってのコストは無視できない。ですので、ユーザーの方にも少しだけ負担していただき、インフラを担っていただき、リクープする、というモデルを考えています。

 今現在のPS+での「インスタントゲームコレクション」で、多くのゲームを無料でプレイできることは非常に高く支持していただいていますし、それと一緒にオンラインマルチプレイ向けの課金が行なわれるなら……。ユーザーの方々に、満足していただけるような内容を提供したい、というのが我々の目標です。

──ゲームパブリシャーの中には、中古に規制を加えてもらいたい、という考えもあるようですが、そこは問題にはならない、と?

ハウス:私の認識としてですが、そうした要望を直接ゲームパブリシャーの方々からいただいたことはありません。昨日、EAのピーター・ムーアCEOが「EAとしてもフィジカルなメディアで規制を加えるつもりはない」とコメントしています。

 中古ソフトについては、バランスを取らねばならないと思っています。パブリシャー・クリエイターとしては、中古として二度目に買われた時に、なんらかの形で関与したいと考えています。我々もゲームパブリシャーとしては、同じことを考えています。

 ただ、中古ゲームショップの方々に話を伺うと、中古にゲームを売る人々のほとんどは、そのお金で新しいゲームを買っています。結果新しいゲームが売れているわけで、それで十分にフェアな取引ではないか、という発想もあります。

 私は両方のポイントに利があることがわかっています。プラットフォーマーとしては多少難しい立場にいるのは事実ですが、フェアなバランスをとるべきだ、と思っています。

ハード販売に関しては「PS2」の再現を狙う、日本は「最優先」

米国での価格は399ドル(ライブ中継から)

──399ドルという価格は非常に魅力的です。他方で、専用ハードウエアのビジネスモデルは変わりつつあります。汎用機の中には、コンテンツ販売を軸に、ほとんど利益をとらない製品もあります。販売モデルについて、どう考えていますか?

ハウス:PS4は、技術・アーキテクチャの選択肢として、PS3初期の投資のあり方やハードウエアの仕組みから、大きく変わっています。なぜかというと、私の言い方としては「できるだけPS2に似ているようなビジネスモデル」に戻したい、ということなんですよ。ハードウエアの利益は大きいわけではないですが、他方で逆ざやも大きくならないようにしています。したがって、ローンチのタイミングから399ドルという、競争力がある価格でも、利益を考えながらビジネスをすることができるようになっています。

──本体のサブスクリプションモデルによる低価格販売の可能性はどうですか? マイクロソフトは、Xbox Oneでそうしたモデルを検討していると言われていますが。

ハウス:あり得るモデルだと思っています。しかし、今現在は、具体的に発表する計画はないです。

──すなわち「サブスクリプションでの販売を前提にしたビジネスモデル」ではない、と?

ハウス:はい。その通りです。

──日本での価格がまだ発表されていません。日本も最初に発売されるグループに入っているのですか? そして、価格はどうなりそうでしょうか?

ハウス:そこについては、まだ明確にお答えしかねる時期なのですが……。今回、価格も発表したばかりです。全世界のユーザーにどのくらいご興味をもっていただけるかは、これから判断するところです。欧米のお客様は、競合との状況も含め非常に大切です。まず情報を出さなければならない。しかし、ほかの地域について発売しない、という話ではないです。しかし、どのくらいの要求があり、生産計画をどうするのか……。生産時期などを見ながら、検討したいと思います。

──Xbox Oneが日本では当面発売されないことから、次の世代で、日本はおいて行かれるのではないかと、ゲームファンは少々不安に思っています。PS4について、日本のプライオリティが低いわけではないですよね?

ハウス:もちろん違いますよ! (笑) ソニーにとって日本は母国ですから、非常に大切であることは間違いありません。日本人のゲームファンも、プレイステーションに非常に長く愛情を楚々いていただけています。しかし、先ほど説明した通り、今の時期は399ドルと発表したばかりなので、需要を見た上で、ちゃんとした計画を日本でも発表したいと思います。

PS4のデザインは隅井徹氏が担当、「プレイステーションのDNA」を込める

──ところで、PS4のデザインはイメージがPS2にとても似ています。ハード生産のビジネスモデルがPS2に似ている、という話がありましたが、この点は意識したものなんでしょうか?

ハウス:いい質問ですね! デザイン担当の隅井さん(クリエイティブセンター所属のアートディレクター・隅井徹氏)とずいぶん議論をしたんです。私からそこまではっきりガイダンスしたわけではないのですが、「プレイステーションの歴史・DNAを表現するようなデザインが望ましいです」と話しました。

 結果、隅井さんが自らのクリエイティビティの中から「これはどうでしょう? 」と提示したのが、このデザインです。私も瞬間的に「これはPS2へのオマージュじゃないか! 」と思いました。実は久夛良木さん(元SCE・久夛良木健氏)まで、同じ話をしたんですが。そういう風に受け止められるのは、ポジティブなことだと思っています。

 隅井さんが非常にがんばってくれたところだと思っているのは、PS2のオマージュが入っているのに、最先端で前向きなデザインになっていると思います。特に個人的にこだわりがあったのは、久夛良木さんの時代から、新しいゲーム機は「シルエット」が自分で紙に描けるようなものになっていて、非常にアイコニックなとこがプレイステーションのDNAだと思っています。それも、隅井さんに「誰でもシルエットを紙に描けるようなものにしてもらいたい」とお願いしました。

 最後のちっちゃいこだわりなんですが……。LEDには、ぜひPlayStaionブルーのハイライトを、どこかに入れてほしい、とお願いしました。実は電源が入っている時に光る、スリット部のLEDは、電源投入時、PlayStationブルーで「シュワッ」と光が走るんですよ。製品でぜひ御体験いただきたいポイントです。そういうところへのこだわりがプレイステーションのDNAです。

縦置き時
横置き時

「PS3」の価値を「PS4」ではスタートから準備

──E3会場を見ていると、コンソールゲームの世界が変わりつつあるのを感じます。中には「コンソールは次の世代で終わり」という人も少なくない。コンソールのビジネスの今後をどう考えていますか? 普遍だと考えるのか、PS4の世代から先を見据えているのか。そうした部分のビジョンを教えてください。

ハウス:今の時期で、さらに次の世代の話を語るべきではないと思います。

 コンソールビジネスが変わった、という点では、一つポジティブな意味があると思っています。PS3の時代から、専用デバイスから、様々な機能をもったエンターテイメントデバイスへと変わっていると考えているのです。単語も含めて「コンソール」という言葉が正しいかどうか、そういう時期だと考えます。我々社名も含めて追求している「コンピュータエンタテインメント・デバイス」になりました、ということです。

 もう一つ、ポジティブな意味で思うのですが……。

 PS3は、発売当初、いわゆる「ゲーム専用デバイス」に近いものでした。ブルーレイのタイトルは再生できましたが、PSNもなかったですし、ネットワークで楽しめるエンターテインメントコンテンツもありませんでした。

 しかし、PS4は最初からそういったものがすべて用意できます。PS3の時とはまったく違います。これが「コンソールビジネスは変わった」という真意です。

 結果、PS3にあったような幅広い楽しみ方よりも、さらに多い楽しみ方を、PS3のスタート価格より200ドル安く提供できることになりますから、非常に価値が高いと思います。

──Vitaについて。モバイルについては、ワールドワイドではかなり厳しい状況です。据え置きよりも状況は悪い。その点をどう考えていますか?

PlayStation Vita

ハウス:日本とアメリカのユーザー層の違いはあります。それは別として、VitaにおけるPS4の「リモートプレイ」の位置づけには、私は非常に期待しています。

 アメリカで起きつつあるもう一つのトレンドとしては、「セカンドスクリーン」のような、テレビを見ながらなにかのデバイスを使う、というものがあります。PS4と、Gaikaiの技術を使ったリモートプレイによって、VitaはPS4のパーフェクトなコンパニオン・デバイスになります。

──PS4とVitaのセット販売は考えていますか?

ハウス:あり得ます。ただ、サブスクリプションによる割引販売と同じような意味でですが。色々なSKUを準備する可能性はありますが、今重視したいのは、基本となるシンプルなSKUプランをまず伝えたい、ということです。その先に色々な可能性がありますが、それは後々検討したいと思います。

ローカライズで大きく変わる「ゲーム途上国」での販売実績

──ゲーム機が広がりきっていない国々に対する、PS3とPS4の役割を教えてください。

ハウス:これは私の信条に近いものですし、ヨーロッパでの経験(筆者注:ハウス氏は過去、SCEヨーロッパのプレジデントを務めていた)でもあるのですが……。ローカライズは非常に大きな価値を持ちます。メディアの方々は、この点をあまり認識していないのではないか、と感じます。

 良い例として、ポーランドがあります。ポーランドは5年前には、コンソールビジネスがほとんどなかった国です。しかし我々の現地法人の強い要望で、「ポーランド語」のバージョンを作るようになりました。投資効果を検証した上で、実験的に行なったことだったのですが、結果は非常に良かったのです。その上に、今度はローカライズだけでなく、ポーランドの有名な声優を使い、ボイスも含めたローカライズをしました。それは、ポーランドの中できわめて大きな話題となりました。ソフトの売り上げにはきわめて良い影響がありました。

 ポーランドのお店を回ったのですが、ゲームだけでなく、ブルーレイのハリウッド映画を置いているような場所でも、「英語」がまったくなかったのです。タイトルまで独自でした。そうした国でエンターテインメントコンテンツが成功するには、とにかく現地の言葉を使わなくてはならない。

 ラテンアメリカは、ローカライズがビジネス展開・成長の柱だと思っています。アジア、特に中国向けのローカライズを進めています。プレイステーションのルールとして、「できるだけ広い顧客に対応する」という点が挙げられます。そういう意味で、ローカライズは当然のこと。プラットフォームとして責任をもってやらなくてはなりません。

 PS3とPS4の関係についてですが、できるだけPS4も売りたいと思っています。しかし大前提として、「どれだけ魅力的な価格で展開できるか」、「そのために必要なコストダウンができるか」ということになるかと思います。

西田 宗千佳