レビュー

薄型&10万円台で“澄んだマランツサウンド”「CINEMA 70s」自宅に導入。Qobuz Connectも使える

サブシステムのプリアンプが故障!? 最新AVアンプでHDMI ARCを活用しよう

JVCのプロジェクターとJBL「K2/S9900」を中心としたメインシステム

ぼくのシアタールームには2系統のオーディオ&AVシステムがある。JVC「DLA-V9R」(&110インチスクリーン)とJBL「K2/S9900」を中心としたメインシステム、そしてレグザの65型有機ELテレビ「65X930」とELAC「330CE」を組み合わせたサブシステムである。

レグザの65型有機ELテレビ「65X930」とELAC「330CE」を組み合わせたサブシステム

メイン用にはデノンの最高峰AVアンプ「AVC-A1H」を使っていて、6.1.6ch(フロアチャンネルはセンターレスの6.1でトップスピーカーを3組6本使用)のドルビーアトモス対応のサラウンド・システムを構成している。

いっぽうメインシステムに正対させるように配置したサブシステムのオーディオは、MAGNETARのUHD BDプレーヤー「UDP900」のマルチチャンネル・アナログ出力を、Auraのアナログ・プリアンプ「VARIE」につなぎ、4.0chダウンミックスした後、LINNの6chパワーアンプ「C6100」を用いてフロントのELAC「330CE」をバイアンプで、サラウンド用のELAC「310CE」をシングルアンプ仕様で鳴らしていた。

下にある白いのが、Auraのアナログ・プリアンプ「VARIE」
フロントのELAC「330CE」
サラウンド用のELAC「310CE」

あまり音量を上げられない深夜などに、このサブシステムでオーディオとAVを楽しんでいたのだが、今年に入ってVARIEがついに故障、音が出なくなってしまった。かれこれ18年ほど使ってきた製品だし、気分を変えて最新のAVアンプに入れ替えてHDMI ARC(Audio Return Channel)を活用しようと考えたわけである。

AVアンプをどう選ぶか、決め手はサイズ!?

UDP900、それ以前に愛用していたOPPO「UDP-205」ともにマルチチャンネル・アナログ出力の音が良かったので、マルチチャンネル・アナログ入力を備えたVARIEを使い続けていたわけだが、この結線法には一つ難点があった。

MAGNETARのUHD BDプレーヤー「UDP900」

UDP900のHDMI出力の映像とマルチチャンネル・アナログ出力の出力タイミングが合わず、リップシンクがずれる(テレビに映し出されている人物の口元と音のタイミングが合わない)ことが多かったことである。

ぼくが使っている有機ELテレビ65X930には余計な映像信号処理をバイパスする「ピュアダイレクト」モードがあり、このモードを選べば、このリップシンクのズレはだいたい解決したのだが……。

では、AVアンプを買うならどのモデルを選ぶか。

まず思い浮かんだのはマランツのCINEMAシリーズだった。フロントパネル両サイドをディンプル(窪み)処理した近年のマランツのデザインがとても好きだというのが、その大きな理由。それからこの5月に提案されたQobuz ConnectにD&M(デノン&マランツ)製品が対応したことも大きい。Qobuz Connectを用いてサブシステムでも高音質ストリーミングサービスを楽しもうと考えたわけである。

マランツ「MODEL 40n」のフロントパネル。両サイドをディンプル(窪み)処理した、このデザインが良い

マランツのCINEMAシリーズは、下から「CINEMA 70s」(154,000円)、「CINEMA 50」(286,000円)、「CINEMA 40」(506,000円)、「CINEMA 30」(770,000円)がラインナップされている。

ぼくはすべてのモデルをテストし、価格が上がるにつれ音質が確実に向上することを確認しているが、ぼくが選んだのはいちばん安いCINEMA 70sだった。その理由は簡単。設置しようと目論んでいたテレビラックの棚にすっぽり収まるのは、高さ約11センチのCINEMA 70sだけだったのである。

上が、新たに導入したCINEMA 70s。ラックの横幅、ほぼピッタリだ

しかも、このモデルの縦横比(プロポーション)がいちばん美しく感じられたことも購入の決め手の一つだった。ちなみにCINEMA 70sは、ブラックとシルバーゴールドの仕上げがある。このデザインテイストに合うのはブラックだと思うが、ラック下段のLINNのパワーアンプと合わせるならシルバーかなと一瞬悩んだが、結局ブラックを選んだ。

シルバーも魅力的だった

また、CINEMAシリーズでいちばん安い本機でELAC 330CEと310CEの両スピーカーを鳴らして力不足を感じたら、CINEMA 70sのプリ出力を利用してLINNの6chアンプC6100とつないで音質強化を図ればよいか……と考えたのだった。

ラック下段にあるのがLINNのパワーアンプ

まったく不満のないCINEMA 70sのパフォーマンス

CINEMA 70sは7チャンネルアンプ内蔵機なので、前システム同様に、フロントの330CEをバイアンプ設定(ウーファーとツイーターそれぞれにアンプを充てる)とし、サラウンド用の310CEをシングルアンプで鳴らすことにした。これで、全部で6チャンネル分のアンプを使用する。

アンプの割当はこのようにした
フロントの330CEはバイアンプ駆動としている

UDP900とCINEMA 70sをHDMI接続、そして4Kチューナーを内蔵したパナソニックのレコーダーとレグザ65X930をHDMI接続、本機と65X930はHDMI ARC接続とし、地上波や4Kを含むBS番組、Netflixなどの配信コンテンツの音声もすべてCINEMA 70sで鳴らせるようにした。

CINEMA 70sのパワーアンプ部はフルディスクリート構成で、担当エンジニアが音質向上に細心の注意を払ったという説明をマランツから以前受けたが、たしかに音質はすこぶる良い。

というか、サブシステム用としてまったく不満のないパフォーマンスで、今のところ本機のアナログ出力を用いてLINNのパワーアンプにつながなきゃという気持ちにまったくならない感じなのである。なんというか、マランツ製アンプならではの気持ちの良い澄んだサウンドで、音量を上げて聴いても歪み感は極少だ。

レグザの4K有機ELテレビに電源を入れると自動的にCINEMA 70sがスタンバイするのが、まず快適。65X930の内蔵スピーカーの音は「テレビ内蔵」としてはとても優れていると思うが、やはりCINEMA 70sで330CEを鳴らしてみると、もう世界が断然違う。

L/Rスピーカーを結んだ線を底辺とする正三角形の頂点の場所で聴くと、画面に映し出されたアナウンサーや俳優の声が画面中央にピシリと安定して定位し、その人が実際にしゃべっている、歌っているという生々しい実感が得られるのである。

以前使っていたAura VARIE + LINN C6100の濃厚な音に比べるとやや薄味の声となるが、Aura + LINN以上に音のヌケがとてもよくて、軽快なサウンドに聞こえるのも好ましい。

テレビ下に置くサウンドバーが各社から発売され、百花繚乱の態ではあるが、ぼくがサウンドバーでどうしても馴染めないのは音が下から聞こえてくる違和感。テレビからうんと離れた場所で聴けばその違和感は薄らぐが、4Kテレビならではの解像感や鮮鋭感を味わいたいと考えると、3H(画面高の3倍)くらいの距離で観たい。となると音が下から聞こえてきて、画面上の人物の口との乖離がどうしても気になるのである。AVのスタートは良質なステレオスピーカーを大型テレビの両サイドに置くことから始まると思う。

臨場感豊かなサラウンドの音質。Qobuz Connectも使える!

さて、それではCINEMA 70sのサラウンドサウンドのパフォーマンスはどうだろうか。

ちょうど発売されたばかりの『名もなき者』のUHDブルーレイを観てみた。ドルビーアトモス収録されたディスクだが、ここではドルビーTrueHD 7.1chをCINEMA 70sで4.0chにダウンミックスしての視聴となる。

まず驚かされたのは、立体音響ならではの臨場感の豊かさ。

冒頭で、ティモシー・シャラメ演じる若き日のボブ・ディランがニューヨークにヒッチハイクでやってくる場面が描かれるが、そのシティ・ノイズの生々しいことといったらない。トップスピーカーを用いない4.0ch再生ながら、人々のざわめきやクルマのクラクション、工事現場の騒音などが四方八方から飛び込んできて、観る者はあっという間に1961年の冬のニューヨークに連れていかれるのである。

この作品のサウンドデザインの見事さに感心させられるとともに、CINEMA 70sのサラウンドサウンドの完成度の高さに唸らされた次第。Aura+ LINNのコンビで鳴らしていたとき以上に、立体音場のまとまりは良く、この十数年のAVアンプの進化を改めて実感させられた次第だ。

さて、この5月に我が国でQobuzを運営するザンドリージャパンが、Qobuz Connect機能を発表した。これまでQobuz対応ができていなかったデノン&マランツのネットワークオーディオ機能HEOSが、Qobuz Connectに対応することを知り、CINEMA 70sの購入を決めたことは先述した。

Qobuz Connectを使うことで、CINEMA 70sでQobuzの配信楽曲を再生できる

Qobuz Connectは、スマホやタブレット、PC向けに提供されているQobuz純正アプリから、対応オーディオ機器を音声出力デバイスとして指定し、操作を可能にする機能。すべてのオーディオデバイスでビットパーフェクト再生を実現しているので、音質面でも不安はない。

スマホやタブレット端末での操作はじつに簡単で快適。Qobuz純正アプリで楽曲を選んで音声出力先をCINEMA 70sと指定すれば、すぐさま330CEから音楽が流れてくる。しかもとびきりの音の良さで。

ぼくのメインシステムでも、もちろんQobuz再生は可能なのだが、6月中旬とはいえ連日の猛暑で真空管アンプに火を入れるのがつい億劫になり、最近はこのサブシステムでQobuzを用いて音楽を聴く時間が長くなっていることをこっそり白状しておこう。

テレビ番組やQobuzの2チャンネル再生、NetflixやUHDブルーレイ/ブルーレイのサラウンド再生すべてをまかなってくれるマランツCINEMA 70s、この夏のぼくの音楽&映画ライフを快適に彩ってくれているこのAVアンプに心から感謝を。こんな多機能・高音質を実現して10万円台前半で買えるなんて、ちょっと信じられない思いがしている。

山本 浩司

1958年生れ。月刊HiVi、季刊ホームシアター(ともにステレオサウンド刊)編集長を務めた後、2006年からフリーランスに。70年代ロックとブラックミュージックが大好物。最近ハマっているのは歌舞伎観劇。